資産運用を考えるにあたり、税金の問題は避けて通ることができない。
特に累進課税の仕組みにより巨額の課税がなされる可能性のある富裕層にとって、税金対策は極めて重要な課題である。場合によっては、税金対策こそがプライベートバンクの提供する最大の価値となることもある。
本稿では、プライベートバンクと税金の関わりについて解説していく。
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金融資産の運用に関わる税制
当たり前のことであるが、プライベートバンクを利用した場合であっても、一般的な銀行口座や証券会社を利用した場合であっても、原則として適用される税制は同一である。
日本国内に居住する者の場合、分離課税が適用される金融所得に対しては、税率20%(所得税15%、住民税5%)が課される。総合課税が適用される場合には、他の所得と合算され、15~55%(所得税5~45%、住民税10%)の範囲で課税されることとなる。
プライベートバンクを利用したからといって、特別な税制が適用されるわけではない。
プライベートバンクの提供する税金対策
プライベートバンクは、基本的に税理士と提携しており(社内に税理士を抱えている場合もある)、顧客に対して様々な税金対策を提供している。以下に、その一例を示す。
- iDeCo、NISA、扶養控除、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除等の各種税優遇措置の活用
- 生前贈与を利用した資産承継における税負担の圧縮
- 生命保険を利用した相続税や法人税の節税
- リース商品を用いた法人の節税
- 不動産の相続税評価額が市場価格より低くなることを利用した相続税の圧縮
- 資産管理会社・財団・社団法人・宗教法人・信託等を用いた節税
- 移住を含む海外への資産移転を用いた節税
大まかなイメージではあるが、①から⑦に進むにつれて、節税によって得られる金額が大きくなる一方で、実行の難易度も高まる傾向にある。
たとえば、iDeCoやNISAを活用して投資を始める程度であれば、素人であっても比較的容易に実行可能であるが、節税効果は限定的である。これに対し、節税のために海外へ移住したり、租税回避地(タックスヘイブン)に信託を設立したりする段階になると、もはや素人の手に負える範囲を超える。
それは、日本国内の法律や税制度に加えて、海外の法制度や税制にも精通する必要があることに加え、移住や海外信託の設立といった対策を実行するためには、相当な手間とコストを要するからである。
節税に関しては、必ずしもプライベートバンクに相談しなければならないというわけではなく、税理士に相談することも一つの選択肢である。しかしながら、税理士はあくまで税務の専門家であり、資産運用に関しては不得手な場合も少なくない。
たとえば、税理士の勧めで節税目的の事業投資(例:仮想通貨のマイニング事業)を行い、確かに節税にはなったものの、投資元本が仮想通貨の暴落などにより大きく毀損し、結果的に節税額以上の損失を被った、といったケースも想定される。また、日本の税理士の多くは海外の税制に関する知見を十分に持っていないのが実情である。
こうした中で、多くの顧客に対して節税対策と資産運用の両面からサポートを行ってきたプライベートバンクの出番となる。特に、大手金融機関や外資系のプライベートバンクは、海外とのネットワークを有しており、タックスヘイブンを利用した節税スキームを提供できるケースもある。
税金対策と資産運用の両面を見据えた包括的なサービスを受けられる点こそが、プライベートバンクを利用する大きなメリットである。
タックスヘイブン(租税回避地)の活用
日本国内で合法的に認められている以上の“攻めた”節税を追求するのであれば、タックスヘイブンの活用が選択肢に入ってくる。
最も単純な方法は、税率の低い国へ移住することである。たとえば、日本人に人気のあるシンガポールにおいては、法人税率は17%(日本は23.2%)、所得税の最高税率は22%(日本は所得税・住民税を合わせて55%)、株式のキャピタルゲイン課税は0%(日本は20%)、相続税・贈与税も0%(日本は最高55%)である。
所得が多く、次世代に遺すべき資産も大きい富裕層にとって、こうした税率の差は極めて大きな意味を持つ。富裕層であれば、ビザ取得、住居の確保、生活基盤の整備、現地での人脈形成といった諸々の手配をプライベートバンクに依頼することも可能である。
移住まで踏み切らなくとも、タックスヘイブンに法人、財団、信託等を設立し、母国の税務当局の影響を回避することも可能である。
しかしながら、日本を含む各国政府は、自国の税収と経済基盤を維持するため、富裕層による税逃れを抑止しようとしている。たとえ長期滞在ビザや国籍を取得して海外移住を果たしたとしても、日本に滞在する日数が多ければ、日本の居住者とみなされ、日本の税制が適用される場合がある。
また、1億円以上の有価証券等の資産を保有する一定の富裕層が国外に転出する際には、「国外転出時課税制度」により、資産を譲渡・決済したものと見なして所得税が課税される。
加えて、節税のみを目的として海外移住したとしても、言語、文化、食事の違いや家族・友人の不在などにより、異国での生活に耐えられず、最終的に日本への帰国を選ぶ富裕層も少なくない。
たとえ相応の税金を支払うことになったとしても、日本人に限らず、多くの人にとっては慣れ親しんだ母国での生活の方が幸福度は高いのではないだろうか。
もっとも、日本に居住したままタックスヘイブンに法人、財団、信託等を設立し、資産を移転した場合には、日本の税務当局から脱税と見なされるリスクもある。
タックスヘイブンの活用は、有効な節税手法である一方で、手間やコスト、さらにはリスクも決して小さくはないという点は認識しておくべきである。
なお、タックスヘイブンの活用に関しては、日系のプライベートバンクよりも、グローバルな金融市場との強固なネットワークを有する外資系プライベートバンク(主に米系やスイス系)が強みを持っている。
より“攻めた”節税を志向するのであれば、UBSやJ.P.モルガンのようなコンプライアンス意識の高い大手金融機関よりも、タックスヘイブンに拠点を置く小規模なプライベートバンクの方が、より効果的な節税提案を行うこともあるだろう。
なお、プライベートバンクとはやや異なるが、パナマの法律事務所モサック・フォンセカが関与した「パナマ文書事件」では、世界中の著名人の租税回避行為に関する機密情報が流出したことも記憶に新しい。
ただし、タックスヘイブンに拠点を置く小規模なプライベートバンクを利用する場合は、日米欧の大手金融機関のプライベートバンキング部門と比べ、コンプライアンス体制や管理体制の面でリスクが高まる点には十分な注意が必要である。
具体的には、日本の法令に抵触するような資産運用、不十分な管理による個人情報の流出、さらには資産の横領や運用ミスによる資産の毀損といったリスクが挙げられる。
- 原則として、プライベートバンクを利用したとしても、適用される税率に変更はない。
- プライベートバンクは、複雑なものを含む多様な税金対策の手法を提供してくれる。
- より“攻めた”税金対策を求める場合には、タックスヘイブン(租税回避地)の活用という選択肢も存在する。ただし、そのような手法を取ることにより、日本の税務当局から目を付けられるリスクがある点には留意すべきである。
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