※本コラムは2023年5月25日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社アイビスは、モバイルペイントアプリ「ibisPaint」の累計ダウンロード数の海外比率が9割を超えるなど、”Made in Japan”のアプリを世界に展開することに成功している数少ない企業です。
代表取締役社長の神谷栄治氏へ、創業の経緯や事業の強み、および今後の戦略を教えていただきました。
株式会社アイビスを一言で言うと
「世界でのMade in Japanのプレゼンスを上げていく」ことをビジョンに掲げ、またそのフロントランナーとして日本製アプリを世界に広めるための熱い思いを持つ会社です。
創業の経緯
私は幼い頃からパソコンに興味があり、小学生の頃からすでに自身でプログラミングなどを学んでいました。その情熱は大学時代も続き、名古屋工業大学電気情報工学科で更に深化しました。
一方、大学に入る時点で既に会社を興すことも志していました。そのため、大学在学中にはゲームやツールをたくさん作り、世の中に発信することでスキルを最大限に伸ばそうと考えていました。
また、創業のために資本金を用意し、さらに共に会社を創業する仲間を見つけることを目指していました。
そのような中、企画・開発したFTPソフト「小次郎」がプチヒットを記録し、これにより資本金を準備することができました。
ただ、資本金は用意できたものの学生のまま起業したのでは社会人経験不足で困るかもしれないと思い2年間3次元CADメーカーに勤め、2000年に当社を創業しました。
きっかけは携帯電話(フィーチャーフォン)がインターネットにつながるiモードの登場を契機に趣味で作りリリースしたゲームサイトです。これが口コミで一気に広まりヒットしたこと、モバイルアプリケーション市場の需要と将来性を感じ、当社の設立へいたりました。
当社の転機となったのは、フィーチャーフォン用フルブラウザアプリ「ibisBrowser」のヒットです。
創業当初は自社製品のヒットを目指していましたが、苦戦を強いられ、翌年からIT技術者派遣と受託開発の事業を始めました。そして、3年ほどかけて業績が軌道に乗ったタイミングで着手したのが「ibisBrowser」でした。
これにより、当初の目的であった自社製品の開発に再び専念することができるようになりました。
また、フィーチャーフォンの需要が減少し、iPhone等のスマートフォンへの移行が進んだ時期には、この市場変化に合わせ、4-5つの自社製品の開発を進めていきました。
そしてその中の一つだったのが、現在当社の主力商品であります「ibisPaint」です。
特にコロナ禍において当アプリへの需要が加速度的に上昇し、設立当初から目指していた上場を今年に果たすことができました。
リリースから12年間、一貫して情熱を傾けてきた「ibisPaint」が今日までの成長とこの度の上場という成果に繋がったと感じています。
事業内容について
モバイル事業部とソリューション事業部の二つの主要な事業部門を持っています。モバイル事業部は自社製品を扱っており、ソリューション事業部ではIT技術者の派遣と受託開発を展開しています。
現在の売上比率は、モバイル事業部が約64%、ソリューション事業部が約36%となっています。
モバイル事業部の主力商品である「ibisPaint」は、直近2-3年で急速に成長してきました。
月間アクティブユーザ数(MAU)は2022年12月には4,080万人に達しています。また、2022年の全世界でのアクティブユーザ数は日本製アプリの中で2位でした。
ユーザはほぼ全機能を無料で利用でき、弊社は広告を主な収益としています。
更に、直近では累計のダウンロード数も3.2億を超えていますが、特徴的なのはその大半が海外のユーザであることです。
累計ダウンロード数では92.5%、売上ベースでは73.4%の海外比率となっており、これほどまでに国際的なユーザ基盤を獲得できている日本発のアプリは他にはほとんどありません。
そしてZ世代と言われる25歳未満の割合が6割を超えているという点も特徴の一つです。
ほぼ全機能を無料で提供することで、アクティブユーザが世界中で急増してきましたが、この戦略は特にスマートフォンなど小さな画面で絵を描くという新しい体験を積極的に取り入れる中高生のユーザに支持されました。
今後、このZ世代のユーザが大人になり、購買力が増すとともにサービスへの課金も増えていくと見込んでいます。
すでに広範な顧客基盤を形成しているため、収益モデルの変革や新たなビジネスチャンスにより、売上をさらに伸ばすことが可能と考えています。
先ほども申し上げたように当アプリの収益の大半は広告によるものですが、近年ではサブスクリプション売上の拡大を一つの重要な施策として進めています。
SNSマーケティングとしてYouTubeやInstagram、Twitterにコンテンツをアップし、そこで受け取ったユーザの好みや要望、改善すべき点を製品に反映させることで、満足度や生涯価値を高めることに注力しています。
サブスクリプション売上の拡大は、インターネット広告市場の市況に左右されない収益の柱を確立し、中長期的な会社の安定基盤を構築するという意義があります。
ソリューション事業について、当社の中では安定事業という位置付けながらその需要は非常に旺盛であり、競争も激しい事業環境にあります。
エンジニアの人数に業績が比例する当ビジネスモデルにおいては人事戦略が重要な鍵を握っており、実際にソリューション事業の成長率にも成果が現れています。
また、より上流工程から関与することで利益率を上げることにも取り組んでいます。
中長期の成長イメージとそのための施策
モバイル事業においては、顧客基盤および収益基盤の拡大という二つの要素が、中長期的な成長における主な焦点となっています。
まず顧客基盤の拡大については、海外展開の一層の強化を進めてまいります。
すでに申し上げた通り、将来の購買力拡大が見込まれる若年層でユーザ基盤を築いていること、そして「絵」という地域や言語の壁が極めて低いカテゴリーのサービスであるという性質をご認識いただくとともに、その拡大余地にはご期待いただきたいと思います。
また、現状の当社の累計ダウンロード数上位10ヶ国を見ていただくと、例えば中国やインドでは人口比率的にダウンロード数がまだ少なく、これらの国々ではまだまだサービス拡大を進めていかなければならないと感じていますし、顧客基盤の拡大において大きなポテンシャルがあると考えています。
数値目標としては、2025年12月期までに累計5億DL達成を目指してまいります。
一方、収益基盤の拡大については、こちらも先ほどご説明差し上げた通りサブスクリプションモデルの強化を進め、拡大させたアクティブユーザに対し新たなマネタイズ施策を打ち出していく方針です。
過去2、3年で急速に成長した一因として、いわゆるコロナ特需がありました。そのため、この反動として今期は成長率が鈍化する計画を発表しておりますが、足元は以前の成長率に戻りつつあると感じています。
また、今後の見通しですが、ペイントアプリ×アプリ課金市場の市場規模から見ても、国内・海外ともにその成長余地は十分に残されています。
さらに、新たな収益源としては昨年リリースいたしましたWindows版「ibisPaint」にもご期待いただきたいと思います。
モバイルペイントアプリ領域で培ったブランド力を武器とする既存ユーザへのアップセルを軸に、今後は機能拡張を通じて競合他社の領域にも参入していきたいと考えています。
サブスクリプション売上はまだ全体の9.2%に過ぎませんが、これらの要素を鑑み、数年後には広告売上と同等のレベルに達することを目指し、これにより収益基盤をさらに強固にしていきたいと考えています。
ソリューション事業については、『世界的なアプリの開発企業』という実力を武器に、安定収益として引き続き堅実な成長を実現してまいります。
繰り返しになりますが、人材は事業の成長の鍵を握る存在であり、そのために我々は現在、採用への投資を増やしています。結果として、今期の採用は例年以上に好調で、事業の成長率も期待以上の結果を示しています。
また、社員の定着化に関しては社内勉強会での技術向上をはじめ、オンライン教材を活用した自己啓発の機会を提供しています。さらには社内イベントの開催なども行い、社員が楽しみながら成長できる環境を整備しています。
この結果、社員の定着率が向上していると感じています。
当社のアプリは、全世界で4,000万人以上のユーザを持ち、日本製のアプリとしては非常に稀有な存在です。
特にZ世代のユーザが全体の6割以上を占めており、これは将来的に彼らが所得を主導する立場になることを考えると非常に重要な点です。
このように、我々は今後の会社と事業の拡大に向けて大きなシェアを持っていると自負しています。
投資家の皆様へメッセージ
我々が現在保有しているユーザ基盤は、中長期的な会社の成長に向けた「金の卵」のような存在であるとご理解いただきたいと思います。
このアクティブユーザを起点として、当社は今後も事業を拡大してまいりますので、その将来性を感じていただき、ぜひロングホールドでのご支援をいただけますと幸いです。
- インタビュー上の売上比率や海外比率、ユーザ年齢比率などの数値は、特にことわりがない限り、株式会社アイビス2023年3月 事業計画及び成長可能性に関する事項 より抜粋。
- 「ibisPaint」は2022年、日本企業発のアプリとして、世界のアクティブ・ユーザ数で2位を達成(iPhone & Android Phone 合算、data.ai調べ)。
本社所在地:名古屋市中村区名駅三丁目17番34号 ナカモビル4階・7階
設立:2000年5月11日
資本金:373,799千円(2023年5月31日時点)
上場市場:東証グロース(2023年3月23日上場)
証券コード:9343