※本コラムは2023年9月29日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社揚羽は企業ブランディング支援を軸に実績と対外的な評価を積み上げ、継続的な成長を実現してきました。
代表取締役社長の湊剛宏氏へ、沿革や事業の優位性、および今後の成長戦略について伺いました。
株式会社揚羽を一言で言うと
ブランディングからクリエイティブ、マーケティングまでを一気通貫で支援する会社です。
創業と沿革
2001年に採用映像制作を祖業として当社を設立いたしました。
それ以前は、新卒でリクルートに入社しHR領域の広告営業に従事。その後、学生時代からの憧れだった映像制作プロダクションに入社しました。
映像制作プロダクションでは、ニュース番組やドキュメンタリー番組などのAD、ディレクター、プロデューサー、営業、など幅広く経験をしました。
そんな中、リクルート時代の同僚から「採用映像には企業の差別化が求められるが、ビジネスを理解し描き分けられる映像クリエイターがいない」と相談を受けたことが創業のきっかけとなります。
さらに当時、採用活動に映像を活用する企業は全体の3割ほどと少なかったのです。
マーケットも大きく、プレイヤーも少なく、市場開拓のチャンスだと考えました。
また、映像制作プロダクションに勤める中、クリエイターの給与が低いことを問題に思っていました。
だからこそ、直受けへのこだわりと、クリエイターにも交渉力やビジネス知識を身に着けさせることを徹底し、クリエイティブ業界を変えたいという想いもありました。
そして、「採用×映像制作」と「ビジネス×クリエイティブ」のハイブリッドをテーマに、創業に踏み切りました。
ターニングポイント
創業以来「人とビジネスを描く」ことを軸にクリエイティブ制作からブランディング支援へ領域を拡大し、継続的な成長を続けてきましたが、コロナウイルス感染症拡大によるビジネス環境の変化は大きなターニングポイントとなりました。
それ以前の当社の主力事業は映像制作でしたが、コロナの影響で撮影活動が制約されたことで映像領域の売上が減少する懸念がありました。
また、当社で特にお取引の多いBtoB企業では、訪問や展示会などのリアルな接点が制限され、営業方法をWebに転換する必要がありました。
このような状況下でWebサイトの需要の高まりを受け、当社ではWebディレクターの育成を進めました。
結果としてコロナ禍でも売上は2割減に抑えることができ、Web領域の売上成長にもつながりました。
そしてこの事業ピボットがこの度の上場にもつながる重要なステップとなりました。
近年、映像制作市場には異業種による参入も増えており、競争が激しいという一面もあります。
一方、Web領域は常に進化する技術に対するアップデートが必要であり、ここには専門知識をもつプロの支援が不可欠なのです。
また、映像制作のマーケットと比較してWeb市場は格段に規模が大きいため、当領域での優位性を高めたことが売り上げアップを図れる要因になったと思います。
事業概要
当社はブランディング事業の単一セグメントで事業を展開し、リクルーティング支援とコーポレート支援の各領域で多岐にわたるサービスを提供しています。
具体的には、HRに立脚したブランドコンサルティングからクリエイティブ制作、Webマーケティングまで、クライアントのニーズにワンストップで応えています。
現在、領域別の売上構成としてはリクルーティング支援領域が42.5%、従業員向けやその他ステークホルダー向けのブランディングを支援するコーポレート支援領域が57.5%となっています。
ビジネスモデルの優位性
競争優位性として、コンサルティング会社や制作会社では叶わない、一気通貫での支援を提供できる点が挙げられます。
インナーブランディングの支援を例にとると、通常、コンサルティング会社は従業員向けのアンケートや企業調査を実施し、クライアントが取るべき施策を提示するところまでを業務としています。
その後の施策実行は、研修会社や制作会社等、別の会社が支援します。
すると、コンサルティングフェーズでの細かな情報を伝える必要、また、一から理解する必要がクライアント側と支援企業側の双方で発生し、さらに、認識の齟齬がうまれることも少なくありません。
一方、当社はクライアントを徹底的に理解するところから始まり、その企業に合った施策提案と質の高い実行支援までを一社で提供することができます。
このように、従来分野ごとに分断化されていたサービスを一気通貫で展開することで、競合他社との差別化を図ることができています。
一方で、このビジネスモデルは新規参入が難しく、拡大も容易ではありません。
そのため、当社は成長において「標準化」を非常に重要視しています。
すでにデザインに関しては一定の標準化を進めていますが、今後も更に強化していく方針です。
営業活動やディレクション業務においても標準化を図り、引き続き着実な成長を遂げていきたいと考えています。
マーケット環境について
当社の事業は、「人的資本経営に特化したブランディング支援」を特徴としています。
米ギャラップ社が実施した世界各国のビジネスパーソンへのアンケート結果から、日本の従業員エンゲージメントが相対的に低いことが明らかになっています。
この現状に対して、大手企業は若手従業員の流出を抑え、エンゲージメントを向上させる取り組みを本格的に始めています。
一部企業では役員報酬とエンゲージメント数値を連動させるなど、従業員エンゲージメント向上は注力テーマとなっています。
やはり日本の経済を支える各社で働く従業員が元気でなければ、日本経済の発展は望めないと思います。
そのため、当社は大手企業を中心としたエンゲージメント向上支援に取り組んでいるのです。
また、人材マネジメントの実践状況からも、従業員エンゲージメントに関する課題が浮き彫りになっています。
約4%の企業しか現状に満足しておらず、これは大きな改善の余地があることを示唆しています。
同時に、従業員エンゲージメント市場は2020年から2026年まで年率17.8%ずつ上昇する想定で、インナーブランディングのマーケットは需要の高まりが見込まれています。
一方、採用マーケットですが、新卒者数の減少が続く中でも企業は優秀な人材の獲得に注力しています。
ただし、市場規模は限られており、採用ブランディング支援事業は7億円から最大でも10億円程度で推移すると考えています。
今後は、インナーブランディング、コーポレートブランディング、サステナビリティブランディングなど、市場規模が拡大しやすい分野に注力していきます。
中長期の成長イメージとそのための施策
従来の単発型サービス提供から、今後はクロスセルを通じた顧客単価の向上を狙います。
具体的には、お客様の課題に応じて、インナーブランディングからコーポレートブランディングまで広範なサポートを提供していきます。
現在の平均顧客単価は500万円程度ですが、過去には3年間で7000万円の取引になったクライアントもいます。
同時に、取引企業社数も拡大していきます。
現在の取引先は上場企業や大企業を中心に800社ほどですが、メインターゲットは上場会社、未上場大手子会社、独立系の準大手・中堅企業の計1.8万社。
中でも強化するのは、大手企業の子会社です。ここでの成功事例が生まれれば、親会社や同一社内の子会社にて新たな紹介が期待できます。
また、Webマーケティングの推進によるストック売上の積み上げも実行していきます。
この施策も目指すところはクロスセルによる単価上昇。
Webサイト制作の過程で当社はお客様とのコミュニケーションを通じてかなり深くクライアント企業を理解しています。
その理解度がサービス満足度にもつながり、競合他社からのリプレイスも期待できると考えています。
この点では「標準化」と「Webマーケター採用の強化」が成長の鍵であり、この方針に基づいて事業を発展させていく所存です。
注目していただきたいポイント
当社は、「一社でも多くの企業のブランディングに伴走し、日本のビジネスシーンを熱く楽しくする!」というミッションを掲げています。
従業員エンゲージメントが向上すると、それは企業の業績向上にも繋がります。
例えば、ある大手メーカーでの「挑戦する風土をつくるインナーブランディング支援」では、約3年のキャンペーンの結果、7割の社員がイノベーションを起こす行動を始め、企業業績も大幅に向上しました。
その後、同社の海外拠点のインナーブランディングも任せていただけることになりました。
繰り返しになりますが、このような実績と横展開を増やすことが当社の成長戦略です。
投資家の皆様へメッセージ
大手企業からの人材流出は時代の流れで避けられない部分もありますが、残る従業員のエンゲージメント向上が日本経済に大きな影響を与えると信じています。
しかし、当社はまだ小さな会社で、年間数十社しか支援できない現状があり、より多くの企業を支援するために、当社も大きくなる必要があります。
さらなる成長に向け、ぜひ皆さまのご支援を賜れますと幸いです。
本社所在地:東京都中央区八丁堀2丁目12-7 ユニデンビル3階
設立:2001年8月7日
資本金:2億7899万円(2023年9月30日時点)
上場市場:東証グロース(2023年9月21日上場)
証券コード:9330