※本コラムは2023年10月5日に実施したIRインタビューをもとにしております。
各企業に合わせたカスタムAIソリューションを提供することで企業のバリューアップを目指す株式会社Laboro.AI。
創業の経緯や中長期戦略について、代表取締役CEOの椎橋徹夫氏に伺いました。
株式会社Laboro.AIを一言で言うと
AIで社会や産業の価値向上を実現する会社です。
創業の経緯
大学卒業後、分析的・数理的アプローチを用いて世の中の問題を解決していきたいと考え、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)に入社しました。
いくつかの戦略プロジェクトで経験を積みつつ、特にビッグデータが注目を集め始めた頃からは、ビッグデータを活用して経営課題を解決する案件に多く携わりました。
また、データサイエンスへの注目も高まる中、データサイエンスやデータ解析といった「最先端テクノロジーがどのように世の中に貢献できるのか」に興味を持つようになりました。
そこで、データサイエンスのアカデミックな技術を産業界に生かしていく、産学連携の取り組みを推し進めている東大の松尾研に参画しました。
その間には松尾研発のベンチャーであるPKSHA Technologyの立ち上げにも携わりました。
その後、BCG時代からの同僚でもある藤原とともに2016年に当社を創業しました。
イノベーションを起こすために
戦略コンサル、産学連携、ベンチャー企業という3つの経験をベースにテクノロジーをビジネスに繋げていきたいと考えたことが、創業の背景にあります。
そして、新たなテクノロジーでいかに上手くイノベーションを起こしていくか、に焦点を当てました。
イノベーションが起こることで世の中は進歩します。そのため、イノベーションを起こす方法論を解明することで、世の中に価値を提供できるだろうと考えました。
このような視点で見ると、私が経験した3つの領域は、それぞれ課題はあるもののイノベーションのための重要な要素を持っていました。
例えば、戦略コンサルではトップダウンで会社や業界全体の変革に取り組むため、イノベーションには非常に近いですが、テクノロジーの実装までを担うことはできません。
同じく産学連携も、最先端の技術と産業を連携するという観点でイノベーションを起こしやすいのですが、企業と大学では本質的な目的に違いがあり、構造的に難しさがあります。
大学は論文を出すことで成果を示しますが、収益を上げることを目的とする企業はできる限り外部に成果を公表したくありません。
大学発ベンチャーは大学の技術を事業化するため産学連携のような課題はありません。
しかし、企業としての成長性を考慮した結果、バックオフィス等コーポレート領域の業務効率化をメインとする傾向があり、事業のコアな部分に迫り、企業や業界に直接的な変革を促すことは難しいのです。
これらの経験から、イノベーションにおいて重要な要素を組み合わせ生まれたのが当社です。
つまり、戦略コンサルのようにトップダウンで変革に取り組み、産学連携のように学術界の最先端技術を産業界にもたらし、それを大学発ベンチャーのように事業化して成長していく、これが私の目指す組織なのです。
ターニングポイント
2018年に当社の事業モデルを確立し、組織の拡大を図ったことが最初の転換点です。
モデルが固まらないうちの組織拡大はリスクが高く、組織の瓦解や事業方針が定まらないといった問題が起こり得ます。
そのため、設立後2年ほどは試行錯誤を続け、事業モデルの言語化に注力しました。
また、2020年のSCREENグループとの資本業務提携も大きな転換点となりました。
同社は業態上機密性が非常に高い企業であり、製品開発などの中心的なテーマを外部企業と取り組むことはほとんどありませんでした。
しかし、当社は長期的なイノベーションを生むようなテーマに取り組むことを目標としています。
そのため、企業にとって一番コアな領域に共に取り組むことが重要です。
そこで、資本業務提携という形をとることで、「親戚」のような深い関係性を作り、門外不出のテーマに協同で取り組み始めました。
同様に顧客との長期的な関係構築を目指すものとして、他にも5社との提携の締結に至っております。
事業の概要
「イノベーションを起こせるような人材を採用・育成し、プロジェクトベースで様々な業界のクライアントと長期的に取り組みながら、AIを用いて各クライアントのコアとなる領域でイノベーションを起こしていく」という事業モデルを当初から大切にしています。
そのため、当社はSaaS型ソフトウェアや全社共通のプロダクトではなく、オーダーメイドで一社一社に合わせたAIソリューションを提供しています。
これを、「カスタムAI」と呼んでいます。
また、「AIソリューションを使って事業自体をどう変えていくか」に取り組むことを得意としているため、AIの開発・納品に留まらず、前提となるAIを用いた変革の企画・構想も支援しています。
拡大再生産の仕組み
カスタムAIは当社の大きな特徴ですが、毎回スクラッチで開発するのは効率的とは言えません。
技術の基盤や土台が再利用可能な形に整備され、これが様々な用途で活用され、普及していくこともまた必要なプロセスです。
我々がオーダーメイドで各企業に合わせた取り組みをしながらも、プロジェクトの各フェーズでは、AIの領域でも汎用的・普遍的に使えるノウハウや技術が必然的に生まれると思っています。
この考えに基づき、当社ではバリュー・マイニング(VM)とバリュー・ディストリビューション(VD)の2つの提供形態をとっています。
VMは先行例がなく、ノウハウや技術がまだない領域に試行錯誤しながらソリューションを作っていく形態です。
この過程で普遍的な技術・ノウハウを溜めていき、VDではこのノウハウを応用する形でプロジェクトを進めていきます。
この2つを連動させることが重要であり、徐々に基盤となる技術やノウハウが蓄積されることで、プロジェクトのスタート地点を高めていくことができています。
これを、当社では「拡大再生産の仕組み」と表現しています。
この仕組みの具体例を説明します。ゼネコンの大林組は地震による建物の揺れを抑える制震技術を研究開発しています。
この制御システムに強化学習を取り入れることで従来の方法よりも高い精度で制震を実現できるようになりました。
また、このような強化学習を取り入れるノウハウは、半導体製造装置の制御、という全く異なる業界にも応用することができました。
さらに、装置の制御に関するソリューションの新たなノウハウが溜まることで、また似通った課題をもつ全く異なる業界、具体的には土木工事における計画の最適化にも取り入れることができたのです。
今後、問題解決に関連したノウハウがさらに追加で生まれれば、別のプロジェクトに応用することができるでしょう。
企業ごとに顕在化している課題は違うため顧客企業同士で競合することは少なく、一方当社はベースとなる技術を応用することで企業や産業を超えた面展開が可能である、という点は大きな優位性であると言えます。
対象マーケットとその成長性
当社のカスタムAIサービスはAI構築サービス市場に該当します。
AI構築サービス市場とは、国内AIビジネス市場のうち、企業のニーズに応じたAI構築支援のビジネス行う市場です。
また、AIビジネスはAIを用いた業務効率化や業務改善を図る取り組み(ランザビジネス領域)と、ビジネスモデルの変革や新製品や新サービスの創出を通じてバリューアップを目指す取り組み(バリューアップ領域)の2つに大別できます。
前者の業務効率化・業務改善に関するランザビジネス領域は、米国と比較してもすでに同水準で成果を生んでいるとの報告もあります。
一方でバリューアップに関する領域の進捗は米国と大きな差があり、この比率を上げてイノベーションを起こすことが重要だと認識しています。
そのため、当社はAIを活用した新製品やサービスの創出、さらにビジネスモデルの根本的な変革にフォーカスしています。
現状このようなバリューアップの取り組みに対する投資は国内企業が保有するIT予算の2割程度にとどまっているという推計があります(※)。
今後、我々の努力も含めランザビジネス:バリューアップの比率が米国の水準に近づくと、AI構築サービス市場の成長率よりもさらに高い成長率が期待できます。
当社の推計では、今後5年間のバリューアップ領域におけるAI構築サービス市場の規模は少なくとも年平均20%弱で成長する見込みです。
中長期の成長イメージとそのための施策
「すべての産業の新たな姿をつくる」をミッションに、顧客基盤を「広げ」て「深め」ながら、顧客に提供する付加価値を最大化することを目指します。
これに基づき、当社では以下の要素とそれぞれの連関を重視しています。
プロフェッショナル人材の蓄積と顧客基盤の拡大
当社は、先ほどご説明した拡大再生産の仕組みと合わせ、「人材」「顧客基盤」の3つの優位性で成長を促進させています。
中でも、人材戦略と顧客基盤の強化は表裏一体だと認識しています。
顧客基盤の観点では経営者層と強固な関係を築き、会社全体としてAIを活用したイノベーションを起こしていくことが重要です。
そして、そのためには技術とビジネスの双方に知見を持つプロフェッショナルな人材が必要です。
ですが、そうした人材の採用・育成の難易度は高くなります。
このような役割を担いたいと考えている優秀な人材が多い一方で、この機会を提供している会社はほとんどないのです。
当社は、技術・ビジネスの双方を高めてイノベーションを起こすことに特化しているため、そうした領域でのキャリアを志す方にユニークな機会を提供できます。
この点を強化して採用を進め、組織能力を高めることで顧客リレーションを強化してまいります。
VM/VDの好循環による顧客の獲得
VMとVDの両方が同時進行で成長していくことが重要だと思っています。
創業時は当社に知見を蓄積するため、VM事業からスタートし拡大してきました。
2023年10月現在で売上においてVMが占める割合は約7-8割、VDが約2-3割になっています。
今後は徐々にVDの比率を伸ばしていきたいと考えています。
これにより、市場の成長率を超え、組織拡大すればするほど成長スピードを上げられる体制を中期的に作っていきます。
投資家の皆様へメッセージ
当社は中長期的な企業価値向上に注力しています。
また、投資家の皆様との対話も重要視しています。
バリューアップやイノベーションに対する我々の考え方を共有し、このコンセプトを実現するための良いモメンタムを作っていきたいと考えています。
短期的な業績も当然大事ではありますが、当社が掲げるコンセプトへの理解を深め、是非、中長期的な目線でご支援していただけましたら幸いです。
本社所在地:東京都中央区銀座8丁目11-1
設立:2016年4月1日
資本金:10億451万円(2023年10月アクセス時)
上場市場:東証グロース(2023年7月31日上場)
証券コード:5586