- 証券業界は現状どのような特徴があるのか
- 証券業界は今後どのように変化していくのか
従来の証券業界は対面型の総合証券がほとんどだったが、近年はネット証券が台頭してきている。業界自体の構造が変化してきているため、証券会社勤務の人は今後の展望についても把握しておくことが大切だ。
この記事では、大手証券会社の決算推移や証券業界の現状、業界の今後について解説していく。
大手証券会社の売上高推移
証券会社の現状を把握するためには、各証券会社の決算がどのように推移しているかを知ることも大切だ。
ここでは、大手証券会社である「野村證券」「大和証券」「SBI証券」の過去5年間の売上高の推移を見ていく。
野村證券
野村證券の過去5年間の売上高推移は、以下の表の通りだ。
決算期 | 売上高(単位:百万円) |
---|---|
2018年3月期 | 1,972,158 |
2019年3月期 | 1,835,118 |
2020年3月期 | 1,952,482 |
2021年3月期 | 1,617,235 |
2022年3月期 | 1,593,999 |
ここ数年では売上高が低下傾向にあり、2018年3月期から2022年3月期にかけて4,000億円ほど売上高が減少した。
収益性低下の原因としては、ネット証券の台頭が背景にあると考えられる。
大和証券
大和証券の過去5年間の売上高推移は、以下の表の通りだ。
決算期 | 売上高(単位:百万円) |
---|---|
2018年3月期 | 712,601 |
2019年3月期 | 720,586 |
2020年3月期 | 672,287 |
2021年3月期 | 576,172 |
2022年3月期 | 619,471 |
直近の2022年3月期では増収となったものの、全体的には売上高が低下傾向にある。
野村證券と同様、ネット証券の台頭・拡大に影響を受けていると言えるだろう。
SBI証券
SBI証券の過去5年間の売上高推移は、以下の表の通りだ。
決算期 | 売上高(単位:百万円) |
---|---|
2018年3月期 | 116,716 |
2019年3月期 | 122,537 |
2020年3月期 | 124,466 |
2021年3月期 | 160,356 |
2022年3月期 | 166,627 |
SBI証券はネット証券の大手であり、上記の売上高推移からも分かるように近年拡大している証券会社である。
若年層を中心にシェアを拡大しており、野村證券や大和証券とは対照的に売上高を伸ばしてきていることが分かるだろう。
証券業界の現状
大手証券会社3社の売上高の推移を確認したところで、証券業界の現状について見ていこう。
現状の証券業界は以下のような特徴が見られる。
- ネット証券が台頭
- 税制優遇制度が浸透
- 投資対象が変化
それぞれの特徴について解説していく。
ネット証券が台頭
先ほど紹介した大手証券会社の売上高を見ても分かるように、証券業界は対面型の総合証券からネット証券の時代に移り変わりつつある。なぜなら、ネット証券は手数料の安さや取引の気軽さという点で総合証券よりも優位にあるためだ。
従来、株や債券、投資信託の取引は証券会社の店舗に出向いたり、営業担当者に電話をかけたりしなければならなかった。
しかし、ネット証券はパソコンやスマホから簡単に取引が成立し、いつでもどこでも気軽に金融商品を売買できる。
また、対面型の証券会社のように営業社員のコストがかからない分、取引にかかる手数料も安い。低コストで気軽に取引ができるネット証券が優位性を持ち、利用者が増えているというのが証券業界の現状だ。
税制優遇制度が浸透
近年は、税制面での優遇を受けられる「NISA(少額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」が浸透してきている。
NISAは2014年1月、iDeCoは2001年10月から始まった制度であるが、少しずつ利用者が増えているのだ。
日本証券業協会が発表した「NISA口座開設・利用状況調査結果(2022年9月30日現在)について」によると、2022年3月末のNISA口座開設数は1,120万口座で、2021年末から1.1%の増加だった。
また、iDeCo公式サイトが発表した「加入者数等について(令和4年7月時点)」では、2022年7月時点のiDeCo加入者は2,561,540人で、7月の新規加入者が51,739人であった。
どちらも着実に利用者数が増えており、少しずつ税制優遇制度が浸透してきていることが分かる。個人が資産形成に向けて動き始めている点は、証券業界にとってはプラスに働くだろう。
投資対象が変化
従来、機関投資家や個人投資家は収益性が高い投資先を対象としてきた。
しかし、近年はSDGs(持続可能な開発目標)の運動が広がり、投資も環境や社会、企業統治に配慮した「ESG投資」の考え方が広まってきている。
そのため、従来のように収益性の高さだけを評価するのではなく、SDGsに貢献する投資先が好まれる時代に変化してきた。企業としてSDGsに貢献していくだけでなく、SDGsにつながる金融商品の組成や販売が求められているというのが証券業界の現状だ。
今後証券業界はどうなっていくか
証券業界の現状の特徴を把握したところで、今後業界がどうなっていくのかという点についても考えていこう。
今後の展望については、以下のようなことが考えられる。
- ネット取引サービスの拡大
- 若年層の投資家が増加
- 付加価値の提供が重要
今後の証券業界の課題や展望をしっかりと把握しておこう。
ネット取引サービスの拡大
現時点ですでにネット証券やオンライン取引のサービスは拡大しているが、今後もその流れは継続していくと考えられる。インターネットを使いこなせる世代がどんどん増えていき、気軽に売買できるネット取引が主流になっていくだろう。
例えば、対面型の総合証券大手の野村證券では、電話での注文受付以外にオンラインサービスでの取引に対応している。電話で取引するよりも手数料が割安に設定されており、ネット取引に力を入れ始めているのだ。
ほとんどの証券会社がより一層ネット取引に注力し、シェアの奪い合いになっていくことが予想される。
若年層の投資家が増加
ネット証券の普及は、若年層の投資家参入にも大きな影響を与えるだろう。若い世代の顧客をどれだけ取り込むことができるかが、今後の証券業界全体の大きな鍵となる。
特に、近年は「老後2,000万円問題」などにより、将来に向けた資産形成に興味を持つ若年層は増えている。
また、2022年からは高校の家庭科の授業で金融教育が行われるなど、少しずつ若い世代にも投資が根付いていくことは期待できる。
NISAやiDeCoなどの制度をきっかけに、若年層の流入を狙っていくことが重要となるだろう。
付加価値の提供が重要
ネット証券の台頭に合わせて総合証券もネット取引に注力しているが、顧客と対面する営業社員が不要になるわけではない。金融商品の売買仲介よりも、顧客の資産運用を適切にサポートする付加価値が重要となってくる。
ただ「金融商品の売買を仲介する」だけだと、手数料の安いネット証券の方が優位である。
ネット証券よりも高い手数料を支払ってもらう分、顧客のライフプランに合わせた適切な資産運用のサポートを付加価値として提供することが重要だ。
つまり今後証券会社の営業社員は、金融・資産運用のプロとして顧客に付加価値を提供していくことが求められる。
しっかりとスキルを磨き、これからの証券業界を生き抜いていくことが大切だ。
スキルを磨いていこう
証券業界の現状としては、ネット証券の台頭によって総合証券は収益低下に苦しんでいる。今後はネット取引が中心になることが予想されるため、若年層を取り込みつつ、付加価値を提供していくことが重要だ。
営業スキルだけでなく、金融や市場分析の知識もしっかりと磨いて、今後の証券業界を生き抜いていこう。