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長期投資に訪れる試練

日経平均株価が33年ぶりに33,000円を超えた。全ての個人投資家がこの株高を喜んでいるかと思えば、私のもとに寄せられる声は不安の方が多い。

これだけ急に日本株が上昇すると、投資歴が長く日本株の停滞期間を実体験している投資家ほど、今回の急騰はバブルなのではないか、と不安になっている。

仮にこれがバブルだとすれば、近い将来、株式市場が暴落するわけだから、素直に株高を喜べないのだろう。今回は不安を解消するべく、いくつかの観点を示したい。

目次

バブル後最高値を更新する日経平均

 歴史的な日本株の高騰に不安を感じる気持ちは分からなくもないが、その不安を解消するためにはまず今回の高騰の背景をしっかりと理解する必要がある。

今回の日本株の上昇にはタイミングよく多くの要因が絡んでいると考えている。1つは金融政策だ。欧米がインフレ退治のために強力な金融引き締めを行う一方で、日本は金融緩和を維持している。この政策の違いが日本の株式市場への投資資金を流入させている。

また、この政策の違いが円安を招いており、それが日本経済全体にはプラスに働いていることも考慮すべきだろう。また、外国人投資家からすると円安・外貨高の状態は日本株を買いやすい状態を醸成する。

 2つ目は内需の成長期待だ。コロナが5類移行となり、国内消費が膨らむことが想定され、しかも前述した円安の影響でインバウンド消費も期待される。

 3つ目は証券取引所が割安に放置された企業に対して現状を改善すべく指示を出したことだ。PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業が多く上場している日本において、証券取引所の指示に基づいて早くも自社株買いや配当を増やすなど既にアクションを起こした企業も多く、割安修正に期待する投資家の買いも今回の上昇を後押ししたに違いない。

高まる不確実性

このように背景を理解すれば、いわゆるバブルのように根拠なく買い上げられているのではなく、しっかりと根拠があって上昇しているということが分かる。

しかし、背景を理解すると安心する気持ちが湧く一方で、これまでとは違う不安も出てくるだろう。それは、今回重なった上昇要因が逆回転をする可能性があるという不安だ。

たとえば、米国では急速で大幅な利上げの影響もあり、景気減速懸念が強まっている。市場では年内は1、2回の利上げで打ち止めになり、年明けからは利下げ局面に転じると予想する向きが多い。執筆時点ではその見通しが多数派となっている。

一方で、日本国内では止まらない物価高に対する国民の不満も高まっており、日銀内でも現在の金融緩和策に対して、一部では懐疑的な見解や否定的な見方(YCCの解除を提案)などが浮上している。仮に米国で利下げ局面に入る段階で日本が金融緩和策の一部を修正して引き締め気味に転換すれば、前述した上昇要因が逆転することになる。

また、割安に放置された日本企業が割安是正に動く流れに期待した投資資金が株式市場に流入していると前述したが、この点は株価が上昇すれば解消されていくことには留意したい。

つまり、足元で株価が急騰したことにより、既に割安感が解消された銘柄も存在しているということだ。

機械的な運用に頼る

 このように冷静に要因を分析していくと、足元の株価上昇が決してバブルではないものの、一方でこの上昇が中長期的に継続するとも思えない、という見方になってくる。

そうなると、既に投資をしている方は「いつまで保有していればいいのだろう」という疑問を持つだろうし、これから投資をしようと考えていた方は「いまから投資をしても高値掴みしてしまうかもしれない」と及び腰になってしまうかもしれない。

 しかし、どれだけ分析を重ねたとしても、将来のことを正確に言い当てることは不可能だ。いま投資をすると遅すぎるのかもしれないし、まだまだ上昇の波は続き株高の恩恵を享受できるかもしれない。結局、いくら投資のタイミングを計ったところで、最適なタイミングで投資が出来るかどうかなどは誰にも分からないのだ。

 だからこそ、タイミングを計るべく様々な分析をすることにリソースを割くのではなく、なるべく機械的に投資をして、なるべく投資に割く時間を増やさずに効率的に資産運用をするために、証券会社各社が提供している「つみたて投資」の機能を活用してほしい。

新NISAの活用 

「つみたて投資」をするのであれば、国が提供する非課税制度を活用してほしい。現在、「一般NISA」と「つみたてNISA」のどちらかを選択して活用することができるが、2024年からは両方が一体化され、しかも投資可能金額が大きく引き上げられる。

既にNISAを活用している投資家は、現状のNISAに続いて新NISAも活用すればよいが、まだ現状でNISAを活用していない方は、来年まで待った方がいいのか、という疑問がわくだろう。

 絶対に2023年のうちに現行のNISAを始めるべきだ、とまで強い言い方はしないが、現行のNISAと新NISAは別物として扱われるため、たとえば2023年のうちにつみたてNISAをはじめておけば、非課税枠が40万円多く持つことができるという事実は共有しておきたい。

 足元の日本株の上昇スピードが異様に感じるのは仕方ないことだが、それを受けて過度に舞い上がったり、不安になる必要はない。

先人たちが様々な挑戦をするなかで辿り着いた最適解の1つである「つみたて投資」という方法は、現在国が提供する非課税制度にもバックアップされており、投資未経験者にとっても投資の一歩目に選ぶ選択肢が明確に与えられている状態だ。

足元で物価上昇率が高まっている日本にも、いよいよ資産の多くを銀行口座に眠らせておくのではなく、資産の一部を投資に回す必要性が高まっている。

執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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