※本コラムは2023年7月28日に実施したIRインタビューをもとにしております。
質の高いデータを目指して真剣に創薬に取り組む株式会社ティムス。
代表取締役社長の若林拓朗氏に創業の経緯や今後の展望についてお伺いしました。
株式会社ティムスを一言で言うと
「バイオベンチャー業界の野茂英雄」
日本のバイオベンチャー業界では、グローバルIPOを行ったのは当社が初めてですし、海外大手製薬会社との大型提携も当社以外には数例しかありません。
当社の後に、多くのバイオベンチャーが続くことを期待しています。もちろん、当社も、より成長していきたいと思っています。
代表就任の経緯
私は2001年に大学発ベンチャー企業を支援する会社を設立しました。
翌年にはファンドを立ち上げ、大学発ベンチャーへの投資を開始しましたが、当社はその投資先の一つでした。
2011年にティムスの共同創業者であり設立時から取締役を勤めていた東京農工大学の蓮見教授が当社の代表取締役に就任した際に、大学側の内規により、もう1人代表取締役が必要となり、私が共同代表取締役に就任することになりました。
その後、TMS-007の開発が順調に進み、Biogenとの契約を締結したことをきっかけに本格的に上場を目指す段階に入るにあたり、2018年に現職に就任いたしました。
ターニングポイント
当社のターニングポイントは2011年に開発対象となる品目をTMS-007に変更したことです。
また、同時期に当時の社長が退任し、当時東京農工大学の教授であった蓮見教授が社長に就任しました。
さらに科学技術振興機構から助成金を得て、本格的にTMS-007の開発に着手しました。
これら3つの出来事がターニングポイントとなりました。
また、上場については、2018年にBiogenとの契約を締結したことが大きなきっかけとなりました。
その後、2021年に臨床試験にて良好な結果が出たことで上場準備を本格化していきました。
マネジメントスタイル
経営において意識していることは2つあります。
まず、世界に通用する企業を真剣に目指すということです。
当社はバイオベンチャーですので、世界の中で存在感がある企業であること、少なくとも開発する商品が世界で通用することが重要だと考えています。
もちろん他のバイオベンチャー企業も同じように考えていると思いますが、当社は本気でその実現を目指しています。
また、活発な議論を行う環境作りに力を注いでいます。
医薬品の開発は複雑なため、様々な人の意見が議論されることが重要になります。
そのため、皆で議論を活発に行うカルチャーを会社組織として重要視しています。
事業の概要
当社は医薬品の開発を行っています。
元々は東京農工大学で発見されたSMTPという化合物群の一部を開発してきました。
現在の主力製品は、次世代の急性期脳梗塞治療薬候補であるTMS-007であります。
そして、今後は、SMTP以外の創薬シーズを見出し、パイプラインを増やしていく予定です。
TMS-007の医薬品としての優位性
TMS-007は、臨床試験に入る前の段階から非常に多くの実験を積み重ねており、データの質が高いと考えています。
医薬品の開発は臨床試験における統計的な分析結果により評価されます。
結果的に、TMS-007は前期第Ⅱ相臨床試験において非常に良いデータを得ることができました。
具体的には、有効性の評価でプラセボとの差が大きいことが挙げられます。オッズ比という、差の大きさを表す指標の1つでは、3.34とかなり大きな値となりました。
また、既存の薬に比べて発症後投与可能時間を大きく広げることができる可能性を示しました。
安全性に関しても、これまでは血栓を溶かす薬は出血リスクが必ず伴うと信じられていましたが、出血リスクのない血栓溶解薬としての可能性を示しました。
市場へのインパクト
脳梗塞への既存薬であるt-PAは脳梗塞治療の事実上の唯一の承認薬であり、世界の多くの国で使用されています。
しかし、そのt-PAですら脳梗塞患者の10%ほどにしか利用されていません。この薬の売り上げは概ね21億ドル(約3,050億円※)となっています。
それに対して、我々は自社の試算で最大5倍から6倍の患者さんに投与可能であると考えています。
また、TMS-007は、t-PAより高い有効性と安全性を担保できれば、t-PAよりも高い薬価を設定できると考えています。
現時点では推定薬価は公表していませんが、さらに売り上げが増加することを想定しています。
25年以上にわたり新薬がなかった脳梗塞に対していくつもの薬が承認されるということは考えにくく、TMS-007が承認されれば、脳梗塞治療薬市場において主導的な存在になり、その売り上げの一部がロイヤリティとして当社の売り上げになることが期待できます。
中長期の成長イメージとそのための施策
引き続き主力製品のTMS-007を収益のベースとしつつ、急性期を中心とした炎症性疾患の新たな治療薬としての可能性が期待されるTMS-008などの臨床試験も進めていくことで、SMTP化合物群による成長基盤を確立してまいります。
足元では、BiogenがTMS-007について次の臨床試験を進めるか否かを再検討している状況です。
次の段階に進むことを決定すれば、まずは後期第Ⅱ相臨床試験となり、第Ⅲ相の臨床試験が開始されれば、5例目の投与が完了した時点で6,000万ドル(約90億円弱※)の収益が見込まれます。
その次の、承認に関するマイルストーンが達成されれば合計で約1億500万ドル(約152億円※)の収益が得られる予定です。
また、承認後、特許の有効期間中にはTMS-007の売り上げに対して、1桁台後半~10%台前半の収益をロイヤリティとして得る見込みです。
さらに、SMTP化合物群以外の新たな創薬シーズを見出すことで、 これと同様のストーリーを実現し、中長期的な更なる成長を目指してまいります。
戦略の方針と当社の強み
医薬品の開発には莫大な時間とコストがかかります。
また、倫理面からも、臨床試験を行うには根拠が必要であり、有効性や安全性についてのデータを揃える必要があります。
これは、限られた情報を元に医療品にできるかどうかを推測していく工程です。
一般的に製薬会社ではこの検証にステージゲート方式を用いています。
これは、各段階において基準をクリアすることで医薬品としての確からしさを検証していくもので、「絞り込まれた結果残ったものを開発対象とする」、というイメージです。
一方、当社では段階を追った基準は採用せず、総合的な視点から医薬品になりそうかどうかを常に検討しています。
そのため、非常に早い段階から実験結果に対して皆で議論して、原因究明を行っています。
ライフサイエンスに関する研究に従事している人は、世界中の研究者のおよそ半数にのぼるとも言われています。
我々は、この数々の発見や研究成果の中には、医薬品に結びつく可能性があるにも関わらず、ステージゲート方式により実現できなかったものが数多くあると考えています。
それらを再評価し、ビジネスとして展開することで、新たな価値を生み出すことを検討しています。
本来であれば世の中の役に立つはずの研究成果を見捨てることなく、医薬品として具現化し、世の中の人々が健康を取り戻し、社会復帰を目指せるよう、医薬品を通じて社会に貢献したいと思っています。
また、医薬品企業は本質的にリスクが高いビジネスですので、取れるリスクには限界があります。
当社は小規模な組織であるため、大企業と比べてリスクに対して柔軟に対応できます。
当初に期待される価値があまり大きくなくとも、後に数千億円の売上になったような製品は多くありますが、我々はそれに挑戦しやすい立場にあります。
このように、大手の製薬会社では難しいような領域にも積極的にチャレンジできることは、当社にとって大きなメリットであると考えます。
注目いただきたいポイント
やはり先ほどご説明したTMS-007のデータの違いに注目していただきたいです。
バイオベンチャー企業が数多くある中で、当社は高い質のデータと確かな根拠を求めて真摯に研究を進めておりますし、だからこそTMS-007が医薬品になると確信しています。
日本のバイオベンチャー企業として一括りに見てしまうこともあるかもしれませんが、誠実さと信頼性を重視し、真摯な姿勢で創薬に取り組む当社の価値をご認識いただけると幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
当社は、真面目に地道に事業を展開する企業で、株式市場では目立ちにくい存在かも知れません。
しかし真摯な姿勢で研究を行い、創薬というアプローチで社会貢献に取り組む当社が成長していくことは、世の中にとって価値のあることだと我々は考えておりますので、ぜひ応援していただけますと幸いです。
- 本文中の円換算金額は、2023年8月24日為替レートによる概算値です。
本社所在地:東京都府中市府中町1丁目9番地 京王府中1丁目ビル11階
設立:2005年2月17日
資本金:1,160百万円(2023年8月アクセス時)
上場市場:東証グロース(2022年11月22日上場)
証券コード:4891