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円安時代の救世主は外貨預金なのか?

円安が止まらない。ドル円相場は24年ぶりに1ドル=145円を突破し、1998年6月を最後に行われていなかった為替介入まで実施された。しかし、介入の効果も見られず、数日後には再び介入前の水準まで円安は進行している。

円は年始からドルに対して20%以上も減価しており、急速な円安を背景に個人による外貨預金のニーズも急増していると聞く。果たして外貨預金は円安時代の救世主となりうるのだろうか。

目次

外貨預金のメリットとデメリット

 円安を背景に外貨預金の人気が急上昇している。ソニー銀行では2月末と6月末を比較すると、外貨預金全体の購入額が2.6倍に増加したという。米国がインフレを抑制するために金利をハイペースに引き上げているため、ソニー銀行の米ドル定期預金(6か月もの)の金利は2月末時点で年0.15%だったのに対して、6月末時点では年1.5%と短期間のうちに10倍も上昇した。

日本ではメガバンクの定期預金でも1年物で0.002%しか金利がつかないため、相対的に高金利である外貨預金のニーズが高まったと考える。

魅力は金利だけではない。今後も円安が進行すると考えている人が多いため、外貨預金に資金を移しておけば高い金利を得られるだけでなく、将来的には大きな為替差益も得ることが出来るという期待感も外貨預金ブームに追い風となっているのだろう。

しかし、「高金利」と「為替差益」というメリットだけを見て外貨預金に過剰な期待を抱くのは危険だ。当然、外貨預金にもデメリットは存在する。外貨預金の場合、円から外貨に転換する際にも、外貨から円に転換する際にも手数料が書かかる。

そして、「預金」という言葉はついているものの、預金保険制度(ペイオフ)の対象外である。仮に外貨預金に利用した銀行が破綻してしまった場合、普通預金とは違って1円も保証されていない。

なによりも、外貨預金に資金を移動してから円高が進んでしまうと、円に転換する際に為替差損が生じて元本割れする可能性があるということだ。

また、想定通り円安が進行して為替差益を得ることが出来たとしても、外貨預金の為替差益は雑所得(総合課税)となることから、所得税の税率は他の所得と合算した合計額に応じて異なることにも留意しなくてはいけない。

円安が進む背景を正しく理解する

円安時代の救世主は外貨預金なのか? 資産運用ナビコラム

 為替の変動を正確に予測するのは至難の業だが、為替変動によって差損益が生じる金融商品である外貨預金に自分の大事なお金を移す以上、なぜ現在円安が進んでいるのかという背景はしっかりと理解しておく必要があるだろう。

 米国では前年比8%以上の物価上昇率を記録しており、国民の生活に支障が出始めている。そこで、インフレを抑制すべく米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)はハイペースで金利を引き上げている。通常は1回の会合で決定する利上げ幅は0.25%だが、現時点では3会合連続で0.75%ずつ利上げしていることを考えれば、現在の利上げペースいかに高いものであるかが分かるだろう。

一方で日本銀行は日本経済が利上げに耐え得るほど盤石でないことや、そもそも足元の物価上昇がエネルギー価格や食品価格の上昇が大きな要因であり、力強い需要が物価を押し上げているわけではないことなどから、金融緩和を維持しており、かつ今後も姿勢を変えないことを宣言している。

 その結果、両国間における金融政策の態度の違いから金利差が拡大し、円安(ドル高)が進行しているのだ。

円高シナリオにも注意せよ

 このように現在の円安の背景を理解すれば、外貨預金に資金を移す際に特に注意しなくてはいけないことをより明確に把握することが出来るだろう。現在、米国は前述の通りハイペースに金利を引き上げているが、インフレは思うように抑制できていない。インフレが抑制できない間にも利上げの副作用で景気は着実に減速している。

今後起こりうるシナリオの1つとして、FRBがこれ以上は景気を犠牲に利上げはできないと判断して、インフレ目標を少し引き上げて、金融引き締めをやめることが挙げられるだろう。

 一方で、日本では円安による物価上昇を抑えるべきだという世論が大きくなっていくなかで、来春には金融緩和を粘り強く続けてきた黒田総裁の任期が満了となり、次期総裁が誕生する。新たな日銀総裁がこれまでの黒田路線を脱し、金融緩和から引き締めに転換する場合、日米の金融政策の態度の違いが現在と反対方向になるため、ドル円相場が現在とは真逆の円高方向に動くことになる。このシナリオが実現すれば外貨預金を円に戻す際に大きな為替差損が発生する確率が高まる。

 いま流行っているからとか、今後も円安は続くからという安直な判断はせずに、しっかりと現在の経済環境や外貨預金のメリットとデメリットを理解してから行動をする必要がある。

外国株式という選択肢

円安時代の救世主は外貨預金なのか? 資産運用ナビコラム

 しかし、短期間で円安が進行するのを体験するなかで、外貨預金にもデメリットがあるとか、将来的な円高シナリオもあると言われても、全ての資産を円で持つのではなく、一部は外貨資産として保有したいという方もいるだろう。その場合、外貨預金以外にも外国株式という外貨資産があるということを認識したうえで、選択肢に入れてもよいと考える。

当然、外貨預金と同様に、外国株式の場合も投資時点から円高に振れてしまえば為替差損は発生する。しかし、株式の場合は配当による収入や、株価自体が上昇することによる売買益も期待できる。

 株式は企業の資産が裏付けとなっているだけではなく、現代のような不確実性の高い時代においても、企業経営者が知恵と工夫によってそのような環境下でも利益を伸ばそうと動くことが期待できるため、株式を資産の一部に入れておくに適していると考える。

 いきなり外国株式と言われても、英語が苦手であったり、投資対象国と時差があったり進関係上、十分な投資情報が得られないことや機動的な取引ができないことに不安を覚える方もいるかもしれないが、その場合は初めの一歩として外国株式の投資信託を活用してみてもいいかもしれない。投資信託であれば、十分に分散投資されているため、いきなり数銘柄に自分で投資をするよりはリスクを抑えられるからだ。

 円安が進行するなかで外貨預金、外国株式、投資信託のいずれを活用するにせよ、円資産の全てを外貨資産に投資するのではなく、あくまで円資産の一部を投資することを意識し、かつ投資のタイミングも一気に投資するのではなく時間分散をすることによって、可能な限りリスクを抑える意識を持つことが現在のように不確実性が高まっている局面では重要になる投資方針である。

執筆者

森永 康平のアバター 森永 康平 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。
現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。

著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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