転職面接時に希望の年収、報酬を聞かれることがある。「いったい、いくらで答えるのが正解なのだろうか…」と戸惑う人が多いだろう。正直に答えるべきか、控えめに答えるべきか一瞬の判断を迫られることもある。
本音と建て前の使い分けではないが、このような点からも答え方が難しい。特に日本人は文化的にお金、金銭、報酬のことをはっきりと口にする習慣があまりないことに起因するのだろう。
しかし、企業側はある程度、採用をする際にその人の考え方や自分への評価の程度を見るための視点もある。今回はこのような年収に関しての質問に対しての答え方について考えていきたい。この手の質問に関しては、参考にして熟慮を重ねた上で的確な回答ができるようにしてほしい。
希望年収を確認する理由
新卒の場合は既定で初任給が決められている。そのため希望を聞かれることはなかなかないだろう。しかし、転職となれば希望金額を聞かれることや、WEBでエントリーをするときに応募フォームなどに希望の年収を記入する欄があることも。
先にも述べたように、その人の価値観や自分に対する評価がどれくらいのものなのかの確認も含まれていると言ってもいいだろう。多くの場合、求人票には「年収は360万円から600万円(残業手当を含む)」と記載されることが多く、額面をどう伝えたらいいか迷うこともある。
企業では採用にあたって、給料や社会保険料など、その人材に投資できる予算が決められている。企業側も年間の人件費の予算が決まっているために確認すると考えてよいだろう。他にも、応募者の経験やスキルが、社内の水準に適合しているかどうかを確認する意味も含まれている。
例えば、課長職を募集しているにもかかわらず部長級であった場合、社内水準に適合しないため、企業側としても採用は難しくなるだろう。さらには、市場価値として、希望する年収が適正か否かを判断するという視点も。前職での年収が破格である場合などは、何か特別な評価が加えられていた可能性が考えられることから、特殊事情として確認しておく必要がある。
希望年収の伝え方のポイント
年収の範囲が示されている場合はその範囲から伝えるのがマナーだ。範囲を超えた額を伝えるのは、求人の処遇条件から逸脱しており、ルール違反を承知の上で「無理な要求をする人間」と見られる危険性があるので注意したい。
だからといって、年収の範囲を下回り、自分を過少評価したような低い年収を伝える必要はない。応募先が前職と類似する業種業態である場合は、前職を基準に同額がそれを少し上回る額を伝えるのが賢明だ。前職と異なる場合は、未経験であることを考慮して、前職同等または少し低く目に設定してみるのが一般的と言える。
「年収は360万円から600万円(残業手当を含む)」との条件であれば600万円を提示しても特に問題はない。ただしそれより高額である場合は、自身がどのように社の業績に貢献するのかを具体的に説明する必要があるのでよく考えた上での提示をすすめる。
逆に面接で「給与はおまかせします」と伝えてしまったことから、自身の希望より少ない額面となり入社後にモチベーションが上がらないといった事例も少なくない。企業側としてはできれば人件費を抑えたいため、「任せる」と言われれば低めに設定するのは当然のことだ。
このようなことからも「年収は○○○万円から○○○万円を希望します」と金額範囲を伝えるようにする。そのことで企業側としても、書類や面接の内容なども含めて熟慮をしてくれるだろう。面接で年収についての質問がなく、いくらもらえるのか分からない場合もあるだろう。
内定承諾書を提出する前に、処遇について確認したい旨を申し出ることをおすすめする。全てが決まってしまってから、違うと申し出をしても「撤回」のような状況になり企業側にも迷惑をかけることになるので十分に内容を考えてから行動に移していこう。
希望年収を伝える際の注意点
希望する年収は、前職を基準に同額か少し上回る額を伝えることとしたが、前職を少し上回る額を希望する場合には、その理由を明確にしておく必要がある。
「前職では活用する機会に恵まれませんでしたが、自分は〇〇という国家資格を有しており、御社の業績拡大に必ず貢献できると考えておりますので提示の金額を希望いたします。」と前職より高額を提示する明確な理由を示した上で自分の能力や今後の展望、どれだけ貢献できるかをアピールしておこう。
ただ「あげてほしい」では評価の対象がなく、ただの要求の多い人物と評価されてしまう。
また、最低年収も伝えておくことも考えておこう。希望額は伝えたものの、「現在の生活を維持するため、あるいは家族を養っていくためには、これだけの額が必要です。」と明確な理由を伝えたい。ただし、結婚を予定している、こどもが生まれる、住宅ローンがあるなどの個人的な事情を披露する必要はない。
もし聞かれたら回答できる範囲で回答すれば良いだろう。しかし、この手の理由に関しては、転職後のスタートはある程度誰もが同じような条件で働くため全ての希望が叶う可能性は低いことだけは覚えておこう。
そして重要なのは、いずれの場合も企業の規定に従うという姿勢を示すために「御社の規定に従います。」と申し添えること謙虚な姿勢も忘れないようにしたい。
ここまで前職と比較して希望の年収を決定するとしてきたが、前職の年収がいくらであったのか、関係書類などを確認した上で把握しておくことも必要だ。年収とは毎月の給与とボーナス(賞与)の総支給額であり、税金や社会保険料を控除する前の金額となる。源泉徴収票で見ると「支払金額」と記載された欄が該当しており、総じて、手取り額よりも2割程度大きくなるので、それを考慮して希望する年収を決定しよう。
希望年収は曖昧にしない
日本人には、お金の話をするのは「はしたない」ことという感覚がある。年収は目の前の生活や生涯設計に大きく関わることなので、決して曖昧にすることなく明確に伝えてほしい。
一方、応募先企業においても、人材の採用に際しては予算の制約があり、さらに金額でのミスマッチを避ける意味からも確認をしていると言っても過言ではない。しかし、自身の実力を考慮したい場合は前職の年収と同等かそれ以上の金額を相談してみる。低い額を伝える必要はないので安心してほしい。
ただし、それ以上とする場合には、その理由を明確にすることに留意しよう。繰り返しになるが、希望年収は曖昧にせず明確に伝えつつも、最終的には応募先の規程に従う旨を伝えることが大切だ。