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新NISAの開始を前に多く寄せられる質問

最近はテレビやネット番組で「新NISA」の特集をしているのをよく目にする。

とにかくお得な制度だから利用しない手はない、とどの番組も新NISAを推している。実際に現行のNISAと比較すると、大幅に制度の内容は拡充されており、私も新NISAについては高得点を与えている。

しかし、講演のあとなどに60歳前後の方から「新NISAは若い人のための制度でしょ?」と言われることがある。果たして本当にそうなのだろうか。今回は新NISAを高齢者目線で考えてみよう。

目次

新NISAは若い人のための制度でしょ?

 新NISAが若い人のための制度だと考える人は、おそらく頭の中にターゲットイヤーファンドのような考え方が染み付いているのかもしれない。

ターゲットイヤーファンドという言葉を聞いたことがない人もいるかもしれないが、その考え方はシンプルだ。たとえば、25歳から資産運用を開始して、65歳に引退するとしよう。

すると、運用会社は25歳の時は株式の比率を高めにしたポートフォリオを組み、引退する65歳に向けて徐々にポートフォリオにおける債券の比率を高めていき、徐々に投資資産全体のリスクを低下させていくのだ。

 仮に25歳から株式だけに投資する投資信託を延々と積立投資をしてしまうと、引退間際でも投資資産の全てが株式に投資されているため、リスクが高くなってしまう。

仮に引退間際に株式市場が暴落してしまった場合、これまで長期で投資してきた成果が一瞬にして失われてしまう可能性がある。そのリスクを回避するために、年を経るごとに株式の比率を落としていくのだ。

 このようなことが頭の中に入っていると、新NISAがいくら投資家にとって有難い内容になっていたとしても、たとえば今が60歳ということであれば、いまさら制度を利用したとしても、たいした投資が出来ない、と考えてしまうのだろう。

老後2,000万円問題は今も残るのか

 たしかに、65歳で定年退職をして、80歳ぐらいで人生の幕を閉じる、ということであれば引退後の15年は年金で生活しようと考えるのも無理はない。

しかし、現在は既に「人生100年時代」という言葉が現実味を増してきている。

国立社会保障・人口問題研究所が発表している『日本の将来推計人口(令和5年推計)』によれば、日本人の平均寿命は2023年時点で男性が81.75歳、女性が87.82歳となっており、もはや90歳を超えて生きる人は全く珍しくない時代なのだ。

 仮に65歳で定年退職し、90歳まで生きると仮定して、老後生活にいくら必要なのかを計算してみよう。

公益財団法人生命保険文化センターが発表した『令和4年度生活保障に関する調査』によれば、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられている最低日常生活費は月額で23.2万円となっている。

65歳で定年退職をし、90歳まで25年間生きると仮定すると、「必要な月額23.2万円×12か月×25年」となり、その額は6,960万円となる。

しかし、これはあくまで最低日常生活費であり、ゆとりのある老後生活となると、月額は14.8万円の上乗せが必要とされており、それで計算をし直すと1億1,400万円が必要ということになる。

少し驚くかもしれない。これでは「老後2,000万円問題」ではなく、「老後1億円問題」じゃないか、と。

まず初めにやるべきことは「見える化」

 しかし、そこは安心してほしい。総務省が発表した『家計調査(令和4年)』によれば、高齢夫婦無職世帯(65歳以上)の実収入に占める社会保障給付は220,418円となっている。

つまり、年金だけで「月額220,418円×12か月×25年」の総額6,613万円はカバーできるのだ。更に、人事院が2022年4月に調査をして発表した『民間企業の退職金、企業年金

および、国家公務員の退職給付金』によれば、退職一時金と企業年金(使用者拠出分)を合わせた退職給付額は民間企業が2405.5万円、公務員は2407.0万円となっており、平均すると約2,406万円になるので、年金の合計額と退職金の平均額を足した9,019万円は先程の1億1,400万円から差し引くことができる。

そうすると、その差額は2,381万円となり、やはり老後資金は2,000万円ほど必要、ということになる。

それでは、「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」など高齢者が抱える不安を乗り切るためには何をすればいいのだろうか。

まずやるべきことは、投資より前に資産や費用の「見える化」だろう。

つまり、定年退職までに蓄えてきた金額と退職金を合計した金額のうち、

  1. 投資に充てるお金
  2. 生活費における年金の不足分に充てるお金
  3. 家の修繕費や医療費など将来必要になるお金

といった具合にお金を色分けして、自分のお金の役割とその具体的な金額を把握するのだ。

高配当銘柄でシミュレーション

 自分の資産を色分けして役割の見える化が終わったら、今度は投資に充てるお金を運用していく。今回は1つの例として、新NISAを活用して高配当銘柄に投資をする方法を考えてみよう。

 たとえば配当利回りが4%の株式を300万円買えば、年間で12万円の配当を得られるが、新NISAを活用しておけば非課税なので、12万円をそのまま手に入れることが出来る。

成長投資枠1,200万円を全て投資してしまえば、毎年の配当は48万円となる。その額は月に4万円ということになる。これだけでも年金の不足分の多くを補完できることになる。

 仮に投資をしている高配当銘柄の株価が上昇し、利回りが下がってしまったのであれば、利益確定して、他の高配当銘柄に乗り換えてもいい。新NISAは投資枠が復活するからだ。このように、新NISAは高配当銘柄への長期投資にも適した制度となっている。

 今回の記事に出てきた数字は全てシミュレーションをするために仮定として用意した数字である。当然、実際の運用に当たってはこれらのように全てが計算通りになるわけではない。

しかし、闇雲に老後に不安を抱えるのではなく、とりあえず数字を用いてシミュレーションをするだけでも不安の多くは解消し、自分が将来に向けてやるべきことが具体的になっていくのではなかろうか。

執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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