早期退職を検討している人にとって、退職金の受け取り方、税金、退職後の生活費、資産運用はどれも重要なテーマだ。
退職金はまとまった金額で受け取れる一方、受け取り方を誤ると税負担が想定より大きくなったり、退職後の生活資金が早く減ったりする可能性がある。
特に早期退職では、公的年金を受け取るまでの期間が長くなりやすい。退職金を「増やす」だけでなく、「いつ・何に・いくら使うか」を先に整理することが大切である。
本記事では、早期退職者が確認したい退職金の種類、受け取り方による税金の違い、退職後の資金計画、退職金運用の考え方を順番に解説する。
退職金のおすすめの運用法は本文で解説する
退職金をどこに預けるかで迷った場合の考え方は本文で解説する
早期退職時の退職金に関する基本知識|受け取り方と税金を先に確認

早期退職をする際は、まず自分が受け取る退職金の種類と受け取り方を確認しよう。
退職金は、会社の制度や勤続年数、退職理由、企業年金の有無によって受け取れる金額や形式が異なる。
ここでは、退職金制度の種類、受け取り方による違い、税金面で確認したいポイントを整理する。
退職金の種類
一口に「退職金」と言っても、会社によって採用している制度は異なる。
代表的な制度は以下の4つである。
| 制度 | 概要 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 退職一時金制度 | 会社が退職時に一括で退職金を支給する制度。 | 退職金規程、勤続年数、退職理由による加算・減額。 |
| 確定給付企業年金制度 | 会社が従業員と給付内容を約束し、年金資産を管理・運用して給付する制度。 | 一時金・年金・併用の選択可否、給付額、受取開始時期。 |
| 企業型確定拠出年金制度 | 会社が掛金を拠出し、加入者が自分で運用商品を選ぶ制度。将来の給付額は運用結果で変わる。 | 退職後の移換手続き、運用商品の見直し、手数料。 |
| 中小企業退職金共済 | 中小企業向けの国の退職金制度。事業主が掛金を納付し、退職時に中退共から従業員へ退職金が支払われる。 | 共済加入状況、掛金月額、退職金見込額。 |
早期退職前には、勤務先の退職金規程、企業年金の加入状況、確定拠出年金の残高、退職理由による上乗せの有無を確認しておこう。
会社から提示された早期退職優遇制度がある場合は、退職金の上乗せ額だけでなく、社会保険、雇用保険、企業年金、再就職支援の内容もあわせて確認したい。
退職金の受け取り方による違い|一時金・年金・併用を比較
退職金は、制度によって「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」から選べる場合がある。
受け取り方によって、税金の計算方法、手元資金の使いやすさ、受給総額が変わるため、退職前に比較しておきたい。
| 受け取り方 | 特徴 | 税金の扱い | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 一時金 | 退職時にまとめて受け取る。住宅ローン返済や生活防衛資金の確保に使いやすい。 | 退職所得として扱われ、退職所得控除の対象。原則として他の所得と分離して税額を計算する。 | まとまった資金を管理できる人、税負担を抑えたい人。 |
| 年金 | 一定期間または終身など、分割して受け取る。毎月・毎年の収入として管理しやすい。 | 公的年金等に該当する場合は、公的年金等控除の対象。ほかの所得と合算して課税される。 | 計画的に受け取りたい人、まとまった資金を一度に持つのが不安な人。 |
| 併用 | 一部を一時金、残りを年金で受け取る。手元資金と定期収入のバランスを取りやすい。 | 一時金部分と年金部分で税金の扱いが異なる。 | 退職直後の資金と将来の収入を両方確保したい人。 |
一般的には、一時金で受け取ると退職所得控除を使えるため税負担を抑えやすい。
ただし、年金形式では未受給分が運用される制度もあり、受給総額が一時金と異なる場合がある。また、公的年金や再就職収入がある場合は、年金受取にした退職金がほかの所得と合算されるため、税負担や社会保険料への影響も確認したい。
退職金の受け取り方は「税金だけ」で決めるのではなく、退職後の生活費、住宅ローン、教育費、再就職予定、年金受給時期まで含めて判断しよう。
退職金受け取り時の税金対策|退職所得控除と申告書を確認
退職金を一時金で受け取る場合、退職所得控除を使える。
退職所得の金額は、原則として以下の式で計算される。
退職所得の金額 =(退職金の収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下のように計算される。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 80万円未満の場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算する。
たとえば、勤続25年で退職金1,500万円を受け取る場合、退職所得控除額は1,150万円となる。
退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(25年 − 20年)= 1,150万円
退職所得:(1,500万円 − 1,150万円)× 1/2 = 175万円
所得税・復興特別所得税の目安:約89,000円
住民税の目安:約175,000円
上記は概算であり、実際の税額は退職金の種類、勤続年数、過去に受け取った退職金、各種控除、居住地などで変わる。
また、退職金を受け取る際は、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかも確認したい。
申告書を提出している場合、退職金の支払者が所得税額・復興特別所得税額を計算し、退職金支払時に源泉徴収するため、原則として確定申告は不要となる。
一方、申告書を提出していない場合は、退職金等の支払金額の20.42%が源泉徴収され、本人が確定申告で精算する必要がある。
退職金を一時金・年金・併用のどれで受け取るか迷う場合や、iDeCo・企業年金・会社の退職金を近い時期に受け取る場合は、税務署や税理士に確認しておくと安心だ。
早期退職後の資金計画の立て方|年金までの空白期間を見積もる

早期退職後の資金計画では、退職金の金額だけでなく、退職後に毎月いくら使うか、いつから年金を受け取るか、再就職や副業収入があるかを整理する必要がある。
特に60歳より前に退職する場合は、公的年金を受け取るまでの空白期間が長くなる。
ここでは、早期退職後の資金計画で確認したい3つのポイントを解説する。
早期退職後の生活費の見積もりとライフプランニング
まず、退職後の生活費を見積もろう。
生活費は、家族構成、住宅ローンの有無、子どもの教育費、車の保有、医療・介護費、趣味や旅行の頻度によって大きく異なる。
参考として、総務省「家計調査報告 2025年平均結果の概要」では、二人以上の世帯における世帯主の年齢階級別の消費支出は以下の通りである。
| 世帯主の年齢階級 | 1世帯あたり1か月の消費支出 |
|---|---|
| 50〜59歳 | 367,643円 |
| 60〜69歳 | 327,405円 |
| 70歳以上 | 264,332円 |
たとえば、50歳で早期退職し、80歳までの30年間を想定する場合、上記の年齢階級別消費支出を単純に10年ずつ積み上げると、生活費だけで約1億1,513万円となる。
これは二人以上世帯の平均を使った概算であり、実際の支出は家庭ごとに異なる。
また、生活費以外にも、以下のような支出が発生する可能性がある。
- 住宅ローンや家賃
- 子どもの教育費・結婚資金援助
- 住宅のリフォーム費用
- 自動車の買い替え・維持費
- 医療費・介護費
- 健康保険料・住民税・国民年金保険料など
平均データだけで判断せず、自分の家計簿や通帳をもとに、退職後の年間支出を具体的に見積もっておこう。
年金の受給金額と支給時期を確認する
退職後の支出を把握したら、次に公的年金の受給見込額と受給開始時期を確認しよう。
老齢基礎年金・老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取れる。
ただし、60歳から65歳までの間に繰上げ受給したり、66歳以後75歳までの間に繰下げ受給したりすることもできる。
| 受給方法 | 概要 | 注意点 |
|---|---|---|
| 原則受給 | 原則65歳から受給する。 | 退職から65歳までの生活費を別途準備する必要がある。 |
| 繰上げ受給 | 60〜65歳までの間に前倒しで受け取る。 | 昭和37年4月2日以降生まれは、1か月あたり0.4%減額され、減額は生涯続く。 |
| 繰下げ受給 | 66歳以後75歳までの間で後ろ倒しして受け取る。 | 1か月あたり0.7%増額されるが、受給開始までの生活資金が必要になる。 |
年金の受給見込額は、「ねんきんネット」で試算できる。現在と同じ条件で60歳まで加入した場合の簡易試算や、働き方・受給開始年齢を変えた詳細試算も可能だ。
早期退職を検討している場合は、退職後に厚生年金の加入期間が短くなることもある。退職前に、年金見込額がどの程度変わるかを確認しておこう。
退職金は「生活費」「安全資金」「長期運用資金」に分ける
早期退職後の退職金は、すべてを投資に回すのではなく、資金の目的ごとに分けて管理したい。
特に、公的年金を受け取るまでの生活費や、数年以内に使う予定の資金は、値動きの大きい商品で運用するのは避けたほうがよい。
退職金は、以下のように分けて考えると管理しやすい。
| 資金の区分 | 目的 | 主な置き場所の例 |
|---|---|---|
| 生活費 | 退職直後から数年以内に使うお金。 | 普通預金、生活費口座。 |
| 安全資金 | 急な医療費、家電の故障、収入減少に備えるお金。 | 普通預金、定期預金、個人向け国債など。 |
| 長期運用資金 | 10年以上使わない予定で、老後資金を補うためのお金。 | 投資信託、ETF、債券、株式、REITなど。 |
「退職金を運用するかどうか」よりも先に、「いつ使うお金か」を分けることが重要だ。
近く使うお金まで運用に回すと、相場下落時に売却せざるを得なくなり、損失を確定するリスクが高まる。
早期退職後は、生活費の取り崩し、再就職・副業収入、公的年金、退職金運用を組み合わせて、資金が尽きない計画を立てよう。
早期退職者が退職金運用でまず決めること

退職金運用では、金融商品を選ぶ前に、運用の目的とリスクの取り方を決める必要がある。
早期退職後は給与収入が減る、またはなくなる場合があるため、現役時代よりも「大きく増やす」より「大きく減らさない」ことが重要になる。
ここでは、退職金を運用する前に決めたい3つのポイントを解説する。
早期退職者の退職金運用戦略①使う時期で資金を分ける
退職金運用で最初に決めるべきなのは、資金を使う時期である。
生活費として5年以内に使うお金と、10年以上使わないお金では、選ぶ商品が異なる。
短期間で使う予定の資金は、元本割れリスクのある商品に大きく回さないほうがよい。普通預金、定期預金、個人向け国債など、換金しやすさや安全性を重視した管理が向いている。
一方、10年以上使わない資金であれば、投資信託やETFなどを使って、長期的な資産形成を検討しやすい。
ただし、長期で運用すれば必ず利益が出るわけではない。相場環境によっては元本割れする可能性があるため、取り崩し時期が近づいたら安全性の高い資産へ移すことも検討しよう。
早期退職者の退職金運用戦略②分散投資で一度に大きく減らさない
退職金運用では、分散投資の考え方が重要だ。
分散投資とは、資金を複数の資産や地域、商品に分けて投資する方法である。
1つの商品や1つの銘柄に退職金を集中させると、その投資先が大きく下落したときに資産全体への影響が大きくなる。
たとえば、100万円を1銘柄だけに投資し、その銘柄が半値になった場合、損失は50万円となる。
一方、10銘柄に10万円ずつ分散していれば、1銘柄が半値になっても、その銘柄による損失は5万円に抑えられる。
ただし、銘柄数を増やせば必ず安全になるわけではない。同じ業種や同じ国の資産ばかりに偏ると、似た値動きになり、分散効果が限定的になることがある。
株式、債券、預金、REITなど、値動きの特徴が異なる資産を組み合わせ、退職後の生活に合うリスク量に調整しよう。
早期退職者の退職金運用ポートフォリオ例
退職金のポートフォリオは、年齢、退職金額、年金見込額、再就職予定、住宅ローン、家族構成によって異なる。
以下は、考え方を整理するための一例であり、すべての人に合う配分ではない。
| タイプ | 資産配分の例 | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 生活防衛重視型 | 預貯金・個人向け国債50% 国内債券20% バランス型投資信託20% 株式・REIT10% | 退職後すぐに退職金を取り崩す人、値下がりへの不安が大きい人。 | リターンは控えめになりやすく、インフレによる実質的な目減りに注意。 |
| バランス型 | 預貯金・個人向け国債30% 国内外債券30% 国内外株式30% REIT10% | 一定の安全性を確保しながら、長期で資産の成長も狙いたい人。 | 株式や外国債券の比率があるため、為替・金利・株価下落リスクがある。 |
| 収入重視型 | 預貯金20% 国内債券30% 高配当株・配当ETF30% REIT20% | 配当・分配金などのインカム収入を重視したい人。 | 高配当株は減配・無配や株価下落のリスクがあり、REITは不動産市況や金利の影響を受ける。 |
退職金は、失ってから取り戻すのが難しい資金である。
そのため、退職金運用では「どのくらい増えるか」だけでなく、「どのくらい減っても生活に支障がないか」を基準に配分を決めよう。
一括投資に不安がある場合は、数か月から数年に分けて投資する方法もある。相場の底を正確に当てることは難しいため、退職直後に全額を投資へ回す必要はない。
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早期退職者の退職金運用はどこに相談するべき?
退職金は、老後の生活を支える大切な資金である。
まとまった資金を受け取ると、銀行、証券会社、保険会社、不動産会社などからさまざまな提案を受ける可能性がある。
提案内容を自分だけで比較するのが難しい場合は、資産運用の専門家に相談するのも一つの方法だ。
退職金運用で専門家に相談するメリット
退職金運用で専門家に相談するメリットは、金融商品を選んでもらうことだけではない。
退職後の生活費、年金、税金、保険、相続、再就職予定などを整理したうえで、退職金をどう使うかを考えやすくなる点が大きい。
特に、以下のような場合は相談を検討するとよい。
- 退職金を一時金・年金のどちらで受け取るべきか迷っている
- 公的年金を繰上げ・繰下げするか判断できない
- 退職金をどこに預けるべきかわからない
- 投資信託、債券、保険、不動産など複数の商品を比較したい
- 相場下落時に慌てて売らない運用計画を作りたい
ただし、専門家に相談する場合でも、提案内容をそのまま受け入れるのではなく、手数料、リスク、解約条件、報酬体系を確認する必要がある。
退職金を狙った過度な勧誘や、仕組みが複雑で手数料の高い商品にも注意したい。
信頼できるアドバイザーの見分け方
信頼できる相談先を見極めるには、以下の点を確認しよう。
- 金融商品仲介業者や金融機関としての登録状況
- 相談料、販売手数料、継続報酬などの報酬体系
- 取り扱える金融商品の範囲
- 退職金や早期退職後の相談実績
- リスクやデメリットも説明してくれるか
- 自分と似た資産規模・家族構成の相談経験があるか
たとえば、退職金と預貯金を合わせて2,000万円程度の運用を検討している人が、資産数億円の富裕層向け提案だけを得意とするアドバイザーに相談しても、実情に合う助言を得にくい場合がある。
相談前には、自分の退職金額、毎月の生活費、年金見込額、住宅ローン、家族構成、投資経験を整理しておくと、より具体的な提案を受けやすい。
早期退職者の退職金運用は「使う時期」と「守る資金」を先に決めよう
本記事では、早期退職時の退職金の受け取り方、税金対策、退職後の資金計画、退職金運用の考え方を解説した。
退職金は、一時金・年金・併用のどれで受け取るかによって、税金の計算方法や資金管理のしやすさが変わる。
一時金で受け取る場合は退職所得控除を確認し、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかもチェックしておきたい。
また、早期退職後は公的年金を受け取るまでの期間が長くなる可能性がある。生活費、年金見込額、社会保険料、住宅ローン、教育費などを含めて資金計画を立てよう。
退職金を運用する場合は、すべてを投資に回すのではなく、生活費、安全資金、長期運用資金に分けることが大切だ。
退職金の管理・運用に不安がある場合は、専門家に相談し、手数料やリスクを理解したうえで慎重に判断しよう。
早期退職の退職金運用に関するQ&A
出典
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(2025年4月1日現在)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(2025年4月1日現在)
日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」(更新日:2026年4月1日)
日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」(更新日:2026年4月1日)
日本年金機構「年金の繰上げ受給」(更新日:2024年8月19日)
日本年金機構「年金の繰下げ受給」(更新日:2026年3月24日)
日本年金機構「『ねんきんネット』による年金見込額試算」(更新日:2025年1月7日)
総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」(公表日:2026年2月6日)
厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
iDeCo公式サイト「転職・退職された方」
中小企業退職金共済事業本部「制度の概要」
企業年金連合会「企業年金制度」
ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」

