- 個人年金が支給されるときにどのような税金が課されるか知りたい
- 年金や死亡給付金を家族が受け取るときの取り扱いがわからない
- 具体的にいくら税金が課されるか試算したい
「人生100年時代」といわれている昨今、国民年金や厚生年金をはじめとする公的年金だけでは、経済的にゆとりのある老後生活を送ることが難しくなってきている。
そこで、将来の生活への備えとして注目されているのが、生命保険会社などの金融機関が販売している個人年金保険だ。
ただ、個人年金が支給されるときには、納税しなければならないケースがあることをご存知だろうか。
保険料の支払いを行う契約者と受取人との関係性や、受取人の死亡後に家族に年金が支給されるケースなど、状況によって課される税金が異なり複雑な点も多い。
そこで本記事では、個人年金が支給されるときに課される税金の種類と家族が受取人になったときの注意点について解説する。
具体例を用いて税金の試算も行っているため、個人年金保険への加入を検討しているという方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてほしい。
個人年金保険に課される税金は3つ
個人年金保険において年金や死亡給付金などを受け取るときは、パターンに応じて「所得税」「相続税」「贈与税」の3つが課される。
それぞれについて、どのような状況で発生するのか解説する。
年金として所得税が課されるケース
年金が支給されることによって所得税が課されるのは、契約者(保険料を負担した人)と受取人が同一であるときだ。
具体的には以下の2つの例が挙げられる。
- 契約者=被保険者=年金受取人
- 契約者=年金受取人≠被保険者
年金が支給されると雑所得となり、課税の対象になる。
雑所得の計算方法については後述する。
一括金として所得税が課されるケース
契約者=年金受取人の契約において、一括受取を選択したときは、一時所得となって所得税が課される。
一時所得の計算方法については後述する。
相続税または贈与税が課されるケース
まず、相続税が課されるケースは、以下の2パターンが考えられる。
- 契約者=被保険者=受取人の契約において、年金の支給が始まった後に受取人が死亡し、家族に年金が支給される
- 契約者=被保険者=受取人の契約において、年金の支給が始まる前に被保険者が死亡し、家族が死亡給付金を受け取る
年金の支給が始まった後に受取人が死亡し、家族に年金が支給されるときは、相続税が課される。
相続税額の計算には「年金受給権評価額」が用いられ、以下のいずれか高い金額をもとに算出する。
- 解約時の返戻金額
- 年金を一括で受け取れるときはその一括金額
- 予定利率(運用利回り)などをもとに算出した額
また、年金の支給が始まる前に被保険者が死亡したときは、被保険者の家族が死亡給付金を受け取る。
例えば、契約者と被保険者、受取人が全て夫の契約であれば、死亡給付金受取人は妻もしくは子どもなどの家族だろう。
死亡給付金に対しては、相続税が課される。
ただ、死亡給付金には生命保険の非課税枠の利用が可能だ。
生命保険の非課税枠とは、死亡給付金のうち「500万円×法定相続人の数」で算出された金額までが非課税となることをいう。
例えば、被保険者の法定相続人となる家族が4人いるとすると、500万円×4人=2,000万円までは税金が発生しないのだ。
続いて、贈与税が課されるケースについて見ていこう。
贈与税が課されるのは、以下にあてはまるときだ。
- 契約者≠受取人
- 契約者≠被保険者の契約において、年金の支給が始まる前に被保険者が死亡し、契約者ではない別の家族が死亡給付金を受け取る
契約者≠受取人のときは、年金の支給が始まるときに贈与税が課される。
贈与税額の算出にあたっても、利用されるのは「年金受給権評価額」だ。
なお、贈与税が課されるのは支給が始まった年だけであり、その後は雑所得となって所得税が課される。
契約者≠被保険者の契約にて、被保険者が死亡し契約者以外が死亡給付金を受け取るときにも、贈与税が課される点には注意しなければならない。
個人年金保険を家族が受け取るときの注意点
個人年金保険を家族が受け取るときの注意点について、以下3つのケースについて解説していく。
- 年金の支給が始まる前に受取人本人が死亡したケース
- 年金が支給されている最中に受取人本人が死亡したケース
- 確定申告が必要なケース
それぞれ見ていこう。
支給が始まる前に受取人本人が死亡したケース
先述のとおり、個人年金保険において年金の支給が始まる前に受取人本人が死亡したときは、家族が死亡給付金を受け取る。
死亡給付金受取人と契約者との関係性によって、課される税金が変わってくる点には注意してほしい。
以下の具体例をもとに、課される税金を確認しよう。
契約者 | 年金受取人 | 死亡給付金受取人 | 課される税金 |
A | A | B | 相続税 |
A | B | C | 贈与税 |
A | B | A | 所得税 |
年金が支給されるはずだったAが死亡し、家族であるBが死亡給付金を受け取った場合は、相続税の対象だ。
また、契約者≠年金受取人≠死亡給付金受取人であるときは、死亡給付金は贈与税の対象になる。
さらに、契約者=死亡給付金受取人となるときは、死亡給付金は一時所得となり、所得税が課されるのだ。
上記のように、年金の支給が始まる前に受取人本人が死亡したときは、契約者と死亡給付金受取人の関係性によって課される税金が違う。
これを考慮した上で、死亡給付金受取人を選定しよう。
支給されている最中に受取人本人が死亡したケース
年金が支給されている最中に受取人本人が死亡したときは、年金を受け取る権利を得る家族と契約者との関係性によって、相続税もしくは贈与税が課される。
具体的な課税パターンは以下のとおりだ。
契約者 | 年金受取人 | 年金を受け取る権利を得た者 | 課される税金 |
A | A | B | 相続税 |
A | B | C | 贈与税 |
契約者=年金受取人の契約では、相続によって年金を受け取る権利を取得したものと見なされるため、相続税が課される。
一方で、契約者と年金受取人、および年金を受け取る権利を得た者が全て別人であるときは、その権利は贈与により取得したものと見なされ、贈与税が課されるのである。
確定申告が必要なケースとは
個人年金保険にて年金が支給されるときに、確定申告をしなければならないのは以下3つのケースだ。
- 年金が支給されたことにより雑所得が20万円超になるとき
- 一括受取を選択し、一括金−累計払込保険料>50万円になるとき
- 契約者≠年金受取人のとき
まず、契約者=年金受取人の契約において、年金が支給されたことによる雑所得が20万円超になるときは、確定申告をしなければならない。ちなみに、公的年金等も雑所得であるが、公的年金等における雑所得の計算方法は異なり、以下の速算表をもとに算出する。
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下
年金を受け取る人の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
65歳未満 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額の合計額−60万円 | |
130万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75−27万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85−68万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95−145万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額−195万5千円 | |
65歳以上 | 110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 収入金額の合計額−110万円 | |
330万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75−27万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85−68万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95−145万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額−195万5千円 |
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下
年金を受け取る人の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
65歳未満 | 50万円以下 | 0円 |
50万円超130万円未満 | 収入金額の合計額−50万円 | |
130万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75−17万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85−58万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95−135万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額−185万5千円 | |
65歳以上 | 100万円以下 | 0円 |
100万円超330万円未満 | 収入金額の合計額−100万円 | |
330万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75−17万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85−58万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95−135万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額−185万5千円 |
公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が2,000万円超
年金を受け取る人の年齢 | 公的年金等の収入金額の合計額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
65歳未満 | 40万円以下 | 0円 |
40万円超130万円未満 | 収入金額の合計額−40万円 | |
130万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75−7万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85−48万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95−125万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額−175万5千円 | |
65歳以上 | 90万円以下 | 0円 |
90万円超330万円未満 | 収入金額の合計額−90万円 | |
330万円以上410万円未満 | 収入金額の合計額×0.75−7万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額の合計額×0.85−48万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額の合計額×0.95−125万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額の合計額−175万5千円 |
また、契約者=年金受取人の契約において、一括金で受け取ったときも所得税の確定申告をしなければならない。
ただし、一括金での受取額から支払った累計保険料を除いた金額が50万円未満であれば不要だ。
加えて、契約者≠年金受取人のときには、年金の支給が始まる年に贈与税の申告をしなければならない。
年金の支給が始まる年は所得税は課されないが、翌年以降は所得税が課される点には注意しよう。
個人年金保険に課される税金を試算してみよう
個人年金保険が支給されることによって課される税金について、以下の前提条件をもとに3つのケースに分けて解説する。
- 加入時の年齢:25歳
- 保険料払込期間:35年
- 保険料:月額3万円(累計払込金額:1,260万円)
- 年金の支給が始まる年齢:60歳
- 受け取れる年金額:年間135万円×10年(総額:1,350万円)
- 一括受取を選択したときの金額:1,320万円
60歳男性本人が年金として受け取る
契約者=年金受取人の契約において、60歳となった受取人本人が年金として受け取るときは、雑所得として計算される。
雑所得は、以下の計算式に則って算出される。
これに上記の前提条件をあてはめると以下のとおり算出される。
雑所得は9万円となり、年金が支給されている間は毎年課税対象になるのだ。
先述のとおり、所得税の税率は雑所得以外の所得も合算した上で決定される。
60歳男性本人が一括金として受け取る
契約者=年金受取人の契約において、60歳となった受取人本人が一括金として受け取るときは、一時所得として計算される。
一時所得の計算式は以下のとおりだ。
これに上記の前提条件をあてはめると以下のとおり算出される。
実際に課税の対象になるのは、上記の計算式によって算出された金額の2分の1(このケースでは5万円)となる。
一括金での受け取りを選択すると、年金で受け取るよりも総受取額は減るが、課税されるのは受け取った年だけだ。
なお、一時所得も他の所得と合計した金額にて所得税の税率が決定される。
総受取額だけではなく、課税される金額も踏まえて受取方法を検討しよう。
60歳男性の家族が年金として受け取る
契約者の家族に年金が支給される(契約者≠年金受取人)ときは、年金の支給が始まる年度に贈与税が課される。
贈与税の課税価格の計算式は以下のとおりだ。
年金受給権評価額=一括受取を選択したときの金額であると仮定すると、以下のとおり算出される。
したがって、贈与税の課税価格は1,210万円だ。
一般税率※が用いられる場合、贈与税額は以下の速算表をもとに算出可能である。
※兄から弟や夫から妻、親から未成年の子への贈与のときに用いられる税率
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
このケースでは、贈与税額は1,210万円×45%−175万円=369万5,000円である。
また、翌年以降に支給される年金は雑所得だ。
雑所得の計算方法は先述のとおりだが、贈与税と所得税の両方が課されることがないよう、雑所得の課税対象になる部分が段階的に増えていく。
そのため、算出が難しい点には注意が必要だ。
このように、契約者≠年金受取人の契約においては、支払わなければならない税金が多くなる。
「妻の将来の生活のために加入したのに、税金がこんなにかかるなんて知らなかった」という状況に陥らないために、慎重に年金受取人を選定しよう。
個人年金保険を家族が受け取る場合の注意点を理解して最適な保険を選ぼう
本記事では、個人年金保険が支給されるときに課される税金の種類と家族が受取人になるときの注意点、さらに具体例を用いた税金の試算結果を紹介した。
個人年金保険が支給されるときには、受取方法にかかわらず所得税が発生する。
また、年金受取人の死亡後に家族に支給されるときは、相続税もしくは贈与税が発生するケースがある。
実際にかかる税金については、本記事の試算結果を参考に、自分や家族にあてはめて計算してみるといいだろう。
一方で、個人年金保険の加入にあたっては、確定申告の必要有無など考慮すべき事項が多数あり、自分だけで判断するのは難しいと感じる人もいるだろう。
そんな時は保険のプロへの相談も検討してほしい。
自身の状況にあわせたアドバイスをもらうことで、個人年金保険全般に関する疑問や不安が解消できるはずだ。
ただ、保険のプロは数多く存在するため、自分にとって最適な担当者であるか見極めるのは困難である。
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