※本コラムは2023年8月21日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社ispaceは日本の民間企業における宇宙開発のパイオニアとして活躍しています。
ispaceの沿革や事業内容について、代表取締役CEO & Founderの袴田武史氏に伺いました。
株式会社ispaceを一言で言うと
宇宙に人類の生活圏を広げ、持続性のある世界を目指す、宇宙スタートアップ企業です。
会社の沿革
私は2010年に当社を設立しました。(設立当初の名前は合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパン)
設立した理由は、Google Lunar XPRIZEという国際レースに参加するためです。
Google Lunar XPRIZEとは、月面で規定の条件を満たしたチームが賞金をもらえる国際レースです。
このレースにヨーロッパのチームと協同で参加しました。
当初、月のミッションを達成するのは非常に困難でしたので、まずは試験的な取り組みから始めました。
設立してから2、3年が経ったころ、ヨーロッパのチームから辞退するという意見が出ました。
また、レースを見据えて事業を加速しなければならないこと、レースだけでなく事業として発展させることを本格的に考え始めたのが2013年でした。
その時に株式会社化をして社名もispaceという名前に変更しました。
ターニングポイント
当社の転換点は投資家による資金調達が完了したことです。
2013年にエンジェル投資家とお会いしたことで資金を調達することができ、事業成長のための土台が完成しました。
その後、最終的にGoogle Lunar XPRIZEは達成できなかったのですが、10億円規模の売上の事業を作ることができました。
それに伴い、レースに向けた技術開発をもとにした輸送ビジネスに本格的に着手するという意思決定をしました。
それと同時に100億円の資金調達を達成しました。
また、月面への輸送サービスではNASAからの案件をいただいたことも転換点になったと考えています。
上場のきっかけ
設立時から上場を目指していたわけではありませんが、早い段階から意識はしていました。
宇宙事業は多くの資金が必要です。また、月の市場は今後急速に成長すると考えています。
しかし、ベンチャーキャピタル等を中心としたプライベートラウンドだけでは十分な資金調達は難しく、そのため、早期に十分な資金を調達するために上場する必要があると感じていました。
また、当社の目標は月に経済圏を作っていくことですので、今後は月がインフラになっていくことを多くの方々にご理解していただきながら事業をしていきたいと考えて上場を目指しました。
事業概要
当社は3つの事業に取り組んでいます。
1つ目が、月面への輸送サービスです。主に、環境観測のためのセンサー類を運びます。
当サービスを今後も引き続き伸ばしていき、当社の中心的な事業に成長させていきたいと考えています。
2つ目が、データサービスです。月面で得られる情報をデータベース化し、提供します。
3つ目が、パートナーシップサービスです。マーケティングライツを企業に提供します。
この権利を購入していただいたパートナー企業は、当社のミッションを自社のマーケティングのために活用することができます。
また、単にパートナー企業にロゴを表示するためのスペースを提供するのではなく、我々の事業と何かしらの形で協業することを目的としています。
ビジネスモデルの特徴・強み
当社のビジネスモデルの特徴として、技術のみに特化しているわけではないということがあります。
もちろん月のミッションを完遂するには技術力が必須ですが、それよりも宇宙事業でのリスク低減に注力しています。
そのために当社は持続性のあるビジネスモデルを確立しました。
旧来のビジネスモデルでは、
予算の確保→技術開発→ミッションの遂行→次のミッションのためのファンディング
といった流れとなり、一度のミッションで5〜10年程かかります。
また、ミッションが失敗した場合、次のミッションのための資金調達がうまくいかなくなる可能性があります。
このように旧来のビジネスモデルは非常にリスクが高いのです。
一方、当社は3つのミッションを五月雨式に進めています。
例えミッション1が完遂できなくても、そこから得られた知見をミッション2とミッション3にすぐにフィードバックして、技術の成熟度を上げることができます。
このように事業の持続性をしっかりと担保していくことができるのです。
ただし、3つのミッションを同時に進めるにはそれなりの資金規模が必要になります。
そのために、プライベートラウンドやIPO、銀行ローンを利用して事前に資金調達しています。
また、当社のサービスでは前払いをしていただいていますので、その資金も活用して3つのミッションを同時に進めることが可能となっています。
顧客基盤や市場の大きさ
当社は宇宙事業を展開していますので、グローバルに市場を捉えなければなりません。
そのため、市場規模が大きいアメリカやヨーロッパも主な対象として捉えています。
また、この市場は政府の需要が高いという特徴があります。今、政府は宇宙の扱いに関して転換期にあります。
以前は技術開発に需要があり、これに対する研究開発費を企業に支払っていました。
一方、現在は技術開発ではなく、月に輸送するサービスへの需要が高まっています。
そのため、当社の事業がよりやりやすい環境になってきているのです。
宇宙全体の市場は2040年頃に100兆円を超えると言われています。
また、pwcのリサーチによると、月の市場は2040年頃に23兆円※超になると推測されています。
その中で、当社の重量500kg以下の輸送サービスの市場は7兆円超※になると予想しています。
- いずれの円換算金額も1ドル=140円として算出
中長期の成長イメージとそのための施策
2023年現在、ミッション1が完了しており、今後2024年にミッション2、2025年にはミッション3の打ち上げを予定しています。
ミッション1は残念ながら成功はしませんでしたが、それによるミッション2、3への大きな影響はありませんので、引き続きミッションを進めて参ります。
また、ミッション2の輸送サービスとしての顧客もすでに決まっています。
そして、ミッション3以降は着陸船を大型化することで本格的に商業化を目指していきます。
このように、まずは輸送事業でしっかり売上を確保します。
先ほども申し上げた通り、輸送のニーズは堅調に増加しています。
また、輸送の頻度を増やすとともに大型の着陸船を導入し、一回あたりの輸送重量も増やします。
これにより、十分な利益が確保できると考えています。
さらに、上記に加えて今後はデータサービスの利益も上乗せされていきます。データはミッションごとに収集しますが、輸送のインフラコストは輸送事業で賄われるため、利益率が非常に高くなります。
さらに、データを購入していただくお客様の層は非常に幅広いので売上が堅調に伸びることが予想され、事業の成長がよく見えるのではないかと思います。
データサービスの需要について
当社データサービスをご利用いただく国や民間企業が求めているのは、月面の地形データや温度データといった月面環境に関するデータです。
これらの情報をもとに、各機関が今後の宇宙開発において、どのようなミッションを行えるのか、どのような技術を活用できるのかを検討していきます。
このように、国や民間の機関が宇宙開発の計画を進めるための情報を我々が提供していきます。
また、環境情報だけでなく、例えば「特定の素材が月面では劣化してしまうのか」といった、技術的な情報も提供していきます。
当社は頻度高くミッションを実行していますので様々なデータを収集することができます。
本来、このようなデータ収集は各機関が独自で行いますが、当社が収集したデータを基にデータベースを作り安く提供することで、各機関は多額のコストをかけずに計画を進めることができます。
また、同じデータであっても多数の機関がこれを必要としています。
そのため、たとえ1社あたりの利益が低くてもデータベースを活用して多様な期間に販売することで、当社としてもしっかりとした利益につながると考えています。
注目していただきたいポイント
繰り返しになりますが、当社はミッションの同時並行によって事業リスクを大幅に削減しています。
まだまだ宇宙事業はリスクが高いと広く認知されていますので、これを機に当社の事業モデルや事業リスクをご理解いただけたらと思います。
また、宇宙事業は利益や売上が上がりにくいと思われていると思います。
しかし、当社は輸送事業によって売上をしっかりと確保することができます。
さらに、同じコストの中でも事業を少しずつ増やし、同じミッションを繰り返していくことでコストを削減していくことができます。
このように、コストを削減しながら売上を段階的に伸ばし、利益を確保できる我々のビジネス構造にもぜひご注目いただきたいと思います。
投資家の皆様へメッセージ
我々が取り組む事業は新しい社会や産業を作っていく事業であります。
これには長い時間がかかりますし、当社のみの力で成し遂げられるものではありません。
もちろん我々もミッションをリードする存在として事業の成長を図ってまいりますが、投資家の皆様のご支援も必要であると考えています。
ぜひ長期的な成長を見据えて当社を応援していただけましたら幸いです。
本社所在地:東京都中央区日本橋浜町3丁目42-3 住友不動産浜町ビル3F
設立:2010年9月
資本金:3,346,228千円(2023年6月30日時点)
上場市場:東証グロース(2023年4月12日上場)
証券コード:9348