※本コラムは2022年9月27日に実施したIRインタビューをもとにしております。
健康経営が注目を集めています。それを「永続的な増収増益を狙うための組織マネジメント」と位置付け、クラウドによるメンタルヘルスソリューションを提供するのが、メンタルヘルステクノロジーズ社です。
今後の成長ストーリーについて、代表取締役社長の刀禰真之介さんに伺いました。
株式会社メンタルヘルステクノロジーズを一言で言うと
私たちは、「社員の心の健康」を保持するための標準的な施策を提供する会社です。
近年、健康経営が重要な経営テーマのひとつになっています。人口減少によって人材確保が困難な時代を迎えており、企業としては、社員の退職をできるだけ回避したいと考えています。
そのためには、組織内で働く人たちの健康状態に、これまで以上に配慮する必要性が高まっているのですが、最近特に問題になっているのが、社員の心のケアです。というのも、精神疾患患者数は、年々増加傾向をたどっているからです。
この15年を見ても、人口そのものは減少しているのに、精神疾患の患者数は増加しています。重度の精神疾患にかかると慢性化するリスクもあり、この問題はさらに深刻化していくでしょう。
私たちは健康経営を「永続的な増収増益を狙うための組織マネジメントのひとつ」と位置づけ、社員の心の健康に関する各種サービスを提供しています。
創業の経緯
私の祖父が亡くなった時、弟が医学部を目指すと言い出しました。彼は当時、東京大学1年生だったのですが、改めて受験して千葉大学医学部に合格しました。もともと学生時代から、弟とは「将来、一緒に仕事をしよう」と約束していたのですが、そんなことは忘れて、私は金融の仕事に夢中でした。
ところが、30歳になった時、私が体調を崩して2、3日間の安静を言い渡されました。両親にそのことを伝えると、当然のことながら心配し、医師となった弟に状況を説明しました。弟は「安静なんて、とんでもない。言う通りにしてはだめだ」と言って、当時弟が勤めていた大病院のHCU(高度治療室)に入院となったのです。つまり、かなり重篤な状況でした。2、3日の安静どころではなく、長期の入院生活を強いられることになったのですが、そこでの治療の甲斐があり、無事に退院することができました。
自分の体調が回復した後、10年以上ぶりの家族旅行で僕が弟に対し「10年前の、”将来一緒に仕事しよう”という約束を覚えているか?」と聞くと、弟は「当然、覚えている」と言いました。それが起業のきっかけです。学生時代、弟と交わした「将来、一緒に仕事をしよう」という約束と、自身の入院でお世話になった医療関係者に恩返しをしたいという想いから、医療領域での起業を考えるようになったのです。
こうして2010年の秋から起業の準備を始めつつ、医療領域で事業を行うのであれば、まずは協力してくれる医師を集める必要があると考え、そのために医学会向けのサービスを提供するようになりました。現在、日本には約33万人の医師がいますが、このうち約6万人のアカウントへアプローチできる術を持っています。
そこからいくつか紆余曲折を経て、メンタルヘルスに関心が向いたのは、精神科医だった義妹から「産業医をやりたいのだけれど、仕事を探す方法がない」と相談を受けたことがきっかけでした。当時の私が持っていた産業医のイメージは、健康診断を診る医師くらいだったのですが、よく調べてみると、日本の精神疾患は増加傾向にあり、どこが天井なのかがわからないという状況でした。
また、当時、自社のエンジニアが家族との関係でメンタル不調になった経験があり、精神科医に診てもらっていたのですが、治りがよくないため、再診で強い薬を処方してもらった結果、結局は退職ということになってしまいました。
何人かの精神科医に「メンタル不調にならないようにするにはどうすると良いのでしょう?」という質問をしてもしっくりくる答えをもらえないということも重なり、その結果、日本の精神病対策の状況に疑問を持つと同時に、産業保健の観点から「メンタルヘルスの予防を講じる必要があるのではないか」つまり、産業医の役割が変化していくのではないかということを考えるようになりました。
そんなことを考えていると、2015年の夏に、今でも当社の顧問をやっていただいていますが、当時、駆け出しの産業医であった三宅琢先生に出逢います。三宅先生も私と全く同じ意見で、「産業医の質が求められる時代になる」ということで意気投合し、2016年1月より、顧問に就任していただき、2016年5月に、『産業医クラウド』の原型となる、産業医サービスを展開し始めました。
事業内容について
メンタルヘルスソリューション事業で『産業医クラウド』を展開しています。産業医クラウドは、産業医や産業保健師による役務提供サービスとクラウド型メンタルヘルスケアサービス(ELPISシリーズ)を組み合わせることで、効率的にメンタルヘルスケアを実現できるため、多くの企業様にご導入いただいています。
ELPISシリーズのベースになっているのが、メンタルヘルスに関して厚生労働省が唱えている「4つのケア」です。
4つのケアとは、まず社員自身が個人でストレスマネジメントに取り組む「セルフケア」、管理監督者が社員のメンタルの変化に気付く「ラインによるケア」、産業医や衛生管理者など事業場内の専門家に相談できる環境を整備する「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、そして事業場以外の機関や専門家など外部の相談ルートを構築する「事業場外資源によるケア」です。
従来、企業のメンタルヘルスケアは、極めてアナログな方法で行われてきました。たとえば現場での研修や、外部の専門家と電話で応対するといった形です。
これに対して私たちが提供するELPISシリーズでは、社員がメールで産業医や専門医に相談できる相談窓口としての「ELPIS-ケアーズLite」、社員や経営陣がストレスマネジメントやケアについて学べるカリキュラムや理解度をチェックするオンライン研修サービスである「ELPIS-eラーニング」、メンタルヘルスに特化したオンライン性格判断システムである「ELPIS-メンタルチェック」、直近には、健康診断の情報を安価に管理し閲覧することができる「ELPIS-健診クラウド」等、多岐に渡るクラウドサービスを展開しています。
サービスのコンセプトは、産業医には産業医にしかできない業務を中心にやっていただき、産業医ではなくてもできる業務は、クラウドや産業保健師等で代替します。結果として、産業医のみに依存しない仕組みを構築することで、コストを下げつつ、効果的な健康経営を実現できます。
たとえば、従業員数1,000人程度の大手企業であれば標準的に年間3,000万円前後の産業医や産業保健師の人的費用が掛かるところに対し、半額以下で企業の課題解決を実施しつつ、当社の利益も確保できています。
なお、従業員からの相談を傾聴し、かつ様々な課題を解決できる産業医を確保する必要があり、当社社員による面談や、契約先企業からの評価を踏まえて、常に品質を維持する体制を整えています。
中長期の成長イメージとそのための施策
メンタルヘルス領域の売上については目先、100億円を目指しますが、これが300億円に達するのにどのくらいのスピード感で行けるのかについては、コロナの問題が完全に解決していない現状においては、イメージするのが難しいのは事実です。
ただ、売上高100億円、300億円をオーガニック成長のみで達成しようとは考えていません。出来るだけスピーディーに、売上を伸ばすにはどうすれば良いのかを考えているところです。
また、アジアへの展開ですね。ただ、今のビジネスモデルのままアジアに出ていくと、法規制の問題などがあるので、恐らく成功しません。なので、今の日本国内で展開しているのとはまた違うメンタルヘルスのビジネスモデルを構築して、展開していきたいと考えています。
投資家の皆様へメッセージ
現在、重視しているのは、とにかく、当社サービスの認知度の向上です。大企業の人事の方に私たちの存在を知っていただくこと。
競合他社は、私たちと競合しないために、いかにして私たちと引き合わせないかの戦略を取り始めています。それは私たちとのコンペになった時、かなり高い確率で私たちが受注できるということの裏返しでもあります。
今後は民間企業だけでなく、公的機関で働いている方たちのメンタルヘルス保持に寄与できればと考えています。学校の先生、保育士、介護など、エッセンシャルワーカーが安心して働ける環境を創りたい。
そういう点も含めて、まずは売上100億円の達成に向けてスピードアップしていきたいと思います。
本社所在地:東京都港区赤坂3-16-11 東海赤坂ビル4階
設立:2011年3月
資本金:529,219千円 (2022年6月末時点)
上場市場:東証グロース(2022年3月28日上場)
証券コード:9218