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マクロ経済から考える投資戦略

世界的なインフレが懸念されるなか、各国の中央銀行が急速に金融を引き締めたことにより、一時に比べれば物価上昇率の伸びは鈍化しているものの、平時に比べればその水準は依然として高い位置にあり、そこだけをみれば今後もしばらくは利上げが行われると考えるのが一般的だ。

しかし、一方では急速な金利の引き上げに伴い多方面で景気減速の影も見え隠れしており、各国の中央銀行は金融政策による景気のオーバーキルを懸念し始めた。

今回は主に日米欧における金融政策の現状と今後を確認しながら、今後の投資戦略の見直しをしていきたい。

目次

FRBが迫られる難しいかじ取り

4月12日に米国労働省が発表した3月の消費者物価指数は総合が前年同月比+5.0%と前月から一気に1.0%低下した。

昨年記録した同+9.1%をピークに伸び率は鈍化傾向にあるが、今回発表された数字はウクライナ侵攻を契機に原油価格が高騰してから1年が経ったことによる反動減ということもあり、かつ食料・エネルギーを除いたコアは同+5.6%と依然として高い水準を維持していることから、物価だけをみればFRBは利上げを継続するとしか考えられない。

FRBはデュアルマンデートといって、物価と雇用の2つを安定させることを命題としている。

4月7日に労働省が発表した3月の雇用統計によれば失業率は2月の3.6%から更に低下して3.5%になった。

労働市場が逼迫しており、堅調な結果が出ているからこそ、これまでFRBは物価に重きを置いて金融政策をとれていたが、シリコンバレー銀行破綻を受けて全ての銀行が貸出態度を厳格化している。

過去のデータを見てみると、銀行の貸出態度が厳格化されると失業者数が増える傾向にあるため、今後は物価状況だけをみて金融政策を決めるわけにはいかず、それ故に現時点では市場参加者による金融政策の予想は日々変化している。

金融引き締めが不十分であれば再びインフレが再加速する可能性がある一方で、引き締めが過ぎればオーバーキルとなる。FRBは非常に難しいかじ取りを迫られている。

植田新体制は徐々に政策を修正?

これまで10年間にわたって日銀総裁を務め、異次元の金融緩和策を実施してきた黒田総裁に代わり、4月8日に新しく総裁になった植田氏。

4月25日に開かれた衆議院の財務金融委員会で「イールドカーブコントロール(YCC」」という枠組みで金融緩和を継続することは適当であるという認識を示した。

更に、年後半から物価上昇率は低下していくという従来の日銀の物価見通しを踏襲したうえで、金融緩和策をやめて金融引き締めに転じると物価に下押し圧力がかかることで、今の見通しよりも更にインフレ率が低下すると懸念を示したため、一時的に高まっていた植田総裁による金融政策の修正期待は剥落した。

しかし、過去にはYCCだけでなくETFの買い入れなどの緩和策については副作用があることを言及しており、足元では消費者物価指数(米国版コア)の値も前年同月比で2%を超える月が続いていることから、6月頃から徐々にYCCの修正や撤廃、ETFの買い入れをやめるなど、金融緩和の姿勢は継続しながらも、徐々に政策を修正していくとの見方が市場では多数派という印象を受ける。

欧州では年内の利上げ継続が妥当か

 日本の投資家が国内外の金融政策を考える場合、前述のように日米の金融政策を考えることが一般的だが、今後は欧州のスタンスについても注意を払う必要があるだろう。為替市場では4月に入りユーロ・円相場が昨年12月以来の高値を更新した。

前述の通り植田氏が当面は金融政策を維持することを示唆しただけでなく、米国ではオーバーキル懸念から秋頃から一転して利下げフェーズに突入することを市場参加者が織り込む中で、依然としてインフレ抑制が課題としての優先順位が高いユーロ圏においては、依然として利上げ余地が残ることから、金利差拡大の観点でユーロが選好されやすい状況にある。

 3月31日に欧州委員会統計局が発表した3月のユーロ圏のHICP(Harmonized Indices of Consumer Prices)速報値は前年同月比+6.9%と前月の同+8.5%から大幅に鈍化したものの、エネルギーと飲食料を除いたコアは同+5.7%と前月から0.1%加速した。

国別でHICPの上昇率をみてみると、前月比では20か国全てがプラスの伸びとなっており、やはり欧州では利上げ余地が他国と比較して大きいと判断できるだろう。

世界を俯瞰して投資戦略を練るべし

 マクロ経済の観点から世界を俯瞰してみると、日米欧の3か国・地域だけでも金融政策の見通しを立てることが非常に難しいことが分かる。

ここに財政政策に対する見通しという観点も追加すれば、私たち投資家は非常に多くのことを意識しながら投資戦略を立てなければいけないことが分かる。

金融・財政政策に限らず、更に産業・業界分析といったサブマクロの観点、個別企業の業績分析というミクロの観点までもが必要であることを考えれば、日本国内の個人投資家の大半を占める兼業投資家にはとても投資が難しく感じてしまう。

 そこで、なるべく投資にリソースを割かないためにも、株価指数に連動するように運用されるインデックス投信を活用すべきなのだろう。インデックス投信であれば特に細かい話を気にせずとも、株式市場の成長の恩恵を享受することが可能だ。

しかも、インデックス投信の場合は売買時の手数料がかからないことが多く、保有期間中にかかってくるコストも非常に低い。

 来年からはNISAの内容が拡充され、非課税制度の恩恵も幅広く受けることが可能だ。株式市場に自己資金を投じることで世界の経済環境への関心を強める一方で、リソースは投資以外のことに割くことで、資産運用をしながら広義での金融リテラシーを高めることも可能なのではなかろうか。

まだ投資の世界に足を踏み入れたことがない人も、今年を準備の1年としたうえで、新NISAが開始する2024年から投資生活を歩み出してもいいだろう。

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※本コラムは情報提供を目的としたものであり、個別銘柄の推奨や、金融商品の紹介、周旋を行うものではございません。

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執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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