※本コラムは2023年3月8日に実施したIRインタビューをもとにしております。
メドピア株式会社代表取締役社長CEOの石見陽氏は、現役医師兼上場企業経営者として、医師を支援し、その先の患者様を助けることで医療業界や社会の課題解決を図っています。
事業の成り立ちや今後の取り組みを伺いました。
メドピア株式会社を一言で言うと
“医療ど真ん中” プラットフォーム企業です。
「Supporting Doctors, Helping Patients.」のミッション実現を目指し、業界のど真ん中でサービスを届けそのインパクトを最大化するために、最適な手段であるITを活用した事業を展開しています。
創業の経緯
私は1999年に東京女子医科大学病院の循環器内科へ入局しました。そこで、循環器内科のスペシャリストを目指そうと志しておりましたが、医療ミスが相次ぐなど、医療業界に不安が渦巻いていたことが起業の背景としてあります。
当社の創業は2004年ですが、この年、国内では史上最大の医療訴訟の件数を記録し、世間には医療不信が広がっておりました。
そのような状況の中、「医師を支援することで、その先の患者様を助けることができる」という考えのもと、当社のミッションである「Supporting Doctors, Helping Patients.」が生まれました。現在もこれを会社のスタート地点と捉え、非常に重要視しています。
2014年にマザーズ市場へ上場した当社ですが、事業開始からしばらくは赤字の状態が続いていました。というのも、当社は医師専用コミュニティサイト「MedPeer」を提供しプラットフォームビジネスを展開していますが、今でこそ広く浸透したプラットフォームビジネスも、立ち上げ当時はまだ一般的ではありませんでした。
まずはプロダクトとしてメディアを作り、そこに医師会員を呼び込み、一定数が集まって初めてそこにビジネスを乗せることができるため、短期間での収益化は難しかったのです。プラットフォームビジネスはその対象とする母集団のおよそ1割までを獲得しないとビジネスとして成立しないと言われておりまして、立ち上げ当初はとにかく会員獲得に取り組みました。
2010年頃にようやく国内の医師30万人のうち1割に相当する約3万人の会員が集まり、この医師コミュニティサイトの中で「薬剤評価掲示板」というサービスを開始し、収益化に成功しました。収益は製薬企業からの医薬品に関する広告収入が中心で現在も、当社の主要な収益源となっています。
また業界内の変化としては、やはり新型コロナウイルスが大きなインパクトがありました。
当社の売上の約80%は製薬企業および医療機器メーカーから頂いておりますが、この製薬企業向けマーケティング支援が非常に伸びました。医師とMRの対面コミュニケーションが困難となり、e-Detail※の需要が相対的に増したのです。この変化は業界全体で急速に起こり、少しお祭り状態にも近いものでした。
- e-Detail:薬剤評価掲示板等の製薬企業・医療機器メーカー向けの広告掲載サービス
医師同士のコミュニケーションにおいても、Web上でのサービスの重要度が高まり、我々のサービスの活性度も高まりました。
また、足元でオンライン診療が注目されているように、政府が医療DXを推進する方針を打ち出したことも大きな影響がありました。アイスランドやエストニアなどの北欧諸国と同様に、日本も国民一人一人が自分の医療情報をデジタルで管理できるようになることを目指し、各種の規制緩和が進んでいます。
当社も、処方箋の事前送信アプリなどでこの業界変化に応じたサービス提供を行っています。
事業内容について
一つ目は集合知プラットフォーム事業です。売上の約80%を占めるメインビジネスであり、主に製薬企業向けのマーケティング支援を行っています。
MRによる販売促進関連市場および同オンライン市場はそれぞれ1.4兆円と4-500億円と推定されています。従来、この2つの市場はそれぞれ独立した存在でしたが、先ほども申し上げたようにコロナ禍においてオンラインの重要度が増してきました。
2市場は統合される傾向にあり、事実MRの数も5、6年前より減少しています。そのため、ウィズコロナの足元および今後は、より効率的に情報を届けることが重要されています。
この1.4兆円市場がまるまるデジタル化されるわけではないものの、積極的にオンラインチャネルを活用するデジタル武装されたMRのような形に変化すると我々は考えています。
そういった見通しを背景に、コントラクトMR※を抱えるMIフォースをグループ化いたしました。リアルに強みを持つ同社とデジタルに強みを持つ当社との連携によって、オン/オフラインのオムニチャネルを駆使した新たなマーケティング支援を強化しています。
- コントラクトMR:医薬品販売業務受託機関(Contract Sales Organization,CSO)に所属している医薬情報担当者(MR)。主に医療用医薬品の情報提供や、新薬開発時の宣伝や広報活動を行い、仕事内容な通常のMRと変わらないが、各製薬企業に派遣される形で勤務する。
二つ目は医療機関支援プラットフォーム事業でして、医療機関や医療現場の業務効率化を支援しています。
薬局向けには「kakari」および「やくばと」、そして診療所向けには「kakari for Clinic」というDXツールをそれぞれ提供しております。
また、在宅医療における医療事務のアウトソーシングサービスを展開するクラウドクリニックをグループ化するなど、人材不足が進む業界のタスクシフティングを推進しております。
さらに、病院と介護施設をマッチングするサービスも「YoriSoi Care」として展開しています。まだ実証実験の段階ではありますが、退院後に介護施設への入居を希望する方のために、病院と介護施設をマッチングさせることで、より良い介護サービスを提供することを目指しています。
三つ目は予防医療プラットフォーム事業です。
「first call」は企業の健康経営を支援するサービスであり、産業医の紹介やオンラインの医療相談サービスなどを行っています。クライアントは、基本的に大企業が多く、その他には従業員が50人を超え、産業医の選定が必要になった成長企業もいらっしゃいます。
「DietPlus」は、当社が抱える管理栄養士を活用した特定保健指導を実施するサービスであり、健保組合を中心に展開しています。
「Lifelog Platform」は、歩数計アプリを中心としたヘルスケアアプリを提供するサービスであり、パートナー企業の会員様などに向けたサービスを展開しております。
当社は、PHR(Personal Health Record 健康 ・医療 ・介護に関わる個人データ)を中心とした一連の流れを構築することを目指しています。健康な状態から疾病、介護、そして終末期までを含め一気通貫で連続的なサービス提供を行うことが、他社とは異なるビジョンであり、差別化ポイントであると認識しています。
また、医療・ヘルスケア領域のプロフェッショナルである医師や薬剤師のネットワークを活かしたサービス提供も特徴的です。やはり当業界にはどの場面においても人が関わるものです。単にシステムを提供するだけではなく、このような専門家集団の母体を持っていることが大きな強みであります。
中長期の成長イメージとそのための施策
“医療ど真ん中” プラットフォームとしてのポジションを強固にすべく、主力の集合知プラットフォーム事業では新サービスに取り組むとともに、医療機関支援プラットフォーム事業および予防医療プラットフォーム事業を第二・第三の柱として成長させて参ります。
集合知プラットフォーム事業で我々が目指すのは、製薬企業向けの支援にとどまらないヘルスケア領域全体でのマーケティングインフラとなることです。
この一貫として、今後は医療機器メーカーの開拓も進めます。製薬市場の10兆円と比較するとそのマーケット規模は3兆円ほどですが、それでも十分に大きな市場であります。
また、近年ではより希少性の高い分野に薬の開発主体が移行しており、医薬品マーケティングにも変化が訪れています。この点はまだ各社とも明確な解のない状態ではありますが、 MRからするとターゲティングの母集団が減っている中で、適切なタイミングで適切なコンテンツを届ける必要性が増していると言えます。
繰り返しになりますが、当社ではMIフォースとの連携でオン/オフラインチャネルの掛け合わせによる次世代型マーケティングの支援に取り組んでまいります。さらに、リアルワールドデータの活用も進めており、集合知プラットフォームの医師の集合知と、電子カルテなどのデータを組み合わせた新しい価値を提供することで売上拡大を図っていきます。
予防医療プラットフォーム事業においては、健康経営への意識の高まりなどから当社提供サービスのアカウント数は順調に増加しております。今後はこれらのサービスシェアを伸ばしながら営業・オペレーション体制を整えて事業拡大を目指していきます。
段階で言うとまだ階段の二段目といったところで、我々自身も市場の全体像を掴みきってはおりません。そのため並行して新たなサービスの開発も進めていきます。例えば疾患啓発のプラットフォームとして「Lifelog Platform」が活用されるなど、前期から需要の感覚を掴んできておりますが、サービス単体では市場が限定的ですので、ここからの発展を模索している状況であります。
一気通貫のビジネス展開に向けて、母集団の最も多い健康意識が高い方々にアプローチするプラットフォームを構築し、メドピアのサービスが浸透していくことを目指しています。
このような施策によって、ユーザーにとっての利便性が高まるだけでなく、当社としてもデータの利活用の方向性も広がり、創薬やECにも利用できる可能性があると考えております。
投資家の皆様へメッセージ
ヘルステック業界はまだ認知度こそ低い業界ですが、コロナ禍での影響を受けますます注目されるようになってきました。
我々は医療現場や学会の声をオンラインにもたらすことで、他社とは異なるポジションを確立しています。また、今後もリアルワールドデータの活用など、医療の現場に必要とされるサービスを提供し続けていきます。
投資家の皆様には、本質的な価値を追求する当社の世界観を理解し、長期的な視点で応援していただけますと幸いです。
本社所在地:東京都中央区築地1-13-1 銀座松竹スクエア9階
設立:2004年12月
資本金:2,207,468,000円(2022年12月31日現在)
上場市場:東証プライム(2014年6月27日上場)
証券コード:6095