転職は、輝かしい結果だけをもたらすわけではない。「年収ダウン」という結果をもたらすこともある。年収ダウンした人の割合と年収アップした人の割合を比べたデータは数多くあるが、国の出したデータでは「年収ダウンした人の方が多い」という統計結果が出ている。
今回はそのデータと、年収ダウンする理由、そしてその対策について解説していく。
民間の統計では、転職をして年収が上がった人の方が多い
「成功した転職か、それとも失敗した転職か」を判断するもっとも分かりやすい指標のひとつとして「年収」がある。
もちろん年収アップだけが成功の条件ではないが、年収がアップすれば「成功した」と感じる人が多いのは事実であろう。そのため、「転職によって年収がアップしたか、それともダウンしたか」を聞いた統計は数多くある。
この数字は、データによって異なる。
たとえばマイナビの「転職動向調査2022」では、転職後に年収が上がった人の方が転職後に年収が下がった人よりも多いことが分かっている(比率は、年収が上がった人:年収が下がった人=おおむね6:4程度)。
厚生労働省のデータも見よう
厚生労働省が出した「―令和2年雇用動向調査結果の概況―」では、また違った状況が示唆されている。
このデータでは、転職によって年収が上がった人よりも、転職によって年収が下がった人の方が多いとされているのである。
その差は非常に小さいものであり、年収がアップした人:年収が下がった人=34.9:35.9となってはいる。しかしマイナビの転職動向調査では「年収アップしやすい層」とされていた30代や40代のそうではむしろ「年収が下がった」としている人が多く、年収アップが叶ったそうはむしろ30歳未満に偏っているという結果が出ている。
ここではこの2つのデータのどちらが正しく、どちらが間違っているかを問うことはしない。
しかし少なくない人が「前職に比べて年収がダウンした」と答えている理由と、それに対する解決策を考えていく必要はあるだろう。次項ではこれについて考えていく。
転職時に年収が下がる理由とその対策
少なくない割合の人が、「転職を契機として年収が下がった」と答えている。その理由はいったい何なのだろうか。
もちろん個々人によって原因は異なるが、特に代表的なものをピックアップするとなると、以下のようなものになるだろう。
- 年収以外の条件を優先した
- 後ろ向きな理由での転職が多い
- 転職活動や交渉が上手くいかなかった
それぞれ見ていこう。
年収以外の条件を優先した
上でも少し述べたが、「年収アップ」は転職の成功指標のうちの1つではあるが、絶対的なものではない。
たとえば、「前職は仕事の休みが非常に少なく、家族との時間が取れなかった。年収ダウンしてでも家族と一緒にいたい」「前職で十分にお金を稼いで貯金をしたので、今後は『お金にならないけれど、自分が本当にやりたかった仕事』をやっていきたい」「妻がいわゆるバリキャリなので、妻を全面的にサポートしたい」ということで、休日が多い職場であったり、やりたい仕事ができる職場であったり、残業が少ない職場であったりを希望する人もいる。
このような理由で転職する人の場合は、そもそも年収アップ以外の条件を優先しているため、「年収が下がっても構わない」と考えている。
これは「転職後に年収が下がった人の割合」を多くすることには繋がるが、本人にとっては「成功した転職」だといえるだろう。
後ろ向きな理由での転職が多い
上記のような転職は、非常に前向きな理由での転職である。
しかし、別のデータではあるが厚生労働省が「離職した理由」を問うた統計では、後ろ向きな理由での転職が多かったことが示唆されている。
このデータでは、自己都合の離職(離職理由全体の76.6%)の内訳のうちの1位は「満足のいく仕事内容ではなかったから」であり、2位は「賃金が低かったから」、3位は「会社の先行きに不安を感じた」、4位には「人間関係が上手くいかなかったから」であるとされている。
このような「後ろ向きな理由での離職(またそれに伴う転職)」は、どうしても先行きが暗くなりやすい傾向にある。
「さらなるスキルアップを目指して、前職を辞めた」「本当にやりたい仕事があったので辞めた」「引き抜きを受けた」などのようなプラスの理由とは異なり、転職先希望先に売り込めるものが少ないからである。また面接をする側としても、前職を後ろ向きな理由で辞めてしまった転職希望者に対しては、「うちの会社に雇い入れても、同じようにして辞めていくのではないか」という懸念を払拭することができないのだ。
そのため、条件の良い(つまりは年収が高い)職場からの採用通知が届きにくく、結果的に年収の低い会社にしか転職できないこともよくある。
転職活動や交渉がうまくいかなかった
最後の理由として、「転職活動や交渉が上手くいかなかった」を取り上げよう。
その人がどれほど優秀な経歴を持っていようと、ほかの人は持っていない難関資格を持っていようと、卓越したスキルを持っていようと、そして前向きでポジティブな転職理由を持っていようと、採用担当者は資料なしにはその実態を知ることはできない。つまり、どれほどすばらしい背景を持っていようと、それを上手く伝えられなければ転職活動は失敗してしまうのである。
「相手に伝わる受け答え」のために
「経歴や資格、スキルは履歴書や職務経歴書を見てもらえば分かる」という意見を持つ人もいるだろう。しかし書くべき経歴・資格・スキルを書き落としていたり、その業界や会社にヒットする書き方ができていなかったりすることはよくある。これでは宝の持ち腐れになってしまう。
もっとも、自分自身の強みをすぐに答えられる人ばかりではない。自分自身が抱えている宝の価値に気づけない人もよくいるのだ。
そのような場合は、だれかに宝の存在を教えてもらわなければならない。そのような名サポーターとして、「キャリアコンサルタント」がいる。彼らは会話のなかであなたの持っている宝の存在を聞き出し、その宝のアピール方法についてアドバイスをしてくれることだろう。