- 生命保険で退職金を積み立てるメリットとデメリットが知りたい
- 退職金を積み立てる生命保険にはどんな種類があるか知りたい
- 生命保険以外で退職金を積み立てる方法があるか知りたい
小規模事業者にとって、退職金の資金を確保することは容易ではない。
しかし退職金を確保する方法の一つに、生命保険による積み立てがあげられる。
このメリットとデメリットの理解が、自社に最適な退職金の準備方法を考える助けになるだろう。
本記事では生命保険による退職金の資金確保の概要、適用可能な生命保険の種類、生命保険以外での資金確保の方法を解説する。
生命保険を利用して退職金の用意を考えている、ご担当の方は参考にしてもらいたい。
生命保険による退職金積み立てのデメリットとは
従業員にとって、退職金は老後の生活を支える大事な資本となるので、企業での退職金制度の導入検討は必須だ。
退職金がなくとも違法ではないが、少子高齢化により人手不足が進む中、退職金制度の欠如は人材採用の面でも大きな障害になる。
しかし退職金制度が、企業の福利厚生として就業規則に一旦定められれば、企業はこの規則にそって実行し続けなければならない。
このような状況の中で、退職金資金の確保に悩む小規模事業者では、生命保険による積み立てを活用する企業も多い。
ここでは、生命保険による退職金を積み立てることのメリットとデメリットを述べていく。
生命保険に退職金を投資すべきか?
日経連の調査結果によれば、大卒社員が定年時に得る退職金(勤続年数 38 年)は、平均2,243.3 万円だ。
生命保険の一種である養老保険は、契約時に定めた満期を迎えると満期保険金が、被保険者が亡くなると死亡保険金が得られる。
従業員を保険の対象者である被保険者にし、契約の満期を定年に設定すれば、この保険の満期保険金で退職金が用意できる。
さらに定年までの間、従業員が亡くなった場合には、保険会社から支払われる死亡保険金で。死亡退職金が従業員遺族に支給できる。
退職金資金の確保に生命保険を使った場合には、ほかに節税効果などさまざまなメリットもある。
生命保険に投資するメリット
保険金の受取人を企業にし、企業から従業員に渡すようにすれば、さまざまな調整を加えられる。
例えば、懲戒解雇になった従業員の退職金(保険金)を企業が受け取れば、従業員に支給されないようにすることもできる。
退職金資金の準備のために、生命保険を活用することで得られるメリットを、以下に述べていく。
- 保険料は「損金扱い」になる
- 法人税法上では保険料の1/2を損金として扱えるため、その分は非課税となる。法人税額は、利益から損金分を差し引いて算出される。※
- 定年前に退職しても退職金が支払える
- 養老保険のような積み立て型保険では、契約途中で解約すると、それまで積み立てていた保険料が解約返戻金として戻ってくる。この解約返戻金を用いれば、定年前の退職者へも、退職金が支払える。
- 短期的に資金繰りが厳しい場合にも対応できる
- 保険会社には、社内で積み立てている解約返戻金を担保に貸し付けを行う制度があるため、資金繰りが厳しい場合に活用できる。
- 自動振替貸付制度:保険料の払い込みが滞っても、解約払戻金の範囲内で保険会社が自動的に保険料を立て替え、契約を有効に継続させる制度。
- 契約者貸付制度:解約返戻金の7〜9割程度までの金額を、保証人なしで借りられる制度。
- 保険会社には、社内で積み立てている解約返戻金を担保に貸し付けを行う制度があるため、資金繰りが厳しい場合に活用できる。
- 法人税など法律の変更によって、節税できる内容が変わる場合がある。
生命保険に投資するデメリット
退職金を準備するために生命保険を活用する場合には、メリットだけではなく、デメリットもある。
メリットとデメリットの両方を理解したうえで、生命保険の活用を判断することが大切だ。
生命保険を退職金の準備に利用する場合のデメリットを、以下に述べていく。
- 保険料は割高になる
- 保障と退職金積立という2つの目的があるため、保障のみを目的とする掛け捨て型保険と比べ、保険料は割高になる。
- 従業員の出入りが激しいと損をする場合がある
- 従業員(被保険者)が退職すると、企業はその人に掛けた保険を解約しなければならない。在職期間が短いと、解約にともなう返戻金がない、もしくは支払った保険料の総額よりも大幅に下回った金額になってしまう。
- 従業員全員の保険加入が必要
- 企業が従業員全員分の保険加入(普遍的加入)をしなければ、法人税法では、保険料が損金扱いされない。ただし合理的な理由があれば、全員加入しなくとも許される場合がある(過去の病歴により生命保険に加入できない、等)。
個人事業主や、従業員が大多数の同族会社では、退職金資金を確保するための保険料は損金扱いされない。
従業員がいない、もしくは従業員割合が非常に低いため、従業員のための福利厚生費として認められず保険料は課税対象となる。
退職金を積み立てられる生命保険の種類
ここでは退職金の資金を積み立てるための具体的手段を紹介していく。
まず先に紹介した養老保険は、いくつかの保険会社から法人向け商品が提供されている。
養老保険以外の手段として、生命保険では、逓増定期保険や長期平準定期保険も活用できる。
これ以外に共済として、経済産業省が管轄する独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が運営している小規模企業共済がある。
ここでは、小規模企業共済、逓増定期保険、長期平準定期保険のそれぞれの特徴やメリット・デメリットを説明する。
小規模企業共済
これは小規模企業共済法に則り、中小企業基盤整備機構が運営する保障制度だ。
通常の生命保険とは異なり、経営者や役員、個人事業主が、会社としてではなく個人として加入する共済制度になる。
企業にはメリットもデメリットもない制度だが、先に述べた個人事業主や、家族経営の同族会社の経営者には、有効な手段といえる。
加入者(共済に加入する経営者)にとっての、小規模企業共済がもつメリット・デメリットを以下に述べる。
メリット | デメリット |
積み立てた掛金は、所得税が非課税になる (年間84万円まで)。 以下の場合には、共済金受け取り時には「退職金所得」や「公的年金等の雑所得」扱いになり、税負担が軽減できる。 ⋆廃業して企業を解散した場合 ⋆加入者が病気やケガで退任した場合 ⋆65歳以上で退任した場合 契約者は、無担保・保証人不要で、低金利で即日貸付けが可能な各種の貸付制度が利用できる。 | 20年未満の加入期間で解約すると、戻ってくる金額は掛金総額を下回る。加入期間12ヵ月未満で解約すると掛金の返還はまったくなく、掛け捨てとなる。 加入後6ヶ月未満の場合では、共済事由(企業解散、加入者の病気・ケガ、65歳以上の退任)に該当しても、掛金の返還はまったくない。 従業員20人以下(小売卸業、サービス業は5人以下)の企業、または個人事業主しか加入できない。 |
逓増定期保険
逓増定期保険(ていぞうていきほけん)は、支払われる保険金が段階的に増えていく法人向けの生命保険だ。
解約返戻率の上昇が速く、加入後の5〜10年ほどで100%近くまでになるため、緊急時の事業資金形成手段としても利用できる。
退職金の資金確保と同時に、事業資金の確保もできるため、加入対象を経営者にして企業が保険料を支払う場合も多い。
保険会社で販売されている逓増定期保険がもつメリット・デメリットを以下に述べる。
メリット | デメリット |
段階的に増えていく保険金は、最大5倍までになる。 死亡保険金の受取人を後継者にすれば、事業継承を容易にする手段にもなる。 *死亡保険金が株式相続時の相続税に利用できる。 *後継者が全株式を相続し、経営者の他の家族(複数の法定相続人)に対し、保険金で相続分を支払える(代償交付)。その結果、家族内での株式を分散することを防ぐ。 | 解約返戻率がピークとなる期間が短く、その後は返戻率が下がっていく。 保険料が高い。事業資金ほどの高額な契約金額にすると、保険料もその分さらに高くなるため、経営状況によっては企業のキャッシュフローを悪化させてしまう。 加入者の健康診断結果によっては、加入できない場合がある。 |
長期平準定期保険
長期平準定期保険も、保険会社で販売される保険商品であり、経営者への退職金の資金確保に向いている法人向け生命保険だ。
この保険は通常の定期保険と異なり、高齢での保険加入つまり95〜100歳で加入できる保険もあり、実質的終身保険ともいえる。
先に述べた逓増定期保険では、契約開始時での死亡保険金の金額は少額だが、この保険は保険期間中一定で変わらない。
また逓増定期保険と比べ、解約返戻率のピークは80〜95%と低く上昇率も緩やかだが、ピーク期間は長く保険料も割安だ。
この長期平準定期保険がもつメリット・デメリットを以下に述べる。
メリット | デメリット |
保険料負担を抑えながら、長期間で高額の保障が得られる。 被保険者が高齢でも加入できる。 | 逓増定期保険と比べて解約返戻率がピークになるまでには時間がかかり、その前に解約すると、手元に戻ってくる金額はわずかになる。 |
生命保険以外に退職金を積み立てる方法はあるか
生命保険以外に企業が退職金を積み立てる方法に、企業年金制度として、「確定給付企業年金」、「企業型確定拠出年金」がある
また個人の資産形成手段であるNISAやiDeCoを企業が支援する場合もある。
ここでは、これらの特徴をそれぞれ説明する。
確定給付企業年金
英語では“Defined Benefit Corporate Pension”と表記されることから、「DB」と呼ばれることもある。
確定給付企業年金は、労使が合意して将来の年金給付額を設定し、それに必要な掛金を企業が拠出していく制度だ。
企業からの掛金は、信託会社、生命保険会社、投資顧問会社、厚生労働大臣の認可を受けた企業年金基金が管理・運用する。
年金という名前だが、定年前に退社しても一時金として給付されるので、実質的には退職金になる場合が多い。
企業側からの視点で見た、この確定給付企業年金がもつ、メリット・デメリットを以下に述べる。
メリット | デメリット |
掛金は全額損金扱いになるため、内部留保による自社での資金運用よりも、税制面で有利になる。 法律が示す範囲内であれば柔軟な設計ができる。 企業型確定拠出年金、iDeCo、中小企業退職金共済などとの併用も可能。 | 従業員の年金給付額はあらかじめ定められているので、企業側は運用責任をもつ。運用成果が給付額に満たない場合は、企業側が不足分を追加拠出しなければならない。 企業は、管理・運用する企業や団体に運営管理手数料を支払う必要がある。 年金資産が少ない企業や、年金を運用するための積み立てが経済的に十分にできない企業は、導入が認められない場合もある。 |
企業型確定拠出年金
英語では“Defined Contribution Plan” と表記されることから、「DC」と呼ばれることもある。
企業型確定拠出年金は企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員みずからで、その資金で金融商品を選択し運用するものだ。
選べる運用商品は運営会社によって異なるが、リスクの低い金融商品が多く、運用益をくわえたものを60歳以降に受け取れる。
60歳前に退職した場合は、運用していた資金を、転職先の年金(DC)もしくはiDeCoに移さなければならない。
企業側からの視点で見た、この企業型確定拠出年金がもつ、メリット・デメリットを以下に述べる。
メリット | デメリット |
掛金は非課税。 資産運用は企業側が行わないので、運用成績が悪くても、補填する必要性はない。 | 制度導入時には企業側に負担が発生する。 *制度導入コンサルの費用 *運営管理する金融機関への手数料 *賃金規程や退職金規定の見直し *従業員からの同意を得るための説明 従業員への投資に関する継続的な教育も必要になる。 |
NISAとiDeCo
企業が掛金を積み立てて退職金を形成する手段について説明したが、これらと並行して個人でも独自に退職金を形成する手段がある。
これがNISA(ニーサ)とiDeCo(イデコ)だ。
「少額投資非課税制度」であるNISAは、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になる制度だ。
「個人型確定拠出年金」であるiDeCoは、企業型確定拠出年金の個人版で、掛金の上限が異なるが金融機関は自由に選べる。
企業側の支援制度(職場NISA、iDeCoプラス)もあるが、NISAやiDeCoを行っていない従業員には意味をなさない。
生命保険で退職金を積み立てることのデメリットを理解しよう
本記事では、生命保険で退職金を積み立てるメリットとデメリット、積み立てができる生命保険の種類や生命保険以外の手段について解説した。
生命保険では、早期解約すると、元本割れにつながるというデメリットも理解しておこう。
退職金の資金を作るための選択肢には、さまざまな種類の生命保険だけでなく、企業年金制度などもある。
多くの選択肢の中から、自社にとってどの方法が適切か判断するのが難しい、と感じる人もいるだろう。
そんな時には保険のプロに相談すれば、一社一社に合ったアドバイスをもらえ、必要な保険を的確に選択できる。
数多い生命保険のプロの中から、自社に最適なアドバイザーを見極めることは難しい。
しかし「生命保険ナビ」を使えば、自社の条件に合った保険のプロを見つけ、適切な相談ができる。無料で利用できるので、是非活用してほしい。