年始から急速に円安が進み、エネルギー価格も上昇するなど、投資家を取り囲む環境は激変している。足元では米国の消費者物価指数の伸び率が鈍化したことを受けて、株式市場は急騰し、ドル円相場は一気に円高方向へと転換した。
激動の1年となった2022年は多くの投資家に自分の投資スタイルを見直させる機会を与えたようだ。SNSを眺めていると自分が実践する投資スタイル以外を敵視するような発信も目にするが、何が本当に正しい投資スタイルなのだろうか。
つみたて投資を勧める理由
ここ数年で個人投資家に浸透した投資スタイルは「つみたて投資」だ。筆者も過去には『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』という書籍を上梓したこともあるが、そもそもなぜ「つみたて投資」がここまで市民権を得たのかを改めて整理しよう。
基本的につみたて投資には3つのエッセンスがあり、それは長期、つみたて、分散の3つだ。短期的に見れば株式市場は変動し続けており、その先行きを正確に予測することは誰にもできない。だからこそ、目先の株価の値動きに一喜一憂するのではなく、長期のスタンスで投資に臨もうというものだ。
そして、30年など長期での運用になると手数料の存在が後々大きなコストとなってトータルでのリターンに大きく影響を与えるため、なるべく手数料が低い投資信託を選ぶことが重要になる。
個人投資家の多くは仕事をしながら資産運用をしなくてはいけないため、終日相場に貼りつくこともできないし、3,800以上もある上場企業のなかからどの企業に投資をするか決めるために業績を調べたり、産業について分析する時間を捻出することも難しいだろう。
そこで、投資すると決めた投資信託に毎月、定額を定期的に投資するつみたて投資が向いているのだ。最後に投資信託であれば少額でも数百銘柄に分散投資されているため、リスクも分散が出来てしまう。
このような理由から、「つみたて投資」が多くの個人投資家にとっては投資スタイルにおける最適解と考えられるようになったのだ。
アクティブファンドに吹く逆風
つみたて投資を実践する個人投資家にはSNSで積極的に情報発信をしている人も多いが、一部にはつみたて投資以外の投資スタイルを敵視するような発言をする人もいる。特に目立つのはアクティブファンドへの非難だ。
一般的につみたて投資では株価指数に連動するインデックスファンドへ投資をする。当然だが、株価指数に連動するように運用すればいいインデックスファンドよりも、アナリストを抱えて優良銘柄を選び、株価指数を超えるパフォーマンスを目指すアクティブファンドの方がコストは高い。
前述の通り、長期での資産運用であればあるほど、保有期間中に差し引かれるコスト(この場合は信託報酬)は低い方が有利なため、インデックスファンドが選ばれるのは当然だ。しかし、それだけを理由にアクティブファンドが非難されるのは行き過ぎだろう。
それでは、なぜアクティブファンドが非難されるのか。それは、インデックスファンドよりもコストが高いにもかかわらず、リターンでもインデックスファンドを下回るアクティブファンドが多いという理由だ。
SNSだけを眺めていれば「アクティブファンドは悪」といった先入観を植え付けられてしまうかもしれないが、実際にはかなり良好なパフォーマンスを残しているアクティブファンドは存在しているし、筆者自身の考え方としては、投資資産の8割はインデックスファンドにつみたて投資をしつつも、残りの2割の資産はアクティブファンドに投資をしたり、余力があるなら個別銘柄に投資するなど、柔軟な考えは持っても構わないと考えているし、少なくとも他人の投資スタイルにまでケチをつけるのは野暮というものだろう。
色々なかたちでのリターン
4年ほど前にそのような記事をあるメディアに寄稿したところ、いわゆる「つみたて投資」を信奉する原理主義的な思考を持つ複数のアカウントから罵詈雑言を浴びせられたが、いまでもその記事の内容を変えようとは思わない。
投資の目的は人それぞれではあるが、多くの場合はリターンを求めることにあると考える。しかし、そのリターンというのは金銭的なものは当然のこと、それ以外にもあると考えており、それは投資をやることで政治や経済への関心が強くなり、また金融や投資などの知識も身につくということだ。
つみたて投資のメリットは資産運用をしているものの、投資に時間を取られたり、株価や経済環境の変動に一喜一憂したり、気をもまなくて済むというものがあるが、アクティブファンドや個別銘柄に投資をすると、多少なりとも投資に時間を割いて情報を収集したり分析する必要が出てくる。
それを面倒と思う人はつみたて投資一択でよいと思うが、情報収集や分析が苦ではない、好きであるという人にとっては、投資資産の一部をアクティブファンドや個別銘柄への投資に回すことは全く悪い選択肢ではないだろう。
投資スタイルは十人十色
少し愚痴っぽくなってしまったが、筆者が強調したいのは、投資スタイルは十人十色であり、自身の大事なお金を投資する以上は、他人の投資スタイルに口を出す必要はないということだ。当然、善意での助言は重要だと思うが、それはあくまで助言の範疇に収めるべきで、強制まではしてはいけない。
分かりやすいところでインデックスファンドvsアクティブファンドといった対立構造を提示したが、それ以外にもよくあるのは金融機関の営業や、FP、IFAなどを活用することへの議論だ。
当然ながら、ネット証券を使って、全て自己判断で投資をしていくことが、最もコストの低い方法である。しかし、相談をしながら投資をしたいとか、能動的に情報を取りに行く方法が分からないので、提案をしてもらいたいなど、やはりこちらも必ずしもコストが最も低い方法が最も効能が高いとは限らない。この点においても、やはりその人に最適な方法を選ぶべきなのだ。
何が自分にとって最適かを知るためには、まずはなるべく多くの選択肢を知っておく必要がある。最初から何か1つのスタイルを絶対視するのではなく、幅広いスタイルを先入観なく知る努力をしてから自分のスタイルを固めるべきだろう。