- 法人は養老保険をどのように経営に利用できるのか
- 養老保険を法人で利用する場合の「節税効果」とは?
- 法人が養老保険を活用する場合の注意点は?
養老保険は企業に多くのメリットをもたらす可能性のある生命保険のひとつである。
「養老保険を経営に活かす」といえば、節税効果が喧伝された時代もあったが、現在その節税効果は相対的に減少している。
しかし、節税だけが養老保険の価値ではない。この保険には、事業の安全性を高める事業保障としての役割と、従業員の福利厚生を充実させる機能がある。
さらに、税金対策としても一定の効果があり、資金の貯蓄機能も備えている。
ただし、商品やプランの選択を誤ると、経営に悪影響を及ぼす可能性もある。
そのため、導入には十分な注意が必要だ。
この記事では、法人が加入する養老保険の基本、メリット・デメリット、そして加入にあたっての注意点を詳しく解説する。
養老保険への加入を検討している、または継続について迷っている人事・経理・財務担当者にとって、この情報は必読だ。
ぜひ、最後までお読みいただき、賢い保険選びに役立てて欲しい。
法人経営に活かす『養老保険』は節税になるのか
法人契約の生命保険には、多種多様なプランが存在する。
どれを選ぶべきか迷ってしまうことが少なくはないだろう。
本記事は、養老保険に焦点を当てるものである。しかしまずは「法人が契約する生命保険」の全体像を概観するところからスタートする。
他の保険との比較をし、その歩みを振り返ることで、養老保険の輪郭と特徴をつかんで欲しい。
法人契約の生命保険の基本
生命保険は基本的に「養老保険」「定期保険」「終身保険」の3つのカテゴリーに大別される。
税制上も、これらを基準に、法人契約の生命保険に関する課税が定められている。
養老保険
養老保険は、保険期間が定められた「有期保険」の一種である。
役員・従業員を被保険者として法人(会社)が契約する。
この保険では、保険期間中に被保険者が死亡した場合に「死亡保険金」が、満期まで生存した場合には「満期保険金」が支払われる。保障と貯蓄の二つの役割をもつところに特徴がある。
貯蓄性が高く、解約返戻金も加入期間に応じて増加するため、法人にとって利用の幅が広い。一方で、保障が手厚い分、保険料も割高になる傾向がある。
定期保険
定期保険も「有期保険」に分類されるが、養老保険とは異なり、満期保険金は存在しない。
この保険は、保険期間中に被保険者が死亡した場合のみ、死亡保険金が支払われる形態だ。
また、解約返戻金もほぼない。
終身保険
終身保険は保険期間が一生涯続く「無期保険」であり、被保険者が死亡した場合に死亡保険金が支払われる保険である。
保険期間は一生涯だが、払込期間は通常は固定されている。
満期保険金はないが解約返戻金は存在する。ただし、養老保険ほどの金額ではない。
養老保険の節税効果の希薄化
養老保険は、解約返戻率が高く、保険料が高くなるという特徴を持つことから、以前は節税対策の一つとして利用されてきた。
具体的には、高い保険料を支払うことで利益を圧縮し、解約返戻率が高いタイミングで解約して解約返戻金を受け取るなどの手法で利用されていた。
しかし、2019年6月に国税庁は、法人税基本通達を改正。解約返戻率に応じて、損金算入額が制限されることとなった。
これにより損金に算入できる保険料の割合が低くなり、節税メリットは希薄化した。
つまり、高い返戻率をセールスポイントとするいわゆる「節税保険」に対して、国が「ノー」を突きつけることとなったのである。
この変更を受けて、「法人にとって養老保険の契約がもはや有益でない」との認識が一部で見られるようになった。
養老保険の節税以外のメリット
しかしながら、法人にとっての養老保険契約には、節税効果以外にも、さまざまなメリットが存在する。
前述のとおり、養老保険は死亡時には「死亡保険金」が、満期時には「満期保険金」が受け取れる保険である。
従業員の死亡リスクに備えつつ、保険料の半分は福利厚生費として計上でき、満期時には納めた保険料がほぼ100%戻ってくる。
非常に貯蓄性が高く、かつ保険料の半分が福利厚生費として認められているため、役員の生存退職金準備にも活用される。
法人の多様なニーズに、養老保険は柔軟に対応できるのである。
なお、法人以外が契約する場合など、様々なシーンでの養老保険の活用法については以下の記事でまとめたので、比較する際には参考にしてほしい。
なぜ節税効果が薄くても法人は養老保険を選ぶのか
法人が養老保険に加入する背景には、多様な理由が存在する。
以下に、特に注目すべき3つの理由を詳しく解説する。
理由1:養老保険の財務対策としての有効性
養老保険は、企業の財務対策に多角的に活用できる点で、非常にメリットが大きい。
養老保険は企業の不測の事態に備えられる
養老保険は、解約返戻率が比較的高く設定されており、なおかつ使途制限がないため、企業防衛資金として活用できる。
不測の事態や急な資金需要が発生した場合に事業資金として活用することが可能なのだ。
たとえば、取引先の倒産や急激な資金繰りの悪化が発生した際に、これらの手段を用いて資金繰りを安定させることができる。
養老保険は契約者貸付制度が利用できる
契約者貸付があることも、法人にとっては魅力である。
契約者貸付は解約返戻金の範囲内で保険会社から貸付を受けられる制度である。たとえば一時的な資金繰りの悪化に対応する予備資金として活用できる。
契約者貸付制度によって借入できる額は、一般的に解約返戻金の7〜9割程度である。
養老保険は保険料の1/2を損金に算入できる
税務上の負担を軽減することができることも加入理由の一つになる。
契約形態により、そして特定の条件を満たすことで、養老保険の保険料の1/2を損金に算入することができるのだ。
養老保険は退職金支払いによる財務負担を軽減できる
養老保険の解約返戻金を退職金に充当することで、企業側の財務負担を軽減することができる。
特に複数の従業員の退職が同時期に重なるような場合に、財務上の負担を軽減する効果がある。
理由2:養老保険の従業員福利厚生としての活用
養老保険は、従業員の福利厚生に活用できる保険である。
退職金や弔慰金の確実な準備
保険期間満了時には法人に満期保険金が支払われるので、確実に計画的に退職金を準備することができる。
従業員が在職中に亡くなった場合、養老保険からの死亡保険金が企業に支払われる。
この保険金は、企業が従業員の遺族に対する弔慰金に充当できるため、突発的な事態にも柔軟に対応することが可能だ。
養老保険が提供する確実性は、従業員だけでなくその家族にも安心感を与える。従業員のモチベーション維持やリテンションにも繋がるだろう。
社内規程を整備できる
養老保険の活用には、社内の弔慰金・退職金規程に基づいて保険契約を結ぶ必要がある。
社内規程の整備は、会社運営を堅固にするとともに、従業員の会社に対する信頼性を高めるなど、法人にとってのメリットも大きい。
理由3:養老保険で退職金の柔軟な管理が可能
終身雇用の概念が過去のものとなった現代は、退職金の支払いにも多様なニーズが存在する。
養老保険の活用により、退職金に対する多様なニーズにも対応できるようになる。
養老保険での柔軟な退職金の設定
養老保険の解約返戻率は、契約当初は低く、満期に近づくと、納入した保険料の100%に近づく設計である。
この仕組みに合わせて退職金を設計することは、柔軟な制度設計にもつながる。
たとえば、短期間で離職する従業員の退職金は低く抑え、在職期間の長い従業員への給付を手厚くするなどの方策が考えられる。
法人が養老保険に加入する際の注意点
養老保険を法人で活用する場合には、多くのメリットがあるが、いくつかの重要な注意点がある。
以下に、主要な注意点を整理する。
養老保険の保険料の支払いが負担になる可能性
養老保険に加入すると、当然のことながら、保険料の支払いが必要となる。
養老保険は保障が厚いため、保険料は割高になる傾向にある。
高額な保険料が企業のキャッシュフローを圧迫するならば、契約の意味は極めて薄くなる。
前述のとおり一定の要件を満たした場合には保険料の一部を損金に算入できるが、この損金を上回るだけの課税所得がなければ、損金計上のメリットは十分に活かせない。
つまり、毎年安定した利益を出せなければ、財務上のメリットは得られないということだ。
保険料支払いのためには、企業が豊富なキャッシュフローを有しており、また継続的に安定した利益をあげ続けることが前提だ。
将来のキャッシュフローを見据えた無理のない保険契約をすることは、注意すべき点である。
養老保険は元本割れのリスクがある
養老保険の解約返戻率は、前述のとおり、最初は低く、満期に近づくにつれ高くなる。
つまり、養老保険を短期間で解約すると、解約返戻金の返戻率が低いということだ。
従業員が頻繁に入退社すると、元本割れのリスクが高まる。
養老保険の契約にあたっては、自社の平均在籍期間を考慮し、頻繁な人事の動きがないか確認することが肝要だ。
養老保険は「普遍的加入」を満たす必要がある
法人保険の福利厚生の一環として活用するためには、「役員、従業員が普遍的に加入していること」が必要だ。
普遍的加入について、税務当局が具体的に解説したものは存在しない。
ただし、所得税基本通達36-31から「加入の対象者や保険金額などの設定にあたり、全員同一条件にするか、もしくは勤続年数や職種、役職など合理的な基準による」ものが普遍的加入と解釈される。
よって、契約においては細心の注意が必要であるが、以下に必ず守っておくべきだと言われる点を挙げる。
原則として全従業員が被保険者である
加入基準にそれを裏付ける客観性が認められる場合は普遍的加入と認められるが、原則として全従業員を被保険者にする。すなわち、特定の役職や性別を除外するような特例を設けることはできない。
保険金額が全社員同額や合理的基準等に則っている
原則として全員同額にする必要がある。
ただし、退職金規程、職種・年齢・勤続年数等の基準に応じて保険金額に差が設けられている場合は、これが合理的であれば、普遍的加入と認められる可能性はある。
同族関係者が多数でない
役員や従業員の大部分が同族関係者でないことも必要だ。
多数が同族である場合、普遍的加入とは認められない可能性がある。
社内規程が整備されている
福利厚生を提供する際には、その基準となる「福利厚生規程」の整備が必要となる。
まず、福利厚生の内容を従業員に正しく伝えるうえで、社内規程は極めて有効な手段である。
また、養老保険という金融商品を福利厚生システムとして活用するわけなので、後のトラブルを回避するうえでも、権利関係は明確に規定しておくことが肝要だ。
加えて、福利厚生に関する明確な社内規程があると、税務調査における否認のリスクが軽減できる。
節税などの企業経営に養老保険を活用しよう
本記事では、法人向けの養老保険の活用について詳しく解説した。
養老保険は、企業に多くのメリットをもたらす有用な保険である。
従業員に対する充実した保障を提供すると同時に、企業自体の財務リスクに対する備えも強化できる。
ただし、養老保険の活用には慎重な検討が必要だ。契約に際しては、事業計画との整合性を確認する必要があり、また、税務上の適格性を確保するためには特定の要件を満たす必要がある。
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