※本コラムは2023年1月17日に実施したIRインタビューをもとにしております。
保険業法改正に伴い乗合代理店が増加した保険業界で、いち早く保険分析・検索のシステム開発に着手しその先行優位性を軸に成長を続けてきたのが株式会社アイリックコーポレーションです。
今回は、代表取締役社長CEOの勝本竜二氏に会社の沿革や今後の成長戦略を教えていただきました。
株式会社アイリックコーポレーションを一言で言うと
「人と保険の未来をつなぐFintech Innovation」を企業テーマに掲げています。
保険業界は属人的な要素が多く、急激なDX化の文脈に追いついていないのが現状です。
年間2000万件の全てを当社で契約することは不可能でも、当社が先行して開発してきたシステムをプラットフォーム化することで、保険選択や加入保険の管理など、何らかの形で関わっていくことは可能だと考えています。
創業の経緯
外資系生命保険会社に入社後、独立し保険を活用した富裕層向けの相続対策や企業向けコンサルティングに従事していました。1996年の保険業法改正までは1社専属という特殊な業界の特徴があり、複数会社の商品を比較することができませんでした。
保険業法改正後は複数保険会社の取り扱いや比較が可能となりましたが、そのサービスは富裕層の方への提案として利用されていました。ただ保険業界は個人の加入率が圧倒的に高く、まさに個人が支えている業界なのです。
ですが、そのような個人の方々にコンサルティングは行き届いておらず、言われるがままに加入したり、提案された商品の良し悪しの判断すらできない時代だったのです。
個人の皆様へ、「保険を比較することでよりふさわしい商品があることを知っていただきたい」という思いのもと、従来の富裕層向け専門の事業体から転換し、個人向け保険販売を中心とした会社として、1995年に当社を設立しました。
マーケティング戦略として来店型スタイルを取り、保険に興味がある方に訪問していただくというスタンスで広くマスでとらえていこうと考えました。しかし、当然メリットがなければお客様は来ません。創業から3年後の1999年に来店型保険ショップ「保険クリニック」をオープンしましたが、やはり当初は中々お客様が来ず、いかに情報を集めて発信するかという点を模索していました。
その中で、半年ほど特定のエリアで特定の広告を継続するという地域広告に注力したところ、徐々に反響が良くなっていきました。
しかし、来店数の増加に伴い、今度はコンサルティングにかかる時間が問題となりました。当時の提案手法はまだアナログでしたし、保険商品の比較もすることで一人あたりにかける時間が長くなっていたのです。この問題を解決するべく、当時はまだ珍しかった保険分析・検索システムの開発に踏み切ったのが一つ目のターニングポイントです。
富裕層向けコンサルティングで獲得した収益をシステムに投資する形を継続し、着手から2年半後の2004年に完成いたしました。以降、FC展開や保険事業販売者のソリューションとしてのシステム販売など、多様なビジネス展開が生まれ、システムは開発費というコストセンターから、利益を産む存在へと変革して行きます。
また、2016年の保険業法改正も転換点の一つです。1996年に約60年ぶりに業法が改正され、1社専属の業界から複数の保険会社の商品を乗り合いで販売できるスタイルへと変化したことで乗合代理店が増加し、ここに対応する法律が必要になったことがきっかけです。
この改正保険業法は当社にとって非常に追い風となりました。保険を販売する際には比較可能な商品を全て提案するべきなど、細かいルールが必要となったのですが、当社のシステムはまさにこのルールに則したものだったのです。
システムへのニーズが高まるとともにID数が増加し、2018年の上場へと繋がっていきました。
事業内容について
証券コードとしては金融業なのですが、実際には保険販売事業の他にも2つの事業を展開しています。一つ目はソリューション事業でして、フランチャイズの育成指導・ノウハウ提供を行うFC部門、および金融機関へのシステム販売を行うAS部門に別れています。
また、最近ではOCRのコンサルティングサービスも提供しています。二つ目はシステム事業でして、子会社の株式会社インフォディオがシステム開発を担当しています。
足元ではAI-OCRという写真を撮って画像の文字をデータ化する技術の引き合いが非常に強くなっています。上場時、保険販売事業の売上全体に占める割合は65%でした。
引き続き当事業の売上は伸びていますが、他2部門の売上が堅調であり、現状では57%にまで割合としては下がってきています。
保険販売事業においては、コンサルタントとシステムの掛け合わせによって高い満足度と継続率を維持しています。特にシステムに関しては、開発に早くから取り組んだことで得たデータベースが高い参入障壁となっています。
自社の過去20年間分の商品をデータ化するには相当な時間と労力を要しますし、他社の商品はトラックすること自体が不可能です。また、セキュリティや信頼性の観点からもこの先行性が保険会社との関係性の構築に貢献しており、新しい商品のデータ供給も踏まえた競合優位性に繋がっています。
FC店舗の運営においては、足元で異業種からの参入が増加しています。これまで保険を熟知した企業が看板を広げるために加盟店登録していたのに比べると、業界を知らない状態で参入されるので、やはり手間はかかります。
一方、事業会社ですので資金力がありつつ、出退店の決断が早く非常にシビアな面もあります。ガソリンスタンドやディーラー、携帯ショップなど、今後本業が落ち込む可能性があると考えられている業種からの参入は今後も増えると見ており、当社としてはこのような企業にしっかりと対応できるスタッフの人材教育に注力しています。
また、異業種参入の場合はスタッフの派遣も必要になりますので、人員確保も含めて対応していきます。我々のような保険事業者に比べ、特に携帯ショップなどは集客に強みを持っておりまして、FC部門の成長を通じた保険ショップの新しい形が出来上がっていく可能性もあるのではと感じています。
中長期の成長イメージとそのための施策
新型コロナウイルス感染症拡大による保険クリニックへの来店数減少を踏まえ、2023年6月期を新たに再始動の年と定めた3か年計画を策定いたしました。軸となる保険販売事業においては、デジタル技術を活用した保険ショップの新しいスタイルを確立するとともに、ASシステムの大型導入先の開拓や「スマートOCR」事業の更なる拡大を通じ、保険の全てに関わっていきたいと考えています。
保険業界は商品の販売もコンサルティングもこれまでは全てリアルな空間で行われてきました。ですが、沿革からもお分かりいただけるように当社の強みはシステムです。
「いつでもどこでも保険クリニック」というコンセプトのもと、家からでも商品選択やコンサルティングといった店舗に来た時と同じサービスを受けられるような体制を、マーケティング・コアサービス・アフターフォローの掛け合わせで実現していきたいと考えています。
将来的には保険ショップが街になくても、リアルではない空間で保険販売を行うことも可能性としてはあり得ると思います。
現状は出店および既存店のスクラップアンドビルトによって規模を拡大していますが、これにはブランド力向上の効果もあります。また、業界全体のDX化のスピードが遅いのでどのくらい時間がかかるかは不透明です。
状況を適切に見極めながら、ロボアドやチャットボットなどの自動化も駆使し、「人プラスアルファテクノロジー」で違う形の保険ショップを作り込んでいきたいと考えています。
ASシステムはすでに33の地方銀行で導入されるなど、対金融機関向けの営業は順調に進んでいます。今後は、ここからいかに保険販売に繋げるソリューションをつくれるかが課題です。特に金融機関はDX化が急務となっていますので、この文脈の中で多様な側面からのサポートを構想しており、まさに今から仕掛けていく部分となっています。
合わせてもう一つの大きなキーとなるのがOCRを使ったソリューションサービスです。保険証券の写真を撮影すると加入保険内容がデータ化できるというものですが、DX化という意味では、まずはデータを読み込み紙をなくすことが全てのはじまりですので、どの仕組みの入り口にもこの技術が活用される可能性があるのです。
また、現状で当技術を専業とする競合が存在せず、比較的拡大しやすい環境にあると認識しています。これまでのシステムの単純な販売からソリューションの提供を推進していくこと、およびASシステムとは全く別の部分でOCRサービスを提供し、保険会社・金融機関のデジタル化を支援するという2本柱でソリューション事業を成長させてまいります。
システム事業においては、リカーリング収益をいかに上げていくかに注力していきます。当事業の収益モデルは3つに分けられますが、このうちOEM供給による従量課金の割合を高めていくイメージです。販売先にエンドユーザーが多数存在しますので処理枚数が増えるほど、収益が上がっていきます。
一方、足元では国税庁や県警などの官公庁をクライアントとしたフロー収益が全体の4割を占めています。このような大型開発案件は初期投資が必要となり当初は利益があがりません。ただ、開発が終われば以後3年程は安定的な収益の柱となる他、一つパターン化できれば特に県警などは全国への横展開も可能であり、拡大の余地も見込めます。
そのため、全体としてはSaaS型・OEM型・カスタムシステム型がそれぞれ1/3ずつの割合になるのが理想です。
投資家の皆様へメッセージ
やはり証券コードから金融業と認識されると思うのですが、保険販売が順調かどうかだけで企業価値を図ってしまうと当社の本質とはずれてしまいます。確かに保険クリニックは我々にとって一つのベースであり事業展開の柱です。
ですが、そこから発展してきたソリューション事業が新しいデジタル化の形をつくったり、システム事業における開発のスピード感や、DX化においても他社とは違う進め方で多様な企業のお手伝いができています。
また、これまでBtoC、BtoB領域と拡張を続け、さらに今後はOCRを活用しBtoBtoC領域へと供先を拡大していきますので、是非このようなところに注目していただけますと嬉しく思います。
本社所在地:東京都文京区本郷二丁目27番20号 本郷センタービル4階
設立:1995年7月
資本金:13億5,478万円(2023年1月アクセス時)
上場市場:東証グロース(2018年9月25日上場)
証券コード:7325