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当社の代表の平・松岡が日本経済新聞社のNIKKEI Financialの「さらば大手証券、風雲急告げるIFA業界」に取り上げられました。
さらば大手証券、風雲急告げるIFA業界
経済ジャーナリスト 浪川 攻
株式会社日本経済新聞社
NIKKEI Financial
(https://financial.nikkei.com/article/DGXMZO61952660X20C20A7000000?s=1より転載)
2020年7月30日
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、証券業界も在宅勤務を積極化させた。コロナ後の働き方にアタマを悩ませる証券会社の経営陣たちだが、足元では想定外の事態が起きつつある。優秀な実績を上げてきたトップセールスマンを中心とする営業担当社員たちの転職活動である。
新型コロナ禍が深刻化する直前の3月、ある証券ベンチャーが事業を本格的に始めた。独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)を目指す証券会社社員への転職の斡旋と、個人投資家へのIFA情報の提供を主軸とするコンサルティングを事業の柱にする。
トップセールスマンの転身。
FAに特化した転職サイトはこれまでになく、証券会社から独立する営業マンが一段と増えるきっかけになる可能性がある。
アドバイザーナビを立ち上げた松岡氏(右)と平氏
ベンチャー企業の社名は「アドバイザーナビ」(東京・中央)。平行秀氏と松岡隼士氏という30歳代前半の元野村證券マンが立ち上げた。両氏は個人向け営業として全国トップクラスの成績を上げていたが、2019年春に退社した。営業目標の達成が優先され、顧客が主体に置かれにくい営業スタイルに限界を感じたからだ。その状況を打ち破って自身が抱いてきたスタイルの証券リテールビジネスを実現すべく、当初はIFAへの転身を目指した。IFAには毎月の営業目標などはなく、独自の発想で顧客との関係を築けると判断したからだ。
しかし、そのための調査に乗り出すや、ある現実に直面した。IFA事業者と一口に言っても営業手法、雇用関係、報酬体系などが千差万別であるという実態である。
IFAへの転身を目指す証券マンにとって、「どのIFAを選ぶのか」という判断の材料は乏しく、雇用のミスマッチが起きやすい状況にある。
この構図はIFAを自身の資産形成アドバイザーにしたいと考える個人投資家にも当てはまる。どのIFA事業者が自分の人生設計の考え方に合ったスタイルの投資アドバイスを提供してくれるのかという情報が著しく欠如している。悪く言えば、個人投資家とIFA事業者との出会いは行き当たりばったりとなりかねない。
そこで、平・松岡両氏は進路を変える決断を下した。それがIFA関連の情報インフラビジネスの創設だった。
IFAの紹介ビジネス
1年あまりの準備期間を経て、有料人材紹介業の資格取得と同時に事業に乗り出した。そんな矢先に新型コロナの感染拡大が起きた。転職を考える余裕がないような環境といえ、逆風の船出にみえた。
だが、実態は違った。とくに証券業界が在宅勤務を本格化した5月以降、月100人ペースで面談の申し込みがある。その多くは大手証券のトップセールスクラスという。「興味があるという程度の人まで含めて、面談希望は後を絶たない」(平氏)という状況である。
いったいなぜなのか。IFA事業者が事業拡大に向けて人材確保を強めていることもあるが、それだけではない。原因は伝統的な証券業界のほうにもある。定期的な人事異動、営業目標、人事評価というモデルで構築されたキャリアパスに限界を感ずる社員が増えているのだ。
さらにいえば、証券会社と社員の関係性の問題もある。営業目標に向けて「毎月稼ぐ」ことが主軸であり、それ以上のエンゲージメントを見いだしにくい。とすれば、社員たちは一定の得意客を得れば、営業力に自信がある者ほど「稼ぐ」場所として、今の職場に固執する必然性を感じなくなる。職場から離れて在宅勤務も定着した日々はむしろ、新天地としてIFAを選ぶ機会になったといえる。
2018年に野村証券のトップ営業マン2人が転身して設立したジャパンアセットマネジメント(JAM、東京・千代田)では6月末の預かり資産が155億円と、昨年末に比べて約5割増えた。顧客の目線に立った運用アドバイスが評価され、コロナ禍にあっても預かり資産が拡大している。
IFAは、正式には金融商品仲介業と呼ぶ。2003年の旧証券取引法(現在の金融商品取引法)改正でこの職種が導入された。同改正は資本市場改革である日本版ビッグバンの一環であり、証券営業の新たな担い手の創出によって資本市場の質・量を進化させる狙いがあった。一般にIFAと呼ばれるのは、すでに米国の証券リテール分野で証券会社社員と並ぶ勢力となっていたIFAを範としたからである。
IFAは自身で基幹系システムや株式、投信などの受発注システムなどを保有する必要はない。特定の証券会社と提携し、専用のシステムツールの貸与を受ける。IFAは証券会社にシステム利用料として顧客から得る手数料収入の一部を支払えばいい。
金融業はすでに装置産業化している。新規参入組にとってエントリー時にかかる莫大なシステム費用は巨大な参入障壁として立ちはだかる。IFAはその壁を打ち破る仕組みといえる。底堅い株式相場の追い風もあり、近年はIFAの事業者、さらに同事業者の元で営業活動する証券外務員は拡大の一途をたどる。IFA事業者数は20年5月時点で全国883法人、そこに所属する外務員は4000人近くに達した。
IFAにシステムなどを提供するプラットフォーマー証券会社も増えている。ネット専業の楽天証券、SBI証券という二大プラットフォーマーのほか、エース証券、PWM証券、あかつき証券なども名を連ねる。ここにきて東海東京証券、いちよし証券、一部銀行系証券も参入に動き始めた。
米国型とは溝も
金融庁は近年、「個人の長期の資産形成」という観点から、IFAの成長に期待を寄せてきた。気になるのは、IFAの拡大に反して業界への期待が徐々に薄れてきているという事実だ。
先駆者である米国のIFAは個人投資家の長期の資産形成に寄り添うアドバイザーとしての地位を確立した。一方で日本の場合は個人への営業アプローチがマチマチな面は否めない。
一部のIFAは米国型を追求し、長期の資産形成に向けた顧客へのアドバイスに徹する地道な活動を続けている。一方で、証券会社の営業担当者と同様に投信などの短期売買という「趣味の投資」の斡旋者にとどまり、手数料稼ぎに明け暮れている向きも少なくない。これではIFAの質的な向上は期待できない。
そんな中で金融庁の後押しを受けながら、一部のIFA事業者やプラットフォーマー証券が1月に「ファイナンシャル・アドバイザー協会」を設立した。協会活動を通じて、IFA業界の質的な底上げを図る狙いがある。その役割は大きいといえるが、業界団体の設立が事態を抜本から改善させるか疑問視する向きもある。
たとえば、IFAが個人向け証券営業のメインプレーヤーになっている米国では、市場原理による顧客の選別が起きるなかで長期投資のモデルが勝ち残った。
その経緯のなかで見落とせないのがプラットフォーマー証券会社の価値観(経営理念)がIFAの進化をもたらしたという側面だ。たとえば、米国リテール証券の覇者として知られるチャールズ・シュワブはデジタルや対面に加えて、IFAのチャネルを構築している。
同社と提携するIFA事業者(正確には小規模投資助言業者、RIA)は、チャールズ・シュワブの顧客重視という経営理念の遵守が求められる。その代わりに「チャールズ・シュワブがプラットフォーマーである」ことがIFA事業者のブランド力を高めている。
それでは日本のプラットフォーマー証券にチャールズ・シュワブのような明確な経営理念はあるだろうか。コンプラ意識・体制などの一定レベルの審査はあっても、経営理念の共通化という価値観は乏しい。むしろ、見えてくるのは「より稼ぐIFAとつながる」という近視眼的な発想である。
プラットフォーマー証券の経営理念の希薄さも手伝って、IFA関連の情報は乏しい状況が続いてきた。そのような「情報貧困」のなかでは、より良いプレーヤーたちが選ばれ、進化していくという選別の歯車は回らない。
「アドバイザーナビ」に象徴される情報インフラはいずれ、経営理念、投資スタイル、顧客資産形成の貢献度を目安にしたIFA事業者の格付けモデルに進化してもおかしくない。それは利用者が選別できるモデルが確立するということでもある。
IFAが資本市場の一翼を担える存在に進化するためにも、市場に厳選されるメカニズムのなかに自らの身をさらす必要がある。もちろん、プラットフォーマー証券も同様だ。日本版ビッグバンがそうであったように、これは市場型行政の徹底という問題でもある。
浪川攻(なみかわ・おさむ)
経済ジャーナリスト。上智大卒業後、電機メーカー勤務を経て記者になる。金融専門誌、証券業界紙を経て1987年株式会社きんざいに入社。「週刊金融財政事情」編集部でデスクを務める。1996年退社し、ペンネームで金融分野を中心に取材・執筆。1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年フリーとなって現在に至る。著書に『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)、『地銀衰退の真実』(PHPビジネス新書)、『金融自壊――歴史は繰り返すのか』などがある。