- 転職時の退職金の取り扱いについて理解したい
- 退職金が支給されるタイミングとその条件が知りたい
- 退職金のない企業とその際の対応策が知りたい
転職は人生における重要な選択の1つだ。
近年は1つの会社に生涯をかけて勤めあげる人が少なくなっており、転職も当たり前になってきている。
ただ、転職する際の退職金はどのように取り扱われるのか分からず、損をしたくなくて動けないという人もいるのではないか。
そこで本記事では、転職前に知っておきたい退職金の基本知識から計算方法、受け取りのタイミング、さらに退職金がない場合の対処法を徹底解説する。
記事の内容を理解できれば、退職金に関する疑問が解消され、転職やその後の人生設計を考えやすくなるはずだ。
転職時の退職金に関する基本知識
転職を機にこれまで勤めてきた企業を退職する場合、気になることのひとつが「退職金がもらえるのか」「どのくらいの金額になるのか」という点である。
退職金は転職後の当面の生活を支える原資ともなるため、しっかりと内容を把握しておくことが大切だ。
ここでは、退職金の計算基準や支給される平均額などの基本知識について解説していく。
退職金の計算基準
退職金は法律で定められている制度ではないため「このように計算する」という明確な基準は設けられていない。
各企業が独自で計算基準を設定し、基準にしたがって個々人の退職金支給額が決定している。
退職金の計算基準として用いられることが多いのが、以下の4つの方法だ。
定額制 | 勤続年数によって支給額を決める方法 |
---|---|
基本給連動型 | 退職時の基本給に勤続年数に応じた係数を掛け合わせて金額を算出する方法 |
ポイント制 | 基本給・勤続年数・役職・退職理由などの要素をポイント化し、ポイント数に応じて金額を算出する方法 |
別テーブル制 | 給与の賃金テーブルとは別体系で退職金算定方法を定める方法 |
各企業で退職金制度の運用ルールが異なるため、あらかじめ自分の会社の「退職金規程」などをチェックしておこう。
支給される退職金の平均額
上記の計算基準を見ても分かる通り、退職金を算出する際は勤続年数が重要な要素となる。
それでは、勤続年数によって退職金の支給額は具体的にどのくらい変化するのだろうか。
厚生労働省中央労働委員会の調査では、職種・学歴・産業で区分した「モデル退職金」を公表している。
モデル退職金とは、「学校の卒業後直ちに入社し、標準的なスピードで昇進した」というモデル条件に該当する者の退職金を指す。
以下の表は、勤続年数ごとのモデル退職金を職業・学歴別に分けてまとめたものだ。
勤続年数 | 事務・技術(総合職)・大学卒 | 事務・技術(総合職)・高校卒 | 生産・高校卒 |
---|---|---|---|
勤続3年 | 690千円 | 522千円 | 549千円 |
勤続5年 | 1,180千円 | 894千円 | 950千円 |
勤続10年 | 3,102千円 | 2,142千円 | 2,401千円 |
勤続15年 | 5,779千円 | 4,035千円 | 4,224千円 |
勤続20年 | 9,531千円 | 6,647千円 | 6,909千円 |
勤続25年 | 13,938千円 | 10,050千円 | 10,187千円 |
勤続30年 | 19,154千円 | 13,679千円 | 13,653千円 |
勤続35年 | 23,649千円 | 16,694千円 | 17,269千円 |
60歳 | 25,280千円 | 19,252千円 | 16,577千円 |
定年(65歳) | 25,639千円 | 19,712千円 | 18,397千円 |
転職を機に企業を退職する場合は、上記の表を参考に支給される金額の目安を把握しておこう。
転職時の退職金受取りタイミングと条件
転職時、新たに勤める企業からの給与が振り込まれるまでは貯蓄や退職金を元に生活することとなる。
退職金の支給を当てにしている場合、いつ受け取れるのかという点は気になるポイントと言える。
ここでは、退職金受け取りの一般的なタイミングや支給の条件について解説していく。
退職金受け取りの一般的なタイミング
退職金支給の時期について法律上の規定はなく、各企業が自由なタイミングで支給できることとなっている。
一般的には退職日以降に支払われるものの、明確な時期は各企業で対応が異なるため注意が必要だ。
一般的には退職から1〜2ヶ月程度で支給されるケースが多い。
支払い時期は就業規則等での明記が義務付けられているため、把握したい場合は事前に確認しておこう。
万が一、就業規則で定められた時期を過ぎても支給されない場合は、請求手続きを進める必要がある。
場合によっては金銭トラブルに発展する恐れがあるため、弁護士などの専門家を間に挟んで企業に請求手続きを行うと良い。
退職金支給の条件
転職時に気になるポイントのひとつとして「自分が退職金支給の対象となっているのか」という点も挙げられる。
こちらも企業によって対応が異なるが、一般的な支給の条件を把握しておこう。
一般的な退職金支給の条件は、以下の通りだ。
- 自己都合退職の場合
- 勤続年数3年以上
- 会社都合退職の場合
- 勤続年数にかかわらず支給
先ほど紹介した中央労働委員会による調査では、退職一時金の受給に必要な勤続年数についても調査を行っている。
以下の表は、退職一時金の受給資格を満たすための勤続年数について、調査対象企業(146社)の回答結果をまとめたものだ。
会社都合・自己都合のそれぞれの退職で場合分けしているので、確認してほしい。
年数 | 会社都合(定年を含む) | 自己都合 |
---|---|---|
1年未満 | 81社 | 11社 |
1年以上2年未満 | 43社 | 35社 |
2年以上3年未満 | 6社 | 22社 |
3年以上 | 16社 | 74社 |
会社都合の退職の場合、勤続年数が「1年未満」でも支給する企業が過半数となっている。
一方、自己都合退職の場合は半数以上の企業が「3年以上」で受給資格を満たすと回答している。
転職の場合は基本的に自己都合退職として処理されるため、勤続年数が短いと退職金が支給されない可能性がある。
会社に勤めてから短期間で転職を行う際は、退職金がもらえない可能性も考慮しておこう。
ただし、セクハラやパワハラなどの各種ハラスメントが原因で会社を辞め、違う企業に転職するケースは会社都合となることが多い。
会社がハラスメントがあった事実を認めることで会社都合にすることができる。
もしハラスメントを受けていたのであれば、できるだけ客観的な証拠を集めておくと良い。
転職の際に気を付けたい!退職金受け取り時の注意点
退職金を受け取る際には、税金面にも注意が必要だ。額面通りの金額がそのまま支給されるわけではなく、税金が引かれた上での金額が支給されるのである。
そのため、税金の仕組みを正しく理解しておく必要がある。
ここでは、退職金にかかる税金の種類や控除の求め方、手取り額の計算方法について解説していく。
退職金にかかる税金の種類
退職金にかかる税金は、所得税・復興特別所得税・住民税の3種類だ。
いずれの税金も退職金から控除を差し引いた退職所得に、所定の税率をかけることで税額が算出される。
所得税とは、1年間の所得に対して課せられる税金のことだ。
所得が多くなると段階的に税率が上がる「累進課税」の方式を採っているため、退職金の額が多いほど税負担は大きくなる。
復興特別所得税は、東日本大震災の復興費用を集めるために徴収されている税金だ。
所得税の2.1%相当額が2037年まで徴収される予定となっている。
所得税に税率をかけて算出されるため、所得が多くなるほど税負担も大きくなる。
住民税は、居住している都道府県や市区町村に対して納める税金のことだ。
退職所得に一律10%の税金が課せられる仕組みとなっており、所得が多くなっても税率が高くなることはない。
転職時の資金計画を立てる際には、これらの税金を負担しなければならないことを考慮しておこう。
退職所得控除額の意義と求め方
一般的に退職金は一度にまとまった金額が支給されるため、そのまま税額を計算すると負担が大きくなりやすい。
特に、所得税・復興特別所得税については高い税率で計算されてしまう可能性がある。
退職金には老後生活を支える役割もあるため、過剰な税負担となると生活が苦しくなる恐れがある。
こうした事態を避けるための配慮として「退職所得控除」という仕組みが設けられている。
退職所得控除とは、税額を計算する際に退職金から一定額を差し引ける仕組みのことだ。
勤続年数に応じて控除額が変動し、長く勤めているほど控除額が大きくなる仕組みとなっている。
具体的な計算方法は以下の通りだ。
- 勤続年数20年以下
- 40万円×勤続年数
- 勤続年数20年超
- 800万円+70万円×(勤続年数-20年)
例えば、新卒から10年間勤めた会社を辞めて転職する場合、控除は「40万円×10年=400万円」となる。
一方で一度も転職せずに35年間勤めた場合、控除は「800万円+70万円×(35年-20年)=1,850万円」となる。
上記結果から、税金の面だけを考えると長く勤めて控除額を増やした方が有利と言える。
しかし、自分自身のキャリアや転職市場における自身の価値などを考えると、転職のタイミングが早い方が良い場合もある。
税金面や将来的なキャリアを総合的に考慮し、転職すべきタイミングを考えよう。
退職金手取り額の計算方法
次に、具体的に退職金の手取り額を計算する方法を解説していく。
まずは「(退職金-退職所得控除)×1/2」で退職所得を求める。
例えば10年勤めた会社を辞めて500万円が支給された場合、退職所得は「(500万円-400万円)×1/2=50万円」となる。
退職所得を求めたら、次は各税目の税率をかけて税額を計算しよう。
以下の表は所得税の税率をまとめたものだ。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
先ほどのケースでは退職所得が50万円であるため、税率5%で税額が求められる。
「50万円×5%=25,000円」が所得税額だ。復興特別所得税は「25,000円×2.1%=525円」となる。
一方で住民税は税率が一律10%であるため、税額は「50万円×10%=50,000円」となる。
税額を合計すると「25,000円+525円+50,000円=75,525円」となり、退職金から差し引くと「500万円-75,525円=492万4,475円」が先ほどのケースにおける手取り額だ。
転職時に退職金がない場合の対応と効果的な活用法
厚生労働省による「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度を設けている企業の割合は74.9%となっている。
つまり、およそ4分の1にあたる企業が退職金を設けていないということだ。
では、退職金がない企業に在籍している場合、どういった対応をすれば良いのだろうか。
また、退職金が支給される企業においては、転職時に退職金をどのように活用すべきなのだろうか。
ここでは、退職金の代わりとなる制度や転職時の退職金の役割、効果的な活用方法について解説していく。
退職金の代わりとなる制度・商品
退職金が設けられていない場合、代わりとして活用できるものに以下のような制度・商品がある。
- iDeCo
- 個人年金保険
iDeCoとは、税金面での優遇を受けながら老後の年金を自分で準備できる制度のことだ。
掛金を自分で拠出し、運用方法も自分で責任を持って選択しつつ、老後に運用成果を受け取る仕組みとなっている。
「掛金が全額所得控除」「運用益が非課税で再投資可能」「受け取り時にも控除が適用」という3つのメリットが受けられることが特徴だ。
退職金が支給されない会社に勤めている場合は、iDeCoを活用して老後資金を準備することを検討しよう。
個人年金保険は、iDeCo同様に自分で老後資金を準備する仕組みの保険商品だ。
決まった額が支給される「定額型」や運用次第で受給額が変動する「変額型」があったり、生涯受け取れる「終身年金」や一定期間にわたって受け取る「確定年金」があったりと、複数種類の商品が用意されている。
一見すると、iDeCoとほぼ同じような仕組みに見えるかもしれない。
ただ、iDeCoは原則60歳まで引き出せないのに対して、個人年金保険は途中解約が可能となっている。
また、掛金が全額所得控除になるiDeCoとは違い、個人年金保険は最大4万円までしか控除が適用されない。
2種の貯蓄方法の違いを正しく理解して、自分に適した方法を選択していく必要がある。
なお、上記2つはいずれも老後の生活保障を目的とした商品であり、現役世代が転職を検討する際には活用できない。
退職金が支給されない会社で転職しようと考えている場合は、後述する資産運用がおすすめだ。
転職後の生活における退職金の役割と効果的な活用法
自己都合による早期退職でない限り、転職時でも退職金が支給される企業が多い。
転職後の生活において、退職金は以下のような役割を担う。
- 転職先からの給与が振り込まれるまでの生活費
- 将来に向けた資産形成の原資
転職するタイミングにもよるが、前の会社を退職してから転職先で給与が振り込まれるまでに時間がかかる場合がある。
貯蓄と退職金を活用し、生活費をカバーしていくことが役割のひとつだ。
また、勤続年数や企業規模などにもよるが、退職金はまとまった金額で受け取れることが多い。
そのため、将来に向けた資産形成・運用の元手として活用しても良いと言える。
定年まで勤めた場合の退職金は、老後の生活費等に使うべきものだ。
対して、転職時の退職金はその後も企業から収入を得られるため、あえて生活費に充てる必要はない。
今後のライフプランのなかで発生するまとまった出費に対応するためにも、資産運用を始めてみることをおすすめする。
資産運用の重要性と専門家を活用するメリット
転職時に退職金が支給されないケース・されるケースのいずれであっても、資産運用がおすすめであることを解説した。
資産運用が重要である大きな理由として「銀行に預けていても資産が増えない」という点が挙げられる。
近年、物価の上昇や税金・社会保険料の増加によって家計にかかる負担は大きくなっている。
こうした中で銀行の普通預金の金利は0.001%程度の水準となっており、100万円を預けても数円〜数十円しか増えない。
増えていく出費にまったく追いつくことができず、どんどん家計にかかる負担は重くなっていく。
しかし、投資を活用した資産運用を行えば、銀行に預けているだけの場合に比べて資産を増やせる可能性がある。
物価上昇や税金・社会保険料の負担増加にも追いつけるかもしれない。
ただ資産を寝かせておくのではなく、積極的にお金に働いてもらうことが重要になるのだ。
そして、資産運用をこれから始める方は専門家に相談することをおすすめする。
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転職で受け取る退職金を賢く管理しよう
本記事では、転職時の退職金について計算方法や受け取り条件、タイミングなどを解説してきた。
特に税金については手取り額に影響する内容であるため、正確に理解しておく必要がある。
また、退職金が支給されるケース・されないケースのいずれにおいても資産運用が重要となる。
専門家のアドバイスを有効活用しつつ、自分に合った運用戦略で資産の増加を目指していこう。
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