退職金の受け取りが近づき、住宅ローンを一気に返してしまうか迷ったことはありませんか?
返済予定表を見ると、完済は70代。年金生活に入っても毎月の返済が続きます。借金を残したまま年金生活に入ることに、不安を感じる方は少なくありません。
しかし、退職金で完済すれば、手元の現金は数百万円から1,000万円以上減ってしまいます。そのあとに家の修繕や介護でまとまったお金が必要になったら、どこから出せばよいのか。この不安があるから、返済に踏み切れずにいるのではないでしょうか。
こうした迷いを減らすためにも、返すかどうかは、返したあとに生活費と10年以内に使うお金が現金で残るかで決めましょう。完済したあとにお金が足りなくなっても、住宅ローンは借り直せないためです。
この記事では、返済予定表の数字を使い、全額返済・一部返済・返済を続ける場合で手元の現金がどう変わるかを、65歳の夫婦の例で計算しました。ご自身の数字を入れて計算できるツールも用意しています。退職金の使い道を決める前に参考にしてください。
- 完済したあとに手元に残す現金の目安
- 返済予定表で先に確かめる数字
- 一部だけ返すときの返し方の違い
- 返さずに運用するときのお金の分け方
※本記事の制度・金利・数値は2026年9月時点のものです。
退職金で住宅ローンを返すか運用するかは返したあとの現金で決める
退職金で住宅ローンを返すかどうかは、返したあとに手元に残る現金で決めましょう。生活費と10年以内に使うお金を先に取り分け、残りの範囲で返す額を決めれば、完済後にお金が足りなくなるのを防げます。
借金をなくす安心も現金が減る不安もどちらも本当
総務省の家計調査(2025年)では、世帯主が60〜69歳の二人以上の世帯のうち、負債がある世帯は26.5%でした。およそ4世帯に1世帯が、借入れを残したまま退職前後の時期を迎えています。
年金生活で返済が続けば、毎月の年金から返済額が出ていきます。完済すればその支出がなくなり、借金のない暮らしに入れます。早く返したいと考えるのは自然なことです。
一方で、退職金は多くの方にとって、この先まとまって入る最後のお金になります。厚生労働省の調査では、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者の退職給付は平均1,896万円でした。残高が1,000万円を超えるローンを完済すれば、退職金の半分以上がなくなってしまいます。
つまり、どちらの気持ちにも理由があります。決めきれないのは、返して得られる安心と、返して減る現金を、同じ金額の単位で比べていないためです。返したあとに手元にいくら残るかを、金額で確かめましょう。
ローン金利と運用利回りを比べるだけでは決まらない
金利1%のローンを残し、返すはずだったお金を年3%で運用できれば、毎年2%分ずつお金が増えていくように見えます。
ところが、返済を続けながら運用すると、運用しているお金から毎年の返済額が出ていきます。運用に回っているお金は年々減っていくため、増える金額は思ったほど大きくなりません。しかも、この計算は運用の収益が毎年必ず出ることを前提にしています。
これに対して、繰上返済で減る利息は、返した時点で金額が決まります。確定している金額と確定していない金額をそのまま比べても、どちらを選べばよいかは決まりません。
生活費と10年以内に使うお金を先に取り分ける
比べるときは、次の順番で金額を決めましょう。
| 順番 | 決めること | 決め方 |
|---|---|---|
| 1 | 手元に残す現金 | 年金で足りない生活費の数年分、急な出費の予備費、医療・介護の予備費、10年以内に使う予定のお金を足し上げる |
| 2 | 返済に回す額 | 退職金と預貯金の合計から1を引いた範囲で決める |
| 3 | 運用に回す額 | 返済後に残ったお金のうち、10年以上使わない分から決める |
1の金額を先に確保しておけば、返済にいくら回しても、生活費や急な出費に困ることはありません。
この記事では、次の夫婦を例に計算します。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 家族 | 夫65歳(定年退職)・妻63歳 |
| 金融資産 | 退職金(手取り)2,000万円+預貯金1,000万円=3,000万円 |
| 住宅ローン | 残高1,200万円・変動金利 年1.0%・残り10年(夫75歳で完済) |
| 毎月の返済額 | 約10.5万円(年約126万円) |
| 年金で足りない生活費 | 月5万円(ローン返済を除く) |
※ 数値はすべて記入例です。返済額は元利均等返済で計算しています。
この夫婦が手元に残す現金は、次のとおりです。
| 目的 | 金額の出し方 | 記入例 |
|---|---|---|
| 年金で足りない生活費 | 月5万円×3年分 | 180万円 |
| 急な出費の予備費 | 家電・冠婚葬祭・病気など | 100万円 |
| 医療・介護の予備費 | 夫婦2人分 | 500万円 |
| 家の修繕・車の買い替え | 10年以内の予定 | 300万円 |
| 合計(残す現金) | 1,080万円 |
※ 数値は記入例です。
目的ごとに金額を積み上げて残す現金を決める手順は、60代の資産運用ポートフォリオの決め方で、記入例と一緒に確かめられます。
【計算】住宅ローンに回せる額と残る現金を出す
ここまでの手順を、ご自身の数字に当てはめて計算できるツールを用意しました。返済予定表を見ながら質問にタップで答えると、全額返せるか、一部だけ返すか、返済を続けるかの目安と、返済に回せる額がわかります。わからない項目は、平均などの数字で計算します。
約1分・タップで答える計算
退職金で住宅ローンをいくら返せる?
- 全額返せる
- 一部だけ返す
- 返済を続ける
住宅ローンの残高はいくらですか
返済予定表の「残高」の欄です。近いものを選んでください。
今の金利は年何%ですか
返済予定表や「ご返済のお知らせ」に書かれている金利です。
あと何年で返し終わる予定ですか
返済予定表の最後の返済日までの年数です。
退職金と預貯金を合わせるといくらですか
夫婦の分を合わせた額です。退職金は手取りで考えてください。
年金だけでは、生活費が毎月いくら足りませんか
ローンの返済を除いた生活費で考えてください。
一緒に暮らしている家族は
医療・介護に備えるお金を人数分で計算します。
この先10年で予定していることは
当てはまるものをすべて選んでください。
※ 回答をもとにした目安です。手元に残す現金は、生活費の不足3年分・予備費100万円・医療介護1人250万円・10年の予定の合計です。
返す前に住宅ローンの返済予定表を確かめる
返すかどうかを考える前に、住宅ローンの返済予定表を手元に用意しましょう。返済予定表は、借入先のインターネットバンキングで見られるほか、窓口に頼めば発行してもらえます。
返済予定表で見るのは残高と金利と完済の年齢
返済予定表でまず見るのは、今の残高です。全額を返すのに必要なお金は、返済日の時点の残高に手数料を加えた額になります。
次に、金利の種類(変動金利か固定金利か)と、今の金利を確かめましょう。変動金利なら、この先の金利の動きで払う利息が変わります。
もう1つ見ておきたいのが、最後の返済日です。完済するときの年齢から、年金生活に入ってから何年返済が続くかがわかります。毎月の返済額と合わせれば、年金からいくら出ていくかも計算できます。記入例の夫婦なら、75歳まで毎月約10.5万円の返済が続きます。
変動金利なら金利が上がったときの利息を計算しておく
日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、政策金利を1.25%程度に引き上げました。2025年12月の0.75%程度、2026年6月の1.0%程度に続く引き上げです。変動金利の住宅ローンは、この動きに合わせて金利が見直されます。
もっとも、毎月の返済額はすぐには変わらないことが多く、金利が上がったことに気づかないまま返済を続けてしまうこともあります。変動金利で元利均等返済の場合、金利が変わっても返済額を5年ごとにしか見直さない「5年ルール」や、見直し後の返済額を前回の1.25倍までにする「125%ルール」を設けている銀行があるためです。
しかし、返済額が同じでも、そのうち利息にあてる部分は金利の上昇に合わせて増えています。そのぶん元金の減り方が遅くなり、完済までに払う利息は増えてしまいます。記入例の夫婦の場合、残り10年の金利ごとに計算すると次のとおりです。
| 残り10年の金利 | 毎月の返済額 | 残り10年で払う利息 |
|---|---|---|
| 年1.0%(今の金利) | 約10万5,100円 | 約61.5万円 |
| 年1.5% | 約10万7,800円 | 約93.0万円 |
| 年2.0% | 約11万400円 | 約125.0万円 |
※ 残高1,200万円・元利均等返済で、残り10年間その金利が続いた場合の試算です。5年ルールなどにより、実際の毎月の返済額は表と異なる場合があります。
金利が1%上がると、10年間に払う利息は約61.5万円から約125.0万円へと、2倍近くになります。ご自身の契約に5年ルールなどの決まりがあるかは、借入先に確かめましょう。
完済すると団体信用生命保険の保障はなくなる
多くの住宅ローンでは、団体信用生命保険(団信)に加入しています。返済の途中で契約者が亡くなったり高度障害状態になったりした場合、残っているローンが保険金で返済される仕組みです。
完済すると、この保障はなくなってしまいます。記入例の夫が70歳で亡くなった場合、返済を続けていれば残高の約615万円は保険金で返済され、妻には自宅と手元の現金が残ります。退職金で完済していれば、ローンはすでにない代わりに、返済に使った1,200万円は手元に戻りません。
配偶者に残すお金を考えるなら、団信を生命保険の一部として数えておきましょう。
住宅ローン控除を受けているなら控除額と利息を比べる
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けている場合は、年末の残高の0.7%が所得税などから差し引かれます(借入額や控除額には上限があります)。借入れから13年以内であれば、控除が続いていることがあります。
控除を受けている間に繰上返済をすると、控除の額も減ってしまいます。また、繰上返済によって最初の返済月から最後の返済月までの期間が10年未満になると、その年から先は控除を受けられなくなってしまいます。
ただ、年金生活に入ると納める所得税が少なくなり、控除の上限まで使いきれないこともあります。控除がいくら残っているかは、年末調整や確定申告の書類で確かめ、個別の判断は税務署に相談しましょう。
返済で減る利息は確定しているが運用の収益は確定していない
繰上返済で減る利息は返したときに金額が決まりますが、運用で増えるお金は決まっていません。この2つは、確かさの違うお金として分けて考えましょう。
繰上返済で減る利息を返済予定表から出す
全額を返したときに減る利息は、返済予定表の「利息」の欄を、残りの回数分だけ足した金額です。記入例の夫婦なら、残り10年で払う予定だった約61.5万円の利息がなくなり、毎月約10.5万円の返済もなくなります。金利が年2.0%まで上がる場合は、なくなる利息は約125.0万円です。
一部だけ返す場合に減る利息は、返す金額と返し方で変わります。インターネットバンキングで試算できる銀行もあり、窓口に頼めば返済予定の試算表を出してもらえます。返す額を決める前に、試算表を出してもらいましょう。
返済に使うお金を運用すると下がった年にも売ることになる
では、1,200万円を返さずに運用し、そこから毎年の返済額(約126万円)を払っていくと、10年後にいくら残るのでしょうか。値動きの違うケースで計算しました。
| ケース | 5年後の残高 | 10年後(ローン完済時)の残高 |
|---|---|---|
| 毎年3%で増えた場合 | 約701万円 | 約123万円 |
| 5年目に30%下がった場合 | 約477万円 | 9年目の返済で足りなくなり、約137万円を別のお金から払う |
| 1年目に30%下がった場合 | 約302万円 | 8年目の返済で足りなくなり、約339万円を別のお金から払う |
※ 1,200万円を運用し、毎年の初めに1年分の返済額(約126万円)を引き出した場合の試算です。下がった年以外は毎年3%で増えるとしました。税金と手数料は考慮していません。どれも仮定の数字で、将来の運用成果を示すものではありません。
毎年3%で増え続けても、ローンを払い終えたときに残るのは約123万円です。全額返済した場合(残高0円・借入れ0円)と比べて増えるのは、この金額にとどまります。返済に使うお金は年々減っていくため、運用で増える元になるお金も減っていくからです。
一方、運用を始めてすぐに30%下がると、8年目には返済のお金が足りなくなり、約339万円をほかの預貯金から払うことになってしまいます。返済は相場に関係なく毎月続くため、値下がりしている年にも資産を売って返済にあてることになってしまいます。
30%の下落は、極端な仮定ではありません。全世界の株式の値動きを表す指数(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス、米ドル建て)は、2007年10月末から2009年3月9日までに58.38%下落しました。
返さずに運用するなら返済に使うお金は現金で分けておく
返済を続けながら運用するなら、残りの返済に使うお金は、運用とは別に預金や個人向け国債で持っておきましょう。そうすれば、相場が下がった年に資産を売って返済にあてずに済みます。
ただ、そうすると運用に回せる額は増えません。返さずに手元に置いたお金が、そのまま返済用の預金になるためです。記入例の夫婦(残す現金1,080万円)で比べると、次のとおりです。
| 選び方 | 計算 | 運用に回せる額 |
|---|---|---|
| 全額返済する | 3,000万円−返済1,200万円−残す現金1,080万円 | 720万円 |
| 返済を続け、返済分を現金で持つ | 3,000万円−残す現金1,080万円−返済予定の総額約1,261万円 | 約659万円 |
返済を続けても、運用に回せる額は全額返済より約61万円少なくなります。この金額は、残り10年で払う利息と同じです。つまり、返済を続けるのは運用で増やすためではなく、いつでも使える現金と団信の保障を手元に置くための選択になります。
運用に回す分をNISAで持つかどうかは、60代からNISAを始めてよいかの判断で、ご自身の年齢と使う時期から確かめられます。
全額返済・一部返済・返済継続で手元に残る現金を比べる
全額返済・一部返済・返済継続は、何歳のときに手元の現金がいくら残るかで比べましょう。記入例の夫婦で、運用はせずに預金だけで持った場合の現金の残り方を計算しました。
| 選び方 | 65歳 | 70歳 | 75歳 | ローン残高(65歳→70歳→75歳) |
|---|---|---|---|---|
| 全額返済(1,200万円) | 1,800万円 | 1,500万円 | 1,200万円 | 0円 |
| 一部返済(600万円・期間短縮型) | 2,400万円 | 約1,485万円 | 約1,185万円 | 600万円→0円(70歳手前で完済) |
| 返済継続 | 3,000万円 | 約2,069万円 | 約1,139万円 | 1,200万円→約615万円→0円 |
※ 金融資産3,000万円から、年金で足りない生活費(年60万円)とローンの返済額を毎年差し引いた試算です。金利は年1.0%のまま、預金の利息は含めていません。
全額返済した直後の現金は1,800万円で、返済を続ける場合より1,200万円少なくなります。この数字だけを見ると、全額返済すれば老後に使えるお金もそのぶん減るように思えます。
ところが75歳になると、どの選び方でも手元の現金はほとんど変わりません。返済を続けても、同じ1,200万円を10年かけて払うことになるからです。残る現金の違いは払った利息の分だけで、全額返済のほうが約61万円多く残ります。
違いが出るのは、65歳から75歳までの間です。返済を続ける場合、70歳の時点で手元に約2,069万円ありますが、このうち約615万円はこれから返済に使うお金です。その代わり、急にまとまったお金が必要になったときは、この現金をひとまず使えます。団信の保障も残ります。
| 比べること | 全額返済 | 一部返済 | 返済継続 |
|---|---|---|---|
| 返済直後の手元の現金 | 最も少ない | 中間 | 最も多い |
| 減る利息 | 最も多い(約61.5万円) | 返す額と返し方による | なし |
| 毎月の支出 | 返済がなくなる | 返し方によって減る | 変わらない |
| 団信の保障 | なくなる | 残高の分だけ残る | 残る |
| 金利が上がったとき | 影響なし | 残高の分だけ影響する | 利息が増える |
| 合う人 | 返済後も残す現金を確保でき、団信を手放してもよい | 全額返すと残す現金が足りない | 団信や控除を残したい、金額の見えない出費が控えている |
全額返済を選べるのは返したあとも取り分けた現金が残る場合
全額返済を選べるかは、返済後の現金が、先に取り分けた金額を上回るかで決まります。記入例の夫婦と同じ1,080万円を残す場合でも、金融資産の額によって、全額返済を選べるかどうかが変わります。
| 金融資産 | 全額返済した直後の現金 | 残す現金1,080万円と比べると | 返済に回せる上限 |
|---|---|---|---|
| 3,000万円(記入例の夫婦) | 1,800万円 | 720万円多い | 1,920万円 |
| 1,800万円(退職金1,500万円+預貯金300万円) | 600万円 | 480万円足りない | 720万円 |
金融資産が1,800万円の夫婦が全額返済すると、医療・介護の予備費と修繕費を合わせた800万円にも届かなくなってしまいます。この場合は全額返済を選ばず、720万円までの一部返済か、返済継続を考えましょう。
記入例の夫婦は、全額返済しても取り分けた現金が残るので、全額返済を選べる家計です。ただ、選べる家計でも、決めることはまだ残っています。約61.5万円の利息を減らす代わりに、団信の保障と、いつでも使える約1,200万円の現金を手放してよいか。全額返済したなら、残る720万円と毎月浮く約10.5万円を、生活費の取り崩しと運用にどう分けるか。ここまで決めて、はじめて返済の方法が決まります。
完済して現金が足りなくなっても住宅ローンは借り直せない
全額返済を選べるか迷うときに確かめておきたいのが、完済したあとに現金が足りなくなった場合です。
ローンを約束どおり返している間は、残りを一度に返すよう求められることはありません。借りた人のこの権利は「期限の利益」と呼ばれ、民法で定められています。返済を続けている間は、手元の現金を自分の判断で使えるということです。
完済すると、この状態には戻れません。住宅ローンは住宅の購入や建築などのための借入れなので、あとから生活費や介護費のために借り直すことはできないためです。家を建て替えるなどで住宅ローンを組み直す場合も、たとえば【フラット35】では申込時に70歳未満であることが条件で、借入期間は「80歳−申込時の年齢」までに限られます。
完済後に現金が足りなくなると、値下がりしている運用資産を売るか、必要な支出をあきらめるかのどちらかになってしまいます。全額返済を選ぶのは、返したあとも残す現金を確保できる場合に限りましょう。確保できない場合は、一部返済か返済継続から選びましょう。
一部返済は期間短縮型と返済額軽減型で減る利息が変わる
一部だけ返す場合は、返済期間を短くする「期間短縮型」と、毎月の返済額を減らす「返済額軽減型」のどちらかを選びます。記入例の夫婦が65歳で600万円を返した場合を比べました。
| 返し方 | 毎月の返済額 | 完済の年齢 | 返したあとに払う利息 | 減る利息 |
|---|---|---|---|---|
| 期間短縮型 | 約10.5万円(変わらない) | 約70歳(4年11か月後) | 約15.0万円 | 約46.5万円 |
| 返済額軽減型 | 約5.3万円 | 75歳(変わらない) | 約30.7万円 | 約30.8万円 |
※ 残高1,200万円・金利年1.0%・残り10年のローンに、600万円を繰上返済した場合の試算です。
減る利息は期間短縮型のほうが多く、70歳前に借金がなくなります。ただし、完済までの約5年間は、毎月10.5万円の返済が続きます。
返済額軽減型は、減る利息は少なくなりますが、毎月の返済が約5.3万円に下がります。年金で足りない生活費と返済を合わせた毎月の取り崩しを小さくしたい場合は、こちらが合っています。
返す金額は、金融資産から残す現金を引いた範囲にしましょう。金融資産1,800万円の夫婦なら、返せるのは720万円までです。
返済を続けるのは利息を払ってでも現金を残したい場合
記入例の夫婦が返済を続けると、残り10年で約61.5万円の利息を払うことになります。金利が1年後に年2.0%へ上がれば、利息は約113万円に増えてしまいます。
それでも返済を続ける理由があるのは、次のような場合です。団信の保障を配偶者のために残したい。住宅ローン控除がまだ数年残っている。親の介護や子への援助など、金額の見えない出費が近く控えている。こうした事情があるなら、利息を払ってでも現金を手元に置いておく意味があります。
反対に、どれにも当てはまらず、全額返済しても残す現金を確保できるなら、返済を続けて払う利息は、使う見込みのない現金を手元に置くための費用になってしまいます。
繰上返済するときは手数料と退職金の手取りを確かめる
返済に回せる額は、手数料と税金を差し引いてから計算しましょう。額は大きくありませんが、手続きの時期によっては、予定した返済日に間に合わなくなってしまうこともあります。
繰上返済手数料と抵当権を抹消する費用
繰上返済の手数料は、借入先、手続きの方法(インターネットか窓口か)、金利の種類によって違います。【フラット35】は手数料がかからず、窓口では100万円以上、インターネットの「住・My Note」では10万円以上から一部繰上返済ができます。窓口での手続きは、返済日の1か月前までに申し出る必要があります。
一方、銀行の住宅ローンでは手数料がかかることがあり、三井住友信託銀行は次のように説明しています。
手数料の有無や金額は金融機関ごとに異なり、1〜5万円程度かかるケースもあるため、注意が必要です。
三井住友信託銀行「住宅ローンは退職金で返済するべき?メリット・デメリットや返済パターンを紹介」
ご自身の契約の手数料は、借入先で確かめましょう。
全額を返したあとは、自宅に設定されている抵当権を抹消する登記をします。登録免許税は不動産1つにつき1,000円で、土地と建物なら2,000円です。自分で法務局に申請できますが、司法書士に頼む場合は、別に1〜2万円程度の報酬がかかるのが一般的です。
返済に回せるのは退職金の手取り額から
退職金にも税金がかかるため、手取りは受け取る額より少なくなると考えがちです。しかし、退職金には勤続年数に応じた退職所得控除があります。勤続20年を超える場合の控除額は「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」です。勤続38年なら2,060万円までは控除され、退職金が2,000万円であれば所得税はかかりません。
注意したいのは、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を出していない場合です。退職金の20.42%が源泉徴収されてしまい、払いすぎた税金は確定申告で戻りますが、戻るのは翌年になります。返済に使う額は、振り込まれた手取り額をもとに計算しましょう。
退職金が振り込まれるのは、退職日から少し先になることもあります。繰上返済の申し出には期限があるため、振込日を確かめてから返済日を決めましょう。
返済予定表を持って退職金全体の使い道を相談する
返済予定表と年金の見込み額がわかれば、退職金を返済と運用にどう分けるかを専門家と一緒に計算できます。
ローンの窓口では返済と運用をまとめて比べてもらえない
繰上返済の相談なら、借入先の銀行に聞けば済むように思えます。確かにローンの窓口では、繰上返済の手続きや手数料、返済後の返済予定を教えてもらえます。ただし、返さずに運用に回した場合にどうなるかまでは、比べてもらえません。
運用の相談は、同じ銀行でも別の担当者になり、退職金を別の金融機関で受け取る場合は相手も変わります。返済と運用を別々に相談すると、それぞれの担当者の提案をつなげて考えるのは自分になってしまいます。退職金を受け取った銀行から、優遇金利の定期預金と投資信託を組み合わせたプランを勧められた場合は、退職金のセットプランの注意点で、契約前に確かめておきたい条件がわかります。
返済予定表と年金額がわかれば初回の相談で試算できる
IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)は、金融商品仲介業者として登録を受け、証券会社と提携して資産運用の相談に応じる専門家です。2026年8月末時点で679者が登録されており、そのうち約4割にあたる265者は2社以上の証券会社と提携しています(金融庁の登録一覧をもとに編集部で集計)。特定の銀行に属していないため、返済に回す額と運用に回す額を、資産全体から一緒に考えてもらえます。
相談には、住宅ローンの返済予定表、ねんきん定期便、預貯金と退職金の額がわかるものを持っていけば足ります。全額返済を選べる家計なら、返したあとに残るお金の運用と取り崩しの計画まで、選べない家計なら、一部返済の額と返し方まで、ご自身の数字で計算してもらいましょう。相談先の選び方は、60代の資産運用の相談先の選び方で、銀行・証券会社・IFAの違いから確かめられます。
資産運用ナビでは、金融機関に属さない資産運用アドバイザー(IFA)を無料でご紹介します。
\ 返済と運用の分け方をプロと決める /
退職金での住宅ローン返済についてよくある質問
NISAとの関係、夫婦で借りている場合、借換え、運用の始め方、完済後の取り崩しについて答えます。
NISAで運用しながら住宅ローンを払い続けてもよいですか?
残りの返済に使うお金と、残す現金を運用とは別に確保したうえでなら、選択肢になります。NISAは利益に税金がかからない口座で、値下がりを防ぐ仕組みではありません。返済に使うお金までNISAで運用すると、下がった年にも売って返済にあてることになってしまいます。
夫婦で借りている場合はどう考えればよいですか?
ペアローンのように夫婦それぞれが契約している場合、団信もそれぞれのローンに付いています。どちらのローンを返すかで、残る保障が変わります。どちらを先に返すかは、それぞれの残高と団信の内容を借入先で確かめてから決めましょう。
退職前に住宅ローンを借り換えたほうがよいですか?
借換えも新しい借入れになるため、年齢や収入の審査があり、退職後は条件が厳しくなってしまいます。借り換えるかどうかは、今の借入先と借換え先の条件を、手数料を含めて比べてから決めましょう。
返さずに運用に回すなら一度に投資してよいですか?
まとまったお金を一度に投資すると、直後に下がったときの損失が大きくなってしまいます。一度に買うか何回かに分けて買うかは、退職金は一括投資か分割かで、ご自身の運用額に当てはめて比べられます。
完済したあとの年金生活で毎月いくら取り崩せますか?
年金の額、生活費、残した現金と運用資産の額で変わります。資産が何歳までもつかは、老後資金の取り崩しシミュレーションで、ご自身の数字を入れて試算できます。
【まとめ】退職金で住宅ローンを返すかは残す現金を決めてから選ぶ
退職金で住宅ローンを返すかどうかは、ローンの金利と運用の利回りの比較だけでは決まりません。
生活費と10年以内に使うお金を先に取り分け、返したあとも残るなら全額返済を選べます。残らないなら、一部返済か返済継続にしましょう。全額返済を選べる場合も、減る利息と、手放す団信の保障や手元の現金を比べて決めましょう。返済を続けるなら、残りの返済に使うお金は運用とは別に持っておきましょう。
返済予定表とねんきん定期便があれば、ご自身の数字で全額返済・一部返済・返済継続を比べられます。返済と運用をまとめて見てもらえる専門家に、一度計算してもらいましょう。
\ 返済予定表をそのまま相談に使えます /
出典
- 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果の概要(二人以上の世帯)」
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(公表日:2026-09-18)
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(公表日:2025-12-19)
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(公表日:2026-06-16)
- 三菱UFJ銀行「住宅ローンの5年ルール・125%ルールについて知りたい。」
- 三井住友信託銀行「住宅ローンは退職金で返済するべき?メリット・デメリットや返済パターンを紹介」
- 国税庁「No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」
- 国税庁「繰上返済等をした場合の償還期間」
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- MSCI「MSCI ACWI Index (USD)」ファクトシート(2026年8月31日時点)
- e-Gov法令検索「民法」第136条
- 住宅金融支援機構【フラット35】「ご利用条件」
- 住宅金融支援機構「繰上返済を行うことはできますか。」
- 法務省民事局「住宅ローンを完済したことなどによって不動産の抵当権の登記を抹消するための登記申請手続について」(令和6年4月版)
- 金融庁「金融商品仲介業者登録一覧」(2026年8月31日現在)
※ 本記事は2026年9月時点の制度・金利にもとづいて作成しています。試算はすべて仮定にもとづくもので、特定の返済方法や商品を勧めるものではありません。
