※本コラムは2022年11月15日に実施したIRインタビューをもとにしております。
不動産デベロッパーとして会社を着実に成長させながら、近年ではDX先行企業として業界を超えたDX推進事業が堅調に伸びています。代表取締役社長の中西聖氏に当事業確立の背景も踏まえ、今後の成長戦略をお伺いしました。
プロパティエージェント株式会社を一言で言うと
リアルも仮想空間もまとめてDXする会社です。例えば提供する顔認証ツール「FreeiD」によって、当社は建物自体のDX化を推進しています。
ここで一つ注意していただきたいのが、「DX化」であって「デジタル化」ではないという点です。ただ顔認証ツールの導入を進めるのではなく、本質的にやっていることはIDのプラットフォームを作ることです。
例えば、あるマンションの入居者へ向けて、地域のイベント情報を流したり、顔認証決済により得たデータを元に店舗で使えるクーポンを配信したりします。それらを行うことにより、ユーザー価値を高めていく、これが当社が創造したい世界観です。
創業の経緯
『ビジョナリー・カンパニー』を読んだことが、まず最初のきっかけです。建設会社や不動産会社にて施工管理や営業を経験したのち、ちょうど部長職に就任した頃のことです。この本に大変感銘を受け、「自分自身でもイノベーションを起こし続ける会社を作りたい」と考えるようになりました。
もう一つのきっかけは、あるお客様との会話から経営理念のようなものが確立され始めたことです。
ある時、「なぜ中西さんはそこまで営業ができるの」と尋ねられました。「営業数字を考えることよりもお客様の未来を考えていて、結果として営業成績になっているんですよね」と答えたところ、その方からは「当たり前じゃない」という反応が返ってきました。
その答えを聞いて、私も自分の貫いてきたことが正解だったのだと気付かされました。
ただ、当時の私に独立願望はなく、勤めている会社をそのような会社に変えていきたいという思いが芽生え、モチベーションも大きく変化しました。
私が部長職に就いていた頃、すでに不動産販売会社としては全国70位くらいの位置におり、これより上位は財閥系統の会社が名を連ねている状況でした。また、経営陣は業績が良く会社が儲かっていれば十分、と考えており、私としてはこの意識を変えることが必要だと思いました。
そこで、当時の部下と「社長を変える会」なるプロジェクトを結成し、「この会社をビジョナリーカンパニーにするために」と啓蒙活動を行ったのです。送迎役を買って出て、行き帰りの車内にて様々な話を説きました。
そのような取り組みを1年間続けたのですが、結果として経営陣の思考を変えることはできませんでした。そこで、ビジョナリーカンパニーを目指すためには、そしてお客様の喜びを一番に考え、売り上げもトップを取るためには自分自身で実現するしかないのだ、という考えに至り、起業を決意いたしました。
会社の転換点としては、2018年頃からDXに本気で取り組んできたことが大きなポイントであったと思います。
不動産業界は、事業上会社のバランスシートが非常に重要であり、リーマンショックのような危機が来てから対処をしていては間に合いません。2008年以降、業界の景気はずっと良かったのですが、「勝っていないが兜の緒を締める」という気持ちで体制強化に取り組むことにしました。
そこで着手したのが、バランスシートの見直しとコストカットです。特に、コストカットは単純に削るのであれば簡単な話ですので、「将来の競争優位性に繋がる」という観点を考え抜き、行き着いたのがDXであったというのがいきさつです。
そして2021年頃からはこの取り組みの横展開を進めています。3年ほど続けたことで業界内では「DXが進んでいる会社」との認識が広がり初め、セミナー等に登壇する機会が増え始めました。そこで私は、不動産業界もさることながらその他の業界も想像以上にDX化が浸透していないという事実に気づきました。であればこれまでの当社の失敗談も含めたノウハウを提供することに価値が生まれるのではと考え、今に繋がっています。
不動産デベロッパーとしては創業以来大きな波がなくここまで来たという感覚ですが、4年前に蒔いた種がここ1、2年で数字に現れる形で実を結び始めており、事業構造の変化も含めターニングポイントと言えると思います。
事業内容について
DX不動産事業とDX推進事業の二つのセグメントで展開しています。
DX不動産事業では、スマホで一万円から投資できるクラウドファンディング、およびオウンドメディアの運営を軸に、不動産に興味を持つお客様を会員として集客します。そして、その会員に対し、当社が物件をつくる、もしくは仕入れるかのどちらかの方法で不動産を販売しております。
現在、全体のお客様のうちオウンドメディアの会員様が約6割を占めております。また、この会員様からご紹介していただくケースも多く、それを含めると8割ほどに達します。
当事業においては東京都心エリアに絞ったドミナント戦略を徹底しております。例えば、同じ規模の会社であっても、一都三県で展開する会社より新宿エリアのみで展開する方に用地情報が集まるなど、用地供給業者への知名度が相対的に高まります。
また、エリアを限定しているがゆえに用地情報を頂いた時もすぐに決断できる状態が社内で出来上がっています。M&Aにおいて業界やエリア、会社の規模等の条件があらかじめ決まっていれば、判断のスピードが早くなるのと同じような感じです。このスピード感は、用地の売却側に「売りやすい」というイメージを持っていただくことにも繋がります。
さらに、特定のエリアにおいては建てた物件に入居者を募るノウハウを持っているという点もあります。用地の保有者は皆様一様にその土地にゆかりをもっていますので、「建物が出来上がったら3部屋は持っておきたい」というような等価交換はよく起こります。そこで、当社がそのエリアに強い業者であれば、売却後に居室を保有する場合においてもメリットを感じていただきやすいため、業者も用地のオーナー様に当社を紹介しやすい、というわけです。
以上の三点により、不動産の仕入れの段階で優位に立つことができています。ただ、これは意図した戦略ではなく、「オーナー様に一番良い商品を」という思いを徹底し、スコアリングした投資マンションのデータ等を活用した結果として、今があるという感じです。
また、DX推進事業においては、顔認証プラットフォーム、システム受託開発、クラウドインテグレーションを主に提供しています。当事業においては、事業会社である当社が、5年間本気でDX化に取り組んできたノウハウが圧倒的な差別化要因となっています。
当社の子会社であるシステム受託開発会社からすれば、我々のノウハウを知ることで、彼らのクライアントの腹の内を全て理解できるようになります。要は、事業会社はどこでDX化に躓くのかというポイントをあらかじめ把握できるのです。
これにより、頂いた要望にお応えするだけではなく、生産性や競争優位性の向上を実現する、「DX化」のコンサルティングを付加価値として提供しています。多くの会社が「デジタル化」は進んでいても「DX化」が出来ていないのが現状ですから、非常に優位性があると感じています。
中長期の成長イメージとそのための施策
まず、DX不動産事業を収益の柱とし、当事業の延長線上で2028年度までに売上高1000億円規模まで拡大させていきます。
また、DX推進事業は今後当社の成長の柱となります。クラウドインテグレーションの分野では、ひとまず国内で10本の指には入りたいと考えていますし、顔認証においては先に申し上げた「IDプラットフォームの確立」を日本全国、そしてアジアへ展開させていきます。
システム受託開発は現在需要が非常に高くなっています。ただ、件数が多い故に当社の強みである「事業会社の気持ちを理解するコンサルティングサービス」の提供としては不十分な部分もあります。今後はより一層コンサルティングの色を強化していきたいと考えております。
DX推進事業全体の売上としては、今期は16億円で前期の倍、3年程度でさらに30億円規模まで成長させます。その過程では積極的なM&Aを実施しエンジニアの総数を増やしていく方針です。
M&Aを行った会社に対しては、「コスト削減」「工数削減」「アップセル」「クロスセル」という4つのキーワードが軸である当社のDX化ノウハウを落とし込みます。これが事業会社の気持ちがわかるコンサルティングサービスの実現へと繋がっていき、クライアントも拡大していくと想定しております。
さらに、拡大したクライアントに対して、当社からサイバーセキュリティ分野などで新たなサービス展開も構想しています。当業界においては需要が確実、かつニッチで当社が強みを発揮できるような分野に集中していく方針です。
祖業や上場の入り口が不動産業のため、「不動産屋がDX化を進めている」というイメージがあるかもしれません。ですが、クラウドファンディングやオウンドメディアによりweb上で集客をし、その方々のニーズにお応えしていくというのが当社の事業構造です。また、DX化によって社会の生産性を向上させることが、今の当社の目指すべき姿であると認識しております。
投資家の皆様へメッセージ
当社は、不動産業ではなくDXというキーワードが会社のアイデンティティとして中心にあり、非常にポテンシャルが大きい会社です。ぜひ一度当社に関心を持っていただき、話を聞いていただけますと幸いです。
本社所在地:東京都新宿区西新宿6-5-1 新宿アイランドタワー41階
設立:2004年2月6日
資本金:6億1,701万円(2022年11月アクセス時)
上場市場:東証プライム(2015年12月22日上場)
証券コード:3464