- 新NISA非課税枠は最短の5年で使い切るべきかを知りたい
- 非課税枠を5年で使う場合の最適な資産配分が知りたい
- 非課税枠は5年で埋めなくても良い理由が知りたい
「新NISAは、非課税投資枠1,800万円分を最短期間で使い切った方が良い」という意見がある。
最短で枠を埋めるという方法は、利点もあれば難点もある。
どちらが良いとは一概に言えない。
ただし、「先に元手を増やして運用期間を長くする方法」と、「長期にわたってコツコツ投資する方法」とを比較してみるのは、新NISAをより深く理解するうえでの一つの良い思考実験である。
そこで本記事では、最短5年使い切りのメリット・デメリット、資産配分やリスク管理について考察していく。
本記事を活用して、今後の資産形成についての明確なイメージをもち、より実行性の高い投資計画の策定につなげていただきたい。
新NISAは5年で使い切るべきか
ここではまず、新NISA非課税枠の概要と特徴を確認し、どのような人なら非課税枠を最短で使い切るべきかを考察する。
新NISAの非課税枠の基本
新NISAは、個人投資家のための税制優遇制度である。この制度における非課税枠は「1,800万円」と定められている。
この1,800万円を最短で「埋める」場合、以下の2つの点がポイントとなる。
最短で5年かかる
年間に投資できるのは、「つみたて投資枠」が120万円まで、「成長投資枠」が年間最大240万円の合計360万円までだ。
1,800万円を埋めるためには、5年(1,800万円÷ 360万円)かかる。
成長投資枠の比率が高くなる
つみたて投資で1年のうちに投資できるのは、120万円までだ。
最短投資の場合、成長投資枠240万円の枠をフルに使うことになる。
結果、元本1,800万円は【つみたて600万円+ 成長1,200万円】の構成となる。
このほか、非課税枠に関して知っておくべきポイントは、以下のとおりである。
- 1,800万円は「買ったときの金額」
非課税枠は、時価ではなく買付け残高(簿価残高)で管理される。
たとえば、180万円で買ったA株式が360万円まで値上がりした場合でも、使用している非課税枠は「180万円分」なのだ。
- 非課税枠は再利用できる
NISA口座内の商品を売却した場合は、当該商品の簿価分の非課税枠を翌年以降に再利用できる。
180万円で買い付けたA株式を360万円で売却した場合、翌年以降は180万円まで商品購入が可能になる。
【運用パターン別】新NISAの資産成長シミュレーション
新NISAで運用をする際、早期に大きな元手を投じることで、その資金が市場で働き、大きな利益を生み出す可能性がある。
- 元本の合計が1,800万円まで投資を行う
- 想定利回り年率3%で毎月複利運用
- 各年度終了時点での総額(元本+運用収益)
下記のシミュレーションはあくまでも概算だが、投資対象の値上がり率が同じなら、元手が多くなるほど得られる利益も大きくなりやすい。
これは、利益が再投資され、利益が利益を生むという複利の効果によるものである。
運用パターン | 5年 | 10年 | 20年 | 30年 |
---|---|---|---|---|
非課税枠を5年で使いきり、以降25年間運用 (毎月30万円×5年積立) | 約1,939万円 | 約2,252万円 | 約3,039万円 | 約4,101万円 |
非課税枠を15年で使いきり、以降15年間運用 (毎月10万円×15年積立) | 約6,464万円 | 約1,397万円 | 約2,635万円 | 約3,556万円 |
毎月5万円を30年で投資 | 約323万円 | 約698万円 | 約1,641万円 | 約2,913万円 |
非課税枠を5年で使い切るデメリット
一方、最短5年で非課税枠を埋めるスタイルの運用法にはデメリットも存在する。それは、市場変動の影響を受けやすいという点だ。
投資開始直後に市場が急落して回復に時間がかかる場合は、資金が低下した価格で固定されてしまう。
リーマンショックなどの大幅な市場の落ち込みは予測不能なタイミングで起こり、実際に資産価値の回復までに時間を要した。
また、5年で非課税枠を使い切ってしまうと、その後に魅力的な投資チャンスが現れた場合の対応が難しいのもデメリットだろう。
追加投資するには、非課税枠から既存の資産を売って再利用するか、課税口座で購入するしかない。
もちろん、年間360万円の投資資金を準備しなければならないこともデメリットと言える。
予期せぬ出費があった場合は、投資計画に変更を加える必要が発生するかもしれない。
【想定利回り別】1,800万円の資産成長シミュレーション
では、新NISAで安定的な資産成長を目指すためには、どうすれば良いのだろうか。
その鍵は長期運用にある。
以下は、年3%・年5%・年10%の利回り別の運用シミュレーション結果だ。
利回り | 5年後 | 10年後 | 15年後 | 20年後 | 25年後 | 30年後 |
---|---|---|---|---|---|---|
年3% | 1,939.4万円 | 4,192.2万円 | 6809.2万円 | 9,849.1万円 | 13,380.2万円 | 17,487.1万円 |
年5% | 2,040.2万円 | 4,658.5万円 | 8,018.7万円 | 12,331.0万円 | 17,865.3万円 | 24,967.8万円 |
年10% | 2,323.1万円 | 6,145.3万円 | 12,434.1万円 | 22,781.1万円 | 39,805.0万円 | 67,814.6万円 |
どの想定利回りで運用した場合も、5年の運用成果はそれほど大きく変わらない。
しかし、10年後の運用成果は年10%の利回りが飛び抜けて資産を増やしている。
このように、年数が経つにつれて利回りの違いによる資産の伸び率が顕著になることがシミュレーション結果からわかる。
また、最も利回りの低い年3%で運用を続けた場合も、20年後には1億円、30年後には1.7億円近くまで資産を増やしている。
このことからも、長期運用がいかに資産形成に効果的であるかが理解できるだろう。
非課税枠を5年で使い切るのがおすすめな投資家のタイプ
以上のことから、非課税枠を5年で使い切る運用法にはメリットとデメリットの双方があると言える。
では、どのようなタイプの投資家であればこの手法を実践するべきなのだろうか。
資産が豊富な投資家
既に大きな資産を持ち、金銭的に余裕のある方には、この戦略をおすすめできる。
ただし、ある程度の運用経験があることが前提だ。
今から投資を始める方は専門家などに相談してから始めることをおすすめする。
リスクを理解している投資家
「短い期間に資金を投ずる場合、市場変動の影響を受けやすくなるのは当然である」と理解している投資家には、この方法は適している。
短期的な資産変動を経験しても、「長期的には回復する」と構え、複利効果を狙う胆力がある方には、この戦略をおすすめしたい。
まとまった資金を固定しておきたい投資家
先に資金を固定しておきたい投資家にも、この方法はおすすめだ。
目的を「資産の固定」に置き、残りの資金で生活費などを賄うというのも、ひとつの賢い資産管理の選択肢である。
新NISAを5年で使い切る運用の実践法
ここでは、「非課税枠を最短5年で使い切る」という戦略をとる方に向け、3つのステップを説明していく。
新NISAの資産配分を決定するステップ
資産配分を決定するプロセスは、投資家の目標に基づき、さまざまな資産クラスへの投資を通じて、リスクとリターンのバランスを最適化するために非常に重要である。
一般的には、以下のようなステップで行う。
- 投資目標の設定
- 投資の目的(例: 退職後の生活資金の確保、子どもの教育費用の準備)を明確にし、目指すリターンを定める
- リスク許容度の評価
- 自分の投資におけるリスク耐性を評価する
- 資産クラスの選定
- 株式、債券、不動産、商品など、投資可能な資産クラスを選ぶ
- 資産配分の決定
- 各資産クラスへの投資比率を決める
最初は、以下のようなポートフォリオ構築シミュレーターの利用もおすすめだ。
また、より精緻なポートフォリオを構築したい場合は、専門家のアドバイスを受けつつ、さまざまな要素を考慮して計画するのが望ましい。
最適な資産配分はリスク許容度により異なる
資産配分を決める際は、リスクとリターンの設定により、その構成が大きく異なる。
ここでは、リスク許容度が低い投資家と高い投資家の例を通じて、リスク許容度の影響をみていく。
使用したのは、先に紹介したフィデリティ証券のシミュレーションだ。
毎月30万円を5年間投資し続けるケースである。
リスク許容度 | ① 低い | ②高い |
---|---|---|
投資金額 | 1,800万円 | 1,800万円 |
5年後の資産 (年換算利回り) | 1,948万円(3.96%) | 2,083万円(7.31%) |
国内債券型 | 40% | 5% |
国際債券型 | 37% | 5% |
国内株式型 | 12% | 40% |
国際株式型 | 11% | 40% |
国際REIT型 | 0% | 10% |
リスク | 3.99% | 14.05% |
リターン | 3.32% | 7.82% |
リスク許容度が低い投資家
リスク許容度の低い投資家は、投資直後の市場の波乱で、初期投資額100万円のうち「5万円」までの損失を許容できると設定した。
投資の意向は「投資元本の安定性重視」としている。
この場合、債券が77%を占めるポートフォリオとなった。
国内への投資に重きを置いている点にも特徴がある。
リスク許容度が高い投資家
リスク許容度の低い投資家は、投資直後の市場の波乱で、初期投資額100万円のうち「20万円」までの損失を許容できると設定した。
投資の意向は「投資資産価値の大幅増大を優先」としている。
この場合、株式への投資が80%になり、債券が占める割合はわずか10%となった。
また国際REIT型も加わり、より高いリターンを目指す構成になっている。
新NISAを5年で使い切る場合に求められること
新NISAの非課税枠を最短の5年で使い切る戦略においては、しっかりとしたリスク管理が必要になる。
ここでは、効果的なリスク管理を行うための3つの重要なポイントを紹介する。
リスク分散を徹底する
新NISAで最短投資をする場合、3分の2は成長投資枠を使った投資となる。
成長投資枠では、国内外の個別銘柄も選択できる。
また、投資タイミングも自分で選択することが可能だ。
これは、「240万円を国内株式Bに一気に投資する」ことができることを意味する。
この例では、資産クラス、地域、時間のいずれにおいてもリスク分散が不足しており、結果として高いリスクを背負う投資になっている。
リスク管理においては、投資資金を一箇所に集中するのではなく、異なる資産クラスや地域に分散することが推奨される。
これにより、一部の投資が不調であっても、他の投資が損失を補うことになり、全体リスクを低減できるのだ。
定期的なポートフォリオの見直しと再バランス
長く投資を行っていれば、市場の変動により資産配分が元の戦略から逸脱することがある。
たとえば、株式市場の好調な場合、株式の割合が増加して、リスク許容度を超える可能性があるのだ。
このため、定期的にポートフォリオを見直し、必要に応じて再バランスを行うことが重要である。
緊急資金の確保
緊急時に備えて一定額の現金または現金同等物を保有しておくことも、リスク管理の一環だ。
市場が不安定な時期に資金が必要になった場合、資産を不利な条件で売却することがなくなり資産保全に役立つ。
新NISAの非課税枠は5年で使い切らなくてもOK!
ここまで、最短5年投資の良い点や難しい点をみてきたが、そもそも非課税枠を短期で使い切らなくても良いのである。
コツコツ型でも、十分に資産は形成できるのだ。ここではその理由と新NISAの活用法について解説する。
長期・分散投資で資産は増えるから
新NISAの非課税枠を5年で使い切らなくても良い理由の一つは、長期・分散投資により資産形成が十分可能だという点にある。
市場は短期的には予測不可能な変動を見せるが、長期的には成長傾向にあることが多い。
長期にわたって投資を続けることで、一時的な価格の下落を乗り越え、資産の増加を目指すことが可能になるのだ。
分散投資によるリスク管理
長期投資においては、分散投資によるリスク軽減がカギとなる。
繰り返しになるが、分散投資では、一部の投資が不調でも他の投資がそれを補うことが期待できる。
長期的に資産を保有するなら、高い安定性を有するポートフォリオの構築が不可欠である。
積立投資の活用
長期投資で力を発揮するもう一つのポイントが、「積立投資」である。
定期的に一定額を投資することで、市場の価格変動リスクを平準化し、長期的には複利効果を享受できるのだ。
市場が高騰しているときには自動的に少ない単位を、価格が下落しているときには多くの単位を購入できるため、長期的にみると平均購入単価を効果的に下げることにつながる。
新NISAの非課税保有限度額は無制限になったから
新NISAの導入により、非課税保有限度額の制約がなくなり、投資家はより柔軟に投資計画を立てられるようになった。
旧NISAはそもそも時限的な制度として設計され、非課税保有期間は限定されていた。
そのため「期間内に枠を使い切らなければ損」という考えが一般的となったのだ。
加えて、一般NISAの非課税保有期間が5年であったため、この「5年」が注目されたのかもしれない。
新NISAでは、口座開設期間が恒久化され、非課税保有限度額に制限がなくなった。
現行の仕組みが続く限りは、投資家は非課税での投資をいつでも、そして無期限で行えるのだ。
だから、無理に枠を使い切る必要はない。
無理な投資によるリスクを避けられるから
コツコツ戦略の利点は、無理な投資を行わずに済む点にある。
自分に合ったペースで長期投資を実行することにより、以下のようなリスクが回避できる。
- 一括投資のリスク
- 一括投資には、購入タイミングを誤った場合に高値掴みすることがある。これは運用効率の低下リスクを高める
- 集中投資のリスク
- 少数の銘柄に集中的に投資する、ハイリスク・ハイリターンな投資戦略。想定外の損失の発生リスクがある
- コスト効率の悪い投資信託を購入するリスク
- 成長投資枠で選択可能な投資信託の中には、手数料が高額なものもある。これらの選択は、コスト効率の悪化につながる
新NISAを5年で使い切るべきか、迷ったら誰に相談するべき?
新NISAでの資産形成に成功するには、自身に最適な投資スタイルを見極め、「長期・分散投資」の利点を最大限に活かす投資の実践が必要だ。
投資スタイルを確立し、実践していくために、専門家の力を活用して欲しい。
新NISA制度の利点を活かすための専門家の活用
旧NISAに比べ、新NISAは選択肢が増え、自由度が格段に高まった。
これは大きな利点だが、同時に難点でもある。制度を理解し、それをうまく活用できるか否かが、資産形成に影響するからだ。
たとえば、短い期間に大きな額をNISAで投資することもできる。
コツコツ投資を選択することも可能だ。
どのような選択が自分に合っているか、見極めるのは難しい。
こうした判断に際しては、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)がイチオシである。
新NISA投資におけるIFAの役割
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新NISAは必ずしも5年で使い切るべきとは限らない
この記事では、新NISA関してよく聞かれる「非課税枠の1,800万円は5年で非課税枠を使い切るべきか」という疑問に焦点を当てた。
最短5年で生涯枠の1,800万円を使い切れば、大きな元手で長い期間の運用による資産拡大が目指せる点は利点である。しかし、長期にわたって積立投資を行うことの利点も見逃せない。
つまり、どのような投資を行うかは、投資家によって異なるし、投資家の決定次第なのだ。
新NISAを活用した資産運用は、考慮すべき点が多く難しい。疑問や不安があれば、IFAのような専門家に相談することをおすすめする。
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