※本コラムは2023年11月1日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ソフトウェア製品とエンジニアリングサービスの提供により、製造業を支えているイーソル株式会社。
代表取締役社長の長谷川勝敏氏に事業概要や事業の強みについて詳しく伺いました。
イーソル株式会社を一言で言うと
日本の製造業の基盤となるソフトウェア製品・サービスを提供している会社です。
会社の沿革
当社は1975年に設立され、初代・2代目社長は、創業メンバーでした。
2000年代に入ると国内コンシューマーエレクトロニクスが発展を迎えましたが、その後中国や韓国でもデジタル化が進み、価格競争も激化していきました。
また、デジタル部品を組み合わせれば、誰でも作ることのできる製品の普及は、ソフトウェアの希少性を失わせ、付加価値を見出してくれるお客様が減るようになりました。
そこで、2010年頃から自動車業界をメインの顧客と位置づけ事業を展開してきました。
それまで人の命にかかわる領域に製品やサービスを取り扱うことはしてきませんでした。
しかし、このような領域でのソフトウェア開発やサービスの提供に注力することは、日本の製造業としての価値があり、また当社にも価値があると考えました。
その後、2013年には3代目として、私が代表に就任しております。
初代、2代目ともに上場を目指していましたが、バブル崩壊やリーマンショックにより断念した過去がありました。
3度目の挑戦で2018年に東証マザーズに上場、2019年に東証一部に移行、2022年にプライム市場へ変更、そして2023年にスタンダード市場に移行しました。
近年、自動車はますます高機能化しています。そ
のため、高機能製品をいち早く提供するためには多額の投資を行う必要があります。
今後は、この開発投資額を徐々に抑えつつ、開発している製品をあしがかりにして、大きく成長していきたいと考えています。
ターニングポイント
当社の転換点は2つあります。
1つ目の転換点は1984年に独自プラットフォーム販売を開始したタイミングです。
当時、自社でソフトウェアのプラットフォームを持つ会社は日本にはありませんでした。
以降、OS製品の販売とその製品に対するエンジニアリングサービスを継続して提供してきました。
2つ目の転換点は2001年に社名をイーソルに変更したことです。
設立当初、社名はエルグでした。エルグは小さい単位の物理量で、「小さい会社でも独自性を出して光っていきたい」という思いを込めて名付けられました。
しかし、2代目の社長の時に、「ソフトウェア製品の販売会社」として当社ブランドを確立していきたいとの考えから、エルグからイーソルに社名を変えました。
事業の概要
製造業の方が製品を作るためのソフトウェア製品(組込みソフトウェア製品)、それに対するサービス提供(エンジニアリングサービス)、そしてR&D(研究開発)が当社の事業内容となっています。
当社のソフトウェア製品を購入していただくと、各顧客のアプリケーション向けに様々なカスタマイズが必要となります。
このオーダーメイドのカスタムを担うのがエンジニアリングサービスです。
また、エンジニアリングサービスによって集めたお客様のニーズを種にして、R&D事業で先行開発を行っています。
当社のビジネスモデルには、このように3つのサービスが好循環を生むという特徴があります。
その他、オープンソースと呼ばれる世の中にあるフリーのソフトウェアを社内で独自にカスタマイズし、品質保証をした上で提供する事業も行っています。
標準化に向けた取り組み
当社は世界の自動車の標準化活動を行う連盟に「プレミアムメンバー」として加盟しています。この標準化活動の参画には様々な利点があります。
まず、グローバルの基準を採用することで世界中に販売することができるため、輸出産業である自動車産業にとっては大きなメリットとなります。
また、連盟の中でもプレミアムメンバーになると、規格を策定する立場になることができます。
これにより、他社に先駆けた規格の採用や、自社製品の機能を標準化に提案することができるのです。
加えて、標準化のためのソフトウェア開発には多額のコストがかかりますが、規格策定に参画することで開発コストを抑えるメリットもあります。
さらに、規格策定のメンバーは自動車業界の他、電子部品を扱うメーカーも存在します。これらの業界で活躍する方々とのコミュニケーションもまた、当社事業にとって大きな利点となっています。
競争優位性
当社の強みは、一つ一つの技術力やサポートサービスの質、そしてこれにより積み上げてきた実績にあります。
お客様からの信頼は厚く、1984年のプラットフォーム販売開始以来、継続してお取引をさせていただいている先がほとんどです。
これらの実績により、当社は持続的な成長を実現してきました。
また、一般的なソフトウェア開発企業とは業務形態が異なります。大半の会社では、業務アプリケーションのカスタマイズや業務改善の手助けを行います。
一方、当社は顧客の製品を作るためのソフトウェアを開発し、それに対するサービスを提供します。
下図の「プラットフォーム」が当社のOS製品です。
さらに、製品を一度採用していただくと、顧客のソフトウェアの重要な点が分かります。
そのため、顧客のモデルチェンジやアップデートにおいても引き続き当社のOSを使用していただき、それに付随するサービスも提供することができています。
このように、当社のサービス形態もまた、継続的・長期的なお取引が実現する要因となっています。
加えて、当社製品は自動車産業だけでなく、宇宙産業やコンシューマ機器といった身の回りの機械など、幅広い分野で採用していただいております。
例えば、自動車産業では車の周辺を見るためのモニター、宇宙産業では人工衛星の中で使うための機械、コンシューマ機器ではカメラやプリンター、ゲーム機などに採用されております。
これらを、デンソーグループ各社、ソニーグループ各社、その他業界を問わず、国内の名だたる大手製造業者様とお取引させていただいております。
中長期の成長イメージとそのための施策
現在、セクター別の売上割合としては自動車が40%を占めていますが、今後はFA系(ファクトリーオートメーション)の分野に注力していきます。
近年、日本では労働力不足が問題となっています。そこで、FA機器の自動化による生産性の向上によって、この社会問題の解決を目指します。
例えば、フリーソフトであるROS(ロス)を用いると、様々な機械を分散配置して動かすことができます。
ROSは、国内での知名度がまだ高くない分、当社が保有する数多くの情報には価値があると考えています。
既にFA機器をよりインテリジェント化していきたいと考えている企業に向けたコンサルや、試作品を作るためのサービス提供といった案件が増加しており、さらなる成長の柱とする方針です。
マーケット見通しと開発投資戦略
2022年時点の世界の自動車販売台数における日本車の割合は、およそ30%です。
また、自動車を製造する上でソフトウェアにかかるコストは、原価の約65%を占めています。
従って具体的な数値は言えませんが、車の原価×30%×65%が、当社がターゲットとするマーケットの2023年現在の規模となります。
一方、車の販売台数はこれ以上増えないと見込んでいます。
その代わり、各メーカーは製品価値を高めて1台あたりの価格を上げることに取り組んでいます。
そこで、性能向上を目的としたソフトウェアへの投資が加速しているのです。
また、先ほども申し上げたように、足元での開発投資の中心は自動車の高性能化に対応する車載ソフトウェア開発です。
一方、当社のソフトウェアは自動車以外にも幅広い分野のデバイスで活用されており、これらに関しては既に開発を終えて販売を開始しています。
そこで、主要マーケットである自動車産業への投資を行うことが、当産業だけでなく、既に開発した他業界の製品価値をも高めていくことに繋がっていくと考えています。
つまり、他の産業への横展開が可能となり、当社がターゲットとするマーケットも広げることができると考えています。
注目していただきたいポイント
来年度までは投資フェーズですので、売上利益ベースの財務的な情報だけでなく、将来的な売上利益を考慮していただけたらと思います。
当社はこれまで継続的な成長を実現してきました。
足元の投資の成果が売上・利益の伸びにつながるところに、ぜひご注目いただきたいと考えています。
また、以前よりも車やテレビのリモコンのボタンの数が非常に増えています。
つまり、機械の中により多くのソフトウェアが組み込まれているのです。
そしてソフトウェアの中には当社の技術が組み込まれています。
身近な機械のボタンが増えれば、それだけ我々が価値を発揮できる機会が増え、当社の業績にも中長期的に反映されるのだと、ご認識いただければ幸いです。
投資家の皆様へメッセージ
当社は、製造業の皆様が様々な分野で製品を作るためのソフトウェアを開発・提供する、他社と比べても一風変わったソフトウェア会社であると思います。
また、ワールドワイドの標準化活動へ参画している、日本では非常に希少性の高い企業です。
業界全体も成長しておりますので、今後のソフトウェア業界への期待ともに、ぜひ当社にも注目していただけたらと思います。
本社所在地:東京都中野区本町1-32-2 ハーモニータワー
設立:1975年(昭和50年)5月
資本金:10億4,181万円(2023年11月アクセス時)
上場市場:東証スタンダード市場(2018年10月12日上場)
証券コード:4420