- 経営者に向いている資産運用の考え方が知りたい
- 本業に支障を出さずにリスクを管理したい
- 資産運用の相談前に確認すべきことを知りたい
「事業が安定してきたので、個人として受け取った役員報酬や配当の一部を運用したい」と考えている経営者の方は多いだろう。
一方で、会社の運転資金や納税資金を、個人の資産運用と同じ感覚で投資に回すのは避けたい。法人名義の余裕資金を運用する場合は、会計・税務・資金繰りへの影響を別途確認する必要がある。
本記事では、経営者個人の資産運用を前提に、運用を始める理由、おすすめの考え方、リスク管理、税金の注意点を解説する。
これを読めば、本業に支障を出さず、リスクを抑えながら資産形成を進めるための基本が理解できるだろう。
経営者が資産運用をする理由|事業リスクとインフレに備える

経営者は、事業の安定化、資金調達、人材確保、取引先対応など、多くの課題を抱えている。
そのため、会社の経営に集中するあまり、自分自身や家族の資産形成が後回しになるケースも少なくない。
しかし、経営者ほど収入や資産が事業に偏りやすい。事業が順調なときこそ、個人資産をどう守り、どう増やすかを考えておくことが重要だ。
経営者が資産運用をするべき理由
経営者が資産運用を検討すべき理由は、主に以下の2点である。
- 事業に万が一のことがあったときの生活防衛資金を確保するため
- インフレによる現金価値の目減りに備えるため
事業は、景気、顧客ニーズ、競合、取引先、資金繰り、人材採用など、さまざまな要因に左右される。
仮に事業の売上が一時的に落ち込んだり、経営環境が大きく変わったりした場合でも、個人資産がある程度確保されていれば、生活の選択肢を保ちやすい。
また、再び事業に挑戦する場合や、家族の生活を守る場合にも、会社とは切り離した個人資産は大きな支えになる。
もう一つの理由は、インフレ対策である。総務省統計局の消費者物価指数では、2026年3月分の総合指数は2020年を100として112.7、前年同月比は1.5%の上昇となっている。
物価が上がると、同じ金額の現金で買えるものは少なくなる。預貯金として現金を持つことは大切だが、すべてを現金のまま置いておくと、購買力が少しずつ低下する可能性がある。
そのため、経営者個人の資産については、現金・投資・保険・不動産などを目的に応じて分け、インフレにも備えた資産管理を考える必要がある。
資産運用の基本的な考え方|本業に支障を出さない設計にする
経営者が資産運用を行う際は、「本業に支障を出さないこと」を最優先に考えたい。
具体的には、以下の3点を押さえておこう。
- 会社の運転資金・納税資金と、個人の運用資金を分ける
- 当面使う予定のある資金は投資に回さない
- 短期売買よりも、長期保有・積立・分散を中心にする
株式のデイトレードやFXなど、短期で売買を繰り返す手法は、市場やチャートの変化が気になりやすい。判断回数も多く、本業の意思決定に影響する可能性がある。
一方で、投資信託や株式を長期で保有する運用スタイルであれば、短期売買に比べて日々の確認負担を抑えやすい。
ただし、長期運用でも完全に放置してよいわけではない。投資目的や資産配分が変わっていないか、年に1回程度は確認するとよいだろう。
経営者の資産運用では、「利益を最大化すること」だけでなく、「本業のリズムを崩さず継続できること」が重要である。
証券アナリスト 平行秀経営者にとって資産運用は、事業と同じく“継続性”と“効率性”が鍵です。短期的な利益を狙うよりも、本業に集中できる仕組みを作り、長期的に続けられる運用方法を選ぶことが大切です。
経営者におすすめの運用法|投資信託を軸にリスク許容度で調整する


経営者が資産運用を始める際は、いきなり商品を選ぶのではなく、まず運用目的とリスク許容度を整理することが大切だ。
「高いリターンを狙いたい」「大きな値下がりは避けたい」「相続や退職後の生活資金も考えたい」など、目的によって選ぶべき資産は変わる。
ここでは、高いリターンを求める場合、安定を重視する場合、多忙な経営者に向いている投資先の選び方を解説する。
高いリターンを求めるなら株式比率を高める選択肢がある
高いリターンを求める場合は、株式など価格変動の大きい資産の比率を高める戦略が考えられる。
資産運用におけるリスクとは、期待した結果から上下にぶれる可能性を指す。値動きが大きい資産は、大きなリターンを得られる可能性がある一方で、大きく下落する可能性もある。
比較的リスクが大きい資産としては、株式やハイイールド債が挙げられる。
ハイイールド債とは、信用力が相対的に低い発行体の債券であり、その分、高い利回りが設定されやすい債券のことだ。利回りが高い一方で、発行体の信用状態が悪化した場合には価格が大きく下落する可能性がある。
経営者の場合、本業そのものが景気や業界環境の影響を受ける。個人の運用でもリスクを取りすぎると、事業と個人資産の両方が同時に悪化する可能性があるため注意したい。
高いリターンを狙う場合でも、1つの銘柄や1つの資産に集中させず、投資信託などを使って分散することが基本となる。
安定志向なら債券やバランス型の投資信託を検討する
大きな値下がりを避けたい場合は、債券やバランス型の投資信託を中心に検討するとよい。
債券は、株式に比べて値動きが小さい傾向がある。ただし、すべての債券が低リスクというわけではない。社債には発行体の信用リスクがあり、外国債券には為替変動リスクもある。
特に個人向け国債は、満期時の元本の返済や半年ごとの利子の支払いを国が行う商品であり、元本割れしない商品設計となっている。大きく増やす商品ではないが、安全性を重視する資金の置き場として検討しやすい。
一方で、債券だけに偏ると、期待できるリターンは大きくなりにくい。物価上昇が続く局面では、利回りがインフレに追いつかない可能性もある。
そのため、安定志向であっても、債券だけでなく株式を一部組み入れたバランス型の投資信託を検討すると、守りと成長のバランスを取りやすい。



安定性を重視する場合でも、物価上昇への備えは必要です。低リスク資産だけでなく、長期的な成長を期待できる資産も少し取り入れることで、資産価値を守る工夫につながります。
経営者に向いている投資先と選び方
多忙な経営者が資産運用を続けるうえでは、投資信託の活用が現実的な選択肢になりやすい。
投資信託とは、多くの投資家から集めた資金を、運用会社が株式や債券などに投資して運用する金融商品である。
1つの商品で複数の資産や銘柄に分散できるため、自分で個別銘柄を細かく売買するよりも、運用にかかる手間を抑えやすい。
| 投資先 | 向いているケース | 確認したい注意点 |
|---|---|---|
| 投資信託 | 手間を抑えながら分散投資したい場合 | 投資対象、信託報酬、運用方針を確認する |
| 株式 | 高いリターンを狙いたい場合 | 値動きが大きく、銘柄集中リスクがある |
| 債券・個人向け国債 | 安定性を重視したい場合 | 利回りが低い場合、インフレに追いつかない可能性がある |
| ハイイールド債 | 利回りを重視したい場合 | 発行体の信用リスクが高く、価格変動も大きくなりやすい |
投資信託を選ぶ際は、過去の運用成績だけで判断しないことが重要だ。
投資対象が株式中心なのか、債券中心なのか、国内資産なのか海外資産なのかによって、値動きの大きさは変わる。また、信託報酬などのコストも長期運用では無視できない。
積極的にリターンを狙う場合は、株式比率の高い投資信託を検討できる。一方で、値動きの大きさを抑えたい場合は、株式と債券を組み合わせたバランス型の投資信託が選択肢になる。
大切なのは、自分のリスク許容度に合う商品を選ぶことだ。許容できる下落幅、運用期間、資金を使う予定の時期を整理したうえで投資先を決めよう。



投資信託は商品数が多いため、リスク・リターンのバランス、自分の投資目的に合っているかを見極めることが重要です。運用成績だけでなく、投資対象や手数料にも注意を払いましょう。
経営者の資産運用におけるリスク管理


資産運用を行ううえで、リスクを完全になくすことはできない。
重要なのは、許容できない損失を避けながら、長く続けられる運用の仕組みを作ることだ。
ここでは、資産運用におけるリスク管理の方法、税金の仕組み、専門家に相談する前に整理したいことを解説する。
リスク管理の基本は「長期・積立・分散」
資産運用でリスクを抑えるための基本は、「長期・積立・分散」である。
これらはリスクをなくす方法ではないが、価格変動と付き合いながら資産形成を続けるために有効な考え方だ。
- 長期投資:短期的な値動きに左右されすぎず、時間をかけて運用する
- 積立投資:一度にまとめて買わず、一定額を継続的に投資する
- 分散投資:資産・地域・通貨・時間を分けて投資する
長期投資では、投資で得た利益を再び投資に回すことで、複利効果を活かしやすくなる。
ただし、長期で保有すれば必ず利益が出るわけではない。運用対象の内容や市場環境によっては損失が出る可能性もあるため、余裕資金で取り組むことが前提だ。
積立投資は、価格が高いときにも安いときにも一定額を買い続ける方法である。購入タイミングを一度に集中させないため、高値づかみのリスクを抑えやすい。
ただし、投資対象の価格が長く下落し続ける場合は、積立投資でも損失が発生する。
分散投資では、値動きが異なる複数の資産を組み合わせる。例えば、株式だけでなく債券を組み入れたり、日本だけでなく海外資産にも分散したりすることで、特定の資産が下落したときの影響を抑えやすくなる。
経営者の場合、事業そのものが大きなリスクを抱えていることも多い。個人資産では、事業と同じ方向に偏りすぎない資産配分を意識しよう。



複利の効果を活かすには、時間を味方につけることが重要です。相場が大きく動いたときも慌てずに済むよう、事業資金や生活資金とは別の余裕資金で、無理のない範囲から続けましょう。
税金の仕組みとNISAの活用法
資産運用を行う際は、税金についても理解しておきたい。
上場株式等の配当金・分配金や譲渡益は、原則として20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%+住民税5%)の税率で課税される。
例えば100万円の利益が発生した場合、20.315%課税であれば税額は203,150円となる。
証券会社で「源泉徴収ありの特定口座」を選択している場合、その口座内の上場株式等の譲渡による所得は申告不要とすることができ、税金は源泉徴収される。
ただし、他の口座の譲渡損益と相殺する場合や、損失の繰越控除を受ける場合などは、確定申告が必要となる。
「一般口座」や「源泉徴収なしの特定口座」を利用している場合も、原則として確定申告が必要になるため注意しよう。
また、経営者の場合は、自社株、非上場株式、大口株主として受け取る配当、法人名義での運用など、一般的な個人投資とは税務上の扱いが異なるケースがある。
特に事業承継や相続も関係する場合は、投資判断だけでなく税理士などの専門家に確認することが大切だ。
個人の上場株式・投資信託の税金対策としては、NISAの活用が有力な選択肢となる。
NISAとは、一定の投資枠内で購入した金融商品から得られる売却益や配当・分配金が非課税になる制度である。
2024年からのNISAでは、年間投資枠は「つみたて投資枠」120万円と「成長投資枠」240万円の合計360万円となっている。非課税保有限度額は1,800万円で、そのうち成長投資枠は1,200万円が上限である。
非課税保有期間は無期限で、制度も恒久化されているため、長期運用と相性がよい。
一方で、NISA口座で損失が出た場合、他の特定口座や一般口座の利益と損益通算することはできない。損失の繰越控除もできないため、NISAを使えば必ず有利になるわけではない点に注意が必要だ。
また、NISAは個人の制度であり、法人名義の資金運用には利用できない。会社資金の運用を検討する場合は、別途、税務・会計・資金繰りの観点から確認しよう。



NISAは、長期的な資産形成を後押しする制度です。ただし、非課税メリットだけで商品を選ぶのではなく、投資対象・リスク・手数料を確認したうえで活用しましょう。
資産運用の相談前に整理したいこと
経営者は、個人資産、会社資金、自社株、退職金、相続・事業承継など、お金に関する論点が複雑になりやすい。
資産運用の専門家に相談する場合は、以下の点を事前に整理しておくと、提案内容を比較しやすくなる。
- 運用する資金が個人資産なのか、法人資金なのか
- その資金をいつ使う予定があるのか
- どの程度の値下がりまでなら許容できるのか
- 提案商品の手数料や報酬体系は明確か
- 税理士や顧問会計士との連携が必要な内容か
専門家に相談するメリットは、商品を選んでもらうことだけではない。資産全体の整理、リスク許容度の確認、税務や相続を含めた長期的な見直しを行いやすくなる点にもある。
一方で、提案をそのまま受け入れるのではなく、費用、リスク、運用方針、利益相反の有無を確認し、自分でも納得したうえで判断することが重要だ。
資産運用、誰に相談する?
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経営者の資産運用は安全性とリターンの両立を目指そう
経営者が資産運用を行う場合、本業が忙しい中でも続けられる運用設計が重要となる。
まずは会社の運転資金、納税資金、生活資金、個人の運用資金を分け、当面使う予定のない資金で運用を始めよう。
そのうえで、リスク・リターンのバランスに注目し、自身のリスク許容度に合った投資先を選ぶことが大切だ。



経営者の資産運用では、“本業に支障をきたさない設計”が基本です。自動化しやすい積立投資や投資信託を活用しながら、無理なく続けられる仕組みを整えましょう。
多忙な中で資産運用を進める場合は、必要に応じて資産運用の専門家や税理士に相談するのも選択肢の一つである。
相談する際は、運用目的、資金の使い道、許容できるリスク、手数料を整理しておくと、提案内容を判断しやすくなる。
よくある質問
出典
総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)3月分及び2025年度(令和7年度)平均」(公開日:2026年4月24日)
金融庁「NISAを利用する皆さまへ」
金融庁「資産形成の基本」
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「投資の時間|投資のはじめ方」
財務省「広報誌『ファイナンス』2026年1月号 Future TALK」(公開日:2026年1月6日)
国税庁「No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」(更新日:2025年4月1日)
国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(更新日:2025年4月1日)
国税庁「No.1476 特定口座制度」(更新日:2025年4月1日)

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