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日銀総裁人事に注目が集まる理由とは?

日銀総裁人事に注目が集まっている。日本経済新聞が6日の早朝に「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診 政府・与党が最終調整」という記事を配信して、株式市場や為替相場が大きく動いたが、その後に状況が一変。

雨宮氏が固辞したという報道がなされたあとに、黒田総裁の後任として経済学者の植田和男氏を候補とする人事案が国会で提示された。

普段は一部の人を除けば、日銀の人事や金融政策にはそこまで大きな関心が払われることはないが、どうも今回の日銀総裁人事については注目が集まっている印象を受ける。その背景などについて解説をしていこう。

目次

なぜ日銀総裁人事に注目が集まるのか

なぜ、今回の日銀総裁人事に注目が集まるのか。従来は5年間の任期である日銀総裁の座を2期にわたり務めた黒田体制のもとで行われた異次元の金融緩和。この10年間で日本経済が再び成長路線に乗ることがなかったため、メディアや識者からは金融緩和の失敗や副作用を指摘する声が多く聞こえる。

筆者は金融政策だけで景気対策をするのは無理で、財政政策とあわせて行わなければならないと考えているが、どうも景気対策全体を俯瞰せずに、日銀の金融緩和だけに焦点を当てて批判的な指摘が多いことに違和感を覚えるが、これだけ総裁人事に注目が集まるところをみると、どうやら批判的な感想を持つ国民が相当数いるのだろう。

新たな総裁によって異次元の金融緩和の出口戦略が取られることに対する期待感があるのかもしれない。

その観点からすれば、総裁が誰になるのか、ということよりも、アベノミクスの1本の矢として掲げられていた「大胆な金融政策」を代表する異次元の金融緩和が継続されるのか、それとも出口戦略がとられるのか、という点にこそ注目が集まっていると考えた方がよいのかもしれない。

植田総裁という人事案をどう見るか

このように書いてはみたものの、やはり判断するのは人であるため、ここでは植田総裁という人事案についてみてみよう。仮に植田氏が黒田総裁の後任に就任すると、戦後では初めての学者出身となる。かつては日銀の生え抜きと大蔵省(現・財務省)OBが交互に総裁に就くという、いわゆる「たすきがけ人事」が行われていましたが、このような謎の習慣から脱却出来たことはよかったのではなかろうか。

海外に目を向ければ、既に学者出身の中央銀行総裁という例は多い。米国のFRBではノーベル経済学賞を取ったバーナンキや、イエレン財務長官などが学者出身のFRB議長だ。

植田総裁案が発表されてから植田氏を知る人々のコメントも紹介されているが、学者であるため、経済学の理論は理解しているのは当然として、マーケットのことも理解しており、国民にも分かりやすく説明が出来るという指摘がある。

実際に過去には「大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる」という書籍も出されており、金融政策決定会合の後の会見などでの発信内容には期待がかかる。

同時に発表された副総裁人事をみると、日銀理事の内田氏、前金融庁長官の氷見野氏が提示されており、勝手な印象としては氷見野氏が金融システム全体のリスク管理をしながら、内田氏が政策周りを整え、植田氏がバランスを取るような布陣なのかというのが筆者の第一印象であった。

メディアやSNSの情報には注意

 日銀総裁人事に注目が集まっているため、様々な情報がメディアやSNSで発信されているが、それらの情報には注意した方がいいだろう。

たとえば、日銀が2000年8月にゼロ金利政策の解除を決定した際に植田氏は反対票を投じていたことを取り出して、植田氏がいわゆるハト派であり、黒田路線を継続するとの指摘もあるが、次の会合では賛成票を投じていることから、8月の行動だけを切り抜いて報じたり、そこだけを参考にして今後を予測するのはあまりにも雑である。

 また、過去の発言や著作などから考え方や価値観を探るという行為はよいことではあるが、当時と現在ではマクロ経済の環境も、国際情勢も何もかもが違うということも付言しておきたい。よくマクロ経済を語る際に、過去のデータを用いながら現在と比較をしていく手法があるが、注意しなければならないのは、本当に比較している両時点の環境に変化はないのかという視点も持つことだ。

たとえば、30年前と現在の物価や消費などを比較するにしても、ネット環境やスマホなどのデバイスには大きな違いがあり、ただデータという数字の大きさや伸び率だけを比較していると見方を誤るのだ。

日銀にだけ責任を負わせる違和感

 今回の総裁人事に関する報道をみていると、国会に提示された人事案を報じる際に、淡々と事実だけを述べるのではなく、最後に「早々に出口戦略が求められる」などという私見が追記されているケースが多い。

もちろん、報道機関は事実だけを報じなくてはいけないわけではなく、社としての見解を記すことは当然なのかもしれないが、私たち読者は思考停止したまま文字情報を受け取るのは避けた方がいい。

 前述の通り、景気対策は金融政策と財政政策を両輪で動かしていかなければならない。この10年の日本経済の停滞を日銀だけの責任にするのは間違っているし、総裁が変わるから金融政策も変えなくてはいけないということはない。

マクロ環境を分析したうえで、財政政策と金融政策をそれぞれどのようにするのが最適なのかを判断すべきであり、私たちも常にその観点から関連ニュースを見なければならない。

 これらの観点を頭に入れたうえで、総裁人事の今後と、総裁就任後における最初の発信を見るようにすると、これまでとは一味違ったかたちでニュースを見ることが出来るだろう。

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※本コラムは情報提供を目的としたものであり、個別銘柄の推奨や、金融商品の紹介、周旋を行うものではございません。

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執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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