※本コラムは2022年10月21日に実施したIRインタビューをもとにしております。
世界2位のプロジェットスキー選手から在宅医療領域のIT企業経営者へ。
異色の経歴をもつ代表取締役社長の中野剛人氏に、会社設立から事業成長までの背景、および今後の成長戦略を伺いました。
株式会社eWeLLを一言で言うと
在宅医療のDXを実現していく会社です。 在宅医療の中心的役割を担う訪問看護は、約80%のステーションが紙カルテによる運用を看護師不足の状況で行っております。
当社は訪問看護のDXを通じて、少子高齢化が加速する日本の在宅医療の課題解決に取り組んでおります。
創業の経緯
以前、私はプロジェットスキー選手として、世界一を目指し活動していたのですが、プロになる前、練習中の事故で肝臓破裂、意識不明の重体となり、その時に看護師さんのおかげで一命を取り留めたことがあります。これが私が医療に興味を持ったきっかけでした。
その後、世界選手権に挑み二度世界2位となり、2011年に引退しました。選手活動の傍ら、看護師さんや自分の夢を応援していただいた社会に恩返しをするため、医療分野に貢献したいと考え続けていた私は、セカンドライフを通じてゼロからチャレンジしようと決意しました。
これからの日本の医療は少子高齢化を背景に在宅での需要が高まる一方、働き手である看護師不足が大きな課題となることが明白でした。中でも、電子カルテが全くなくアナログで業務を行っている訪問看護に着目し、訪問看護をはじめ在宅医療領域の課題をITを駆使して解決する株式会社eWeLLを2012年に起業しました。
創業当時、訪問看護のシステムは国に保険請求を行うレセプトコンピューターしかなく、看護師さんの日々の業務を支援するシステムはありませんでした。
そこで私は訪問看護の業務全般を支援し、誰でも簡単に使えるシステムが必要だと考え、UI・UXを徹底的に追求し、訪問看護専用電子カルテ「iBow」の開発に至りました。
事業内容について
主力サービスは、訪問看護向け電子カルテ「iBow」のSaaSモデルでの提供で、訪問看護の電子カルテにおけるシェアは全国トップとなる14.5%以上です。
この業界で販売されているシステムは保険請求を行う目的のレセプトシステムが主流で、その料金体系は初期導入費用に加え、人数毎にかかるID課金となっておりステーションは費用節約のためにIDを複数の職員さんで使いまわし、その結果、非効率な運用がなされていました。
私はこのような従来の料金体系ではDX化の恩恵を受けるどころか負担が増し、ステーションの運営に悪影響を及ぼしていることに着目しました。
「iBow」の料金体系はID課金ではなく、1訪問100円のサブスクです。初期導入費用が無く、基本料金1.8万円と訪問件数×100円の従量課金となっておりますので、ステーションの職員さんが何人で使っても費用は変わりません。
ステーションは全職員で「iBow」を利用するので業務効率が上がるのは勿論、生産性向上のインパクトが大きく空いた時間に訪問件数を増やして売上アップを図れます。この訪問件数に応じた従量課金は、お客様の成長とともに当社も収益化する優れた料金体系だと考えております。
他には、電子カルテと完全連動して保険請求書類を自動で作成する「iBowレセプト」や訪問看護専用の勤怠管理システム「iBow KINTAI」というアップセルとなるサービスも提供しております。
さらに、「レセプト業務の時間をより減らしたい。専門性の高い事務員の人材採用が難しい」というステーションの課題を解決する、事務管理業務を代行するBPOサービスも展開しております。
本サービスにより、看護師の方々が看護に集中できるようになるため、ステーションはさらなる訪問件数増加を実現できます。
当社はこのように訪問看護の業務全般を効率化し、ステーションの運営に多角的な支援を行っていることからサービスの満足度が高く、チャーンレート0.06%とSaaSビジネスでは非常に低い水準となっております。
今後、在宅療養への移行がさらに加速するにつれ、当社の存在価値もより高まっていくと考えております。
中長期の成長イメージとそのための施策
「iBow」の契約期間は2年契約を基本としておりますが、5年、7年と長期契約を結ばれるお客様もおられ、平均契約年数は3.2年です。平均単価は6.9万円で、契約年数を重ねるごとに上がっており、2014年のリリース当初から継続して利用されているステーションはすでに平均9万円台となっております。
今後、平均単価はかなりコンサバにとらえても8万円台まで伸びる余地があると見越しており、ステーションの成長を継続的に支えることは当社にとっても重要だと考えます。
また今後、蓄積されたデータを用いたBIの提供、つまりはステーションの意思決定の指針となるデータを提供し、経営の安定化を支援する新機能をリリース予定です。
さらに、「iBow」が蓄積するデータを活用した新たな事業領域として、訪問看護の全国的な慢性期医療データ=長期的・継続的な医療データを使い、PHR(Personal Health Record)情報を地域包括ケアシステムに取り込むなど、医療データの事業も計画中です。
既に開始しているデータ活用ビジネスとしては、2021年10月からCRO(受託臨床試験機関)向けの在宅治験支援事業として、「iBow治験システム」をリリースしました。これは、ステーションに従来なかった新たな収益をもたらすもので、2022年6月から収益化しております。
これらのデータを活用した事業は全国47都道府県2,100ステーション以上に導入されている当社だからこそ実現可能であり、今後さらに成長させていきたいと考えております。
投資家の皆様へメッセージ
現在、我々のサービスは全国2,100ステーション以上で毎月1.5万人以上の看護師の方々にご利用いただいており、その先には約20万人の患者様がいらっしゃいます。そして全国の訪問看護ステーションからのお声を蓄積し、徹底した利用者目線でサービス改善を常に行っております。
当社は医療従事者を支援する会社として信用力を高めるため、2022年9月に上場しました。
今後も在宅医療のDXで社会課題の解決に取り組み、ステーションと共に高い成長率を実現してまいります。
本社所在地:大阪府大阪市中央区備後町3-3-3 サンビル備後町9F
設立:2012年6月11日
資本金:328,165,000円 (2022年12月31日時点)
上場市場:東証グロース(2022年9月16日上場)
証券コード:5038