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2023年後半のリスクシナリオ

移管のメリットと注意点  わたしのIFAコラム

暑い日が続くが早くも2023年は後半に突入した。株式市場に目を向ければ、日本の株式市場は好調であり、バブル崩壊後の高値を更新という景気のいいニュースも記憶に新しい。

しかし、長いこと日本の株式市場と向き合ってきた投資家のなかには、足元の株高を喜ぶ一方で、どこまで続くのかという不安を同時に抱えている方も多いだろう。

本稿では2023年後半のリスクシナリオをいくつか共有したいと思う。必ずこうなるのだ、というよりは、自分の中で持ついくつかのシナリオの1つに加えてもらえれば幸いだ。

目次

完全にデフレを脱却したのか?

 日本経済で多くの方が関心を寄せているのがインフレだろう。総務省が6月23日に公表した5月分の消費者物価指数は前年同月比+3.2%だった。これで21か月連続で物価上昇率はプラスとなり、もはや日本はデフレを脱却したと考える人がほとんどであろう。

しかし、内閣府が過去に公表していた文書などを読んでみると、デフレの判断は消費者物価指数だけを見るのではなく、需給ギャップなども見ると書いてあるし、総務省が過去に公表していた文書には賃金動向も概観してデフレリスクを確認すると書いてある。

 日本銀行が公表した1~3月期の需給ギャップは-0.34%となっており、内閣府が公表した1~3月期の需給ギャップも-0.7%と、どちらもマイナスのままだ。賃金は今年の強い春闘の影響もあり、厚生労働省が公表した毎月勤労統計調査を見てみると、5月の現金給与総額(速報値)は前年同月比+2.5%増となったが、これだけをもってデフレを脱却したとは言い難い。

また、消費者物価指数の先行指標と言われる企業物価指数について、日本の6月分のデータを見てみると、前年同月比+4.1%と伸びは6か月連続で鈍化している。

 米国では6月の消費者物価指数は前年同月比+3.0%と12か月連続で伸びが縮小しており、中国に至っては6月の消費者物価指数は前年同月比±0%と2年4か月ぶりの低水準を記録し、デフレ目前だ。

 日本は諸外国に数か月遅れてインフレ局面を迎えたため、インフレのピークアウトのタイミングも後ろ倒しになる公算が高く、まだデフレリスクは捨てきらない方がいいだろう。

円高局面への転換

しかし、日本国内では既に異次元の金融緩和の修正を期待するような論調を多く目にするようになってきた。

より具体的にいえば、足元のインフレを受けて、日本銀行がYCC(イールドカーブコントロール)を修正、または撤廃する観測が浮上している、ということだ。

インフレとデフレの判断を消費者物価指数だけで行うのであれば、たしかに日本銀行が目標としていた2%という数字は遥か昔に突破しており、金融緩和どころか金融政策を引き締めるべきだ、という声が上がるのも理解できる。

当然、私自身は前述の通り多角的にデフレリスクを考えるべきという認識なので昨今の論調には異を唱えたい。

海外に目を向けると、米国では既にインフレがピークアウトし、むしろこれまでの急速な利上げによる景気減速への懸念から、来春からFRBが利下げをするという観測が出ている。仮に日本が金融緩和策を引き締め側に修正し、金利差が縮小すればいまの円安トレンドは一転するだろう。

足元の日本株の好調の要因の1つに円安があると考えれば、前述のような展開になれば日本の株式市場には逆風が吹くこととなる。

企業倒産件数の増加

 もう1つ日本国内におけるリスクシナリオは倒産件数の増加だ。株式市場に直接的な影響を与えるとは考えにくいが、日本経済にとってはプラスとなるような話ではないため、頭の片隅には入れておくべきだろう。帝国データバンクの調査・分析によると、2023年上期における倒産件数は前年同期比で3割増加した。

特に仕入れ価格の上昇や価格転嫁が出来ないことに起因した物価高倒産は375件と既に2022年通年を上回っており、過去最多を更新している。

無担保・無利子での融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」の元本返済猶予期間が終わり、返済が本格化する時期は今月からであり、下期は更に倒産件数が増加することが見込まれるため、コロナ禍に関する特殊要因による倒産増はこれからヤマ場を迎えることになる。

 企業倒産が増えるということは失業者が増えることを意味しており、ひいては労働市場の悪化が経済指標に表れれば、投資家は株式市場へ強気でい続けることはできない。

なかには人手不足なのだから、仮に企業倒産が増えても失業者はすぐに次の職に就けるとの主張もあるが、人手不足は全ての産業で起こっているわけではないうえに、各企業が求める経験やスキルを全ての失業者が須らく持ちあわせているとは考えにくい。それほど楽観的に考えない方がいいだろう。

アジア圏でみた日本の存在感

 グローバルに投資をしている機関投資家は、リスクを低減するために世界中に投資資金を分散して投下しているが、全ての国に対して同量のリソースを割いて分析しているわけではない。

まずは大まかに大陸ベースで北米市場に何割、アジア圏に何割といった具合に考えている。アジア圏という区分けを用いる場合は、当然ながら日本はここに含まれ、中国や東南アジアもここに含まれる。

 中国では「ゼロコロナ政策」の影響で経済が悪化していたことから、逆にゼロコロナ政策が解除されれば景気は急回復するだろうと多くの投資家が期待していたが、実際には前述の通りデフレ突入の目前という状況だ。

また、ロシアによるウクライナ侵攻が中国による台湾侵攻を連想した投資家もいるようで、地政学リスクの高まりも嫌気されている。

 そこで、アジア圏に投じられていて、かつ中国に割り振られていた一部の資金が日本に回ってきているようだが、これらの資金は流動的だ。日本の経済も同様に悪化すると懸念され、一方で中国が回復に転じれば、再び日本から流出していくだろう。

 このまま日本の株式市場が好調を維持したまま2023年を終える可能性は十分にあるが、リスクシナリをとして本稿で紹介したいくつかのシナリオも頭の片隅に置いておいて欲しい。

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※本コラムは情報提供を目的としたものであり、個別銘柄の推奨や、金融商品の紹介、周旋を行うものではございません。

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執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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