※本コラムは2023年11月27日に実施したIRインタビューをもとにしております。
ノーコード製品の開発により多くの企業を支えてきたアステリア株式会社。
創業の経緯や事業の概要、そして中長期の成長戦略について、代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏に伺いました。
アステリア株式会社を一言で言うと
ソフトウェアで、世界をつなぐ会社です。
インターネットの存在だけでは仕事は進みません。
様々なシステムやクラウドサービスが繋がって初めて、人や仕事が繋がります。
この考えをもとに、ソフトウェアで世界をつなぐことが我々の価値です。
沿革
創業の経緯
私は1987年からロータスというソフトウェア会社でマーケティング業務に従事しておりました。
当時、同社のグループウェア「LotusNotes」はグローバルで6割、日本では7割と高い市場シェアを持っていました。
そのため、このデータ形式や通信手段を公開することで他企業のグループウェアと繋がり、さらに企業間のやり取りや取引をスムーズに発展させることができると考え、本社に提案しました。
会社の意向には沿わず却下されてしまいましたが、これからインターネットの時代を迎えるに当たり、企業や部門を超えて顧客とつながることの重要性を私は強く認識していました。
また、すでに各企業に導入されているソフトウェアが変えられない以上、実現に向けてはデータレイヤーでの共通言語が必要なるとも考えていました。
これらの課題を解決する技術を探していた中で、1998年に誕生したのがXMLと呼ばれる技術でした。
そこで、この技術を用いて企業を超えた繋がりを実現するために、1998年9月に当社アステリア(旧インフォテリア)を創業しました。
ターニングポイント
まず、資金調達の達成が大きな転換点となりました。
国内企業は銀行から数百万円の融資を受けて会社を設立するのが一般的です。しかし、私はロータスでの経験から銀行の融資を受けないと心に決めていました。
この投資モデルにはメリットが2つあります。
1つ目が融資では受けられない多額の資金調達を実現できることです。
そしてもう1つは、事業が失敗に終わり倒産した場合でも、翌日からまた新たな事業活動ができることです。
事業計画をもとに投資家に説明をして周り、結果として1年間に約27億円の資金を調達することができました。
また、2002年の倒産の危機を乗り越えたことも大きな転換点となりました。
資金調達の達成後、約80名の従業員を雇い、事業を進めていました。
当時のバーンレートが約1億円であるのにも関わらず、2002年の頭には約3億円しか残っておらず、倒産寸前でした。
別のビジネスを始めることも考えられましたが、あと半年で出荷できる製品があったため、倒産させるわけにはいきませんでした。
会社を維持するためには、バーンレートを低減させる必要があり、人員カットという苦渋の決断をしました。
このリストラは25年間の歴史の中でも一番辛い出来事でした。
その後商品は無事に出荷され、倒産も免れることができました。
そして2005年には黒字化を達成し、2年後の2007年に上場を実現することができました。
事業内容
概要と特徴
当社の売上収益はソフトウェア事業とデザイン事業で構成されています。
先ほど申しあげたように、当社はXMLの頃からソフトウェア事業に取り組んでおり、事業の特徴は大きく3つあります。
1つ目はつなぐことへの特化です。
設立当初、ほとんどのソフトウェア開発会社はシステムを作る事業を展開していました。
しかし、我々は当時からシステムの制作ではなく、つなぐということにこだわり製品を開発しています。
2つ目はノーコードの製品であることです。
ノーコードであれば、コンピュータを制御するためにプログラムを書く必要がありません。
当社は2002年に「ASTERIA R2」という製品の販売を開始してから21年間、ノーコード製品の開発・販売を続けています。
3つ目の特徴は顧客の個別対応をしていないことです。
国内の大手ソフトウェア開発会社では受託開発が主流ですが、我々は自社で製品の設計・開発から販売までを行います。
開発段階では大赤字で、損益分岐点に到達するためには非常にたくさんの製品を売る必要があります。
しかし、損益分岐点を超えると利益額だけでなく利益率も大きく伸びていきます。
すでに完成された製品であるため、新たな開発にかかるコストが必要なく、スケーラビリティが非常に高いビジネスモデルなのです。
実際に、現在のソフトウェア事業の売上総利益率は80%を超えています。
一方、デザイン事業ではプロジェクト型のデザイン戦略コンサルティングをしています。
デザイン思考を基に戦略を立案し、事業の再編やデジタル化、DXを推進します。
もとは英国で展開していましたが、現在では米国、日本にも事業を拡大しています。
ノーコード製品の差別化ポイント
本来、コンピュータを制御するためにはプログラムを書く必要があります。
しかし、当社製品を利用することで、プログラムを書かずとも簡単にコンピュータを制御することができます。
例えば、モバイルアプリ作成ツールの「Platio」では、100種類以上あるテンプレートをベースに選んでいくだけで、自社の業務に合った業務アプリを3日以内に作成することができます。
このように、プログラムのコードを書かずともアプリを制作できることが大きなアドバンテージとなっています。
また、近年エンジニア不足が深刻化し、人材育成もなかなか追いつかない状況です。
特に中小企業ではエンジニア部門がない、もしくは作る予算がない企業も存在します。
この点、ノーコード製品にはエンジニアのスキルは必要ないため、人材不足の課題を根本的に解決できることにも強みがあると認識しています。
実際、足元では中小企業で当社製品の普及が進んでおります。
また、ノーコードとローコードは明確に違うと認識していただければと思います。
ノーコードはコードを書く必要がないため、IT人材でなくとも実務への理解と現状の課題が把握できている全ての人が対象となる製品です。
一方、ローコードの特徴はコーディングする行数を少なくすることであり、やはりここにはエンジニアのスキルが必要になります。
このように、ノーコード製品には専門知識をもたない方々でもIT人材になれる、という他にない強みがあります。
中長期の成長イメージとそのための施策
我々は創業時より自律・分散・協調社会の実現と貢献を目指しています。
20世紀の社会はピラミッド型の階層構造でした。
しかし、階層構造の社会では判断スピードが遅くなるため、世の中の変化に適応することが難しくなってきました。
目まぐるしく変化する現代の世の中に適応していくためには、組織の組み換えや連携、または切断ができる構造に変化する必要があると考えています。
そして、これこそがインターネットやクラウド上のデータ連携に基づいた、自律・分散・協調型の社会であります。
この考えをもとに、当社は「つなぐ」ことにこだわりを持ち、さらに必要に応じては繋がりを切れる製品を引き続き開発しています。
また、今後はより我々の価値を世界中に提供していきたいと考えています。
そのため、まずはソフトウェア事業において海外での売上を伸ばしていきます。
グローバルで見た日本のソフトウェア市場は10%程度です。そのため、自社のソフトウェア事業の売り上げ構成も、できる限りこれに近づけていくことが理想です。
現時点でのマイルストーンとしては、海外売上比率を5割以上にすることを長期的に目指していきます。
マーケットの動向と成長イメージ
当社の製品はある特定の業界に向けたものではない、「ホリゾンタルな」製品です。
そのような中、まず我々がターゲットにしているのが、SaaS市場の拡大に伴う成長です。
SaaSは既に世の中に普及していますが、今後も年平均成長率12.5%で市場が拡大していく見込みです。
当社もSaaS領域の市場拡大に伴い、特に「Platio」などで需要を捉え、継続的な成長を実現していきます。
また、ノーコードの市場を拡大していくことで自社の成長に繋げていきます。
当市場の年成長率は18.1%と想定されていますが、我々としても能動的に市場の拡大を図ります。
例えば、サイボウズとともに立ち上げたノーコード推進協会を通じたノーコードの普及・推進、また地方自治体におけるノーコードを用いたDXの推進などに取り組んでいきます。
このようにノーコードの認知度を上げ、市場を拡大させることが、我々の成長にも繋がると考えています。
さらに、AIを活用した製品の開発による成長も目指していきます。
近年、AI領域、特に生成AIが注目を集め、急速に成長しています。2025年には1,200億円の市場規模になると想定されており、データ連携の市場よりも大きくなります。
その中で、当社はAI製品そのものの開発ではなく、AIを組み込んだ製品やAIの利点を享受できるような製品の開発に注力していきます。
例えば、「ASTERIA Warp」ではChatGPTをそのまま使えるようなアダプターを開発しています。
また、「Platio」では取得したデータから必要なデータを命令により抽出する技術を開発しています。
このように、AIの成長と市場のニーズを捉えた製品による成長を実現してまいります。
注目していただきたいポイント
我々は日本のソフトウェアを世界に発信していきたいという信念を持っています。
そのため、スケーラビリティにこだわり、受託・個別開発を行わずに独自の開発を進めています。
このアプローチが将来の成長に大きく貢献すると確信しています。
この考えを軸に、今後の社会に必要な「つなぐ」製品を20年以上にわたり開発してきました。
時代が変化に合わせた大きな成長へのご期待、そして社会に貢献し支えていく会社となっていくことにご注目いただけたらと思います。
投資家の皆様へメッセージ
当社の経営理念の1つに「発想と挑戦」があります。我々は受託型ではなく、自分たちで発想し、未来に向かう研究・開発に日々挑戦している企業です。
もちろん成功だけではなく失敗もあると思いますが、このような我々の挑戦を引き続きご支援していただけると幸いです。
本社所在地:東京都渋谷区広尾1丁目1番39号 恵比寿プライムスクエアタワー19F
設立:1998年 9月1日
資本金:2,275,343,330円(2023年12月アクセス時)
上場市場:東証プライム市場 (2007年6月22日上場)
証券コード:3853