証券会社社員のキャリアパスを考えるとき、まず最初に思いつくのは、今勤務している会社内での昇格昇給だろう。ネット証券の台頭、スマホ証券やロボアドの誕生など、証券会社の経営環境は厳しくなりつつあるものの、他業種と比較して証券会社の福利厚生や給与水準は高い。
転職サイト各社のランキングによれば、証券会社の平均年収は他の業種と比較すると高い。国税庁の調査によれば20代、30代の平均年収は277万〜518万円であることから、証券会社の年収は同年代と比較して同程度から340万円程度高いことになる。
証券会社の平均年収
年収 | 順位 | ランキング名称 | 調査会社 |
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634万 | 12位 | 【全111業種】業種別 モデル年収平均ランキング【2022年版】 | マイナビ |
558万 | 4位 | 平均年収ランキング(平均年収/生涯賃金)【最新版】 | DUDA |
513万 | 3位 | 業種別平均年収ランキング【2020年版】 | マイナビエージェント |
一方で、厳しいノルマや、強く残る上限関係などの風習に抵抗を示す人も多い。
そこで今回は転職時に証券会社社員に期待されるスキルと、スキルが活かされるキャリアパスについて考えていきたい。
証券会社で培われる3つのスキルと知識
証券会社での勤務経験を通じて身につくスキルはいろいろなものがある。ここでは、最も強みが発揮されると思われる3つのスキルについて取り上げる。
日々の鍛錬が自然と高みに「営業力・目標達成力」
証券会社で身につく第1のスキルは、「営業力」だ。
新しいお客さまを紹介して獲得いただくには、どのような戦略を立てればよいのか?
他の金融機関にある資金を、当社に移していただくにはどのような提案が有効なのか?
営業について戦略的に毎日考えるから、自然と向上する。いろいろなことを試したり、工夫することで話法や、お客さまへの価値提供を継続的に行うことで目標達成力も向上する。
証券会社の営業担当者は採用企業から「営業力・目標達成力」を期待される。
クロージングにつながる「コミュニケーションスキル」
証券会社での営業活動は、コミュニケーションスキルも向上する。お客さまのタイプによって切り口や話題を変えて適切なコミュニケーションをとることが、信頼獲得には大切な要因だからだ。
受け継いだ資産を守り育てる地元の名士、自分でビジネスを興した若き成功者、外見は質素だが着実に蓄財をしてきた富裕層など、お客さまのタイプはいろいろだ。
それぞれのお客さまと面談を重ねるなかで、ニーズに合致する商品を提案し、クロージングさせるには、高いコミュニケーションスキルが必要になる。
転職にあたり、証券会社の営業担当者には高い「コミュニケーションスキル」が求められている。
マーケット環境や金融商品に関する知識
最適な提案を行うために、証券会社の営業担当は、日々マーケット情報をインプットする。そして、経済状況に合わせた金融商品を提案し、成約に結びつける。
マーケット情報に強い人材や、経済ニュースに毎日触れる習慣をもっている人は他業種には少ない。
金融市場や金融商品に関する知識を持った証券会社の営業担当は他業種においては希少性が高い。
証券営業からのキャリアパス3選
前章では、証券会社の営業職で高められる3つのスキルを説明した。本章では3つのスキルを活かしたキャリアパス3つを紹介する。
コミュニケーションスキルと金融商品に関する知識を活かして「銀行でのコンサルティング業務」
地元の銀行でのコンサルティング業務に転身する事例は多い。なぜなら、証券会社で培った3つのスキル・知識「営業力・目標達成力」「コミュニケーションスキル」「金融市場や金融商品に関する知識」がダイレクトに活かせるからだ。
銀行でのコンサルティング業務は株式の提案ができない。一方で、投資信託などに加え、預金や融資(資金調達)、保険などが提案できる。提案の幅が広がることが魅力の一つだ。
証券営業で培ったコミュニケーションスキルと金融商品に関する知識が存分に発揮できるのが、銀行でのコンサルティング業務だ。
金融商品に関する知識 × 営業力を活かして 「アセットマネジメント会社の営業職」
投資信託の運用をしている会社がアセットマネジメント会社だ。営業の相手は、銀行や証券会社の本部社員になる。ここでも証券営業の経験が活かせる。理由は2つある。
1点目は、先方組織の構造をふまえた上での効果的な営業ができる点だ。営業組織からボトムアップで攻めるのか、先方の意思決定権者と自分の上席者を面談させるなどトップダウンで攻めるのかなど、業界の特性を知り尽くした上での「営業力」が発揮できる。
2点目は営業担当の気持ちが理解できる点だ。
どういった資料が使いやすいのか?自社ファンドを保有しているお客さまに対し、今のマーケット局面をどのように説明すれば理解していただけるのか?など、具体的な課題を発見できる。また、それに対する回答も、今までに得た金融知識で回答を導き出せる。
営業力とコミュニケーションスキルを活かして「IFA」
成績優秀な証券営業のキャリアパスとして、近年増加しているのがIFAだ。独立系アドバイザーとも呼ばれるIFAは、IFA法人に所属し、特定の銀行や、証券会社の仲介業者として活動する。
転勤がないため、1人のお客さまと長いお付き合いができる。きめ細やかなコミュニケーションを長期的に続けることにより、お客さまから大きな信頼が得られる。
また会社から与えられるノルマがない。だから会社推奨商品などはなく、真にお客さま本位の提案ができる点が大きな魅力だ。
IFAは自分があげた収益に対して報酬を受け取るケースが多い。契約によるが、一般的には収益の50〜70%がIFAの報酬になる。証券営業で培った営業力が報酬として受け取れる。
コミュニケーションスキルと営業力が発揮できる転身先が、IFAだ。
証券会社で培ったスキルは転職先でも活かせる
証券会社の営業職は、時に過酷とも表現される。しかし実際には厳しいだけではなく、実は多くのスキルや知識、経験が得られる職場である。証券会社で培った営業力やコミュニケーションスキル、専門知識は、銀行でのコンサルティング業務、アセットマネジメント会社の営業職、 IFAへの転職には圧倒的なアドバンテージがある。
証券会社からのキャリアパスに悩んでいる人は、この記事で紹介した転職先をぜひ参考にしてほしい。