※本コラムは2024年3月19日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社松風は歯科医療器材メーカーです。デンタル事業を核としながら、その技術を活かしてネイルや工業用研磨材事業も展開しております。
代表取締役社長 社長執行役員の髙見哲夫氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社松風を一言で言うと
“噛む、笑う、生きる、を支える。”会社です。
松風の沿革
創業経緯と現在まで
当社は京都に拠点を置き、元々は江戸時代から続く清水焼の窯元である松風家によって設立されました。
明治時代に入ると、創業者の松風嘉定が陶磁器の製造技術を応用してファインセラミックスの事業化に成功しました。
そして大正時代に陶磁器の輸出を拡大すべくアメリカへ渡った嘉定は、のちに慶應義塾大学医学部の口腔外科教授となる岡田充氏と出会い、この出会いが、当社の未来を大きく変えることとなりました。
当時の日本は人工歯をほとんど輸入に頼っており、岡田氏は日本人に適した人工歯を国内で製造することの重要性を嘉定に説きました。
その熱意に心を動かされた嘉定は、1922年に松風陶歯製造株式会社を設立し、人工歯の製造を開始するに至りました。
これが現在の歯科材料を扱う当社の事業の始まりです。
その後周辺材料に事業領域を広げ、1970年代には海外へも進出、1989年に大証二部、2007年に東証二部へ、そして2012年には東証一部へと上場しました。
そして、2022年には、創業百年を迎えることができました。
松風の事業の概要と特徴
概要
当社は歯科医療で使用されるさまざまな材料や器具を製造、販売しています。
例えば入れ歯の材料である人工の歯や虫歯などを削るためのダイヤモンドバー、そして虫歯の患部を削った後の穴を埋めるプラスチック製の詰め物・被せ物であるコンポジットレジンなどがあります。
このコンポジットレジンは、光を当てることにより固める技術が用いられています。
また、歯科治療のデジタル化への対応も進めており、当社の松風S-WAVE CAD/CAMシステムがこれに該当します。
具体的には口腔内スキャナなどを用いて歯の形状データを取り、そのデータをもとにセラミックス(ジルコニア)またはレジンなどのブロックやディスク状の材料から歯形を削り出して人工歯を製作する一連のシステムになります。
また、歯科由来の技術は他の領域でも活かされています。例えば、歯科用コンポジットレジンの技術はネイル関連材料に応用されていますし、歯を削ったり磨いたりする技術は、工業用研磨材分野に展開しています。
当社グループは、当社と国内外にある計21社の子会社・関連会社で構成されております。現在、日本を含め13の国と地域に生産・販売拠点があり、世界130以上の国と地域でビジネスを展開するまさにグローバル企業となっています。
事業における優位性
高い技術力
当社は多くの特許を持っていますが、ここではPRG技術により開発された、S-PRGフィラーについてご紹介させていただきたいと思います。
このフィラーからは、お口の中の環境を健全化することが期待できる6つのイオンが徐放(リリース)されます。
そのうち、フッ素については、フッ素入りの歯磨き粉などを使用することでリチャージし、お口の中のイオン濃度を調整する働きがあります。
学会などで報告されている機能は様々にありますが、特に細菌の付着やプラーク形成を抑える「抗プラーク性(歯への攻撃を遮断)」や歯質を細菌が作りだす酸の攻撃から守る「酸中和能(歯を守る)」が注目されています。
このフィラーを配合した歯科材料はGiomer(ジャイオマー)という総称で展開しています。
また審美性においても当社の技術は高く評価されています。
例えば、歯科材料で使われる歯の色は「白」と一口で言っても多種に亘りますが、当社の豊富な製品ラインナップにより自然な色調再現を可能にしています。
このような歯科医療のニーズに応える製品には当社の技術が活かされており、高い製品優位性を保っています。
海外での事業展開
当社売上の特徴は、海外売上比率が50%超と高いことです。
海外市場での競争は激しく、アメリカやヨーロッパをはじめ、展開している各エリアで多くの競合他社が存在します。
その中で、当社は歯科治療・技工に必要な材料全般を取り扱っており、製品ラインナップの充実と独自の高付加価値技術を製品に応用することで他社との差別化を図っています。
海外の競合企業がM&Aを通じて製品ラインや事業領域を拡張している一方で、当社は主に自社開発の歯科材料に特化し、人工歯や研削材、充填修復材、さらには歯のクリーニング材料に至るまでカバーしており、歯科治療に必要な消耗品をワンストップで提供することが可能となっています。
また、海外市場は欧州、北米、南米、アジアなど、地域ごとにニーズが大きく異なるため、各地域に合わせたローカルマーケティングが極めて重要です。
そして、現地での評価を得るためには、大学や学術機関、歯科医師や歯科技工士へのアプローチも欠かせません。
当社は、キー・オピニオン・リーダーと呼ばれる、歯科で影響力のある臨床家や研究者の方々の協力を仰ぎ、学術活動や展示会やセミナーなどを通じて、歯科医療現場との関係を強化しております。
これらの取組みが当社や当社製品の知名度・認知度を向上させ、海外での売上を着実に伸ばしています。
第二の柱:ネイル事業
歯科事業以外に当社の子会社である(株)ネイルラボがネイル事業も手掛けております。
歯科で使用している樹脂製品の製造技術はネイル事業にも転用可能であり、技術的なシナジーがあります。
また、歯科もネイルも共に体に直接使用するものですから、高い安全性、生体親和性が求められます。
なお、光硬化技術―これは歯科材料を光で照射して硬化させる技術ですが、LEDライトによる硬化を日本で初めてネイルに応用したのは当社になります。
松風の中長期の成長イメージとそのための施策
市場環境
世界市場における歯科医療機器の規模は現在約5.2兆円、その中で歯科材料市場は約1.6兆円と推定されています。
日本市場はグローバル市場全体の約5%、当社のグローバル市場でのシェアは約2%に過ぎません。
グローバル市場は国内市場の約20倍であり、この巨大な市場をターゲットとした成長戦略を進めています。
研究開発投資:新製品の開発・投入
そして、海外展開をさらに加速するためには世界的視野に立ち、地域の需要・ニーズに適合した製品、また新規分野での製品開発に向けた積極的な研究開発活動が必要です。
新製品の売上高に占める比率は20%を目標とし、利益率が高い自社開発製品に注力していくことで安定した事業成長を目指します。
生産:生産拠点の再配置、海外生産の拡大
海外展開を加速し、国際競争力の強化には生産・販売の効率を向上させることが必要だと認識しています。
現在、当社製品の50%超は海外市場向けである一方、大部分は国内生産に頼っています。
海外での生産拠点の拡充は、より効率的な生産と迅速な配送を可能にし、コスト削減にも繋がるため、今後はベトナムや中国など海外の生産能力の強化も必要であると考えています。
また、京都本社の工場の建て替えも予定しており、これらの投資により生産能力の向上とコスト削減、並びに生産能力の増強を図ります。
営業:販売網の拡充・拠点の整備、国内外学術ネットワークの構築
営業戦略において、国内市場では既に「松風」のブランドが広く認知されていますが、海外市場ではまだ認知度が低いという課題があります。
このため、海外でのブランド認知度を高めることは重要なミッションであると認識しています。
具体的には、各地に販売拠点を設けた流通ネットワークの強化や、歯科医療従事者の皆さまを対象にした講演会やセミナーの開催による学術ネットワークの構築を進めています。
また、海外への販売を加速させるためのグローバルな営業人材の獲得にも注力しています。
注目していただきたいポイント
近年、口腔内の健康が全身の健康に関係していることが様々な研究で明らかになってきています。
例えば、良好な口腔状態は誤嚥性肺炎のリスクを減少させるほか、歯周病は糖尿病や癌の罹患リスク、心臓疾患などと関連があると言われており、適切な嚙み合わせは脳に刺激を与え、認知症への予防効果が認められています。
そのため、歯科の重要性に対する社会的な関心は年々高まっており、特に口腔衛生が全身の健康に与える影響について広く知られるようになってきました。
このような背景を踏まえ、当社では「噛む、笑う、生きる、を支える。」というコーポレートメッセージを掲げ、皆さまが健康で充実した生活を送れるよう、製品、サービスを通じて世界の歯科医療に貢献してまいりたいと考えております。
是非、当社の事業と今後の成長性に注目していただければと思います。
投資家の皆様へメッセージ
一般的な医療は命を救うことに焦点を当てていますが、我々の事業がターゲットとしている歯科医療は「生活の医療」として、人々の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させることを目指しています。
歯科の重要性は、世界的に浸透しつつあり、当社製品の需要も着実に拡大しています。
特に新興国市場では、まだまだ成長の余地が大きく、中国やインドをはじめ、積極的な事業展開を進める方針です。
投資家の皆様には、健康で質の高い生活を支える当社を投資対象としてご検討いただければ幸いです。
本社所在地:〒605-0983 京都市東山区福稲上高松町11
設立:1922年5月15日
資本金:59億6895万円(2024年4月アクセス時点)
上場市場:東証市場 (1989年11月9日上場)
証券コード:7979