- 個人事業は生命保険料を経費として計上できるのか知りたい
- 個人事業主と法人のどちらで生命保険に加入する方がお得なのか知りたい
- 個人事業主にとって適切な生命保険の選び方がわからない
生命保険は、自身や家族の生活を守るために多くの人にとって必要なものである。
中でも個人事業主は病気によるリスクが会社員と比較して高いため、生命保険へ加入する必要性もまた高いものになる。
一方、生命保険にかかる費用を抑えるために、個人の生命保険料を経費として計上して税金を節約することができるのか、知りたいという方もいるのではないか。
果たしてこれは可能なことなのだろうか。また、個人事業主はどんな生命保険に加入しておくべきなのだろうか。
そこで本記事では、個人事業主が生命保険の保険料を経費に算入する事の可否、さらに個人事業主と法人で生命保険金を受け取った場合を比較し、解説する。
また、個人事業主が加入すべき生命保険の種類についても紹介するので、生命保険を契約しようとしている個人事業主の方には、ぜひ参考にしてほしい。
個人事業主は生命保険の保険料を経費にできるのか
個人事業主やフリーランスなど、自分で事業を営む人は、支払った保険料を経費に算入できるのだろうか。
個人事業主およびフリーランスの場合と法人の場合に分けて考えていこう。
自身の保険料は経費計上できない
個人事業主やフリーランスが支払う生命保険の保険料は、経費として計上できない。
経費として認められるものは、事業を継続するのに必要な費用であり、生命保険はあくまでも個人として生活を保障するために加入するものであるためだ。
事業の中心となる自分を守るためのものであるため、経費にできるのではないかと考える人もいるが、あくまでもプライベートな支出と扱われるため注意しよう。
例外として、自社で雇用している社員を対象にした保険で、保険金が社員に支払われるような契約の保険料であれば、経費として算入できる。
しかし、個人事業主の場合は法人のように資金が潤沢でないため、社員に支払われる保険のために保険料を負担するということはあまり現実的ではないだろう。
また、個人事業主やフリーランスの場合は、生命保険料控除を利用して税金の負担を軽減できる。
生命保険料控除とは、払い込んだ保険料の金額に応じて、一定の金額が所得から控除される制度だ。
2012年1月1日以降に締結した保険契約などが対象となる新制度では、一般生命保険料・個人年金保険料・介護医療保険料にそれぞれ控除が適用される。
所得税からはそれぞれ最大40,000円、合計で12万円が控除限度額となり、住民税からはそれぞれ最大28,000円、合計で7万円が控除限度額となる。
個人事業主やフリーランスの保険料は経費に算入できないものの、課税所得から控除されることで所得税や住民税の負担を抑えられるというメリットがある。
法人として支払った場合は計上可能
法人が自社の社員などを被保険者として生命保険に加入する場合は、保険料の一部または全部を損金に算入できる場合がある。
法人向けの保険は、社員に向けた福利厚生制度として活用できる場合もあるため、社員のモチベーションアップや離職率の低下なども期待できる。
保険料を支払うときの経理処理は、保険の種類によって異なるため、注意しよう。
「定期保険」「終身保険」「養老保険」の3つに分けて確認する。
まず、定期保険の場合は、ピーク時の解約返戻率に応じて経費への計上割合が定められている。
ピーク時の解約返戻率 | 資産に計上する期間 | 資産計上額 | 取り崩し期間 |
50%以下 | 全額損金算入 | ||
50%超70%以下 | 当初40%の期間 | 支払い保険料×40%を資産に計上し、残りは損金に計上する | 保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金に計上する |
70%超85%以下 | 当初40%の期間 | 支払い保険料×60%を資産に計上し、残りは損金に計上する | 保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金に計上する |
85%超 | ①保険の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで | 保険期間開始日から10年経過日までは、保険料×最高解約返戻率×90%を資産計上 11年目以降は、支払保険料×最高解約返戻率×70%を資産計上する(残りの割合は損金として計上) | 解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩す |
つまり、解約返戻率が高いほど資産性が高いとみなされるため、損金=経費に算入できる割合が低くなる。
次に、保障が一生涯続く終身保険の場合は、必ず死亡保険金を受け取ることとなる。
契約者および保険金の受け取り人が企業で被保険者が社員である場合は、保険料を支払ったタイミングで「保険積立金」として全額を資産として計上する。
さらに、養老保険は、被保険者の死亡時には死亡保険金が支払われ、満期を迎えると満期保険金が支払われる保険だ。
会社の福利厚生制度として養老保険が利用される場合、社員を被保険者、社員の遺族を死亡保険金の受け取り人、企業を満期保険金の受け取り人とするのが一般的だ。
このケースでは、保険料の半分を「保険積立金」として資産に計上し、残り半分を「福利厚生費」として損金に算入する。
法人で経費計上する場合の注意点
上記の経理処理ルールは、2019年の税制改正以降に契約された保険商品に適用される。
2019年7月8日より前に契約していた法人保険は、税制改正前の経理処理ルールが適用される点に注意しよう。
また、上記で解説した以外にも、法人向けの保険としては長期平準定期保険や逓増定期保険などの保険商品が存在する。
これらの商品は、経費処理のルールが異なるものも存在するため、詳しくは税理士や所轄の税務署に確認するのをおすすめする。
個人事業主と法人で生命保険金を受け取った場合の比較
保険金が給付された際の取り扱いも、誰が受け取るかによって異なってくる。
また、加入する保険の種類によっても方法が異なるため、それぞれどのように経理処理を行うか確認していこう。
個人事業主が受け取った場合
先述の通り、個人事業主やフリーランスの保険料は経費として扱えないため、保険金が給付されても事業上の収入としては扱わない。
ただし、個人の所得としては計算されるため、金額によっては税金がかかるケースがある。
死亡保険金が給付された場合は、契約内容によって「所得税・住民税」「相続税」「贈与税」のいずれかが課税される。
保険料の負担者と保険金の受取人が同一である場合は、所得税および住民税がかかる。
被保険者と保険料の負担者が同一で、受け取り人が異なる場合は相続税、被保険者と保険料負担者、受け取り人すべてが異なる場合は贈与税が課税される。
法人が定期保険金を受け取った場合
法人が加入している生命保険の保険金を受給した際は「定期保険」「終身保険」「養老保険」のいずれかによって取り扱いが変わってくる。
まず、定期保険金が給付されたケースについて考えていこう。
役員や社員を被保険者とし、法人を受け取り人とした10年の定期保険を契約していたとする。
社員が死亡して2,000万円が給付された場合の仕分けは下記の通りだ。なお、前払保険料の残高は400万円とする。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 20,000,000円 | 前払保険料 | 4,000,000円 |
雑収入 | 16,000,000円 |
定期保険の死亡保険金が給付された場合、それまで資産に計上した前払保険料および配当金積立金を取り崩し、死亡保険金との差額を雑収入として益金に算入する。
法人が終身保険金を受け取った場合
従業員を被保険者、法人を受け取り人とする終身保険に加入していたとする。
社員が死亡して1,000万円が給付された場合、仕分けは下記の通りとなる。なお、保険積立金は600万円とする。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 10,000,000円 | 保険積立金 | 6,000,000円 |
雑収入 | 4,000,000円 |
借方には、給付された全額を当座預金として計上する。
貸方には保険積立金を計上し、入金金額との差額を雑収入で計上する。
法人が養老保険金を受け取った場合
社員を被保険者、遺族を死亡保険金の受け取り人、法人を満期保険金の受け取り人としたケースについて、満期保険金1,000万円が給付された場合の仕分けは下記の通りとなる。なお、保険積立金は600万円とする。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 10,000,000円 | 保険積立金 | 6,000,000円 |
雑収入 | 4,000,000円 |
養老保険の場合は、終身保険と同じく保険積立金を取り崩し、保険金との差額を雑収入として益金算入する。
経費について理解できたら!個人事業主が加入すべき生命保険とは
個人事業主が加入した方が良い生命保険にはどのようなものがあるだろうか。
以下の3つの保険の特徴やメリット・デメリットについて確認していく。
- 就業不能保険
- 死亡保険
- 医療保険やがん保険
就業不能保険
就業不能保険は、病気や怪我によって働けなくなった場合に、収入の減少分をカバーして療養中の生活費をサポートするための保険だ。
会社員や公務員であれば、就業不能となった場合に最大1年6ヶ月間は公的保障である傷病手当金を受け取れる。
一方、個人事業主やフリーランスには傷病手当金の制度がないため、就業不能状態となると収入は大幅に減少するかゼロとなってしまう。
働けずに収入がなくなってしまったとしても、家賃やローンなどの住宅費、日常の生活費、事務所や店舗などの維持費などは発生し続ける。
特に、家族がいる場合は、家族分の生活費や子供の教育費なども大きな負担になりやすい。
このような状況を経済的にカバーしてくれるのが就業不能保険だ。
病気や怪我で長期間働けない場合は、毎月就業不能給付金を受け取れるため、治療費や生活費に充てることができる。
対象となる病気は商品・特約によって異なるが、がんを保障するタイプやがん・急性心筋梗塞・脳卒中の3疾病を保障するタイプ、全ての病気や怪我を保障するタイプなどさまざまあるため、自分が備えたいリスクに対応する保険を選ぶと良いだろう。
また、短期の入院や精神疾患で長期間働けない場合に、一時金が受け取れるというタイプの商品も多い。
現在の収入・支出から、働けなくなった際に最低限どのくらいのお金があれば良いかを算出し、保障額を検討するのがおすすめだ。
死亡保険
会社員の場合、自分が死亡したら「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」「中高齢寡婦加算」が遺族に支給される対象となる。
しかし、個人事業主やフリーランスの場合は「遺族基礎年金」のみが対象となるため、必要に応じて死亡保険に加入する必要がある。
独身の場合は、葬儀代や死後の整理資金程度があれば良いため、高額な死亡保障は必要ない。
どちらかというと、老後のために貯蓄性も備えた終身保険の方が良いだろう。
子供がいない共働き世帯の場合も、保障額はそれほど大きくなくて大丈夫だ。子供がいない片働世帯の場合は、社会復帰するまでの生活費として少しまとまった金額を設定しておくと安心だろう。
子供がいる家族や親の生活費も負担している世帯では、まとまった死亡保障が必要となる。
養う必要のある家族の人数に合わせて保険金額を設定して、その後の生活費や教育費を賄えるように準備しておこう。
ただし、死亡保障の金額は子供の成長によって見直しても良い部分だ。子供が独立したら保障金額を少なくするなど、時間の経過に応じて柔軟に対応しよう。
医療保険やがん保険
病気や怪我をカバーするための医療保険への加入も検討したい。
国民健康保険に加入している場合、病気や怪我が発生すると3割の自己負担で治療を受けられる。
国民健康保険には高額療養費制度があるため、一月に支払った医療費が一定金額を超えると、超過分が支給される。
高額療養費制度の上限額は年齢や所得によって異なり、69歳以下の方の上限額は下記の通りとなる。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) |
年収約1,160万円〜 | 252,600円+(医療費-842,000)×1% |
年収約770〜約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% |
年収約370~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% |
~年収約370万円 | 57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
個人事業主の方が医療保険への加入を検討する際は、高額療養費制度を踏まえた上で、さらに保障を手厚くすべきか検討しよう。
高額療養費制度では、入院時の食事代や差額ベッド代、先進治療費、入院中の生活費などの費用は対象外となる。
これらの自己負担分を貯蓄で賄える場合、医療保険に加入する必要はないが、そうでない場合はあらかじめ準備しておくことをおすすめする。
個人事業主は自身の生命保険料を経費にできない!生命保険料控除を利用して税金の負担を軽減しよう
本記事では、個人事業主が生命保険料を経費にする事の可否、個人事業主と法人で生命保険を給付された場合を比較し、解説した。
個人事業主やフリーランスが生命保険料を経費に算入することはできないが、法人として生命保険に加入すれば可能となる。
ただ、解約返戻金の受取額に対する支払保険料の総額である解約返戻率が高くなっていると、計上できる割合が減る可能性もあるので、加入時に注意しておこう。
また、個人事業主が加入すべき生命保険の種類は様々であり、多忙な個人事業主の方が知識をつけて生命保険を選んでいくのは大変な苦労がかかるだろう。
そんな時は保険のプロに相談することも検討してほしい。
一人一人に合ったアドバイスをもらうことで、あなたに必要な保険を的確に選択することができるはずだ。
ただ、保険のプロは数多く存在し、自分にとって最適な担当なのかを見極めることもまた難しい。
マッチングサイトである「生命保険ナビ」を使うことで、自身の条件に合った保険のプロを見つけ、適切な相談ができる。無料で利用できるので、是非活用してほしい。