※本コラムは2022年9月8日に実施したIRインタビューをもとにしております。
アナログ的要素が非常に強い理美容業界のDX化を進める株式会社サインド。美容予約サイトとの連携で一元予約管理を可能にした「ビューティーメリット」の運営をはじめ、EC分野にも活躍を広めています。代表取締役社長の奥脇隆司氏に、今後の展望についてお聞きしました。
株式会社サインドのビジネスの概要
株式会社サインドを一言で言うと
理美容店舗向け予約管理システム「ビューティーメリット」を運営しています。この予約管理システムは、たとえばホットペッパービューティーのような大手集客・予約サイトや、さまざまな美容予約サイトと連携していて、これらのサイトを通じて集まってくるお客様の予約の一元管理や店舗公式のアプリを提供できるというものです。美容室や理容室の他、ネイルサロン、エステサロン、リラクゼーション、アイビューティーといった業態の店舗に使ってもらっています。
理美容店舗の数はここ数年増加傾向にあり、2020年度には55万3515店舗に達しています。ただ、理美容店1店舗あたりの施術者は平均2人です。非常に少人数で運営されています。結果、1日あたりの平均労働時間が長く、平均勤続年数は短く、何よりもお店側からすると、施術中に架かってくる予約電話の対応をしなければならないなど、本来の仕事である施術に集中できない環境にあります。
つまり理美容業界は、DX化を進めることによって、労働環境を改善する余地が非常に大きいといえるのです。
創業の経緯
もともとは母方の祖父が山梨県で肉の卸を経営していました。地方は自営業者が多いので、子供の頃から何となくですが、自分も何か商売をするのだろうと、漠然と考えていました。
ですから、就職活動の時期になり、まず考えたのは自分が起業をする時の参考になるような会社で働こうということでした。その時、たまたま見つけたのが比較.comというポータルサイトの運営会社でした。さまざまな製品・サービスの価格を比較するサイトであれば、きっといろいろな業界が見られて、自分が起業する時のアイデアを見つけることが出来るのではないか、と考えて、比較.com㈱(現 手間いらず㈱)に入社したのです。
働いているうちに、徐々に自分のやりたいことが見えてきました。事業を興すとしたらインターネットをベースにして、そこで何らかのプラットフォームを展開しようと考えたのですが、1人で辞めて起業するのも何となくつまらない感じがしたので、誰かを巻き込もうと考えました。その時、たまたま私と同時期に、同じ会社の別部署で働いていた高橋直也(代表取締役副社長)の存在を知り一緒に起業することになりました。彼はホテル・旅館のオンライン予約事業の部署の営業をしており、最初のサービスは予約管理システムをつくることに決めましたが、問題はどの業界にするかでした。ネット予約の伸びしろが出来るだけ大きな業界はどこかと調べていた時、理美容業界を思いついたのです。なぜなら、理容院や美容院は飛び込みよりも予約がメインですし、何よりもネット予約が非常に遅れている業界だったからです。
起業した当初は本当に苦労しました。理美容業界は3割程度が新規客で、残り7割はリピーターです。新規客は集客サイトからネットで予約する人も一部いましたがリピーターの大半がお店に直接電話をして予約する人たちでした。
とはいえ、全く見通しが無かったわけではありません。iphone4が日本に入ってきて、徐々にではありましたが、スマホで何かを予約するという消費者行動が、一般的になりつつありました。
とにかく、理容院や美容院に契約していただければ月額システム使用料をいただくビジネスモデルなので定期収入が入ってきます。それが積み上がれば確実に損益分岐点を超えられることは分かっていました。ただ、どうやって理美容業界の中で認知されるかが問題だったのです。
認知されるためには、業界で知名度の高いブランド店舗に使ってもらう必要がありました。それを池田(営業部長)が入社して開拓してくれたことが、伸びるきっかけになりました。
事業内容
高橋がホテル・旅館のオンライン予約事業に関わっていたので、そのノウハウを導入した時、最も効果的な業界はどこなのか、という観点からリサーチした結果、理美容業界が浮かび上がってきて、ビューティーメリットという理美容店舗向け予約管理システムを開発し、それを日本全国の理美容店に広げている最中です。
理美容サービスネット予約市場規模は、2020年時点で6229億円あります。2020年についていえば、新型コロナウイルスの拡散による影響もあって、2019年に比べると微増なのですが、2015年から2020年までのCAGR(年平均成長率)は20.8%です。また、美容院の予約方法におけるインターネット予約比率を見ると、2016年時点では女性が29.7%、男性が29.8%でしたが、2021年時点では女性が51.6%、男性が47.0%と、かなり伸びてきています。
こうしたネット予約市場の規模などから考えると、一元予約管理システムとしてのビューティーメリットの成長は期待できると考えていますが、さらに収益性を向上させるために、ビューティーメリットにEC機能を付加しました。
たとえば美容室で販売しているシャンプーやリンスなどの店販商品は、その美容室に通っているお客様にしか販売されていないのですが、当社は店舗公式アプリを提供しており予約情報と紐づけることができるので、当社のサービスであればアプリ上から購入することができます。理美容業界はそもそも1店舗あたりの従業員数が少ないため、インターネットで商品購入の注文を受けたとしても、日々の業務時間内でそれを梱包し、お客様の手元に発送する作業を行うのが物理的に困難なことも課題としてありました。
シャンプーやリンスは理美容ディーラーと呼ばれる商社が、美容室などに卸しているのですが、私どもが理美容ディーラーと提携させてもらい、お客様が私どものアプリを使って商品を購入した場合は、店舗からではなく、仕入れ元の理美容ディーラーからお客様に直接発送する仕組みを構築しました。この仕組みを用いて、理美容店舗の売上向上につなげていきます。
中長期の成長イメージとそのための施策
私どものマーケットは9割が1、2店舗を運営している中小で、残りが複数店舗を運営している大手チェーンです。これまでの成功体験から言うと、やはりブランド力のある店舗に採用していただけると、そのお客様に付いてきていただける傾向が非常に強いので、まずは理美容業界で知られている著名店舗、大手店舗の採用を目指しています。
2022年3月期の契約店舗数は5857店舗で、これは2021年3月期との比較で39.9%という大幅増になりました。この理由は2つあって、ひとつは大手チェーン店に導入していただいたこと、もうひとつは新型コロナウイルスの影響ですね。
特に2021年は、第3回目の緊急事態宣言が4月5日から6月20日まで。第4回目が7月12日から9月30日まで実施されたことによって、美容室などは休業せざるを得ない状況でした。
美容室はお客様に来ていただかなければ仕事になりません。そのような環境のなかでEC機能が注目されたことと、お店に美容師さんがいないことで電話による予約受付が出来なかったため、再開された時の予約をネットで行う人が増えたことから、ビューティーメリットが注目されたと思います。
現状、美容室という括りで説明しますと、マーケット規模は全体で2兆円、店舗数が27万店舗。インターネットで予約して施術を受けた流通金額が、2020年で6229億円。何より大事なのが、インターネットでの予約市場規模が、コロナ禍でも落ちなかったことです。そのくらい成長しているということです。
しかも、理美容室の予約サイトであるホットペッパー・ビューティーの掲載店舗数が12万店舗あるのですが、私どものビューティーメリットを契約して下さっている店舗数が約6000店舗ですから、まだまだ伸びしろがあります。最終的には、ホットペッパービューティーの掲載店舗数である12万店舗に近づけるくらいまでは、私どものサービスの契約店舗数を増やしていきたいと考えています。
投資家の皆様へメッセージ
私ども単体というよりも、理美容業界全体を盛り上げていきたいと思います。理容室、美容室に対するイメージは、髪を切ってもらう、整えてもらう場所というのが圧倒的ですが、理容師さん、美容師さんの仕事はそれだけでなく、実際にはお客様が来店していないところで、物凄い量の事務作業などをこなしていたりします。そういうところのDX化を進めることによって、現場で働いている人たちの生産性を少しでも向上できるようなサービスを、これからもどんどん展開していきたいと思います。
本社所在地:東京都品川区西五反田1-25-1 KANOビル3F
設立:2011年10月20日
資本金:1,197百万円(2022年9月時点)
上場市場:東証グロース(2021年12月22日上場)
証券コード:4256