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【4584】キッズウェル・バイオ株式会社代表取締役社長 紅林伸也氏「バイオで価値を創造する」

※本コラムは2023年11月1日に実施したIRインタビューをもとにしております。

キッズウェル・バイオ株式会社は、バイオシミラー事業と、乳歯歯髄幹細胞(SHED:Stem cells from Human Exfoliated Deciduous teeth)を活用した細胞治療に取り組むバイオベンチャーです。

創業の経緯や事業内容、および成長戦略について、代表取締役社長紅林伸也氏にお伺いしました。

目次

キッズウェル・バイオ株式会社を一言で言うと

「非常にユニークなバイオベンチャー」です。

安定的な収益源であるバイオシミラー事業と、革新的な薬の開発を行う細胞治療事業を当社の成長シナリオを支える戦略的な2本柱として打ち立てています。

特に、安定収益を持つというところでは、バイオベンチャーの中でもユニークな立ち位置にいると考えています。

沿革とターニングポイント

キッズウェル・バイオ株式会社代表取締役社長 紅林伸也氏

当社は、北海道大学で新たに作られた技術を基に、バイオ医薬品の研究開発をすることを目的として2001年に設立されました。

新薬の開発は、時間もかかるうえに、成功確率がおよそ2万件に1件と言われるほど、非常に低いものです。

つまり、どんな有望なシーズを持っていたとしても、新薬の研究開発のみでは、事業上のリスクが伴います。

よって、我々のようなバイオベンチャーにおいて、リスクをコントロールしながら、新薬の研究開発に投資を続けること、会社を存続させていくことは非常に大きな課題です。

そこで当社は、この解決策として、安定的に収益を得ることを目的にバイオシミラー事業を開始しました。

元々持っている技術・ノウハウを活かすことができるという点も、当事業を開始した理由の一つにあります。

また、治療法がない疾患に対する新薬の研究開発も、バイオベンチャーの社会的な使命として行わなければいけません。

2019年には、乳歯歯髄幹細胞(SHED:Stem cells from Human Exfoliated Deciduous teeth)を使用した細胞治療事業にも参入いたしました。

バイオシミラー事業の開始と細胞治療事業への参入の2つが、当社のターニングポイントであると考えています。

キッズウェル・バイオ株式会社 2024年3月期 第2四半期決算補足説明資料 より引用

事業概要

バイオシミラー事業

バイオシミラーとは、バイオ医薬品の新薬(先行品)と同等の品質・効果効能・安全性を国によって保証された薬です。

全く同じものを作ることはできませんが、目標となる先行品があるため、開発リスクをコントロールしやすいという特徴があります。

2012年には、当社が開発した最初のバイオシミラーが販売されました。

その後、第2・第3製品も計画通り販売に至っていますし、今年の9月には第4製品の製造販売承認を得ました。これについては年内に販売を開始する予定です。

このように、バイオシミラーの順調な開発の進捗が当社を支える収益基盤になっています。

キッズウェル・バイオ株式会社より提供

細胞治療(再生医療)事業

細胞治療・再生医療とは、患者さん本人や他者の細胞・組織を培養加工したものを用いて、失われた組織や臓器の機能を修復・再生する医療です。

患者さんの体内に存在する細胞を助ける様々な液性因子を放出したり、治療に必要な様々な細胞に分化する幹細胞の特性を用いたもので、多様な治療法への応用が可能であり、難病等への最も有効な治療法として注目されています。

その中で、当社は「乳歯歯髄幹細胞(SHED:Stem cells Human Exfoliated Deciduous teeth)」の特徴を活かした細胞治療に取り組んでいます。

歯髄幹細胞は、歯の内部に存在する「歯髄」から採取される幹細胞で、脱落乳歯からも採取が可能です。

最近では、このSHEDによる脳性麻痺の治療薬開発を目指し、名古屋大学で臨床研究が開始されました。

キッズウェル・バイオ株式会社 2024年3月期 第2四半期決算補足説明資料 より引用

細胞のポテンシャル

歯髄幹細胞は、発生学的には体内の神経の構成、顔の骨の形成を行う神経堤細胞に分類されます。

そこで、「歯髄幹細胞が神経系の疾患や骨の再生に強いのではないか」と考え、研究を進めてきました。

幹細胞は色々な病気を治せる万能なものだ、と期待されていた時代もありました。

しかし、研究が進むにつれ、由来ごとに有効性が期待できる疾患も分かれることが明確になってきました。

その中で、我々はSHEDの特性を活かすことのできる疾患を対象に研究を進めています。

また、細胞治療薬の開発の難しさは安全性の担保と安定供給にあります。

この点、当社のSHEDは乳歯由来のもので、お子さん一人当たり最大20本採取できるため、安定して供給することができます。

また、生え変わりの乳歯を利用するため、ドナーとなるお子さんへの負担も少なく、細胞が若く、幹細胞の活動が活発で高い修復・再生能力を持つとともに、大量培養が可能であることも特徴です。

このように、治療薬の原料となるSHEDを安定的に確保しながら、その特徴に合わせた疾患を対象とした研究開発を進めていく、2つの組み合わせが重要であると考えています。

キッズウェル・バイオ株式会社 事業計画及び成長可能性に関する事項 2023年6月30日 より引用

競争優位性

細胞治療事業において、当社はドナー候補募集からSHEDの安定的な製造・供給体制までを構築しており、この供給システムを「S-Quatre(エスカトル)」呼んでいます。

当事業を進めていく上では、倫理的な問題が生じることもあります。

然るべき倫理委員会を経て、国のガイドラインに基づいた体制を整備できている点も含め、S-Quatreは他社にはない優位性であると考えています。

キッズウェル・バイオ株式会社 事業計画及び成長可能性に関する事項 2023年6月30日 より引用

中でも、自社で一連のSHED供給体制を構築できたことは大きなポイントです。

細胞自体を海外から購入することはできますが、外部調達だと細胞の取り扱いに制限がかかってしまうことがあるためです。

将来、患者さんにSHEDを「薬」として届けるためのSHED供給体制「S-Quatre(エスカトル)」をすでに築いていることも我々の大きな強みと言えます。

また、これまでの研究で、SHEDの様々な可能性が示唆されており、自由度の高い基礎研究の対象にもなっています。

現在開発を進めるSHED(第一世代)のその先、つまり、第二世代のSHEDとして、例えば薬を運ばせる機能やその成長因子を活用するなど、SHEDのさらなる可能性を引き出しながら我々独自の細胞治療を発展させるべく、すでに数々の基礎研究が始まっています。

当社が今後も発展していく中で、SHEDの活用範囲に縛りを受けず、より幅広い展開に期待できることもまた強みだと考えています。

中長期の成長イメージとそのための施策

細胞治療事業

現在、当事業は研究ステージから臨床ステージに入っています。まずは一つ、大きなハードルを越えることが出来ました。

ただ事業化に向けては開発を確実に進めていくことが必要になります。

そのためには、安全性と有効性を示すこと、そして安定的な製造基盤を確立することの2つが、次のステップです。

脳性麻痺を対象とする第一世代SHEDについては、2030年の上市を目標に、早期実用化に向けた取り組みを進めていきます。

キッズウェル・バイオ株式会社 事業計画及び成長可能性に関する事項 2023年6月30日 より引用

また、より幅広い適応を目指し、研究力を高めながら後発で開発を進めていくことも重要です。

今年の5月には都内に研究所を新設し、先にお話したSHED第二世代に関する研究の拠点もできました。

短期的に見れば先行するものに集中投資するという選択肢もありますが、これら研究体制の構築に関しては、長期的な成長に向けた種まきとご理解いただければと思います。

キッズウェル・バイオ株式会社 事業計画及び成長可能性に関する事項 2023年6月30日 より引用

バイオシミラー事業のマーケット規模

従来、薬は低分子化合物を使った化学反応で作成されていましたが、現在は動物細胞や大腸菌などをもとに作られるバイオ医薬品が主流になっています。

そして、この先行品の特許期間と再審査期間が終了すればバイオシミラーの参入が可能になります。

なお、日本でのバイオシミラーの薬価は、先行品の約70%と決まっています。

これまで数多く販売された先行品の特許が切れることで、今後はバイオシミラーの参入チャンスが増えていきます。これに伴い、我々の成長チャンスも多く出てきます。

日本の製薬会社の多くは低分子化合物由来の薬に特化しており、バイオ医薬品開発のノウハウを持つところは限られています。

一方、当社ではバイオ医薬品に特化し、すでに4製品を上市させてきたノウハウ・経験を持つ豊富な人財を育ててきました。

つまり、バイオ医薬品開発を新たに始める製薬会社にとって、当社は即戦力のパートナーになり得ます。

また、中堅規模の製薬会社にとって、新しい薬を自社で出すことに難しい部分があります。

新たなバイオ医薬品が多く出されている中、バイオシミラーに取り組むことで会社を維持していきたいというニーズは強いのです。

ここに我々がノウハウを提供することで、相乗関係を築きながら互いに成長していくことができると考えています。

キッズウェル・バイオ株式会社 2024年3月期 第2四半期決算補足説明資料 より引用

注目していただきたいポイント

まずは、4つのバイオシミラー医薬品が承認を受けている点を改めてご認識いただきたいと思います。

国内製薬会社の多くがバイオ医薬品製造のノウハウを有していない中で、我々の成長に欠かせないピースになると考えています。

先ほどもご説明したように、今後はバイオシミラーが製薬会社にとって重要なビジネスになってくると思いますし、当社としてもバイオシミラーの開発を行う機会を創出することで、安定的な収入源を得ることができます。

そして、安定収入源は新たな人財の確保にも繋がり、その人財がバイオシミラーのみならず、SHEDの開発を前進させ、当社の成長の原動力となり得ます。

このように、バイオシミラー事業はポジティブな好循環を生み出す事業なのです。

キッズウェル・バイオ株式会社 2024年3月期 第2四半期決算補足説明資料 より引用

また、グローバルに見ても「SHED」は非常にユニークな取り組みです。

我々がこの細胞を深く理解することができたからこそ、治療効果が期待できる疾患の特定に至り、名古屋大学の先生方との臨床研究に入ることもできました。

また、SHEDにとってベストと思われる製造方法にもたどり着き、有効性と安定的な供給のバランスがとれています。

バイオベンチャーという軸で見ても、安定性と成長性を兼ね備えていますし、好循環を起こせる事業基盤が出来上がっています。

持続的な成長を生み出すための当社ならではの特徴を、投資家の皆様には注目していただきたいです。

投資家の皆様へメッセージ

バイオシミラー事業自体は収益基盤としても確立できたと考えています。

今後は、ここから生まれる収益を活用して、細胞治療事業を加速させていきます。

バイオベンチャーとしては珍しい、黒字化・安定収益・成長投資の3つのバランスを取りながら、今後更なる成長を目指していきます。

投資家の皆様には、当社がユニークなポジションの会社だとご理解いただき、色々な形で応援をしていただけますと嬉しく思います。

キッズウェル・バイオ株式会社

本社所在地:東京都中央区新川一丁目2番12号 金山ビルディング3階

設立:2001年3月1日

資本金:1,509百万円(2023年3月31日現在)

上場市場:東証グロース(2012年11月30日上場)

証券コード:4584

執筆者

2019年に野村證券出身のメンバーで創業。資産運用の相談サイト「資産運用マッチング」を運営。「投資家が主語となる金融の世界を作る」をビジョンに掲げている。

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