- 退職金の功績倍率の計算方法を理解したい
- 役員退職金の平均額や功績倍率の決定要因が知りたい
- 役員退職金にかかる税金の仕組みを理解したい
一般的に取締役や監査役などが受け取る役員退職金だが、その算出にあたって用いられるのが「功績倍率法」である。
受け取る退職金金額に直接的に関わることから、計算方法や基準は多くの役員にとって重要な関心事であろう。
そこでこの記事では、功績倍率の決定方法から、役員退職金の平均額、さらに役員退職金にかかる税金の仕組みまでを深掘りする。
具体的な事例を用いて、退職金の基礎知識と計算における疑問や不明点を明確に解消するので、ぜひ最後まで読み進めてほしい。
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役員退職金の算定方法
役員退職金は主に以下の3つの方法で計算される。
- 功績倍率法
- 1年あたりの平均額法
- 功労加算金
会社ごとに算定方法は異なるため、それぞれの算定方法を把握した上で会社の規程を確かめてみよう。
功績倍率法
功績倍率法は役員退職金の計算で一般的に用いられる計算方法であり、会社への貢献度などを倍率にして支給額を決定する方法である。
「最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率」で金額が算出される仕組みだ。
例えば、退任時の報酬月額が100万円で役員在任年数が3年、功績倍率2.5倍の役員であれば「100万円×10年×2.5倍=2,500万円」が支給額となる。
なお、功績倍率は通常2〜3倍程度の倍率に定められている。
1年当たり平均額法
1年当たり平均額法は、類似している役員の退職給与の1年当たりの平均額を算出し、役員在任日数を乗じて算出する方法だ。
一般的に用いられるケースは多くないが「役員が退職前に入院などをして報酬が大幅に減少した」など、功績倍率法による計算が合理的でないと判断された場合に用いられる。
1年当たり平均額法は「類似している役員の退職給与の1年当たりの平均額×役員在任年数」で金額が算出される仕組みだ。
例えば、類似している役員の1年当たりの退職金が200万円で役員在任年数が10年だった場合、退職金支給額は「200万円×10年=2,000万円」となる。
功労加算金
会社に対して特別な功績を残した役員に対しては「功労加算金」として、役員退職金に上乗せした報酬が支給される場合がある。
金額に明確な決まりはないが、一般的には役員退職金の30%が相場となっている。
功労加算金は「役員退職金の支給額×30%」で計算される仕組みだ。
功績倍率法などで算出された退職金が3,000万円だった場合、支給される金額は合計で「3,000万円+3,000万円×30%=3,900万円」となる。
役員退職金の相場と功績倍率の決定要因
役員退職金の3つの計算方法を紹介してきたが、実際の役員退職金はどの程度の支給額が相場となっているのだろうか。
また、一般的な計算方法として用いられる功績倍率法の倍率はどのような要因で決定されるのだろうか。
ここでは役員退職金の相場や功績倍率の主な決定要因について解説していく。
役員退職金の相場
役員退職金は一般的に1,000万円〜4,000万円前後が相場とされている。
会社の規模や役職、役員在任年数などによって金額が大きく異なるため、相場にも大きな金額の開きが生じている。
先ほどの計算方法でも解説した通り、役員退職金は一般的に最終報酬月額と役員在任年数、功績倍率によって算出される仕組みだ。
会社の規模が大きく、役職も上の方であれば退職時の報酬月額も大きくなりやすく、功績倍率も高くなりやすい。
詳細な退職金額を把握したい場合は、功績倍率などを決定する主な要因を確かめた上で概算してみると良いだろう。
功績倍率の主な決定要因
役員退職金における功績倍率は、一般的に同業種で類似している規模の法人の役員退職給与のデータをもとに算出される仕組みだ。
同業種で同程度の規模の法人よりも著しく高い功績倍率を設定してしまうと、税務調査で役員退職金が否認される可能性があるため、極端な金額にならないように考慮されている。
しかし、同業種かつ同規模の法人における役員退職金のデータを集めること自体が難しい。
そのため、一般的な水準として以下のような倍率で設定されるケースが多くなっている。
- 代表取締役社長
- 3.0倍
- 専務取締役
- 2.4〜2.7倍
- 常務取締役
- 2.0〜2.3倍
- 取締役
- 1.6〜2.0倍
- 監査役
- 1.4〜2.0倍
役職による功績倍率の一般的な水準を踏まえ、報酬月額や年数を掛け合わせて支給される退職金額を概算で把握しておくと良いだろう。
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役員退職金にかかる税金
役員退職金は先ほどの計算方法で算出された金額がそのまま支給されるわけではなく、税金が引かれた上で受け取る仕組みとなっている。
税金の種類や手取り額の計算方法を把握し、退職後の資金計画に役立てよう。
ここでは、退職所得の定義やかかる税金の種類、手取り額の計算方法などを解説していく。
税金を抑えるためのポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
退職所得の定義とかかる税金の種類
役員退職金は、税法上の「退職所得」として扱われる仕組みとなっている。
退職時に支給される一時金や社会保険制度に基づく一時金などが退職所得として定義される。
退職所得には所得税・住民税が課税されるが、源泉徴収後に退職金が支払われるため、自身で確定申告を行う必要はない。
所得税・住民税はいずれも給与や賞与などの所得とは分離して計算される仕組みとなっている点が特徴だ。
退職金については税制上で優遇されており、多額の退職所得控除が認められている。
退職後の生活を支える大切な資金となるため、税金が過剰に大きくならないように調整されているのだ。
具体的な手取り額の計算方法を確認し、実際に受け取れる金額がいくらになるのか把握しておこう。
手取り額の計算方法
役員退職金の手取り額を計算する際、まずは課税対象となる退職所得を求める。
課税対象の退職所得は「(退職金-退職所得控除)×1/2」で算出される。
ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は「2分の1」が認められない。
上記の計算式で出てくる「退職所得控除」は勤続年数をもとに計算される仕組みとなっており、以下の計算式で算出される。
- 勤続年数20年以下
- 40万円×退職者の勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続年数20年以上
- 800万円+70万円×(勤続年数-20年)
仮に勤続年数が30年だった場合、退職所得控除は「800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円」となる。
また、役員退職金の支給額が4,000万円だった場合は「(4,000万円-1,500万円)×1/2=1,250万円」が課税対象の退職所得となる。
課税対象の退職所得を算出したら、所得税・住民税の税率を掛けることで税額が算出可能だ。所得税の税率は以下の表の通りである。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
先ほどの退職所得が1,250万円のケースでは税率33%・控除額1,536,000円となるため「1,250万円×33%-1,536,000円=2,589,000円」が所得税額だ。
また、住民税は一律10%の税率が適用されるため「1,250万円×10%=1,250,000円」となる。
役員退職金支給額が4,000万円であるため「4,000万円-2,589,000円-1,250,000円=36,161,000円」が手取り額となる。
功績倍率が高い方必見!役員退職金にかかる税金を抑えるためのポイント
役員退職金にかかる税金を抑えるためには、以下の2つのポイントを押さえておくことが重要だ。
- 受け取り方法を一時金形式にする
- 勤続年数を長くする
退職金は一括で受け取る「退職一時金」と分割して年金形式で受け取る「退職年金」のいずれかの受け取り方法が一般的だ。
税金を抑えて受け取りたい場合、一括で受け取る一時金形式をおすすめする。
先ほど解説した通り、退職所得の税金を計算する際は多額の控除が適用される。
しかし年金形式で受給した場合の退職金は「雑所得」として扱われ、退職所得控除が適用されない。
税金を計算する上でのメリットが一時金形式の方が大きいため、税金を抑えることを考えるのであれば退職一時金で受給する方が良いだろう。
また、退職所得控除は勤続年数が長い方が控除額が大きくなる仕組みだ。
そのため、税金の負担を抑えたいのであればなるべく長く勤めることが重要なポイントとなる。
特に、役員の場合は勤続年数5年以下だと課税対象の退職所得を求める際の「2分の1」が認められず、税負担が大きくなってしまう。
もちろん会社の状況や年齢、自身のライフプランも考慮する必要はあるが、税負担を抑えることだけを考えるのであれば勤続年数が長い方が良い。
少しでも税金の負担を抑え、手取り額を増やしたい場合は上記の2点を頭に入れておこう。
役員退職金を活用した充実のセカンドライフ
まとまった金額が支給される役員退職金は、退職後のセカンドライフを充実させるための重要な資金となる。
安心の老後生活を送っていくためにも、退職金を投資などを活用した運用に回すことをおすすめする。
ここでは、セカンドライフにおける資金計画の重要性や退職金運用の基本原則、退職金の管理・運用における専門家の役割について解説していく。
セカンドライフにおける資金計画の重要性
退職後の人生において資金計画を立て、退職金を運用すべき理由として以下の2点が挙げられる。
- 退職後にも長い人生が待っている
- 物価上昇のリスクがある
1つ目は、退職してからも長い人生を送ることになるという点が挙げられる。
退職後の長い人生を経済的な不安を抱えずに送っていくためにも、退職金を運用するなどの資金計画が重要となるのだ。
厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳となっている。
近年は「人生100年時代」などとも言われており、60歳〜65歳で退職しても数十年生きることを前提としておかなければならない。
長く生きればその分生活費もかかるため、まとまった金額が支給される退職金を運用することが大切だ。
2つ目は、インフレによって物価が上昇するリスクがあるという点が挙げられる。
数十年にわたる退職後の人生において物価が上昇していけば、その間に生活にかかる負担が大きくなってしまう。
近年、日本では円安や原材料費の高騰などによって物価が上昇しており、家計への負担を実感している方も多いだろう。
物価が今後も上昇していくと仮定した場合、公的年金による収入しかない退職後の生活においては家計への負担がますます大きくなる可能性が高い。
退職金を運用し、物価上昇のリスクに備えておく必要がある。
安心の退職後生活を送るためにも、支給される退職金の運用を検討してみよう。
退職金運用の基本原則
退職金運用の基本原則として「資産を減らさないような運用を行う」という点が重要となる。
過剰にリスクを取ってリターンを狙いに行くのではなく、堅実に運用を行って資産をできるだけ減らさないように意識した運用を実践しよう。
公的年金による収入がメインとなる退職後の生活において、現役の頃よりも収入が減ってしまうケースがほとんどだ。
退職金の運用に失敗して大きな損失を抱えてしまった場合、生活に支障をきたしたり、資金計画が狂ってしまったりする可能性がある。
大きなリターンを狙うのではなく、安全かつ堅実な運用を行うことが重要だ。
資産をなるべく減らさないように運用するポイントとして以下の2点が挙げられる。
- 投資先を分散させる
- 低リスク資産の比率を増やす
投資先を分散させることで、万が一投資先のひとつが暴落しても受けるダメージを小さく抑えられる。
ほかの投資先で利益が生じていれば、損失と相殺させることも可能だ。複数の投資先に退職金を分けておき、リスクを分散させよう。
また、資産全体における低リスク資産の比率を増やすことも重要だ。
安全性が比較的高いとされる債券などの比率を増やし、大きな損失が発生しにくい資産配分にしておこう。
退職金管理・運用における専門家の役割
安心したセカンドライフを送るための退職金管理・運用には、専門家の存在が欠かせない。
専門家に退職金運用を相談すべき理由として「自分に合う運用戦略を提案してもらえる」という点が挙げられる。
退職金の運用は、資産の状況や家族構成、退職後のライフプランなどによって適切な戦略は異なる。
安定した家賃収入を得られる不動産投資が適している場合もあれば、株式や債券を活用しながら運用して資産を取り崩していくスタイルが向いている場合もある。
こうした戦略を自分で判断し、プランを立てることは容易ではない。
幅広い専門知識と豊富な経験・実績を持つ専門家にアドバイスを求め、最適な運用プランの策定をサポートしてもらうことが賢明と言えるだろう。
退職金運用の相談先をお探しの方は「退職金ナビ」の活用をおすすめする。
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役員退職金の功績倍率は役職ごとに基準がある
本記事では、役員退職金の算定方法や功績倍率を決定する主な要因、税金の仕組みなどを解説してきた。
受け取った退職金は安心した老後生活を送る上で重要な原資となるため、長期的な資金計画を立てて運用していこう。
また、退職金の管理・運用に関する疑問や不安は専門家に相談することをおすすめする。
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