※本コラムは2023年9月13日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社ピーバンドットコムは、国内初のプリント基板Eコマースサイト「P板.com」を中心に、周辺領域への拡大により継続的な成長を実現してきました。
代表取締役社長の後藤康進氏へ、事業の優位性と今後の成長戦略について詳しく伺いました。
株式会社ピーバンドットコムを一言で言うと
「2次成長期にある会社」です。
祖業の「P板.com」で培ってきた7万のお客様へさらにきめ細やかなサービス提供をすることで、我々自身もさらに成長していきたいと考えています。
沿革
当社は2002年4月に株式会社インフローとして設立され、当初から電子機器の基幹部品であるプリント基板を扱ってきました。
プリント基板は私たちの生活に密接に関わるものです。
iPhone、パソコン、家電製品、ドローン、さらには宇宙ロケットにまで組み込まれています。
2003年4月には国内初のEコマースサイトとして、「P板.com」というサービスを開始しました。
ターニングポイント
当サービスでは、まずプリント基板にかかるイニシャル費用を無料にした料金体系を実現しました。
プリント基板の製造には版を作成する必要があります。
一度版を作成すれば増刷は容易にできますが、試作を繰り返す度にイニシャル費用がかさんでしまうと、製品化後の投資回収に影響を及ぼします。
我々はこの課題に着目し、イニシャル費用を無料にしてサービスを展開しました。
さらに、お客様がネット上で自分のプリント基板の仕様を入力することでリアルタイムでお見積もりが取得できる、ワンクリック見積もりシステムも導入しました。
これにより、従来の営業スタイルから脱却し、エンジニアユーザーがいつでもどこでも簡単に、見積もりを取得できるようになりました。
この二つの特徴により、特に試作段階において、当社のポジションが確立されました。
また、当初は生のプリント基板の製造に特化していましたが、その後、CAD設計サービスや実装サービスなど、プリント基板の前後工程にも展開を広げました。
さらに、お客様の用途に応じ、フレキシブル基板、ガラス基板、メタル基板など多種多様な商材を拡充してきました。
これにより、現在に至るまで持続的な成長を実現してきました。
代表就任の経緯
私は2004年に入社し、当社がまだスタートアップ企業であった頃から会社とともに成長してきました。
そしてこの度、創業者であり現取締役会長の田坂に変わり、2023年6月に代表へ就任いたしました。
背景には、2022年度から進行する中長期の経営計画があります。
COOであった私が代表として既存事業を強化し、田坂は会長として、新しい領域での価値創造と探索に注力する役割を担うことになりました。
今後は、いわゆる両利きの経営体制で、中計の最終年度にあたる2030年に当社がありたい姿を体現してまいります。
事業概要
当社の事業は、プリント基板のEコマースとEMS(Electronics Manufacturing Services)事業の二つに大別されます。
当初はプリント基板のEコマースを展開していましたが、ユーザーのニーズに応えるため、事業を水平展開・垂直展開し、製品開発から組み立てまで一貫して請け負うEMS事業も展開しています。
GUGENプラットフォームの優位性
このように、プリント基板ECから進化したモノづくりを支えるプラットフォームを、当社では「GUGENプラットフォーム」と呼んでいます。
GUGENプラットフォームは、モノづくりの上流工程から下流工程までを一気通貫でサポートする特徴があり、その優位性は大きく二つです。
まず、プリント基板のEコマース「P板.com」には現在7万人以上のユーザー登録者がおり、取引実績者数は2万8000社にのぼります。
また、毎日100から150件の注文が寄せられています。
つまり、エンジニアが試作を行いたいときに訪れる強力な媒体として機能しています。
このような強固な顧客基盤があることで、何か新しいサービスを展開する際にも機動的に実行していけるのです。
また、委託先とのネットワークが強固であることも優位性の一つです。
たとえば、顧客基盤を活用してリーチしたお客様(エンジニア)と仕入れ先を迅速に結びつけることができます。
これら2つの優位性により、当社はこれまでもユーザーとの強固な関係を築いてきました。
ビジネスモデルの特徴
GUGENプラットフォームで一気通貫サポート体制を整えてきた当社は、クロスセルを促進すること売り上げを拡大してきました。
足元でも単価上昇が主力事業の成長を支える鍵となっています。
まず、マーケティング戦略として、ファネル(顧客の購買プロセスを表現するモデル)を採用し、ユーザーに認知から育成、購入、ファン化までの段階でコンテンツ提供を行っています。
また、顧客単価を引き上げるため、営業活動を通じてEMSを拡大しています。
現在、当社のお客様は従前の個人・小規模層から中堅・大手企業へとウエイトが変化しています。
いわゆるこのメインストリーム市場には試作段階でも十分な開拓余地があると認識していますが、中堅・大手企業は商流が特に複雑なため、新たな取り組みも重要です。
そこで、当社では「仕組み×人間」をキーワードに、我々の元からの強みである仕組み(システム)に人のおもてなし対応を組み合わせて、この大きな市場を掘り起こす施策を推進しています。
中長期の成長イメージとそのための施策
現在、第1次中期経営計画(2023年3月期から2025年3月期まで)の最初の1年が経過しました。
引き続き、既存事業の拡大・強化を主体とする「地に足の着いた」事業戦略を基本方針とし、3つの施策を実行してまいります。
まずはプリント基板事業の拡大、2つ目にEMS事業のテイクオフ、そして最後は「第3の事業の柱」の探索と種まきです。
これらの取り組みにより、既存製品・サービスや既存顧客層から、新規領域への開拓を進めていきます。
プリント基板事業の成長戦略
今後の当事業における重要なポイントは大手・中堅市場でのシェア拡大です。
先ほどもお伝えした通り、このマーケットでのシェア拡大には複雑な商流における細かなニーズ対応が求められます。
そのため、当社では「仕組み×人間」というキーワードを掲げています。
多くの競合他社企業が数百人以上の法人対応チームを抱えている中、我々はこれまで少数精鋭でお客様のニーズにお応えしてきました。
今後もこの少数精鋭の体質を保ちつつ、仕組み(知的資本)と人間(人的資本)を掛け合わせることで、より一層競争力を強化していきます。
国内のプリント基板市場は約1兆2000億円の規模で、その中で我々がターゲットとしている試作・産機向け少量生産リピート市場は約5000億円に上ります。
現在、当社の売上は約20億円ですが、この市場のポテンシャルを考えると、大きな成長の余地があります。
特に、中堅・大手のお客様からの試作基板の受注に関してはポテンシャルが非常に高いと考えており、ここにアプローチすることが拡大の鍵となります。
具体的な目標としては、2028年3月期までに売上37億円、営業利益5.7億円、純利益4億円を目指しています。
私個人としては、さらなる成長も可能だと信じています。
現在は仕組みを強化するためにシステムへの投資が先行していますが、投資家の皆様には今一度プリント基板の市場規模と、当社戦略への注目をお願いしたいと思います。
EMS事業の成長戦略
EMS事業は、7月に「S-GOK(スゴック)」として新たにサービスをリリースしました。
現在のEMS市場には多くのプレーヤーが存在し、競合との明確な差別化が求められていました。
そこで我々は「S-GOK」というブランドをつくり、今後は伴走型のパートナーとなっていくことを目指しています。
具体的には、開発・量産支援といった、モノづくりにおけるより上流工程への拡大とサービス幅の拡充に注力していきます。
また、ハードウェアの開発から製造までのサポートはもちろんのこと、ソフトウェア開発やクラウド環境構築、アプリ開発など、幅広いニーズに応えていきたいと考えています。
プリント基板事業では大手・中堅層へのアプローチを強化していますが、決して個人・小規模のお客様をないがしろにするというつもりはありません。
昔からご利用いただいているユーザー様ですので、引き続きP板.comもご利用いただきたいと考えています。
同時に、特にこの辺りのお客様に対してEMS事業を通じたモノづくり全般のご支援ができるのではないかと考えています。
すでにリリース以来多くの引き合いを頂いており、需要の高さを実感しています。
10月頃からはウェビナーを実施するなど、コンテンツ提供も進め、サービス価値を高めていく方針です。
新規事業について
新たな事業を創出することは当社事業規模の拡大のために最も重要な戦略です。
これまでご説明してきたサービス以外にも、当社では「GUGENコンテスト」やキュレーションサイト「@ele」などを運営しています。
また、「GUGENクラウド」では、ハードウェアを開発したいエンジニアと協力したい人々を結びつけ、アイディアを具現化するサポートを提供します。
このように、アイディアの具現化を支援するサービスや事業については、今後も多様に展開していきたいと考えています。
この際には、長年にわたり培ってきた顧客基盤が大きなアドバンテージとなるでしょう。
既存事業「P板.com」においては、今後は基板の上に載る電子部品が拡大のキーワードだと考えています。
半導体や部品の余剰在庫の売買プラットフォームも検討中で、これにより電子部品の供給と需要を効率的に結びつけることができます。
すでに電子部品のEコマースには競合も存在しますが、彼らとのタイアップも視野に、新たなビジネスモデルとしてサブスクリプション型のビジネスを展開してまいります。
投資家の皆様へメッセージ
当社は祖業からニッチな領域でビジネスを展開してきました。
当たり前にあるようなことをやるのではなく、ユーザー自身もまだ気づいていないような、本当に必要なサービスが何かを考え抜き、提供しようと考えています。
また業績についても今後しっかり上げていきますので、ぜひご注目していただけますと幸いです。
本社所在地:東京都千代田区五番町14 五番町光ビル4F
設立:2002年4月
資本金:181,317千円(2023年9月アクセス時)
上場市場:東証スタンダード(2017年3月9日上場)
証券コード:3559