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一連の銀行破綻から考える投資戦略

米国で相次ぎ銀行が経営破綻し、国際的な金融機関の買収劇にまで発展した。

これを受けて、株式市場では「更に破綻する金融機関が表れるのではないか」、「リーマンショックの再来なのではないか」と疑心暗鬼になる投資家が増えている。

将来のことは誰にも予測は出来ないが、それでも今回の一連の銀行破綻の背景を理解することは投資家にとっては非常に重要であろう。

目次

米国の銀行破綻を理解する

今回破綻した米国の銀行はシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、シルバーゲート銀行の3行だが、経営破綻に陥った背景は全く一緒ではない。シグネチャー銀行とシルバーゲート銀行は顧客の多くに暗号資産関連企業を抱えていたことから、昨年11月に暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが経営破綻したことによって経営が悪化したことが破綻の原因となった。

一方で、シリコンバレー銀行の場合は主要顧客をスタートアップ企業が占めていたが、金融緩和によって顧客である企業が融資以外の方法で容易に資金調達できたため、本来の銀行業務である融資行で稼げなかった同行は米国債やMBS(住宅ローン担保証券)などで資産の半分以上を運用していた。

しかし、米国ではインフレ抑制のためにFRBが異例のペースで利上げを進めたため、運用していた債券の価格が下落したことで巨額の含み損が発生。

同時に預金金利の引き上げという負担が発生し、更には資金調達環境が悪化したスタートアップ企業の預金引き出し需要が高まったことも相まって、経営破綻してしまった。

このように、米国の銀行破綻といってもそれぞれ個社ごとに背景は違うことには留意したい。

また、今回の一件で「与信の集中リスク」が顕在化したことも頭に入れておきたい。暗号資産関連企業やテック系のスタートアップ企業が顧客の大半を占めるということは、それらの業界の影響を銀行側も大きく受けるからだ。

地方債とMBSとは?

さて、シリコンバレー銀行が運用に用いていた債券、特に地方債とMBSについて、どれくらい理解をしているだろうか。ニュース記事を読んでいるとサラっと読み流してしまいがちだが、これを機に両者の特徴も知っておくといいだろう。

まず、米国の地方債は地方公共団体などが発行する債券で、発行体自身の信用力によって元利金の支払いを保証する「一般財源保証債」と、インフラ施設やサービス事業の利用料などを返済の原資とする「レベニュー債」の2つがある。

昨年時点では米国地方債の約7割はレベニュー債となっており、米国地方債の保有者は約7割が米国の個人投資家となっている。米国国債より利回りが高い一方で、一般的な社債と比べて信用力が高く、デフォルト率も低水準であることが特徴だ。

一方でMBSは「住宅ローン担保証券」という名前からも分かる通り、住宅ローンの元本や利子の返済資金を裏付けとして発行された証券を指す。

一般的に元利金の支払いが保証されることから比較的信用力が高いとされているが、通常の債券よりも金利が高いために投資家から選好されている。

当然、これらの債券は株式よりもリスクは低いとされているが、債券である以上は金利リスクは存在しており、FRBが想定以上に利上げのペースを速めれば、今回のような事態を招くことは言うまでもない。

その観点からすれば、銀行自体のリスク管理や当局のモニタリング体制にも問題があったといえよう。

日本の金融政策にも影響か?

FRBの急速な利上げが今回の銀行破綻に影響を与えたとすると、気になるのは日本でも同様なことが起こりうるのかということだ。

結論から言えば、日本の現状を考えるとすぐに同様の事例が生じるとは考えにくい。

しかし、日本でも地方銀行の一部では同様のリスクは抱えていると考える。長期にわたる低金利環境において、多くの事業を国内のみで行う地方銀行はシリコンバレー銀行と同様に外国債券など比較的利回りの高い債券を用いて運用しているからだ。

日本でも足元で消費者物価指数の上昇を受けて、日銀の金融緩和に批判的な意見も増えており、仮に金融緩和を解除して引き締め方向に政策を修正すれば、日本でも金利が上がるため、ヘッジが十分でない場合においては銀行の財務健全性が棄損することはあり得る。

また、コロナ禍で実施された無担保・無利子での融資の返済がこれからどんどん増えていくが、なかには返済できずに倒産するという中小零細企業も相当数いると考えるため、結果的に不良債権が生じて更に財務健全性が棄損されるということにも注意したい。

10年に渡って日銀総裁を務めた黒田総裁の後任に植田氏が選任され、4月から新体制で金融政策が決定されていく。

国内における足元の物価上昇と海外で顕在化した利上げの影響の両方を睨みながら難しい舵取りが求められる。

行き過ぎた動きを利益に変える

今回の一連の銀行破綻は雑に一言で表現すれば「取り付け騒ぎ」なのだが、とにかく異様なほどのスピード感であった。その背景にはSNSの存在がある。

「あの銀行は危ないのではないか」という情報が一瞬にして世界中に発信されて共有されてしまうのだ。そして、昨今では株式取引の多くをアルゴリズム取引が占めており、一度トレンドが形成されると一気にトレンドフォローの取引が増加する。

そのため、一度火がついてしまうと過度に相場が動いてしまう傾向にある。

それゆえに投資家も投資対象を分散させてリスクを提言する必要があるのだが、一方で行き過ぎた動きは割安な状況を生みやすい。

一連の銀行破綻がリーマンショックの再来となるかは誰にも分からないが、足元の下落で業績的には割安になった銘柄も数多くあるため、リスクを分散しながらも行き過ぎた動きを利益の源泉と捉える観点も持っておきたい。

執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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