現在、日本の消費者物価伸び率は2%を超えており、日本経済はインフレーションに直面していると考えられる。
消費者物価伸び率が中央銀行の目標とする2%を上回るのは2014年以来実に8年ぶりの出来事である。
本記事では、現在のインフレーションはどういった事象に起因して発生したもので、どのような性質をもつものなのか、日本経済にとって好ましいと見なされるインフレーションと、そうでないとされるインフレーションの間にはどのような差異があるのか、消費者物価指数が世界各国で上昇し、中央銀行が金利上昇に踏み切るなかで、日本銀行はなぜ現在の金利を維持し続け、金融緩和を継続しているのかといった事項について考察を行う。
現在のインフレーションはなぜ発生しているのか
総務省が今年の8月19日に公表した消費者物価指数によると、2022年7月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比2.4%(6月:同2.2%)となり、上昇率は前月から0.2ポイント拡大した。
こうした状態を鑑みると、日本経済は現在、モノやサービスの価格が全体的に継続して上昇している、いわゆるインフレーションの状態にあると考えられる。
では、現在のインフレーションは、何を契機にして発生したもので、どのような性質を持つものなのだろうか。
IMF(国際通貨基金)の見通しによれば、現在のインフレーションはウクライナ危機に起因する商品・エネルギー価格の高騰に加え、供給網の混乱による需給の不均衡、労働市場の人手不足などが影響して発生したとされる。
日本はたくさんのモノを輸入して自国の経済を成り立たせているため、現在のように貿易先が有事の状態に陥った際にそうしたモノの供給が減ると、国内でのモノの価格は他国と比べて上がりやすくなる。
また、石油などのエネルギー資源も輸入に頼っているため、資源価格が値上がりしてしまうと、モノを運ぶための輸送コストの高騰が引き起こされ、結果として価格の上昇に繋がる。
現在のように何らかの要因によって輸入品価格が上昇すれば、日本においてはとりわけインフレーションが発生する可能性が他国と比べて高まってしまう。
今回のインフレーションの性質は、原材料や資源価格の上昇など、供給サイドに何らかの問題が生じたことで輸入物価の上昇などが引き起こされることによって、全体的な物価の上昇に繋がる、いわゆるコストプッシュインフレーションと呼ばれる性質のインフレーションである。
それに対して、好景気下においてモノがよく売れることで消費者の需要が市場の供給を上回り、結果としてモノの値段が上がるといったように、需要サイドに生じた要因によって引き起こされるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれる。
コストプッシュインフレとディマンドプルインフレの違いとインフレのもたらす影響
インフレーションには景気拡大を伴うために経済にとって比較的望ましいとされるインフレと、景気拡大や賃金増加に繋がらず、物価だけが上がってしまう経済にとって望ましくないインフレーションがある。
ディマンドプルインフレは景気の拡大を伴うインフレーションであると考えられる。
モノがよく売れる→需要が供給を超える→モノの値段が上がるといった形で引き起こされるインフレーションだからである。
こちらのインフレーションにおいては、需要量の増大によって物価上昇が引き起こされるため、景気の拡大を伴う。
インフレーションが行き過ぎると通貨の価値が下落し、消費者の生活が苦しくなることに繋がるが、景気拡大を伴うという点では物価上昇率が一定の水準に収まれば、経済にとって望ましいインフレーションであるとも言える。
今回、日本経済が直面しているのはコストプッシュインフレーションと呼ばれるものである。具体的には、原材料や資源価格の上昇による資源インフレーション、いわゆる供給サイドの要因によって引き起こされたインフレであり、資源の多くを輸入に頼る日本では、原材料や資源価格の上昇は家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、経済全体に悪影響を与える。
そのため、景気拡大や賃金の増加に繋がらないまま物価だけが上がってしまう可能性の高いインフレーションであり、ディマンドプルインフレーションと比べると経済的には好ましくないインフレーションであると言える。
また、インフレーションのもたらす影響として他に考えられるのは例えば下記の2つである。
第一に、インフレーションが継続的に続くと消費者に信じさせることができる場合は、現時点でモノを購入するほうが将来の時点よりも安く買えるという消費者が予測する可能性が高まるために、モノの需要が刺激されて景気拡大に繋がると考えられる。
副産物的な効果として、インフレーションの結果、物価上昇に応じて賃金の額面も上昇する場合、実質的にはお金とモノの交換価値は変わらなくても、消費者に自身が以前よりも経済的に裕福になったと錯覚させる効果が生まれ、更に需要が刺激される可能性もある。
第二に、インフレには物価が上がってから実際に給料が上がるまでに時差が生じるという問題がある。
物価は海外との貿易によって絶えず変動するが、労働者の受け取る給料はほとんどの場合年度初めに定められた年俸が月毎に分割されて支払われる形態を取るため、物価上昇に応じて自身の給料が上昇するまでには一年以上のブランクが空いてしまうと考えられる。
そのため、物価の上昇比率と給料の上昇比率が均衡していたとしても、生じた時差に影響を受け、実質的には家計にとって損になってしまうという問題がある。
日本銀行がインフレの抑制に動けないのはなぜなのか
前述のように、現在のようなコストプッシュインフレは日本経済に対して悪影響をもたらすものであるならば、なぜ日本銀行は金利を上昇させることで金融引締めを行い、インフレーションの抑制に動かないのだろうか。
その理由は大きくわけて3つあると考えられる。
第一に、国債利払い費の問題が挙げられる。
財務省によれば、令和4年度における国債の加重平均金利は1%程度であり、公債残高は1026兆円にも達する。
そのため、国債の利払い費は現在約10兆円の計算になるが、例えばインフレーション引き締めのために金利を1%跳ね上げれば、利払い費は約20兆円にも達してしまい、約10兆円も増加してしまう。
公債残高が他国と比べても圧倒的に高い日本では、インフレーション抑制のために利上げに踏み込むことは結果的に経済に大きくダメージを与えてしまう状況にある。
第二に、コストプッシュインフレを抑制したことでもたらされる景気後退を許容する余裕が、現状の日本経済にない可能性が高いことが挙げられる。
現在のように物価は上がっているが賃金上昇や景気拡大に繋がっていない環境下において金利が急速に上昇すれば、需要の大幅減速および成長鈍化が引き起こされ、その結果景気が後退してしまう。
日本経済の成長率が1%前後で推移している現状において、更に成長が鈍化すれば、大量倒産や大量リストラに直面してしまう可能性が高い。
最後に、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、金融緩和継続を日本銀行が約束していることが挙げられる。
2022年7月分は2020年基準で消費者物価指数が2,4%上昇し、8月は2.7%上昇した。
今後もこの推移で一定の期間インフレーションが進む場合は、例えば10年国債利回りの上昇を一定程度容認するなど、日本銀行が金融引き締めに動く可能性も考えられる。
しかし、安定的に2%を超えているかどうかを判断するのは日本銀行であり、諸外国の中央銀行が利上げを行う中でも日本銀行は追従しなかったことからも、直近で利上げに動く可能性は高くないと思われる。
実際は、前述のように国債利払い費の問題があるため、アメリカのように物価上昇率が7%を上回るなど2%から大きく乖離するインフレ率でなければ金融引締めに動くことはできないであろう。
しかしながら、今回のインフレーションはコストプッシュインフレであるため、現在利上げによりインフレを抑制しようとしているアメリカも、利上げによって需要の大幅減速及び成長鈍化に直面すると予想される。
景気が減退すれば利上げから利下げに転じる可能性が高く、結果的にドルの価値が下落すれば相対的な円の価値は高まる。
円高になれば円に対してのモノの価値が下がるため、日本国内のインフレーションにも歯止めがかかると予想される。
日本銀行がインフレ抑制に動くより前に、外交上の関係により結果的にインフレが抑制されるシナリオの方が実際には遥かに現実的であるだろう。
- 参考:ニッセイ基礎研究所(斎藤太郎)「消費者物価(全国22年7月)-上昇品目の割合は7割を超える」
- 参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国為替相場情報2021年末及び年間平均」
- 参考:NRI(木内登英)「急速に進んだ円の巻き戻し」
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