年金と貯金で最後まで足りるのか、旅行や孫へのお祝いにお金を使ってよいのか。そう迷ったことはありませんか?
退職や再雇用で給与が減ると、生活費の一部を貯金から出す暮らしが始まります。通帳の残高が減るのを見るたびに、使うのをためらってしまう。かといって、使わないまま年を重ねるのも心残りです。
けれども、使ってよい額は計算で出せます。必要なのは、年金で足りない毎月の額と、何歳まで持たせたいか、年に数回の大きな出費です。手元の資産から逆算すれば、毎月いくらまで使えるかもわかります。
よく聞く「老後資金2,000万円」※は、平均的な家計から出した数字です。自分の年金と支出で計算し、長生きや物価の上昇を入れても足りるかを確かめておけば、旅行や援助に回せる額も決められます。
この記事で紹介するのは、試算に入れる数字の出し方、運用しない場合とする場合の計算方法、前提を変えたときの結果です。年金を受け取るまでの期間や、子どもへの援助がある場合の試算もまとめました。ご自身の数字で試算するときの参考にしてください。
- 2,000万円で何歳まで暮らせるか
- 毎月いくらまで使えるかの計算方法
- 物価が上がると資産が尽きる年齢
- 年金を繰り下げたときの貯金の減り方
※金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループの報告書(2019年6月)で示された数字です。高齢夫婦の無職世帯で毎月約5万円が不足すると、30年で約2,000万円を取り崩す計算になります。
老後資金の取り崩しが怖いのは自分の数字でシミュレーションしていないから
貯金を取り崩すのが怖い理由は、多くの場合、自分がいくら使ってよいのかを知らないことにあります。三井住友信託銀行のミライ研のアンケートでも、60代が老後資金に不安を感じる理由のトップは「老後の生活費の水準が分からないから」でした。使うのが怖くなる理由を分けると、どれも自分の数字がないことにつながっています。
平均の2,000万円と自分の貯金を比べている
「老後資金は2,000万円必要」と聞くと、2,000万円に届いていれば安心、届いていなければ足りないと考えてしまいます。
けれども、この数字は平均的な家計の収支から出したものです。金融庁の報告書は、高齢夫婦の無職世帯で毎月約5万円の不足が続くと、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取り崩しが必要になると試算しています。この試算には、老人ホームなどの介護費用や住宅のリフォーム費用は含まれていません。
平均の不足額も、年によって変わります。総務省の家計調査(2025年)では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の不足額は月42,434円でした。この額で30年分を計算すると約1,528万円となり、2,000万円より約470万円少なくなります。つまり、平均の数字と自分の貯金を比べても、自分の家計で足りるかどうかはわかりません。
年に数回の大きな出費がいくらになるか読めない
毎月の生活費は通帳を見ればわかります。一方で、見通せないのは、家の修繕や車の買い替え、介護のように、何年かに一度まとまって出ていくお金です。
介護を例にとると、生命保険文化センターの調査(2024年度)では、住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時的な費用が平均47.2万円、月々の費用が平均9.0万円、介護の期間は平均55.0か月でした。平均どおりなら合計で約540万円です。大きな出費を見込んでいないと、いくら残しておけばよいかがわからず、今あるお金も使えなくなってしまいます。
残高が減っていくのを見るのが怖い
それなら、計算で足りるとわかれば安心して使えるはずです。ところが、計算上は足りていても、資産が減ること自体に抵抗を感じる人は少なくありません。MUFG資産形成研究所は、取り崩しの壁として「ここまで積み上げてきた資産が減少すること自体への抵抗感」と、「使っているうちに途中で枯渇してしまうのではないかという恐れ」を挙げています。同研究所が引く全国家計構造調査でも、世帯主の保有資産額は60〜64歳でピークを迎えた後、思ったほど減っていません。
残高が減っても怖くないのは、「この額までなら減っても計画どおり」と言える基準があるときです。どの理由も、自分の年金と支出で試算すれば答えが出ます。必要な額、毎月使える額、資産が何年持つかは、同じ計算を別の方向から見たものです。試算に入れる数字は、ねんきん定期便と通帳があればそろいます。
試算に入れる数字の出し方
試算に入れるのは、年金の手取り額、毎月の生活費、年に数回の大きな出費、使える資産です。次の表は、65歳の夫婦を例にした記入例です。この記事の試算は、以降もこの例をもとに進めます。
| 入れる数字 | 確かめる方法 | 記入例(夫婦とも65歳) |
|---|---|---|
| 年金の手取り(月額) | ねんきん定期便の見込み額から、税金・社会保険料を引いた額 | 22万円 |
| 毎月の生活費 | 通帳・クレジットカードの明細の、ここ数か月の平均 | 27万円 |
| 年金で足りない額(月額) | 生活費−年金の手取り | 5万円 |
| 大きな出費の取り置き | 家の修繕・車・介護などの合計 | 500万円 |
| 資産 | 預貯金と投資信託などの合計 | 2,000万円 |
| 取り崩しに使える資産 | 資産−大きな出費の取り置き | 1,500万円 |
※ 記入例は仮の数字。
年金は手取り額で入れる
年金の額は、ねんきん定期便に書かれた見込み額をそのまま入れたくなります。けれども、年金からは所得税・住民税、介護保険料、健康保険料が引かれます。家計調査(2025年)の夫婦のみの無職世帯では、税金と社会保険料が月32,850円でした。
額面のまま入れると、年金を毎月3万円ほど多く見積もってしまいます。記入例の夫婦なら、本当は月5万円足りないのに、2万円しか足りないように見えてしまうのです。年金は、振り込まれる手取り額で入れましょう。
見込み額を確かめるなら、ねんきん定期便かねんきんネットが手軽です。参考までに、2026年4月分からの年金額は、国民年金(満額)が1人月70,608円、厚生年金を含む夫婦2人分の標準的な額が月237,279円となっています。自営業などで国民年金だけの夫婦は、2人でも月14万円ほどです。
年金を受け取る時期を65歳より遅らせる繰下げや、早める繰上げを考えている場合は、受け取り始める年齢も入れておきます。年金を受け取るまでの期間は、生活費の多くを資産から出すことになるためです。
生活費は通帳の実績から出す
生活費には、税金と社会保険料を除いた毎月の支出の平均を入れます。家計調査(2025年)の平均は、夫婦のみの無職世帯で月263,979円、単身の無職世帯で月148,445円でした。平均は目安にとどめ、通帳やカードの明細から出した自分の数字を入れましょう。
旅行や趣味にいくら使いたいかも、ここで決めておきます。生命保険文化センターの調査(2025年度)では、夫婦2人で「ゆとりある老後生活費」は月39.1万円で、最低日常生活費の23.9万円に15.2万円を上乗せした額でした。上乗せ分の使い道で最も多かったのは「旅行やレジャー」(59.5%)です。旅行を毎年の楽しみにするなら、その分も生活費に含めて試算します。
大きな出費は老後の合計で取り置く
家の修繕、車の買い替え、介護の費用は、毎月の生活費とは別に、老後の合計額で見積もって取り置きます。記入例では、介護の平均約540万円を目安に500万円としました。持ち家の外壁や屋根の修繕、車の買い替えを予定しているなら、その分を足します。
取り置いたお金は、試算の資産から除いておきましょう。毎月の取り崩しと混ざると、大きな出費があった年に計画が崩れてしまうためです。
資産は取り崩しに使える分だけ入れる
資産には、預貯金と投資信託・株式などの合計から、大きな出費の取り置きを除いた額を入れます。自宅など、住み続ける限り現金にならないものは入れません。退職金は、住宅ローンの返済などに使う予定があればその分を引きます。
野村アセットマネジメントの調査(2025年10月)では、50代以上の約2割が、自分の保有金融資産額を把握していませんでした。口座が複数に分かれている場合は、取引のある銀行や証券会社の残高を書き出すところから始めましょう。数字がそろえば、資産が何年持つかは割り算でも出せます。
運用なし・運用ありで老後資金が何年持つかを計算する
運用しない場合は割り算で、運用する場合は利回りを入れた計算で、資産が何年持つかがわかります。記入例の夫婦なら、運用しなければ90歳、年1%で運用できれば93歳まで持つ計算です。
運用しない場合は割り算で出す
運用しない場合の式は、次のとおりです。
持つ年数=取り崩しに使える資産÷(年金で足りない月額×12か月)
記入例では、1,500万円÷(5万円×12か月)=25年です。65歳から取り崩すと、90歳で資産が尽きる計算です。
必要な額を出すときは、同じ式を逆に使います。95歳まで持たせたいなら、5万円×12か月×30年=1,800万円に、大きな出費の取り置き500万円を足した2,300万円が必要です。
記入例の夫婦は2,000万円を持っていますが、95歳まで持たせるには300万円足りません。30年分の不足額1,800万円に、大きな出費の500万円が上乗せされるためです。平均の2,000万円に届いていても、足りるとは限りません。
運用する場合は利回りで持つ年数が延びる
取り崩しながら運用を続けると、残っている資産に運用益がつきます。年1%では大きく変わらないように思えますが、記入例の1,500万円なら、持つ年数は25年から28.8年へ約4年延びます。元本と毎月の取り崩し額、利回りの組み合わせごとに計算した、資産が持つ年数は次の表のとおりです。
| 元本 | 毎月の取り崩し | 運用しない | 年1% | 年2% | 年3% |
|---|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 5万円 | 16.7年 | 18.2年 | 20.2年 | 23.1年 |
| 1,000万円 | 10万円 | 8.3年 | 8.7年 | 9.1年 | 9.6年 |
| 1,500万円 | 5万円 | 25.0年 | 28.8年 | 34.7年 | 46.2年 |
| 1,500万円 | 10万円 | 12.5年 | 13.3年 | 14.3年 | 15.7年 |
| 2,000万円 | 5万円 | 33.3年 | 40.5年 | 54.9年 | 減らない |
| 2,000万円 | 10万円 | 16.7年 | 18.2年 | 20.2年 | 23.1年 |
| 3,000万円 | 5万円 | 50.0年 | 69.3年 | 減らない | 減らない |
| 3,000万円 | 10万円 | 25.0年 | 28.8年 | 34.7年 | 46.2年 |
※ 毎月同じ額を取り崩し、利回りは毎年一定、月ごとの複利で計算。税金・手数料は含まない。「減らない」は、毎月の運用益が取り崩す額と同じかそれ以上になり、100年以上持つ状態。将来の運用成果を示すものではない。
Excelを使う場合は、NPER関数で持つ月数を出せます。記入例なら「=NPER(1%/12,-5,1500)」で約346か月、つまり約28.8年です。65歳から取り崩すと93歳まで持ちます。
持たせたい年齢から毎月使える額を逆算する
何歳まで持たせたいかを先に決めると、資産から毎月取り崩せる額がわかります。Excelなら「=PMT(1%/12,360,-1500)」と入れると、95歳まで持たせる場合に毎月取り崩せる額(約4.8万円)が出ます。
| 持たせたい年齢 | 運用しない場合に取り崩せる額 | 年1%の場合に取り崩せる額 | 年1%の場合の生活費の上限 |
|---|---|---|---|
| 90歳(25年) | 月5.0万円 | 月5.6万円 | 月27.6万円 |
| 95歳(30年) | 月4.1万円 | 月4.8万円 | 月26.8万円 |
| 100歳(35年) | 月3.5万円 | 月4.2万円 | 月26.2万円 |
※ 取り崩しに使える資産1,500万円、65歳から取り崩す例。生活費の上限は、年金の手取り22万円に取り崩せる額を足した額。1,000円未満は切り捨て。
95歳まで持たせるなら、年1%で運用できても生活費は月26.8万円までです。今の27万円から月2,000円ほど減らせば、95歳まで持つ計算になります。
【試算】老後資金は何歳まで持つ?
年金・生活費・資産を入れると、資産が尽きる年齢と、持たせたい年齢までに使える生活費の上限がわかります。年金を受け取るまでの期間がある場合も計算でき、わからない数字は「わからない」を選べば例の数字で計算します。
試算に入れる利回りは控えめにする
表を見ると、年3%で運用できれば2,000万円は毎月5万円取り崩しても減りません。ただし、この3%は税金と手数料を引いた後の利回りです。特定口座で運用益が出た場合、利益には20.315%の税金がかかります。投資信託の信託報酬も毎年差し引かれるため、利回りはこれらを引いた後の数字で入れます。
しかも、運用の成績は毎年変わり、損失が出る年もあるのです。取り崩しを始めた直後に大きく値下がりすると、試算より早く資産が減ってしまいます。試算には0〜1%程度の控えめな利回りを入れ、2%以上は「うまくいった場合」の確認に使いましょう。
取り崩す額を毎月同じにするか、残高の一定割合にするかでも、資産の減り方は変わります。定額と定率の違いは、投資信託の取り崩し方(定額・定率)で詳しく紹介しています。
記入例は、毎年同じ利回りで、生活費も大きな出費も予定どおりという前提です。前提が1つ変わると、結果はどれくらい変わるのでしょうか。
長生きや物価の上昇で資産が尽きる年齢はどう変わるか
前提を1つ変えるだけで、資産が尽きる年齢が10年以上早まることもあります。記入例の夫婦(年1%で93歳まで持つ)で、前提を1つずつ変えて計算しました。
| 変えた前提 | 資産が尽きる年齢 | 記入例と比べて |
|---|---|---|
| 変えない(記入例) | 93歳 | — |
| 運用しない | 90歳 | 3年早い |
| 年2%で運用できた | 99歳 | 6年遅い |
| 生活費が年2%、年金の手取りが年1%ずつ増える | 82歳 | 11年早い |
| 取り置きを超える出費が500万円ある | 83歳 | 10年早い |
| 生活費が月3万円増える | 81歳 | 12年早い |
※ 取り崩しに使える資産1,500万円、年金の手取り22万円、生活費27万円、65歳から取り崩す例。取り置きを超える出費は、65歳時点で資産から出したものとして計算。
何歳まで持たせるかは90歳・95歳・100歳で比べる
厚生労働省の簡易生命表(2025年)によると、65歳の平均余命は男性19.68年、女性24.52年です。65歳の女性なら平均で89歳まで生きる計算になり、90歳まで持てば足りるように思えます。けれども、生まれた女性の2人に1人(50.8%)は90歳まで生き、男性でも26.7%が90歳を迎えます。
そのため、夫婦のどちらかが長生きする場合に備えるなら、平均余命より長い95歳か100歳まで持つかを確かめておきましょう。記入例では、93歳で資産が尽きてしまいます。95歳まで持たせるには、生活費を月26.8万円までに抑える必要があります。
物価が上がると必要な生活費が毎年増える
物価が上がると、同じ暮らしを続けるための生活費も増えます。年金額も物価や賃金に合わせて改定され、2026年度は国民年金が1.9%、厚生年金が2.0%引き上げられました。年金も同じように増えるなら、試算は変わらないように見えます。ただし、年金の改定率が物価の上昇率と同じになるとは限りません。
たとえば、生活費が毎年2%ずつ増え、年金の手取りが1%ずつしか増えない場合、年金で足りない額は年々大きくなります。65歳で月5万円だった不足は、75歳には月約8.6万円まで増えてしまいます。資産が尽きる年齢は、93歳から82歳へ11年早まる計算です。
運用の成績が想定を下回る年が続く場合
運用の成績も、試算どおりに進むとは限りません。取り崩しを始めてすぐに相場が下がると、値下がりした資産を売って生活費に充てることになります。値下がりした後に売ると、同じ金額を得るためにより多くの資産を手放すことになり、試算より早く資産が減ってしまいます。
反対に、数年分の生活費を預金で持っておけば、相場が下がった時期に投資信託を売る必要はありません。手元に残す現金と運用に回す額の決め方は、60代の資産配分の決め方で紹介しています。相場が大きく下がったときの対応は、取り崩し中の暴落への備え方にまとめています。
ここまでは、65歳から年金を受け取る夫婦の例でした。年金を受け取るまでの期間がある場合や、家族への援助を考えている場合は、どう変わるのでしょうか。
ケース別に老後資金の取り崩しをシミュレーションする
同じ資産でも、年金を受け取るまでの期間や援助の有無によって、資産が尽きる年齢は大きく変わります。よくあるケースを、年1%で運用する前提で試算しました。
| ケース | 前提 | 資産が尽きる年齢 | 見直すこと |
|---|---|---|---|
| ①60歳から再雇用 | 60〜65歳は再雇用の手取り19万円、生活費27万円。取り崩しに使える資産1,500万円 | 84歳 | 年金を受け取るまでの取り崩し額 |
| ②年金を70歳まで繰り下げ | 夫の年金(手取り15万円)を70歳まで繰り下げ、妻の年金(7万円)は65歳から。70歳からの手取りは合計27万円と仮定 | 尽きない(70歳時点の残高347万円) | 繰り下げる間の手元資金 |
| ③子と孫を援助 | 資産3,000万円(取り置き500万円)から、子の住宅購入に500万円、孫の教育費に年20万円を10年援助 | 100歳 | 援助の総額を、試算で余る額の範囲にする |
| ④ひとり暮らし・賃貸 | 年金の手取り12万円、生活費17万円(家賃6万円を含む)。資産1,200万円のうち介護に約540万円を取り置く | 76歳 | 住まいの費用と働く期間 |
※ いずれも仮の例。利回りは年1%で毎年一定、税金・手数料・物価上昇は含まない。
ケース①60歳から再雇用で働き年金は65歳から受け取る
60歳で定年を迎え、65歳まで再雇用で働く場合です。働いて収入があるうちは、資産はあまり減らないように思えます。ところが、再雇用で手取りが月19万円に下がると、生活費27万円に対して月8万円が足りません。65歳までの5年間で、取り崩す額は480万円になります。
65歳の時点で資産は約1,085万円に減り、その後は月5万円の不足を取り崩して84歳で尽きる計算です。65歳から取り崩す記入例より、9年早く尽きる結果になりました。
なお、再雇用で賃金が60歳時点の75%未満に下がった場合、雇用保険から高年齢雇用継続給付を受け取れます。2025年4月以降は、支給率が最大で賃金の10%に縮小されました。退職金がなく、60歳以降に働かない場合は、生活費の全額を資産から出すことになります。生活費27万円なら5年で1,620万円が必要で、記入例の資産では65歳を迎える前に尽きてしまいます。
ケース②年金を繰り下げて貯金から生活費を出す
年金は、65歳より後に受け取り始めると、1か月遅らせるごとに0.7%増えます。70歳まで遅らせると42%、75歳までなら84%の増額です(1952年4月2日以後生まれの場合)。
一方で、年金を繰り下げると、受け取り始めるまでの間に貯金が大きく減ってしまいます。夫の年金を70歳まで繰り下げると、65〜70歳の間は妻の年金7万円だけで暮らすことになり、月20万円を資産から取り崩します。70歳時点の残高は約347万円です。
その代わり、70歳からは年金の手取りが増え、この例では生活費を年金でまかなえるため、資産はそれ以上減りません。65歳から受け取る記入例では、70歳時点の残高は約1,269万円ありますが、93歳で尽きてしまいます。86歳までは65歳から受け取るほうが残高は多いものの、87歳からは繰り下げたほうが多く残ります。
ただし、繰り下げた年金の手取りは、額面ほどは増えません。年金が増えると、税金や社会保険料も増えるためです。配偶者がいて加給年金を受け取れる人は、繰り下げている間は加給年金を受け取れず、繰り下げても加給年金は増えません。早く亡くなった場合は、受け取る年金の総額が65歳から受け取るより少なくなってしまいます。
ケース③子や孫を援助しながら自分の老後資金を残す
子どもや孫への援助は、自分の老後資金の試算で余る額の範囲で決めましょう。資産3,000万円のうち500万円を大きな出費に取り置くと、取り崩しに使える資産は2,500万円です。月5万円の不足を95歳まで取り崩すのに必要な額は、年1%の運用で約1,555万円。残りの約945万円が、援助に回せる額の目安です。子の住宅購入に500万円、孫の教育費に年20万円を10年援助しても、合計700万円は目安の範囲に収まり、資産は100歳まで持つ計算です。
同じ700万円を、資産2,000万円の記入例の夫婦が援助すると、資産は79歳で尽きてしまいます。記入例では95歳まで持たせるだけで資産がほぼ足りず、援助に回せる余りがないためです。
援助の渡し方にも注意しましょう。親から子や孫へ、生活費や教育費として必要な都度直接渡すお金には、贈与税はかかりません。一方、生活費や教育費の名目でも、預金したり株式や不動産の購入に充てたりすると、贈与税の対象になります。まとまった額を渡す前に税理士や税務署に確かめておけば、あとから贈与税を求められることを防げます。
ケース④ひとり暮らしで賃貸に住み介護費も見込む
ひとり暮らしの場合、家計調査(2025年)の65歳以上の単身無職世帯では、年金などの収入に対して月29,980円が不足していました。賃貸に住み続ける場合は、家賃が老後もずっと続きます。
年金の手取りが12万円、家賃6万円を含む生活費が17万円なら、不足は月5万円です。資産1,200万円のうち、介護の平均約540万円を取り置くと、取り崩しに使える資産は約660万円になり、76歳で尽きる計算です。介護の取り置きをしなければ87歳まで持ちますが、介護が必要になったときのお金が残りません。
配偶者を亡くして一人になった場合も、同じ考え方で試算し直します。年金の手取りと生活費がどちらも変わるため、夫婦のときの試算はそのまま使えません。
このように、年金を受け取り始める時期、援助の額、介護の備えのどれか1つを変えるだけで、資産が尽きる年齢は10年以上動きます。自分の家庭にどの前提が当てはまるかを決めてから試算しないと、使える額を多く見積もったり、使えるお金まで我慢したりしてしまいます。
自分の家庭に合う前提を決めるのが難しければ、年金の見込みと資産をIFAに見せて、無料で一緒に試算してもらいましょう。
\ 年金と支出に合わせて使える額がわかる /
試算の結果から使う額を決める
試算で余裕があるとわかったら使う額を1年ごとに決め、足りないとわかったら生活費・働き方・年金の受け取り方・運用の順に見直しましょう。試算は、使う額を決めてはじめて役に立ちます。
余裕がある場合は旅行や趣味に使う額を1年ごとに決める
試算で持たせたい年齢より長く資産が持つとわかったら、その分は使ってよいお金です。試算ツールに出る「生活費の上限」と今の生活費を比べれば、毎月あといくら使えるかがわかります。年にまとめた額が、旅行や趣味に使える1年分の予算になります。
とはいえ、余裕があるとわかっても、残高が減るのを見るとためらってしまうものです。1年分の予算を先に決めておけば、旅行で残高が減っても「計画どおり」と確かめられます。年に1回、年金額や残高を入れ直して、翌年の予算を決め直しましょう。
足りない場合は生活費と働き方から見直す
試算で持たせたい年齢より早く尽きるとわかると、運用で増やそうと考えがちです。けれども、記入例で比べると、生活費を月1万円減らすほうが、年2%で運用できた場合より資産は長く持ちます。
| 見直すこと | 見直した内容 | 資産が尽きる年齢 |
|---|---|---|
| 生活費 | 月1万円減らす | 102歳 |
| 働き方 | 70歳まで手取り月5万円を得る | 100歳 |
| 運用 | 年2%で運用できた | 99歳 |
| 年金の受け取り方 | 夫の年金を70歳まで繰り下げる(ケース②) | 尽きない |
※ 記入例の夫婦(取り崩しに使える資産1,500万円、不足月5万円、年1%で93歳まで持つ)をもとにした仮の計算。
生活費を月1万円減らすだけで、資産が尽きる年齢は93歳から102歳へ延びます。通信費や保険料のように毎月決まって出ていくお金から見直せば、暮らしの楽しみを削らずに済みます。運用の利回りを上げる見直しは、相場しだいで試算どおりにならないため、生活費と働き方を先に見直しましょう。
前提に迷うところはIFAに相談する
試算の式は単純なので、自分でも計算できます。けれども、何を入れるかで結果は10年以上変わります。年金をいつから受け取るか、大きな出費をいくら取り置くか、何%で運用する前提にするかは、今の資産の持ち方や家族の事情しだいです。自分一人で決めると、楽観的すぎる前提や、慎重すぎて使えない前提を置いてしまうことがあります。
前提を自分だけで決めきれないときは、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)に相談しましょう。IFAは、特定の銀行や証券会社に所属せず、提携する証券会社の商品を扱いながら資産運用の相談に乗る担当者です。年金の見込み額と保有資産をもとに、取り崩しの計画づくりから、始めた後の年1回の見直しまで、同じ担当者に相談できます。今の資産の配分で年1%の前提が合っているかも、あわせて見てもらいましょう。
相談するときは、ねんきん定期便と、口座ごとの残高がわかる画面があれば話を始められます。相談先ごとの違いは、60代の資産運用の相談先でまとめています。
老後資金の取り崩しでは、まず年金の手取りと生活費から、年金で足りない月額を出しましょう。そのうえで大きな出費を取り置き、何歳まで持つか、毎月いくら使えるかを試算します。最後に、長生きや物価の上昇を入れても足りるかを確かめ、使う額を1年ごとに決めていきます。
ご自身の年金と支出に合わせて、使える老後資金を無料相談で確かめてもらいましょう。
\ 使える老後資金をIFAと確認 /
老後資金の取り崩しに関するよくある質問
老後資金2,000万円は何年持ちますか?
毎月いくら取り崩すかで変わります。運用しない場合、毎月5万円なら33.3年、毎月10万円なら16.7年です。65歳から毎月10万円を取り崩すと、81歳で尽きる計算になります。年1%で運用できれば、毎月10万円でも18.2年持ちます。
年3%で運用できる前提で試算してもよいですか?
年3%は、税金と手数料を引いた後に毎年3%ずつ増える前提です。運用の成績は年によって変わり、損失が出る年もあります。2,000万円を毎月10万円取り崩す場合、年3%なら23.1年、運用しなければ16.7年と、前提によって6年以上変わります。生活の計画は0〜1%で立て、3%は「うまくいった場合」の確認に使いましょう。
4%ルールは日本でも使えますか?
4%ルールは、資産の4%を毎年取り崩せば30年ほど資産が持つという考え方です。もとになったのは、米国の大学教授らが1998年に発表した研究で、1926〜1995年の米国の株式・債券のデータを使っています。税金や売買の費用は計算に含まれていません。円で暮らしながら海外の資産を持つ場合は為替の影響も受けるため、4%は目安にとどめ、自分の年金と支出で試算しましょう。2,000万円の4%は年80万円、月約6.7万円です。
子どもへの援助はいくらまでなら大丈夫ですか?
決まった金額はありません。持たせたい年齢まで自分の資産が持つかを試算し、余る額の範囲で決めましょう。資産2,000万円・不足月5万円の夫婦が95歳まで持たせる場合、年1%で運用しても援助に回せる余りはほとんどありません。90歳まででよければ、余りは約170万円です。
退職金がない場合、年金を受け取るまでの生活費はどう考えればよいですか?
年金を受け取るまでの期間は、生活費の全額か、働いて得る収入で足りない分を資産から出します。まず、年金を受け取るまでに取り崩す額を出し、65歳の時点で資産がいくら残るかを確かめましょう。生活費27万円を5年間まかなうには1,620万円が必要です。65歳まで働いて手取り19万円を得られれば、取り崩す額は480万円に減ります。
出典
- 金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」(公表日:2019-06-03)
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(公表日:2026-02-06)
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 厚生労働省「令和7年簡易生命表の概況」
- 国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」(2025年度 生活保障に関する調査)
- 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度 生命保険に関する全国実態調査)
- 三井住友信託銀行「第52回 退職後のお金の不安 解消策の王道とは?」(公表日:2026-02-12)
- MUFG資産形成研究所「個人投資家のための老後出口戦略~取り崩しの壁を乗り越える~」(公表日:2025-11-25)
- 野村アセットマネジメント「Investor Insights調査に見るリタイアメント層のお金に対する考え方」
- AAII Journal “Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable”(公表日:1998-02)
