※本コラムは2022年10月11日に実施したIRインタビューをもとにしております。
これまで新卒の就職活動は、学生が企業の採用ページにエントリーする「エントリー型」が中心でした。それが今、徐々に企業から学生をスカウトする「ダイレクトリクルーティング型」へと変わり始めています。そのサービスを提供するのが、株式会社i-plugです。代表取締役CEOの中野智哉氏に、新卒採用市場の将来図を伺いました。
株式会社i-plugを一言で言うと
ダイレクトリクルーティングサービスの提供会社で、メインは就職活動中の学生さんと、求人企業を対象にしたマッチングプラットフォームです。一般的に就職活動は、学生が自分で行きたい企業を探してインターンを経験し、説明会に参加して選考を受け、内定をもらうという流れになるのですが、それとは全く逆の発想です。一般的には学生が企業の採用ページなどにエントリーするのですが、私たちのサービスは、学生のプロフィールページを見て、企業が「うちに来ませんか」とオファーを送る、という流れになります。
創業の経緯
私が就職したのは、就職氷河期といわれた2001年でした。最初に就職した求人広告会社は、いわゆるブラック企業で、すぐに退職して10カ月ほどニート生活をした後、株式会社インテリジェンスに中途入社しました。
なかなか営業成績が上がらなかったものの、それこそ毎日一生懸命働いているうちに、トップセールスに上り詰めたのですが、その途端にリーマンショックで仕事が激減しました。
お陰で結構、時間が出来たこともあり、何か学んでみようと思い立って、グロービス経営大学院に入学しました。大学院で今の日本が抱える社会課題は何か、それを解決するにはどうすれば良いのか、といったことを考えているうちに辿り着いたのが、学生の大学生活を、もっとより良いものに出来ないか、ということだったのです。
最初は大学生活をより豊かなものにするにはどうすれば良いのかといったことを考えてビジネスにしようと思ったのですが、いろいろ学生の話を聞いていると、やはり就職活動が大きなネックになっている、という声がとても多かったので、そこを解決するお手伝いをしようと考えました。
会社を設立したのが2012年で、当初は新卒の人材紹介を主な事業としてスタートしました。が、これがなかなか軌道に乗らず、このままでは倒産する、という状況にまで追い込まれてしまいました。何とか解決策を見出さなければと知恵を絞っていた時に浮かんだのが、今の「OfferBox(オファーボックス)」の原型となるビジネスモデルです。
当時はまだオファー型で、かつ成功報酬型の人材紹介サービスは存在していませんでした。他社との差別化は十分に出来ると思ったので、学生200名と企業100社から意見を伺って、それを活かしたシステムを作り込んでいきました。
そして、いよいよサービスをローンチさせようという時、大手人材会社がOfferBoxと同じようなサービスを開始して、大々的にプロモーションし始めました。これは脅威でした。何しろ相手は大手企業。これに対して、私たちの会社は中小企業にもならない、まさに零細企業だったからです。当然、会社の資金力、組織力のいずれも敵うはずがありません。
とはいえ、希望の光もありました。それは、サービスをローンチした当初から、有名国立大学の学生が208名も登録してくれたことでした。
事業が成長したのは、会社を設立して3期目に入ったところですね。私自身、就職氷河期に就職活動をし、その後はリーマンショックを経験していたので、就職市場のどん底を知っています。当然、どん底を打てば、後は上昇するだけです。ちょうど3期目になった時、有効求人倍率が徐々に上がり始めたのです。
それに加えて就職活動のスケジュール変更を、経団連が発表しました。当時の新卒採用は、大学3年生の12月から企業説明会などの採用広報活動が解禁され、4年生の4月から選考開始だったのが、採用広報活動は大学3年生の3月、選考開始は4年生の8月へと、それぞれ後ろ倒しにされました。
企業としては採用広報活動が3カ月後ろ倒しにされた分、その期間をインターンシップに充てて、学生と会う機会にしようとしましたが、当時、インターンシップに対応できる人材紹介サービスが、私たち以外に存在していませんでした。結果、私たちの急成長につながり、4期目から上場に向けて準備をスタートさせました。
事業内容について
メインの事業は新卒ダイレクトリクルーティングサービスの「OfferBox」の提供です。現在、OfferBoxの登録者は、学生が約20万人、企業が約1万2000社に達しています。特に学生の登録者数に関して申し上げると、就活生の3分の1以上になります。
強みは、企業から学生に直接アプローチできるシステムなので、企業が待っているだけでは会えないような学生に会えることです。学生と企業の非常に細かいデータを積み上げ、それを機械学習にかけることによって、マッチングの精度を上げるように努力しています。ここは非常に細かい作り込みをしていて、就職活動で人気のある上位校や理系学生に偏ることのないよう、全方位的に、幅広く学生のデータベースを構築しています。
またOfferBoxには「eF-1G(エフワンジー)」という適性検査が標準搭載されています。eF-1Gでは、専門家に監修してもらいながら、性格診断、能力テスト、豊富な測定項目によって、人材の特徴を的確に把握できるというものです。これによって、人事課題の解決を支援します。
そして、ここ直近でリリースしたのが、「PaceBox(ペースボックス)」という若手向け転職プラットフォームです。これは20代、30代向けで、キャリアアドバイザーへの無料相談もつけています。近年、第二新卒市場はどんどん規模が大きくなってきています。ここに向けて、有効なサービスを展開していく予定です。
「OfferBox」の料金体系は2つ用意しています。成功報酬型と早期定額型です。
成功報酬型は3月1日の採用広報活動の解禁日から企業がオファー送信でき、学生が入社するのに合意した時点で成功報酬が発生します。もちろん学生が内定を辞退した場合は、成功報酬を返金します。これは導入時に一切費用が掛からないため、企業側からすれば、利用しやすいというメリットがあります。
次に早期定額制ですが、これは大学3年生の学生を対象にして、インターンシップへの参加呼びかけなど、採用広報活動が解禁される前からオファー送信できるというものです。こちらは学生が内定を辞退しても返金はされませんが、採用単価を安くして、長期間継続して使っていただける料金設定にしてあります。
最近では、成功報酬制で新卒採用に一定の成果を得た企業が、翌年度からは早期定額型に切り替えて利用していただくケースが増えています。
中長期の成長イメージとそのための施策
OfferBoxはこれまで通りの成長を続けられることを目指すと共に、PaceBoxを新しい柱として成長させていこうと考えています。まだ立ち上げたばかりなので、実際にどうなるのかは見えない部分もありますが、初期段階の成長スピードとしては、恐らくPaceBoxの方が速いのではないかと考えています。
マッチングビジネスは組み合わせの世界です。現在、就活生が年間45万人いると言われていて、企業数が3万社ですから、年間140億とおりくらいの組み合わせがあります。140億とおりのなかでの45万人ですから、確率としては0.003%。ここを労働集約的にマッチングさせるのは不可能です。だからこそ私たちのような、データを使ったマッチングプラットフォームの優位性が高まりますし、従来型の人材紹介ビジネスは、必ず頭打ちになるでしょう。
今後は戦略的なM&Aも実行していきます。OfferBoxは、どんどんキャッシュが蓄積されていく事業構造なので、そのキャッシュを有効活用できるM&Aを行っていきたいと考えています。
Vision2030という中期経営計画を策定し、その遂行中ですが、2025年3月期の売上高を97億2000万円、営業利益19億8000万円を達成する目標を掲げています。
投資家の皆様へメッセージ
プロダクトの強みはもちろん大事ですが、企業の成長力の源泉は、やはり組織の強さだと思っています。強い組織を目指すことによって、私たちのプロダクトでOfferBoxとPaceBoxというプラットフォームを、より良いものに仕上げていく。そのための投資も積極的に行っていきます。
日本は労働生産性が低いという問題を抱えていますし、一人一人のキャリアのでき方も、これだけ長寿の国ですから、どの国よりも先に変わっていくべきはずの国です。つまりポテンシャルがあるのです。そこを解放させるのが私たちのサービスであり、それによって世の中を変えていきたいと考えています。
本社所在地:大阪府大阪市淀川区西中島5-11-8 セントアネックスビル3階
設立:2012年4月18日
資本金:646百万円(2022年6月末時点)
上場市場:東証グロース(2021年3月18日上場)
証券コード:4177