※本コラムは2023年5月15日に実施したIRインタビューをもとにしております。
アイティメディア株式会社はメディア事業を展開しながらデジタルならではの収益モデルの開発を続け、その優位性を高めてきました。
代表取締役社長 兼 CEOの大槻利樹氏に、同社の沿革や事業モデル、成長戦略を伺いました。
アイティメディア株式会社を一言で言うと
データドリブンなメディアカンパニーです。
創業の経緯
私は1984年にソフトバンク(現ソフトバンクグループ株式会社)に入社し、出版事業に携わっていました。
創業時のソフトバンクはPCソフトウェアの流通事業を手掛けており、利用者の拡大のために出版事業を開始したのです。その後1995年に入るとWindows 95が発売され、日本でもインターネットが本格的に普及を始めます。
こうした大きな時代の変化の中で、ソフトバンクは事業そのものをインターネットに対応させることを決意し、1999年に社内ベンチャーとして誕生したのが現在の当社です。
出版業界でWindows 95やインターネットの誕生といった時代の変化を体験し、その中でコンテンツによる啓蒙活動を行ってきた経験が、当社のビジネスモデルの土台となっています。
私自身、何よりもコンテンツビジネスが好きで、”情報を通じて社会を変えたい“という思いを抱いていました。
その思いが、インターネットが普及する中で、アイティメディアをインターネット専業のメディア企業たらしめる原動力となったのです。
そのような成り立ちで生まれた当社ですが、翌2000年のITバブル崩壊など、創業当初は苦労の連続でした。
同業の中にはインターネットから撤退するメディアもありましたが、当社は広告ビジネスを中心に成長し、2007年には東証マザーズ市場に上場を果たします。
ところがほどなくしてリーマンショックが発生。さすがに当社も一時的に赤字に陥り、これまでインターネット広告を主軸に据えていたビジネスの見直しを迫られました。
その経験から、景況に左右されにくい、インターネットならではの収益モデルの開発を強く意識し取り組み始めたのがリードジェン事業です。
2005年に米国のTechTarget社との提携によって実現したビジネスで、今日に至るまで最も注力を続けている収益モデルでもあります。
大きなマイルストーンとして、2015年にリクルートから当時リードジェンで最大のライバルであったキーマンズネットを譲受しています。
これにより、当社の日本国内におけるリードジェン市場シェアがトップとなり、事業規模を大きく拡大することに成功しました。
事業が軌道に乗るまでには時間もかかりましたが、苦しみの中で手を打ったこのリードジェン事業が、デジタルシフトを迎えた今日の事業環境において当社を支える大きな力となっています。
事業内容について
“インターネット専業メディア”の草分けとして誕生した我々は、当初はそのポジション自体に大きな価値がありました。そして23年間の歴史の中で、時代の変化に応じビジネスモデルの変革を続けてきました。
その中でも、一貫してITを中心としたテクノロジーの専門情報に特化してきたことが大きな特徴と言えます。
現代社会において、テクノロジーの活用は企業戦略に直結し、企業の成長や社会そのものの発展を考える上で欠かすことのできない要素となっています。
つまり、産業を問わず様々な企業が自社に適したテクノロジーを探しており、当社が運営するテクノロジー専門メディアには、そうしたテクノロジー製品を求めて情報を探しておられる方々、いわゆるバイヤー(買い手)が集まっているのです。
一方で、製品やソフトウェアの売り手側、当社の顧客で言うとマイクロソフトやIBM、日立製作所などの企業が挙げられますが、彼らのようなベンダー(売り手)は自社の製品を広め、売上を伸ばすことを目的にマーケティング活動を行っています。
このように、バイヤーとベンダーをマッチングさせるのが我々のメディアの提供価値であり、これが中核ビジネスであるリードジェンの根幹です。
今般、テクノロジーの発展によってクラウドやAIといった新たな技術が一般化し、社会におけるテクノロジーの重要性が増す中で、当社の提供価値は今後ますます高まっていくでしょう。
当社のビジネスモデルには、三つの参入障壁があります。
一つ目は、専門的なコンテンツを作る能力です。
テクノロジーに特化した骨太のコンテンツを大量に提供するためには、社内でしっかりとした編集体制を整備する必要があります。当社は全従業員のおよそ半数を編集記者が占めており、これに外部の専門記者のご協力も加わることで、月間で6,000本という膨大な数の新規記事を供給可能としています。
これは創業から何十年にも渡るノウハウの蓄積と人的投資によって成し遂げられたもので、一朝一夕には真似できるものではありません。
二つ目は、セールスリード(見込み客情報)を作り上げるプロセスです。リード、つまり自社製品の購買意欲が高いとされる会員と顧客を結び付けるには、顧客ニーズに応じたリードを生成する力に磨きをかける必要があります。
これはNASDAQ上場のTechTarget社をはじめとする米国有力企業との提携により当社が先行して確立したノウハウであり、これを担う50名近くのコンバージョンを出すキャンペーンマネジメントの内製部隊の存在も高い参入障壁となっています。
そして三つ目は、直販営業の存在です。当社では100名規模の直販営業部隊が顧客と直接コミュニケーションをとり、顧客の課題やニーズに沿って当社のデジタルならではのサービスを組み合わせた総合的なご提案を行っています。
当社のような規模で直販営業を持つメディア企業は非常に珍しく、それをテクノロジーの領域に特化させることで提案の質を高め、他社との差別化を実現しています。
当社の収益モデルはインターネット広告収益、リードジェン収益、そしてデジタルイベント収益の3つとなっています。
最も新しいデジタルイベント収益も新型コロナをきっかけに3倍ほどに成長しています。この事業は、2009年にオンラインイベントのリーディングカンパニーである米国のON24社と提携を組み始めました。
デジタルイベントは、コスト面での優位性が高く、多数同時接続が可能といった利便性に強みを持っています。
しかしながら、当社が始めた当初は営業の成約率という効果の面で旧来からの対面での展示会に劣るという評価をされており、事業が軌道に乗るまでには長い時間がかかりました。
しかし、新型コロナのパンデミックの発生により対面でのイベント開催が困難になると、デジタルイベントの需要は急速に拡大しました。
足元では新型コロナの収束期待の高まりを受け、一時的にフィジカル回帰が起きていますが、世の中のデジタルシフトのモメンタムの中で、中長期的にはさらなる成長を実現できると考えています。
中長期の成長イメージとそのための施策
当社はビジネスの核としてデータを位置づけています。
インターネットが社会インフラとなっている現代は、そこから生まれるデータが新たな技術・サービスを創出しており、これは目下のChatGPTのような生成系AIの登場を見ても明らかでしょう。
現在、当社のメディアには約120万人の方に会員登録をしていただいておりますが、これらはすべて企業の名刺情報に特化したBtoBのデータであり、B to C・プライベートの情報とは異なる貴重なデータ資源となっています。
つまり我々は、テクノロジー専門の巨大なメディアを基盤に、テクノロジー製品の購買意欲の高い見込み客のデータを集積し、このデータを顧客の営業活動にご活用いただくビジネスを展開しているというわけです。
この観点から、成長戦略としては2つの重要な方向性を掲げています。
一つ目は、メディアの産業カバレッジ拡大によるデータの量的拡大です。
我々が注目している1つの潮流として、DXの進展によって、これまであまりテクノロジーの利用が進まなかった産業でもテクノロジー投資が盛り上がりを見せていることがあります。
そうした産業領域に専門メディアを拡大することによってカバレッジを広げ、テクノロジーのバイヤーとベンダー双方の増加を実現できると考えています。
当社はこれまで、IT、製造、エレクトロニクス、エネルギー、建設などの領域で自社のメディア展開を広げてきました。そして、当社がまだタッチできていない領域には、専門的かつ魅力的なコンテンツを作っている専門メディアが多数存在します。
そこで当期は彼らとパートナーシップを組み、メディアの産業カバレッジを加速的に拡大させるという取り組みの強化を決定しました。
金融、流通、小売、物流、化学・素材、医療・製薬など、DXの進展に合わせて幅広い領域においてパートナーシップを組み、より広範にバイヤーを獲得することが可能になると考えています。
これらの領域に対しては、当社の顧客であるマイクロソフトやIBMなどのテクノロジーのベンダー企業からもニーズが高まってきています。
インターネット専業メディアとして長い歴史を持つ当社とのパートナーシップは、デジタル対応に後手を踏む外部メディアにとっても有益な機会を創出できるのではないかと思っています。
読者課金という単一の収益から、リードジェンやデジタルイベントなどデジタルならではの収益増加が見込めるためです。
当社とパートナーそれぞれが新たな収益源を獲得し、専門メディアのさらなる発展が各産業のDXを推進し社会への貢献へと繋がっていくというのが、当社が理想とするメディアのビジョンです。
二つ目の成長戦略ですが、これはリードジェンやデジタルイベント、広告といった各収益モデルのデータを統合し、その活用を進めるというデータドリブンの取り組みです。
既に米国ではこの取り組みが大きく進んでおり、我々も同様の戦略を日本で広げていくつもりです。
足元では、各収益モデルから得たデータを統合的に管理するプラットフォームの構築を進めています。これにより、当社のサービスを横断したデータドリブンが実現し、当社のデータの付加価値がより高まることになります。
国内最大級のBtoBメディアを運営する当社は、それだけ膨大なデータを取得する立場にあり、先に申し上げたメディアの領域拡大に加え、その質を高める取り組みを進めることで提供価値を高め、より強固なポジションの確立を目指しています。
こうした戦略は当社の中長期的な成長実現だけでなく、国家のDX推進にも寄与しうるものであり、”メディアの革新を通じて情報革命を実現し、社会に貢献する”という当社の企業理念にも繋がっています。
投資家の皆様へメッセージ
足元ではChatGPTに注目が集まっていますが、現代社会は新たなテクノロジーによって目まぐるしく変化しています。
当社は、創業そのものがインターネットという変化への対応でしたが、テクノロジーの専門メディアとして確かな情報発信を続けるとともに、デジタルならではの収益モデルを通じてテクノロジーの普及を啓発し、社会に貢献してきました。
今後においても、テクノロジーを欲する買い手と売り手をマッチングし、各産業のDXを推進する、国内最大級のBtoBデータホルダーとして、メディアの革新を続けてまいりますので、是非ご注目ください。
本社所在地:東京都千代田区紀尾井町3-12
設立:1999年12月
資本金:18億34百万円 (2023年3月末時点)
上場市場:東証プライム (2007年4月19日上場)
証券コード:2148