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世界各国の経済環境を把握することの重要性

つみたてNISAの口座数の推移などを眺めていると、日本でも着実に個人投資家のすそ野が広がっていることが分かる。来年から新しいNISAの登場によって現在の非課税投資制度が拡充されることから、更に投資文化は広がっていくだろう。

資産運用にあたり、多くの投資家が世界中に分散投資をする投資信託を活用しているが、日本を含む先進国と新興国の株式に投資するインデックスファンドが設定日から5年足らずで総資産額が1兆円を超えた。

今回は世界各国の経済環境をまとめていきたいと思う。

目次

賃金上昇は続くのか?

 まずは日本についてみてみよう。8月に入って発表された、いくつかの経済指標を参照する。

厚生労働省が発表した2023年の民間主要企業春季賃上げ要求・妥協状況によると、賃上げ率(加重平均)は3.6%と1993年に記録した3.89%以来、30年ぶりの高水準となった。すべての読者が実感しているとは限らないが、春闘以降にメディアでは日本の高い賃上げ率が報じられていることは記憶にあるだろう。

 しかし、一方で厚生労働省が発表した6月の毎月勤労統計調査によれば、実質賃金指数は前年同月比-1.6%となり、15か月連続のマイナスとなった。名目賃金に該当する1人あたりの現金給与総額が18か月連続でプラスとなっていることから、日本では賃金上昇が物価上昇の速度に追い付いていないことが分かる。

 その結果、総務省が発表した6月の家計調査によれば、物価変動を調整した実質消費支出は前年同月比-4.2%と4か月連続でマイナスとなっており、このまま賃金上昇が物価上昇の速度に追い付かなければ、景気の下押し圧力となるだろう。

 私は昨年末から政策次第では日本は再びデフレ経済に戻るという懸念を示しており、執筆時点ではデフレとは縁遠い状況にあるように思われるかもしれないが、大幅な賃上げが今年限りの特異な現象で終わってしまえば、十分あり得るシナリオだと考えている。

ポイントは来年以降も今年同様の賃上げ率が継続していくかどうか、ということになろう。

再び物価上昇が再加速するのか?

つぎに米国経済だ。労働省が発表した7月の消費者物価指数は前年同月比+3.2%と13か月ぶりに加速した。加速したといっても事前予想は同+3.3%だったので、思っていたよりは伸びなかった、という受け止め方もできるだろう。

2022年6月には同+9.1%と歴史的な高水準を記録しており、そこから見れば米国のインフレはだいぶ落ち着いたともいえる。しかし、インフレを退治するために異例なほどのスピードで政策金利を引き上げてきており、インフレが落ち着く一方で急速な利上げの副作用を心配すべき局面になってきた。

労働省が発表した7月の雇用統計によると非農業部門雇用者数の前月比は3か月移動平均で21万8,000人増と2021年1月以来の低水準となっており、失業率は事前予想の3.3%を下回る3.2%となっている。

また、平均時給は同+4.4%と事前予想の+4.2%を上回っており、米国の労働市場では人手不足感や賃金上昇圧力は強い。

執筆時点では市場は来年の5月に利下げ局面に入ると予測しているが、労働市場のひっ迫感やロシアやサウジアラビアなど産油国の減産を背景とした原油価格の上昇など、利下げに踏み切れなくなる潜在的な要因も依然として存在している。

米国経済においてはソフトランディング期待が高まっているが、経済指標をみる限りは楽観視しすぎるのも危険だといえるだろう。

消費はインフレ次第

 欧州経済を見る場合、ユーロ圏に加盟する各国や英国など、複数の国をみていくのが重要だが、紙幅も限られているため、本項ではユーロ圏全体をみていこう。

欧州連合(EU)統計局が発表した7月のユーロ圏消費者信頼感指数(速報値)は-15.1となった。昨年9月に-28.8と統計開始以来の最低水準を記録してからV字回復となっている。

この背景には前述の米国と同様、欧州でもインフレがピークアウトしてきたからと考えられる。昨年後半に前年同月比で10%を超えていたインフレ率は足元では5%台まで鈍化している。言うまでもなく平時に比べれば依然として高い水準にはあるが、それでもインフレのピークアウトは実質所得の回復を家計に感じさせているだろう。

また、高いインフレ率に対して家計の消費がそこまで落ち込んでいない理由に、こちらも米国同様に強制貯蓄の存在がある。強制貯蓄とは、コロナ禍において外出抑制の影響で消費が落ち込む一方で、財政出動によって給付金などが振り込まれることによって、一時的に貯蓄が増えたことを指している。

 しかし、ピーク時は年間消費額の8%近くの金額があった強制貯蓄も高インフレの前にどんどんと削られていき、早ければ年内にも底をつくという試算がある。

これは米国でも同様の状況にあるが、米国よりもインフレ率が高い水準にある欧州では強い逆風となるだろう。

積極的な景気対策が打てない理由

 最後にみるのは中国経済だ。最新のデータにあたる2023年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.3%となった。非常に高い成長率のようにみえるが、これは昨年の4~6月期がちょうど上海でロックダウンが行われていた期間であったため、その反動で強い数字になったと考えた方がいい。

事前予想は同+7.0%を超える数字だったため、やはり足元の中国経済は強いとは考えない方がよいだろう。

 中国国家統計局が発表した7月の消費者物価指数は前年同月比-0.3%と2021年2月以来、2年5か月ぶりにマイナスとなった。7月の生産者物価指数は同-4.4%と10か月連続のマイナスとなっており、世界各国が高いインフレ率に直面しているなか、中国はデフレに突入しようとしている。

 需要不足に対して、国務院傘下のシンクタンクは消費券の配布などで消費意欲を高めることを提言しているが、仮に一律で消費券を配布した場合は所得格差が大きい中国においては富裕層に対する非難が噴出することが考えられる。

一方で、低所得者層に絞って配布しようとしても、14億人以上もいる国民のすべての所得を把握できていないなかで、迅速に配布することもできない、という中国独特の事情がある。

 現時点では中央銀行にあたる中国人民銀行が預金準備率や中期貸出制度といった政策手段を活用して景気対策をするとしているが、どのタイミングで巨額の財政出動がなされるかがポイントになるであろう。

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※本コラムは情報提供を目的としたものであり、個別銘柄の推奨や、金融商品の紹介、周旋を行うものではございません。

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執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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