プライベートバンクの担当者であるプライベートバンカーにとって、不動産は重要なプロダクトの一つである。
太古の昔から、不動産は人類社会における基本的な資産クラスであり、さまざまな金融商品が発展した現代においても、その重要性は依然として揺るがない。
本稿では、プライベートバンカーが不動産をどのような視点で取り扱っているのかについて解説していく。
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自宅もしくは事業用としての利用
いわゆる実需としての不動産である。不動産の最もシンプルな活用方法は、自宅としての取得である。顧客が事業オーナーである場合には、店舗、事務所、工場といった事業用不動産を所有していることもある。
これらについては、顧客自身がもともと保有しているケースも多く、プライベートバンカーが関与する機会は限られるだろう。
あえてプライベートバンカーが関与する可能性があるとすれば、自宅購入時の住宅ローンの融資、自宅等を担保とした不動産担保ローンの提案、事業用不動産取得に伴う事業性融資、あるいは売買における提携先不動産業者の紹介といった場面である。
しかしながら、これらの取引は件数も多くなく、銀行の融資担当者や不動産業者の業務領域に属する側面が強いと言える。
運用収益を得るための手段
不動産自体から運用収益を売ることが目的である。不動産の運用収益には、インカムゲインとキャピタルゲインの二種類がある。インカムゲインとは、土地の地代や、居住用住宅および商業テナントから得られる家賃収入を指す。一方、キャピタルゲインとは、購入した不動産を取得価格よりも高い価格で売却した場合に得られる差益である。
家賃収入については、入居者が存在する限り、比較的安定的なインカムが見込める。一方で、不動産価格そのものは市場の変動に左右されるため、キャピタルゲインが常に得られるとは限らない。不動産価格が下落すれば、売却時にキャピタルロスが発生する可能性もある。
さらに、不動産は担保として金融機関に差し入れることが可能であり、それによって借入を起こし、元本に対してレバレッジをかけた運用を行うこともできる。借入条件次第では、自己資金に対して高いリターンを得ることも可能である。
プライベートバンカーは、資産ポートフォリオ全体における株式や債券とのバランスを踏まえ、投資用不動産の取得や売却を提案していくことになる。
また、不動産は節税の手段としても活用される。典型的な例は、相続税の圧縮を目的とした不動産投資である。不動産は、実際の市場売買価格と相続税の評価基準である相続税路線価とに乖離があることが多く、一般に相続税路線価は市場価格よりも低く設定されている。
つまり、現金や有価証券のままで資産を保有していた場合には、相続時に時価で評価され、相続税が高くなる可能性がある。しかし、これらの資産を不動産に転換しておけば、総資産額は変わらなくとも、相続税評価額を低く抑えることができ、結果的に節税につながる。
このような節税目的の不動産投資では、収益性が必ずしも重視されないケースもある。
たとえば、東京都心のタワーマンションが利回り3%台という、投資対象としては一見魅力に欠ける水準であっても高値で取引されることがあるのは、節税目的や後述する資産防衛ニーズが背景にあるためである。
プライベートバンカーは、相続税対策の一環として、税理士や不動産業者と連携しながら、相続税評価額を効率的に圧縮できる不動産の提案を行うことになる。
資産防衛のための手段
自然災害、戦争、政変といった地政学的リスクに対するリスクヘッジとして、居住地以外の不動産に投資を行うケースもある。
特に、政情が不安定な新興国や独裁国家に住む富裕層にとっては、政治情勢の変化に伴う母国資産の価格暴落、さらには資産の没収や身柄の拘束といったリスクは深刻な問題であり、そのため資産防衛手段としての海外不動産投資に対する関心が極めて高い。
例えば中国の場合、個人による不動産の「所有権」は認められておらず、実際に売買可能なのは「土地使用権」に限られる。中国における土地の所有権は、すべて国家に帰属している。
土地使用権には通常20~70年の年限が設定されており、満期を迎えた場合には、現状では地方政府に更新料を支払うことで使用継続が可能とされている。
もっとも、将来的に土地使用権の更新が確実に認められる保証はなく、また更新料の水準が適切に設定されるかどうかについても、その時々の政府の方針次第である点に不安が残る。
投資対象として人気が高い国・地域には、政情が安定しており、外国人による不動産所有が認められていること、不動産取引に関する法制度やインフラが整備されていること、経済的に安定し、不動産からの収益が見込めることなどの条件が求められる。これらすべての条件を満たす国は実際には限られている。
世界的に見れば、自国民にすら土地所有権を認めていない中国をはじめとして、外国人による土地所有を制限している国の方が多数派である。特に発展途上国においては、外国資本による土地買収が国土の支配につながりかねないとの懸念から、外国人による土地取得には慎重な姿勢を取る傾向が強い。
具体的に人気のある投資先としては、米国、英国、日本、オーストラリア、シンガポール、ドバイなどが挙げられる。概して、西側諸国の先進的な民主主義国家が好まれる傾向にあるが、シンガポールやドバイのように、政治体制は強権的であっても、金融センターとして明確な国家戦略を持つ国・地域も高い評価を受けている。
投資リターンの観点から言えば、東南アジアやアフリカなどの高成長が見込まれる新興国の方が期待リターンは高いが、外国人の不動産所有が制限されていたり、取引の透明性が低くリスクが大きかったりすることから、資産防衛の観点では適さないケースも多い。
プライベートバンカーは、各国の不動産市況、法制度、税制度、さらには顧客の母国と投資先国との政治的関係など、さまざまな要素を総合的に検討したうえで、資産防衛に適した不動産を提案することになる。
例えば、新興国の富裕層に対しては、世界最大の経済力と軍事力を有する米国の不動産を提案する。また、中国の富裕層に対しては、欧米よりも地理的・文化的に近く、かつ外国人にも所有権が認められている東京の不動産を紹介するといった具合である。
- 自宅、事務所、店舗、工場といった実需目的の不動産の売買や管理においては、プライベートバンカーの関与は限定的である。
- 資産運用における不動産の役割は、インカムゲイン(賃料収入)、キャピタルゲイン(売買差益)、および節税効果に集約される。
- 不動産は地政学的リスクに対するリスクヘッジ手段としても活用されることがある。
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