- 老後の毎月の不足額をどう見える化すればいいのか分からない
- 60代からNISAを始めても遅くないのか、どう始めれば良いのか迷っている
- 退職金を受け取ったので、安全性を重視した運用順序が知りたい
60代に入ると、退職金の受け取りや年金生活の準備が現実味を帯び、資産を「守ること」と「少しずつ増やすこと」のバランスに悩む方は少なくありません。
物価が上がる環境では、預金だけに置いておくとお金の実質的な価値が目減りする可能性があります。一方で、退職後の資金は取り返す時間が限られるため、リスクを取りすぎて大切な資産を大きく減らすことも避けたいところです。
60代の資産運用で大切なのは、最初から高い利回りを追いかけることではありません。まず「すぐ使うお金」「5年以内に使うお金」「5年以上使わないお金」に分け、運用してよい資金だけを無理のない範囲で投資に回すことです。
本記事では、インフレ環境でも資産寿命を延ばすための考え方、現金・個人向け国債・債券・投資信託の役割分担、退職金の段階的な投資方法、そして取り崩しルールまで分かりやすく解説します。
60代の資産運用は「使う時期ごとに分ける」ことから始める

60代からの資産運用で最初に考えるべきことは、「どの商品を買うか」よりも「どのお金を運用してよいか」です。
生活費や近い将来に使う予定のお金まで投資に回してしまうと、相場が下落したときに安値で売却せざるを得ない可能性があります。まずは家計と資金の使い道を整理し、そのうえで運用方針を決めましょう。
この記事では、60代が資産運用を始める前に確認したいポイントを、以下の3つに分けて解説します。
年金・退職金・生活費を把握する|老後の不足額を月単位で確認
まず取り組みたいのは、家計の現状把握です。毎月いくら入ってきて、いくら出ていくのかが分からないままでは、必要以上にリスクを取ったり、逆に運用を怖がりすぎたりしやすくなります。
以下の手順で「月次キャッシュフロー表」を作成してみましょう。
手順1:固定費と変動費を分ける
住居費・保険料・通信費など毎月ほぼ一定の「固定費」と、食費・光熱費・交際費など月によって変わる「変動費」を書き出します。家計簿アプリやクレジットカードの明細を見返すと、抜け漏れを減らせます。
手順2:生活防衛資金を先取りする
生活費の2〜3年分に加え、今後5年以内に予定している医療費・家のリフォーム・車の買い替え・旅行などの特別費を合計し、「生活防衛資金」として確保します。
このお金は、値動きのある投資信託や株式に回さず、普通預金・定期預金・個人向け国債など、必要な時期に使いやすい資産で管理するのが基本です。
手順3:年金見込額を確認する
日本年金機構の「ねんきんネット」や毎年届く「ねんきん定期便」で、将来受け取れる年金額の目安を確認しましょう。繰下げ受給を検討している場合は、何歳からいくら受け取ると家計に無理がないのかを試算しておくと、運用額を決めやすくなります。
- 収入源(年金・給与・企業年金・その他収入)の一覧を作成したか
- 税金・社会保険料を差し引いた後の手取り額を把握したか
- 医療費・介護費・住宅修繕費などの予備費を計上したか
退職金はまとまった金額になりますが、一度に全額を運用に回すのは避けましょう。生活防衛資金を確保したうえで、運用に回す金額・時期・商品を段階的に決めると、大きな値動きに振り回されにくくなります。
インフレに負けない利回りを決める|2026年3月のCPIは前年同月比1.5%上昇
物価が上がる環境では、「名目利回り」だけでなく「実質利回り」を意識することが大切です。実質利回りとは、投資で得られる利回りから物価上昇率を差し引いた、お金の実質的な増え方を表す考え方です。
実質利回り(概算)= 名目利回り − インフレ率
総務省統計局の消費者物価指数によると、2026年3月分の全国の総合指数は前年同月比で1.5%上昇しています。
たとえば、資産運用の名目利回りが年1%で、インフレ率が1.5%の場合、実質利回りはおおよそ「1% − 1.5% = −0.5%」です。表面上は増えていても、物価上昇を考えるとお金の価値は目減りしている状態といえます。
ただし、60代ではインフレに勝つことだけを優先して、株式などのリスク資産を増やしすぎるのは危険です。生活防衛資金は安全性を優先し、5年以上使う予定のない資金について、分散投資でインフレ対策を行うのが現実的です。
目標利回りは、全資産ではなく「運用に回す資金」に対して考えましょう。目安としては、インフレ率に対して名目利回りで0〜1%程度上乗せできる配分を検討し、税金・手数料を差し引いた後の手取りも確認することが大切です。
漠然と「増やしたい」と考えるより、「生活防衛資金は守る」「5年以上先の資金は分散投資でインフレに備える」と分けて考えると、無理のない運用計画を立てやすくなります。
リスク許容度と時間軸を確認する|5年以内に使うお金は運用しない
リスク許容度とは、資産が一時的に値下がりしたときにどこまで耐えられるかの度合いです。60代では、収入状況・使途までの期間・下落耐性の3つの軸で考えると整理しやすくなります。
軸1:収入の有無
再雇用や副業などで給与収入がある場合は、年金生活に完全移行した後よりも、一定のリスクを取る余地があります。一方、収入が年金中心になる場合は、取り崩し時期が近いため安定性を重視した配分が必要です。
軸2:使途までの期間
5年以内に使う予定のお金は、原則としてリスク資産に回さず、預金や個人向け国債などで保有します。5年以上先に使う資金であれば、値動きに耐える時間があるため、投資信託などで分散投資を検討しやすくなります。
軸3:下落耐性
「もし運用資産が20%下落したらどう対応するか」と自問してみてください。慌てて売却してしまいそうなら、株式比率を下げる、債券やバランス型ファンドの比率を高める、投資額を減らすなどの調整が必要です。
自分の下落耐性を把握することが、60代で無理なく運用を続けるための第一歩です。
60代の基本戦略は「分散投資」と「コア・サテライト」

60代からの資産運用では、大きな失敗を避けながら資産寿命を延ばすために、「分散投資」と「コア・サテライト」の考え方を取り入れると整理しやすくなります。
コア・サテライトとは、資産の大部分を占める守りの「コア資産」と、一部で成長を狙う攻めの「サテライト資産」に分けて管理する方法です。
退職金などまとまった資金がある場合は、どの商品を選ぶかだけでなく、「一括で投資するのか」「時間をかけて積み立てるのか」も重要です。
ここでは、60代が取り入れやすいコア・サテライト戦略と、退職金を段階的に投資する考え方を解説します。
コア資産で安定配分を作る|取り崩しに備える守りの土台
コア資産の役割は、資産全体の値動きを抑え、将来の取り崩しに備える土台を作ることです。
具体的には、以下のような比較的安定性を重視しやすい商品を組み合わせます。
- 普通預金・定期預金
- 個人向け国債(特に変動10年)
- 国内債券ファンド
- 国内外の債券を含むバランス型ファンド
- リスク許容度に応じた少額の全世界株式ファンド
投資信託を選ぶ際は、まず同じような投資対象であれば、信託報酬などの保有コストが低い商品を優先することが大切です。コストは保有している間ずっと差し引かれるため、長期的な運用成績に影響します。
また、コア資産では毎月分配型や高分配をうたう商品を安易に選ばず、分配金を自動で再投資するタイプや、必要なときに自分で売却して取り崩す方法を検討しましょう。分配金が多く見えても、元本の一部を取り崩しているケースがあります。
コア資産を作った後は、半年に一度または年に一度を目安に資産配分を確認します。当初決めた比率から5%以上ずれていたら、売却や買い増しで元の配分に近づけると、リスクの取りすぎを防ぎやすくなります。
サテライト資産で成長を狙う|年金生活中は比率を抑える
サテライト資産の役割は、インフレに備えながら、資産の一部で成長を取り込むことです。
具体的には、以下のような株式を中心とした資産が候補になります。
- 全世界株式インデックスファンド
- 先進国株式インデックスファンド
- 低コストの株式ETF
- 分散された配当株ファンド
ただし、サテライト資産の比率は、収入状況によって変える必要があります。再雇用などで給与収入があり、生活費を資産から取り崩していない方は、資産全体の30〜40%程度を検討できる場合があります。
一方、年金生活に入り、資産を取り崩しながら生活する方は、20〜30%程度を上限の目安にするなど、株式比率を抑えたほうが安心です。
商品を選ぶ際は、個別株や特定テーマに集中するのではなく、幅広い銘柄に分散された投資信託やETFを中心にすることが大切です。
また、「株式指数が15〜20%下がったら、手元資金の一部を定額で追加投資する」など、自分なりのルールを事前に決めておくと、相場下落時にも感情で判断しにくくなります。
退職金は一括投資と積立を使い分ける|12〜24カ月で段階投入
退職金などのまとまった資金がある場合、一度に全額を投資すると、購入直後に相場が下がったときの心理的負担が大きくなります。高値掴みの不安を抑えるには、購入時期を分ける「時間分散」を活用しましょう。
- 運用資金の30%程度をコア資産に一括投資
- 残りを12〜24カ月かけて積立投資
たとえば、運用に回す資金が1,000万円ある場合、まず300万円を個人向け国債やバランス型ファンドなどのコア資産に投資し、残り700万円を1〜2年かけて毎月積み立てる方法が考えられます。
この方法は、短期的に最も高いリターンを狙うものではありません。目的は、投資開始時期の失敗を避け、無理なく運用を続けることです。
投資を始める際には、金融機関のキャンペーンや高金利表示だけに流されず、ご自身の資金計画を優先しましょう。
そして何より、投資後も生活費の2〜3年分と近い将来の特別費が手元に残っているかを必ず確認してください。残らない場合は、投資額を減らし、まず現金を確保することを優先しましょう。
60代に適した金融商品と使い方のポイント

ここからは、60代の資産運用で活用しやすい金融商品を紹介します。
- 個人向け国債
- 投資信託・ETF
- 債券
それぞれの特徴を理解し、使う時期・リスク許容度・手数料を確認したうえで、ご自身の運用方針に合うものを選びましょう。
個人向け国債|生活防衛資金の一部に使いやすい安全資産
個人向け国債は、満期時の元本と半年ごとの利子の支払いを国が責任を持って行う金融商品です。60代では、生活防衛資金やコア資産の一部として活用しやすい選択肢です。
特に「変動10年」は半年ごとに利率が見直されるため、金利上昇局面では利率が上がる可能性があります。ただし、利率は募集月ごとに変わるため、購入前に財務省や取扱金融機関の最新条件を確認しましょう。
- 購入単位:1万円以上1万円単位
- 利払い:半年ごと(年2回)
- 満期:3年・5年・10年
- 中途換金:発行から1年経過後に可能
※直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれます。 - 税制:利子等は20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)の源泉徴収の対象
個人向け国債の活用ポイント
普通預金だけで生活防衛資金を持つと、金利が低い場合に物価上昇の影響を受けやすくなります。すぐ使う分は預金で残し、1年以上使わない分の一部を個人向け国債に分けると、流動性と利子収入のバランスを取りやすくなります。
たとえば、2026年4月募集分の個人向け国債「変動10年(第193回債)」は、初回の利子の適用利率が年1.55%(税引前)でした。ただし、税引後の利率は下がるため、インフレ率を必ず上回るとは限りません。
個人向け国債の注意点
発行から1年間は原則として中途換金できません。また、1年経過後に中途換金する場合も、直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685の中途換金調整額が差し引かれます。
ただし、中途換金時も額面金額で換金されるため、株式や投資信託のように市場価格の下落で元本割れする商品ではありません。
投資信託・ETF|少額から分散投資できるが元本保証ではない
投資信託・ETFは、少額から国内外の株式や債券に分散投資できる商品です。60代では、コア資産とサテライト資産の両方で活用できます。
一方で、投資信託やETFは預金ではないため、基準価額や市場価格が下がり、購入時より値下がりする可能性があります。商品を選ぶ際は、利回りや人気だけでなく、投資対象・コスト・分配方針を確認しましょう。
商品を選ぶ際のポイント
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 投資対象 | 株式・債券・REITなど、何に投資しているかを確認する |
| 信託報酬 | 同じ指数に連動する商品なら、保有コストが低いものを優先する |
| 純資産総額 | 極端に小さいファンドは繰上償還のリスクも確認する |
| 分配方針 | 毎月分配型は分配金の原資と元本取り崩しの有無を確認する |
| NISA対象 | つみたて投資枠・成長投資枠の対象商品か確認する |
投資信託・ETFの活用ポイント
コア資産では、国内外の債券や株式に分散するバランス型ファンドを使うと、1本で複数の資産に投資しやすくなります。運用の手間を減らしたい方に向いています。
サテライト資産では、全世界株式や先進国株式など、幅広い銘柄に分散された低コストのインデックスファンドを中心に検討するとよいでしょう。
NISAを活用する場合、つみたて投資枠は金融庁に届け出られた対象商品に限られます。個人向け国債や一部の債券ファンドはNISAで購入できない場合があるため、金融機関の画面や目論見書で確認してください。
投資信託・ETFの注意点
投資信託やETFは、市場の動向によって日々値動きします。元本保証はなく、短期間で使う予定のお金を投資すると、必要な時期に損失を抱えて売却する可能性があります。
また、NISA口座で損失が出た場合、課税口座の利益との損益通算はできません。非課税メリットだけでなく、損失が出たときの扱いも理解しておきましょう。
債券|円建てと外貨建てでリスクが大きく異なる
債券投資には、円建ての「国内債券」と、米ドルやユーロなどの「外国債券」があります。どちらも株式より値動きが穏やかな場合がありますが、リスクの種類は異なります。
国内債券と外国債券の比較
| 国内債券 | 外国債券 | |
|---|---|---|
| 為替リスク | なし | あり |
| 利回りの見え方 | 相対的に低く見えることが多い | 表面利率が高く見えることがある |
| 注意点 | 金利上昇時は債券価格が下がる場合がある | 円高になると円換算額が減る |
債券の活用ポイント
「3年後に家のリフォーム資金が必要」「5年後に使う予定の資金がある」といったように、お金を使う時期が明確で、為替変動を避けたい場合は円建ての国内債券や個人向け国債が使いやすいです。
一方、外国債券は表面利率が高く見えることがありますが、円高になると円換算の評価額や受取額が減る可能性があります。為替変動に耐えられる余裕資金で検討しましょう。
債券の注意点
国内債券・外国債券ともに、発行体が利子や元本を支払えなくなる信用リスクがあります。また、途中で売却する場合は金利変動によって価格が下がる可能性もあります。
「債券だから安全」と一括りにせず、発行体・満期・通貨・途中売却の条件を確認することが大切です。
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60代の資産運用でおすすめしにくい金融商品

60代からの資産運用では、リスクやコストの観点から慎重に判断したい商品があります。ここでは、特に注意したい3つのケースを解説します。
株式(特に個別株への集中投資)
高配当株投資は、配当金を受け取りながら資産の成長を狙える点が魅力です。しかし、60代から個別銘柄に集中投資するのは、家計への影響が大きくなりやすい方法です。
注意すべき理由
「高配当」という言葉だけで特定銘柄に集中すると、企業の業績悪化によって株価が下がるだけでなく、配当金が減額・停止される可能性があります。個別株は銘柄分析や決算確認の手間もかかります。
もし投資するなら
株式に投資する場合は、個別株よりも、複数の企業に分散された投資信託やETFを中心に検討しましょう。個別株を持つとしても、資産全体の一部にとどめ、上限比率を決めておくことが大切です。
外貨建て保険
外貨建て保険は、退職金を受け取ったタイミングなどで提案されることがある商品です。保障と運用が組み合わさっているため、仕組みを理解しないまま契約すると、思わぬ損失や流動性の低さに悩む可能性があります。
注意すべき理由
外貨建て保険には、為替変動リスク・解約控除・保険関係費用・為替手数料など、複数のコストや条件があります。円換算では元本割れする可能性があり、途中で解約すると不利になる場合もあります。
国民生活センターは、外貨建て生命保険について、契約時にリスクとコストを十分確認するよう注意喚起しています。また、金融庁の保険モニタリングレポートでも、外貨建保険に関する苦情発生率は他の保険と比べて高い水準にあるとされています。
もし利用するなら
利用を検討するのは、以下のすべての条件を満たす場合に限定して考えましょう。
- 10年以上先に、その外貨で使う具体的な目的がある
- 途中で引き出す必要のない余裕資金である
- 為替手数料・解約控除・保険関係費用など、すべてのコストを説明書面で確認している
- 投資信託や債券など他の選択肢と比較しても、契約する理由が明確である
退職金専用定期預金
退職金専用定期預金は、退職金の一時的な置き場所として提案されることがあります。金利が高く見える場合もありますが、適用期間と満期後の扱いを確認することが大切です。
注意すべき理由
退職金専用定期預金は、「当初3カ月だけ」など短期間のみ高い金利が適用されるキャンペーン商品である場合があります。満期後は通常金利に戻ることが多く、その後の運用先を決めていないと、資金が長く遊んでしまう可能性があります。
もし利用するなら
本格的な運用プランが決まるまでの、短期間の一時的な置き場所として割り切って利用しましょう。その際は、以下の点を守ることが重要です。
- 預け入れる前に、キャンペーン期間終了後の資金移動先を決めておく
- 満期日をカレンダーに登録し、解約や資金移動の手続きを忘れないようにする
- 投資信託や保険とのセット販売条件がある場合は、全体の手数料を確認する
長寿リスクに備える取り崩し設計のポイント

60代の資産運用では、増やすことだけでなく、資産をどの順番で、どのペースで取り崩すかを決めておくことが重要です。
取り崩しルールがないと、相場が下がったときに不安で売却したり、逆に使いすぎて資産寿命を縮めたりする可能性があります。
ここでは、運用しながら取り崩す基本ルールと、市場が下落したときの備えを整理します。
運用しながら取り崩す考え方
資産を取り崩していく際は、以下の3つを事前に決めておきましょう。
1. 取り崩しの方式を決める
取り崩し方には、主に以下の3つの方式があります。家計に合わせて、柔軟に調整できる方法を選びましょう。
| 内容 | メリット/注意点 | |
|---|---|---|
| ① 定率法 | 毎年、資産残高の一定割合を取り崩す (例:3〜4%) | 資産残高に応じて調整しやすいが、受け取る金額は毎年変動する |
| ② 定額法 | 毎年、一定の金額を取り崩す (例:40万円) | 生活設計はしやすいが、相場下落時に資産を早く減らす可能性がある |
| ③ ハイブリッド法 | ①と②を組み合わせ、上限・下限を設ける (例:年4%を上限。必要額に応じて調整) | 生活の安定性と資産寿命のバランスを取りやすい |
年4%の取り崩しは、あくまで上限の目安です。市場環境・税金・手数料・家計の不足額によって、3%台に抑えたほうがよい場合もあります。
取り崩し額を決めるときは、「年間の不足額」と「資産残高の3〜4%」を比較し、毎年の家計状況に合わせて調整しましょう。不足額が4%を大きく超える場合は、支出の見直し、現金バッファの活用、年金の受け取り方、家族との相談も必要です。
2. 現金化の順番を決める(リバランス)
生活費として現金を取り崩す際は、年に一度の資産配分の見直し(リバランス)と同時に行うと管理しやすくなります。
- 年に一度、資産全体のバランスを確認する
- 当初決めた目標配分よりも比率が増えすぎている資産を一部売却する
- 売却した資金を生活費にあて、同時に資産配分を元の比率に近づける
たとえば、株式ファンドが値上がりして比率が増えすぎた場合、その一部を売却して現金化すれば、利益確定とリバランスを同時に行えます。
反対に、相場下落で株式比率が下がっているときは、無理に株式を売らず、預金や個人向け国債などの生活防衛資金から一時的に補う選択もあります。
3. 将来の見通しを立てておく
資産が将来どのように推移するか、複数のシナリオを想定しておくと、相場変動時にも冷静に判断しやすくなります。
シミュレーション例
初期資産1,000万円から、毎年40万円ずつ取り崩した場合の25年後の資産残高
| シナリオ | 想定リターン(年率) | 25年後の資産残高(概算) |
|---|---|---|
| 保守的 | 1% | 約150万円 |
| 標準的 | 3% | 約640万円 |
| 楽観的 | 5% | 約1,480万円 |
- 税金・手数料を考慮しない概算値。毎年の運用後に40万円を取り崩す前提
シミュレーションは将来を保証するものではありませんが、複数の見通しを持つことで、運用を続けるか、支出を調整するか、専門家に相談するかを判断しやすくなります。
市場が大きく下落した時のためのルール
相場が大きく下落した時に、恐怖心から資産を売却してしまうと、損失を確定させる可能性があります。冷静なときに「下落時の行動ルール」を決めておきましょう。
事前に決めておくべき行動ルール
- 下落幅に応じた行動を決める
- 例:資産全体が15%下落したら、翌年の取り崩し額を10%減らす
- 例:20%下落したら、値下がりした資産の売却を避け、生活防衛資金から生活費を補う
- 生活予備資金を使う順番を決める
- 例:①普通預金 → ②定期預金 → ③個人向け国債の中途換金、という順番を明確にしておく
- 買い増しの条件を決める
- 例:株式指数が20%下落したら、余裕資金の一部を定額で追加投資する
その場の感情で売買せず、事前に決めたルールに沿って対応することが、長期的に資産を守るうえで重要です。
判断が難しくなった場合に備え、資産状況や運用ルールを家族と共有したり、相談できる専門家の連絡先を整理したりしておくと安心です。
プロファイル別のポートフォリオ例を紹介

ここでは、収入の有無や退職金の有無によって、資産配分の例を3つ紹介します。
あくまで一例です。家族構成、年金額、住宅ローンの有無、医療費、相続方針などによって適切な配分は変わります。
在職中・年金受給前(60〜65歳)のポートフォリオ
60歳で定年を迎えた後も、65歳まで再雇用などで働き続ける方をモデルケースとして考えます。給与収入で生活費をまかなえており、退職金の一部を運用に回す状況です。
このケースでは、まだ給与収入があるため、年金生活に完全移行した方よりもリスクを取る余地があります。ただし、退職金全体を投資に回すのではなく、生活防衛資金を先に確保しましょう。
資産配分の目安
- コア資産(守りの資産):60%
個人向け国債・債券ファンド・バランス型ファンドが中心 - サテライト資産(攻めの資産):40%
全世界株式ファンドなどで成長を狙う - 生活防衛資金:生活費の2年分+近い将来の特別費
投資割合とは別枠で、預金などで確保
NISAを活用する場合、つみたて投資枠では対象商品の中から低コストの分散型投資信託を毎月積み立て、成長投資枠では全世界株式ファンドやETFなどを購入する方法が考えられます。
ただし、個人向け国債はNISAでは購入できません。また、つみたて投資枠は対象商品が限られるため、購入前に金融機関の画面や金融庁の対象商品一覧で確認しましょう。
近い将来に使うお金の置き場所
5年以内に使う予定が決まっているお金(住宅リフォーム、車の買い替え、子や孫への援助など)は、株式ファンドなどのサテライト資産に含めないようにしましょう。
この資金は、預金や個人向け国債など、使う時期に合わせて現金化しやすい資産で管理するのが基本です。
定年後・年金受給開始後(65歳〜)のポートフォリオ
65歳から年金の受け取りが始まり、本格的なリタイア生活に入った方のケースです。年金だけでは毎月の生活費が5万〜10万円ほど不足し、その分を資産から取り崩す状況を想定します。
現役時代の給与収入がなくなるため、資産配分はより安定性を重視します。株式比率を高めすぎると、下落時に生活費を取り崩しにくくなるため注意が必要です。
資産配分の目安
- コア資産(守りの資産):80%
個人向け国債・預金・債券ファンド・バランス型ファンドが中心 - サテライト資産(攻めの資産):20%
全世界株式ファンドなどでインフレに備える - 生活防衛資金:生活費の2〜3年分
急な出費や相場下落に備え、投資とは別に確保
資産配分が決まったら、次に重要なのは生活費をどう引き出すかのルールです。ルールがあれば、相場の状況に振り回されず、計画的に資産を使いやすくなります。
基本は、年間の生活費不足額を確認し、取り崩し額が運用資産の3〜4%を大きく超えないかを見ることです。超える場合は、支出の見直しや生活防衛資金の使い方、年金の受け取り方を含めて再検討しましょう。
実際の運用では、以下の点を意識すると管理しやすくなります。
- 投資信託の分配金を生活費として自動で受け取る設定にせず、必要な額だけ計画的に売却する方法を検討する
- 生活費の取り崩しは、その都度ではなく、年に1回または半年に1回など定期的に行う
- 取り崩しはリバランスと同時に行い、比率が増えすぎた資産から一部売却する
一括投資中心(退職金活用)のポートフォリオ
最後に、退職金として2,000万円を受け取った方をモデルケースに、まとまった資金をどう運用するか考えます。
この例では、生活費が月25万円、3年分で約900万円必要とします。まず退職金のうち900万円を生活防衛資金として確保し、残り1,100万円を運用候補とする考え方です。
高値掴みを避ける段階投入のルール
まとまった資金を一度に投資すると、購入直後に相場が下がった場合の精神的な負担が大きくなります。そこで、購入時期をずらす「段階投入」を使います。
- ステップ1:初期投資
運用資金1,100万円の約30%(330万円)を、個人向け国債やバランス型ファンドなどのコア資産に投資します。 - ステップ2:積立投資
残り770万円は、2年間(24カ月)かけて毎月約32万円ずつ積み立てます。
生活防衛資金の一部は、定期預金や個人向け国債で満期・換金時期を分けておくと、毎年使える資金を確保しやすくなります。
たとえば、1年後・2年後・3年後に使える資金を分けておくと、急な出費に対応しやすくなり、金利上昇時には満期資金をより有利な商品へ預け替える機会も得られます。
海外資産を持つ場合は、為替リスクを考慮し、外貨建て資産の割合に上限を設けましょう。たとえば資産全体の10%以内など、自分が円高時にも耐えられる範囲に抑えると管理しやすくなります。
60代の資産運用でやってはいけないこと

ここからは、60代の資産運用で特に避けたい行動を3つに絞って解説します。無駄なコストや過度なリスクを避けることで、安定した運用を続けやすくなります。
「集中投資」と「高コスト商品」
退職金などのまとまった資金を、特定のテーマや単一の商品に集中させるのはリスクが高い行動です。また、手数料が高い商品は、運用成績がよく見えても手元に残る利益を減らす可能性があります。
- AI関連株・高配当株など、単一テーマに資産を集中させる
- 手数料や解約条件が分かりにくい商品を契約する
- 「元本保証に近い」「高利回り」などの説明だけで判断する
まずは、低コストで幅広く分散された投資信託やETFを中心にし、個人向け国債や預金で安全資産を確保することから考えましょう。
商品を比較する際は、以下の項目を一覧にすると、見えにくいコストを確認しやすくなります。
| 確認するコスト | 見るべきポイント |
|---|---|
| 購入時手数料 | 購入時に一度だけかかる費用 無料の商品もある |
| 信託報酬 | 保有中ずっとかかる費用 同種の商品で比較する |
| 信託財産留保額 | 売却時に差し引かれる場合がある |
| 為替手数料 | 外貨建て商品では円から外貨、外貨から円に戻す際に発生する |
| 解約控除 | 保険商品などで早期解約時に差し引かれる場合がある |
流行や短期的な値動きに合わせた過度な売買
市場の動きを見ていると、つい売り買いしたくなるかもしれません。しかし、60代からの資産運用では「頻繁に売買しない」ことが大切です。
売買を繰り返すと、手数料や税金がかさみ、手元に残る利益を減らす可能性があります。また、タイミングを狙った売買は難しく、感情的な判断で高値で買い、安値で売ってしまうこともあります。
基本的には、半年に一度または年に一度のリバランス以外は、原則として触りすぎないというルールを決めておきましょう。
メンテナンスを行った際は、「2026年10月1日、株式比率が目標より増えたため一部を売却して債券に振り替えた」といったように、日時と理由を記録しておくと、後から冷静に振り返れます。
特に、「直近1年で最も成績が良かったファンドに乗り換える」といった行動は慎重に考えましょう。過去の成績は将来を保証するものではなく、話題になっている時点で価格が高くなっている場合もあります。
税制・手数料・為替の見落とし
税金や手数料、為替コストは、一つひとつは小さく見えても、長期的には運用成績に大きく影響します。制度を正しく理解し、コストを抑える工夫が必要です。
NISA
NISA口座では、対象商品から得られる配当金・分配金・売却益が非課税になります。NISAは18歳以上(口座開設の年の1月1日現在)の居住者等が利用できる制度のため、60代でも要件を満たせば活用できます。
- 非課税保有限度額
生涯で1,800万円まで(うち成長投資枠は1,200万円まで) - 年間投資枠
つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円(合計360万円) - 注意点
NISA口座で出た損失は、課税口座の利益と損益通算できない
課税口座のルールを理解する
NISA枠を使い切った後に課税口座で運用する場合、上場株式等の譲渡益や配当等には、原則として20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。
課税口座では、同じ年の上場株式等の利益と損失を損益通算できる場合があります。税制は個別事情で扱いが変わるため、必要に応じて税理士や税務署に確認しましょう。
為替手数料に注意する
海外資産に投資する際には、円と外貨を交換するための為替手数料やスプレッドがかかる場合があります。円→外貨→円と往復で両替する場合、手数料はそれぞれ発生します。
- 外貨預金:為替手数料(スプレッド)が発生する
- 外貨建てETF:取引口座の為替手数料やスプレッドが発生する
- 外貨建て保険:為替手数料のほか、保険関係費用や解約控除が発生する場合がある
外貨建て商品は、利率だけでなく、円に戻したときの受取額で判断することが大切です。
60代の資産運用はプロへ相談する選択肢もある

ここまで自分で運用方針を決める方法を解説してきましたが、「やはり不安」「家族への説明が難しい」と感じる方もいるでしょう。
その場合は、資産運用の専門家に相談し、第三者の視点から家計・資産・年金・取り崩しを一体で整理してもらう方法もあります。
ここでは、プロに相談するメリット、向いている人・向いていない人、相談先の比較、よくある不安とその解消法を説明します。
プロに相談するメリット
専門家への相談は、単に商品提案を受けるだけではありません。家計と資産を整理し、自分では見落としやすいリスクやコストを確認する機会にもなります。
- 家計と資産を一体で整理できる
収入・支出・資産状況を洗い出し、無理のない資産配分を検討できます。 - 具体的な計画を見える化できる
将来シミュレーションや商品ごとのコスト比較表など、判断材料を作成してもらえる場合があります。 - 行動ルールを明文化できる
「どの資産をいつ取り崩すか」「相場下落時にどうするか」といったルールを整理できます。 - 家族への説明に使いやすい
配偶者や子どもに資産状況を説明する際、客観的な資料があると理解を得やすくなります。
相談が向いている人・向いていない人
専門家への相談が有効なケースと、自分で進めるほうが向いているケースを整理します。
- 退職金などまとまった資金をどう配分すればよいか、客観的な意見が欲しい方
- 一人で判断することに不安があり、専門家のサポートを受けながら進めたい方
- 資産状況について、家族の理解や合意を得る必要がある方
- 投資方針・商品選定・リバランスを自分で継続的に管理できる方
- 短期売買など、長期運用とは異なる目的を持っている方
相談先の比較(証券会社・FP・IFA)
資産運用の相談先には、主に「証券会社」「FP」「IFA」があります。それぞれ得意分野や報酬体系が異なるため、相談前に特徴を確認しましょう。
| 証券会社 (対面) | FP (ファイナンシャルプランナー) | IFA (独立系金融アドバイザー) | |
|---|---|---|---|
| 報酬形態 | 販売手数料や預かり資産に応じた報酬など | 相談料・顧問料・商品販売手数料など | 販売手数料・フィー・預かり資産 に応じた報酬など |
| 相談範囲 | 投資商品 口座管理が中心 | 家計 保険 住宅ローン ライフプランなど幅広い | 投資商品 資産配分 長期運用の相談が中心 |
| 確認点 | 取扱商品が自社・提携先に偏らないか | 保険販売などの収益源が提案に影響しないか | 提携金融機関・報酬体系・取扱商品の範囲 |
| 伴走支援 | 担当者の異動がある場合がある | 相談形態によって異なる | 担当者と長期的に関係を築ける場合がある |
証券会社は窓口が身近で相談しやすい反面、提案できる商品が自社や提携先の範囲に限られる場合があります。
FPは家計全体の相談に向いていますが、保険代理店を兼ねている場合などは、収益源と提案内容の関係を確認しましょう。
IFAは、金融商品仲介業者として証券会社等の委託を受け、有価証券の売買の媒介などを行います。複数の金融機関と提携している場合もありますが、取扱商品や報酬体系はIFAごとに異なります。
どの相談先を選ぶ場合でも、「なぜその商品を勧めるのか」と「どこで費用が発生するのか」を必ず質問し、納得できる説明があるかを確認しましょう。
よくある不安とその解消法
専門家への相談をためらう理由として、「費用」「勧誘」「個人情報」への不安があります。事前に確認するポイントを押さえておくことで、安心して相談しやすくなります。
まず費用については、無料相談と有料相談の違いを理解しましょう。無料相談の場合、商品販売や紹介料などが相談先の収益源になっている場合があります。
有料相談の場合は、相談料・顧問料・運用助言料など、料金体系が相談先によって異なります。事前に見積もりや料金表を確認し、納得してから申し込みましょう。
次に勧誘への不安ですが、その場で契約を迫る相手は避けましょう。提案内容を持ち帰って検討する時間を与えてくれるかどうかは、信頼できる相談先を見極めるポイントです。
最後に個人情報については、相談前に情報の利用目的や保管期間を書面や規約で確認しましょう。
相談前に準備しておくと良いもの
相談をよりスムーズにするために、事前に以下の資料を準備しておくとよいでしょう。
- 家計の収支が分かるもの
(家計簿、通帳、カード明細など) - 保有資産の一覧
(預金、投資信託、保険などの残高が分かるもの) - 年金の見込額が分かる資料
(ねんきん定期便、ねんきんネットの試算結果など) - 退職金の金額が分かるもの
(源泉徴収票、退職金見込額の通知など)
まとめ

60代の資産運用では、まず家計の現状を把握し、生活防衛資金を確保したうえで、運用してよい資金を分けることが大切です。
インフレに備えるためには、預金だけに頼らず、個人向け国債・債券・投資信託を役割ごとに使い分ける必要があります。ただし、生活費や5年以内に使うお金は、値動きのある資産に回さないようにしましょう。
コア資産で安定を確保しながら、サテライト資産で成長を取り込むバランスが、長寿時代の資産寿命を延ばすポイントです。
また、運用しながら取り崩すためには、取り崩し率・現金化の順番・下落時の対応ルールを事前に決めておくことが重要です。
自分で判断するのが難しい場合は、資産運用アドバイザーへ相談してみるのも一つの方法です。相談する際は、提案根拠と費用の発生場所を必ず確認しましょう。
FAQ

出典
総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)3月分及び2025年度(令和7年度)平均」(公開日:2026年4月24日)
財務省「個人向け国債の発行条件等」(公開日:2026年4月3日)
財務省「個人向け国債のこと。」
国税庁「No.1535 NISA制度」(更新日:2025年4月1日)
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
金融庁「つみたて投資枠対象商品」(更新日:2026年4月30日)
国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(更新日:2025年4月1日)
日本年金機構「ねんきんネットによる年金見込額試算」(更新日:2025年1月7日)
金融庁「2025年 保険モニタリングレポート」(公開日:2025年7月4日)
独立行政法人国民生活センター「外貨建て生命保険の相談が増加しています!」(公開日:2020年2月20日)
日本証券業協会「金融商品仲介業者」(更新日:2026年5月20日)

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