教員として長く働いてきた方にとって、退職金は退職後の生活を支える大切な資金です。
ただし、教員の退職金は「公立か私立か」「勤務先の自治体や学校法人」「勤続年数」「退職理由」「退職時の給料月額」「役職」などによって変わります。
平均額だけを見ても、自分の退職金がいくらになるかは判断できません。退職前には、勤務先・教育委員会・学校法人の担当部署で、退職手当の見込額と支給予定日を確認しておくことが重要です。
また、退職金は額面のまま使えるわけではありません。一時金として受け取る場合は、退職所得控除を差し引いたうえで、所得税・復興特別所得税・住民税が計算されます。
この記事では、教員の退職金制度や計算方法、手取り額の考え方、受け取り時の税務上の注意点、退職金の管理方法を整理して解説します。
教員の退職金制度と計算方法|公立と私立で確認先が異なる

まずは、教員に適用される退職金制度の基本を確認しましょう。
結論からいうと、公立学校の教員と私立学校の教員では、退職金の確認先や計算の考え方が異なります。
| 区分 | 退職金の基本的な考え方 | まず確認するもの |
|---|---|---|
| 公立学校の教員 | 地方公務員のうち教育公務員として、自治体の退職手当条例等に基づいて計算される | 所属自治体の退職手当条例、退職手当見込額、給与明細、退職予定日 |
| 私立学校の教員 | 学校法人ごとの退職金規程に基づいて計算される | 就業規則、退職金規程、退職金団体への加入状況、支給条件 |
退職金の金額は、同じ教員でも一律ではありません。退職前には、勤務先や教育委員会、学校法人の担当部署に「退職手当の見込額」を確認しておくことが大切です。
公立教員の退職手当は自治体の条例で確認する
公立学校の教員は、地方公務員のうち教育公務員にあたります。そのため、退職手当は各自治体の条例や規程に基づいて計算されます。
公務員の退職手当は、代表的には次のような考え方で算定されます。
基本額は、退職時の給料月額に、退職理由や勤続期間に応じた支給割合を掛けて計算されます。調整額は、在職中の職務や役職などを反映して加算される部分です。
ただし、具体的な支給率、調整額、給料月額に含める範囲は自治体によって異なります。退職理由が定年、自己都合、勧奨、傷病などのどれに該当するかでも支給額は変わります。
また、定年延長、役職定年、給与水準の変更がある場合は、退職手当の計算に影響する可能性があります。正確な金額を知りたい場合は、所属自治体の退職手当条例や退職手当見込額を確認しましょう。
- (注)上記は退職手当計算の代表的な考え方です。実際の算定方法は自治体・退職理由・勤続年数・職名等により異なります。
私立学校の教員は退職金規程と退職金団体を確認する
私立学校の教員は、学校法人ごとの退職金規程に基づいて退職金が計算されるのが一般的です。
私立大学、短期大学、高等専門学校などでは、私立大学退職金財団のような退職金団体が、学校法人に退職資金を交付する仕組みを利用しているケースがあります。また、私立の幼稚園・小学校・中学校・高等学校等では、都道府県単位の私学退職金団体に加入している場合もあります。
ただし、退職金を最終的にいくら受け取れるかは、学校法人の退職金規程、勤続年数、退職理由、退職金団体への加入状況などによって異なります。
私立学校に勤務している場合は、次の点を確認しておきましょう。
- 退職金制度があるか
- 何年以上勤続すると支給対象になるか
- 退職理由ごとの支給率
- 退職金団体への加入状況
- 一時金・年金など受け取り方を選べるか
自治体や勤続年数、役職による退職金金額の違い
教員の退職金は、同じ「教員」でも一律ではありません。
主に次のような要素によって金額が変わります。
- 勤続年数
- 退職理由(定年、自己都合、勧奨、傷病など)
- 退職時の給料月額
- 校長・副校長・教頭などの役職経験
- 勤務する自治体や学校法人の規程
一般的には、勤続年数が長く、退職時の給料月額が高いほど退職金も大きくなりやすいです。また、管理職経験がある場合、調整額などにより退職金に影響することがあります。
ただし、自治体や学校法人ごとに制度が異なるため、「自分の場合はいくらか」を知るには、平均額ではなく個別の見込額を確認する必要があります。
- (注)退職金の見込額は、退職予定日・退職理由・勤続期間によって変わるため、退職前に勤務先へ確認しましょう。
退職金はセカンドライフの生活費・医療費・予備資金を支える
退職金は、教員のセカンドライフを支える重要な資金です。
退職後は、公的年金だけでなく、次のような支出に備える必要があります。
- 老後生活を送るための生活費
- 医療費や介護費
- 住宅ローンやリフォーム費用
- 子どもや孫への資金援助
- 突然の支出に備える予備資金
退職金を受け取ると、まとまったお金が手元に入ります。しかし、無計画に使ってしまうと、老後資金が想定より早く減ってしまう可能性があります。
退職金を受け取る前に、生活費として使う分、近い将来使う分、当面使わない分に分けて考えておきましょう。
| 資金の区分 | 主な使い道 | 管理の考え方 |
|---|---|---|
| すぐ使うお金 | 生活費、税金、引っ越し費用など | 預貯金で確保する |
| 近い将来使うお金 | 医療費、介護費、住宅修繕、ローン返済など | 値動きの小さい方法で管理する |
| 当面使わないお金 | 老後資金の上乗せ、相続、長期の予備資金など | リスクを理解したうえで運用を検討する |
教員の退職金の手取り金額はいくら?退職所得控除と課税の仕組み

退職金を一時金で受け取る場合、額面から所得税・復興特別所得税・住民税が差し引かれます。
そのため、実際に使える金額を知るには、退職金の額面だけでなく、税金を差し引いた手取り額を確認することが重要です。
ここでは、退職所得の計算方法と手取り額の考え方を順番に見ていきましょう。
退職所得の求め方|退職所得控除を差し引いて計算する
退職所得とは、退職したことに基因して受け取る退職手当等に係る所得を指します。
退職金も所得の一種ですが、長年の勤務に対する後払い的な性格や退職後の生活保障という性格があるため、税制上は大きな優遇があります。
退職所得の金額は、原則として次の式で計算します。
退職所得控除額は、勤続年数によって次のように計算します。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円に満たない場合は80万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算します。
例えば、勤続年数が「15年3ヶ月」の場合は、退職所得控除の計算上は「16年」として扱います。
- (注)勤続年数が5年以下の短期退職手当等や特定役員退職手当等に該当する場合は、2分の1課税の扱いが異なることがあります。
控除額と課税の仕組み|所得税・復興特別所得税・住民税を確認
退職金を一時金で受け取る場合、主に次の税金が差し引かれます。
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
所得税は、課税退職所得金額に応じた税率を掛け、控除額を差し引いて計算します。
課税退職所得金額ごとの所得税率と控除額は次のとおりです。
| 課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
| 1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
復興特別所得税は、基準所得税額に2.1%を掛けて計算します。
住民税は、課税退職所得金額に対して、市町村民税6%、道府県民税4%の合計10%で計算するのが基本です。
- (注)実際の税額計算では、課税退職所得金額や税額の端数処理が行われます。住民税は市町村民税・道府県民税それぞれで100円未満を切り捨てる扱いがあるため、実際の金額は勤務先の計算結果を確認してください。
具体的な手取り金額を計算してみよう
ここでは、2つの例をもとに退職金の税額と手取り額を計算します。
(例1)勤続年数13年5ヶ月・退職金800万円のケース
(例2)勤続年数30年・退職金2,300万円のケース
例1:勤続年数13年5ヶ月・退職金800万円
勤続年数は1年未満の端数を切り上げるため、14年として計算します。
課税退職所得金額が120万円の場合、所得税率は5%、控除額は0円です。
税額の合計は181,260円となり、手取り額は7,818,740円です。
例2:勤続年数30年・退職金2,300万円
勤続年数が20年を超えているため、退職所得控除額は次のように計算します。
課税退職所得金額が400万円の場合、所得税率は20%、控除額は427,500円です。
税額の合計は780,322円となり、手取り額は22,219,678円です。
| ケース | 税額合計 | 手取り額 |
|---|---|---|
| 勤続13年5ヶ月・退職金800万円 | 181,260円 | 7,818,740円 |
| 勤続30年・退職金2,300万円 | 780,322円 | 22,219,678円 |
- (注)上記は一般的な一時金受取を前提とした概算です。同じ年に複数の退職金や確定拠出年金の一時金を受け取る場合、障害退職に該当する場合などは、計算が異なることがあります。
教員が退職金を受け取る際の重要な考慮事項

退職金を受け取る際は、金額だけでなく、受け取り方や税務手続きも確認しておく必要があります。
特に、退職金や企業年金、確定拠出年金の受け取り方を選べる制度の場合は、税金や生活設計への影響を踏まえて判断しましょう。
退職金の受け取り方法|一時金・年金・併用を確認する
退職金や退職給付の主な受け取り方は、次の3種類です。
- 一時金として受け取る(一括)
- 年金として受け取る(分割)
- 一時金と年金を組み合わせて受け取る(併用)
一時金として受け取る場合は、退職所得として扱われ、退職所得控除を利用できます。また、退職所得は原則として他の所得と分けて課税されます。
年金形式で受け取る場合は、制度によって雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象となる場合があります。
ただし、どの受け取り方を選べるかは勤務先や制度によって異なります。公立・私立を問わず、退職前に受取方法の選択肢を確認しておきましょう。
一時金と年金のどちらが有利かは人によって変わる
退職金の受け取り方を選べる場合、「一時金と年金のどちらが有利なのか」と悩む方もいるでしょう。
結論として、どちらが有利かは退職金の金額、他の年金収入、退職後の生活費、税金、社会保険料、運用方針によって変わります。
| 受け取り方 | 主なメリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 一時金 | 退職所得控除を使える。住宅ローン返済や大きな支出に充てやすい。 | まとまった資金を短期間で使いすぎるリスクがある。 |
| 年金 | 毎月・毎年の収入として受け取りやすく、使いすぎを防ぎやすい。 | 雑所得として課税される場合があり、公的年金や他の所得との合算に注意が必要。 |
| 併用 | 一時的な支出と長期の生活費の両方に備えやすい。 | 制度によって選択できない場合がある。税金や社会保険料の試算も必要。 |
退職金を住宅ローンの完済やリフォーム費用に使う予定があるなら、一時金のメリットが大きくなることがあります。一方で、毎月の生活費を安定させたい場合は、年金形式や一部年金形式が合う場合もあります。
受取方法を選ぶ前に、退職後の収入・支出・税金・社会保険料を簡単に試算しておくと判断しやすくなります。
退職金を受け取る際の税務手続きで注意したいこと
退職金を一時金で受け取る場合、通常は退職金の支払いを受けるまでに、勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。
この申告書を提出している場合、退職金にかかる所得税と復興特別所得税は、勤務先が源泉徴収で計算します。そのため、原則として退職金について確定申告は不要です。
一方で、申告書を提出していない場合は、退職金の支給額に20.42%を掛けた所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。この場合、確定申告で精算する必要があります。
また、医療費控除や寄附金控除、住宅ローン控除などを利用するために確定申告を行う場合は、退職所得の金額も申告書に記載する必要があります。
さらに、iDeCoや企業型DCなどの確定拠出年金を一時金で受け取る予定がある場合は注意が必要です。退職金と近い時期に受け取ると、退職所得控除額の計算が調整されることがあります。
退職前に確認したい書類・情報
- 退職手当の見込額
- 退職金の支給予定日
- 退職所得の受給に関する申告書の提出有無
- 退職所得の源泉徴収票
- iDeCo・企業型DCなど一時金の受取予定
- 退職後に確定申告が必要かどうか
複数の退職金や確定拠出年金の一時金を受け取る場合は、税務署や税理士に相談して、受け取り時期と税額を確認しておくと安心です。
退職金のこと、誰に相談する?
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教員は退職金の管理を誰に相談するべきか
退職金は、受け取った後の管理方法によって老後資金の持ちが大きく変わります。
退職金をどう使うか迷う場合は、内容に応じて相談先を分けるとスムーズです。
| 相談したい内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 退職金の支給額・手続き | 勤務先、教育委員会、学校法人の担当部署 |
| 税金・確定申告 | 税務署、税理士 |
| 年金・繰下げ受給 | 年金事務所、社会保険労務士、FPなど |
| 退職金の運用・管理 | 資産運用の専門家、金融機関、FPなど |
まずは勤務先で退職金の見込額と支給時期を確認し、そのうえで税金や運用について必要に応じて専門家へ相談するとよいでしょう。
退職金を活用する方法|すぐ使うお金と運用するお金を分ける
退職金を受け取ったら、最初に「すぐ使うお金」と「しばらく使わないお金」を分けて考えましょう。
主な退職金の使い道として、次のような例があります。
- 生活費や医療・介護費に備える
- 住宅ローンを繰上げ返済する
- 年金を繰下げ受給するための生活費に充てる
- 預貯金で安全性を重視して管理する
- 株式や投資信託などで運用する
- 保険商品で保障を確保しながら備える
退職金のすべてを運用に回す必要はありません。生活費や近い将来使う予定がある資金は、預貯金など値動きの小さい方法で管理するのが基本です。
一方で、当面使う予定のない資金については、投資信託や株式などで運用を検討する選択肢もあります。
保険商品を活用する場合は、保障内容だけでなく、解約返戻金、手数料、為替リスク、途中解約時の条件も確認しましょう。
また、公的年金の繰下げ受給を検討する場合は、繰下げ期間中の生活費を退職金で賄う方法もあります。老齢基礎年金・老齢厚生年金は66歳以後75歳まで繰下げでき、繰下げ期間に応じて年金額が増額されます。
ただし、繰下げによる増額だけでなく、税金、社会保険料、健康状態、家族構成、配偶者の年金なども踏まえて判断することが大切です。
退職金の一部で運用を検討する理由
退職後は、給与収入がなくなり、公的年金や貯蓄を取り崩しながら生活する方が多くなります。
そのため、退職金を預貯金だけで管理するのではなく、一部を運用に回すことで、資産寿命を延ばせる可能性があります。
ただし、投資には元本割れのリスクがあります。退職金を運用する場合は、生活に必要な資金を確保したうえで、余裕資金の範囲で行いましょう。
投資初心者の場合は、NISA口座を活用した長期・分散投資を検討する方法があります。
2024年以降のNISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠を併用でき、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円です。つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円で、成長投資枠のみの上限は1,200万円です。
- (注)NISAは税制上のメリットがある一方、投資商品の値下がりリスクがあります。NISA口座で生じた損失は、課税口座の利益と損益通算できず、繰越控除もできません。
どの程度を運用に回すべきか、どの商品を選ぶべきかは、退職後の生活費やリスク許容度によって異なります。
自分だけで判断が難しい場合は、複数の商品や運用方法を比較できる専門家に相談すると、退職金の使い道を整理しやすくなります。
教員の退職金は賢く活用しよう
教員の退職金は、公立か私立か、勤務先の規程、勤続年数、退職理由、役職などによって変わります。
公立学校の教員は自治体の退職手当条例等、私立学校の教員は学校法人の退職金規程や退職金団体への加入状況を確認することが大切です。
また、退職金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が適用され、所得税・復興特別所得税・住民税が差し引かれます。手取り額を把握するには、額面だけでなく税金の計算も確認しておきましょう。
退職金は、退職後の生活を支える大切な資金です。生活費、医療・介護費、住宅ローン、運用資金などに分けて考えることで、使いすぎや運用リスクを抑えやすくなります。
退職金の手続きは勤務先、税金は税務署や税理士、年金は年金事務所、運用は資産運用の専門家など、相談内容に応じて適切な相談先を選びましょう。
教員の退職金に関するQ&A
出典
文部科学省「教員研修に関係する法律(抜粋)」
人事院「退職手当の支給」
東京都例規集「職員の退職手当に関する条例」
公益財団法人私立大学退職金財団「退職資金交付事業」
公益財団法人東京都私学財団「退職資金事業」
国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(更新日:2025年4月1日)
国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」(更新日:2025年4月1日)
国税庁「No.2260 所得税の税率」(更新日:2025年4月1日)
国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(更新日:2025年4月1日)
人事院「退職手当に係る税金」
金融庁「NISAを知る:NISA特設ウェブサイト」
国税庁「No.1535 NISA制度」(更新日:2025年4月1日)
日本年金機構「年金の繰下げ受給」(更新日:2026年3月24日)

