※本コラムは2023年11月8日に実施したIRインタビューをもとにしております。
創業から一貫して靴下にこだわり続けるタビオ株式会社。
沿革や事業内容、および中長期戦略について、代表取締役社長越智勝寛氏にお伺いしました。
タビオ株式会社を一言で言うと
「不易流行を掲げるSPA企業」です。
沿革
創業の経緯
当社創業者の越智直正は、中学卒業と同時に大阪の鶴橋に商売の修行に行き、ソックスや靴下の勉強をしました。
その後、28歳で卸売業として独立しました。独立当初は経営が難しい時期もありましたが、高度経済成長期や様々な方々に助けられ、1977年に当社を設立しました。
ターニングポイント
創業当初は取引先が多くとも売上が低いという課題を抱えていました。
その中で転機となったのは1980年代初頭に三愛さんから依頼をいただき、靴下のみを販売する業態を神戸・三宮に出店したことです。
この店舗の成功が1984年のフランチャイズ初出店へとつながり、その時の屋号が現在にも残る「靴下屋」と決まりました。
その後、1989年には百貨店向けのブランドを立ち上げるなど、卸業態から店舗展開へと当社のビジネスモデルは変わっていきました。
業界内では独立した道を進むことになりましたが、店舗数は順調に増え続け、2000年に上場を果たすことができました。
上場以降は、イギリスやフランスなどにも出店をしながら、売上高だけでなく「誠実さ」や「もの作りの差」で世界に認められる企業を目指してきました。
マネジメントスタイル
変化の激しい現在において、できるだけ思考の幅を広げていき、今後想定される変化の最大値を広げていくことを意識しています。
最大値を広げていけば、経営の柔軟性を高めることができます。
社内にはまだ現状維持のバイアスがかかっている部分もありますが、この状況を打破し、いかに先端を走っていくかが重要だと考えています。
また、「ゼネラリストよりもスペシャリストを育てること」そして、「靴下の企画・販売とものづくりのプロであるという自覚を持ってもらうこと」を意識して、人材戦略を実行しています。
事業内容
事業の柱は、靴下の企画・卸・小売、FC「靴下屋」の展開、および直営店「靴下屋」「Tabio」「Tabio MEN」の展開の3つです。
「靴下屋」はカジュアルで履き心地のよいレディース靴下を特徴とする、当社のスタンダードブランドです。
ルミネをはじめとする電鉄系の駅ビルや、ファミリー向けのイオンモール、ららぽーと、地方ではゆめタウンなどの商業施設にも出店しています。
「Tabio」は元々百貨店向けの店舗でしたが、「靴下屋」と共存可能なハイグレードブランドとして再設定しました。KITTEやGINZA SIXなど、「靴下屋」よりもグレードの高いエリアに出店しています。
一方、ドレス、トラッド、カジュアルの3つからなるメンズブランド「Tabio MEN」は、当初全政令指定都市への出店目標を掲げてきましたが、現在では複合店での拡大を図っています。
また、靴下専門店が作るスポーツソックスとして、スポーツ専門店や自社店舗で販売するスポーツブランドも展開し、様々なサッカーチームやマラソンチームなどからもオファーを頂いております。
さらに中国、韓国、パリ、ロンドンに「Tabio」ブランドで出店し、米国ではEC販売を行うなど、海外でも事業を展開しています。
2020年前後からは、少しずつインターネットの販売強化に舵を切っています。
不採算店舗を撤退するなど、この3年間で改善と改革を進め売上全体に占める割合は3%から12%まで拡大しました。
インターネット領域の成長はコロナ禍以降の業績回復にも大きく貢献しています。
出退店に対する考え方
進行期において、全体の店舗数は通期で変動なしの273店舗を計画しています。
このように当社は、同じ店構えの店舗を水平展開することを第一には考えていません。
背景には、昨今のトレンド変化のスピードや地方店舗での来店人数減少といった外部環境があります。
その代わり、新規・既存店の双方で店舗のあり方を常にアップデートしていく方針を掲げています。
立地や客層、さらにデベロッパーの方向性にも合わせたお店に進化させることで、物件ごとに最適なイメージで出店していきます。
タビオネットワークシステムの優位性
当社では、お客様が本当に欲しい商品をお店に在庫を残さずに提供するため、お店で売れた商品を把握し、1足単位で即座に補充する体制を築いています。
我々はこれを「タビオネットワークシステム」と呼んでおり、計画販売を行う他社との差別化ポイントとなっています。
製造工場、物流センター、店舗、タビオ(本社)のすべてでお店の販売情報を共有し、まるでお店の隣に工場があるようなきめ細かな商品フォローとスピードを実現しています。
リードタイムが長い海外に製造拠点がある場合、この体制を整えることは難しいと思います。
創業来、国内生産にこだわってきたことが現在の優位性を生んでいます。
このように、我々は大量に商品を売るのではなく、品質の高い商品をいかに提供できるかを意識しています。
これは例えば、何か新しいトレンドが出てきた際の対応の差になって現れます。
当社は工場の生産体制をトレンドに合わせて変えるので一時的に供給が出来なくなります。
しかし海外に工場を持つ他社の場合は数ヶ月後にまとめて入荷するため、トレンド開始当初にうまく対応できたとしても後が続かず、後半で売上が落ちていく傾向にあります。
その点、我々は国内生産の強みを生かした後半追い上げ型で、売上の落ちてきた競合他社を凌駕することが可能です。
さらに、工場で商品の販売状況を確認できるのも強みの1つです。
例えば、急に売上が上がった原因が団体客による一斉購入であれば追いかけるべきではない、などと判断することができます。
このような情報共有と連携によって、当社はSPA企業としての完成形に近い状態にあります。
中長期の成長イメージとそのための施策
OMO戦略
都心・郊外を問わず駅ビルやモールが増えたことでカニバリズムが発生し、今後は既存のマーケティング戦略が通用しない事態が増えていくと認識しています。
そのため、現在の国内店舗数(243店舗)のうち、中・長期的に考えて、残せるのは150〜180店舗程度になるかもしれません。
しかし残すことができたお店についてはできるだけ長く繫栄するよう、市場に合わせた店舗作りを徹底し、また3年に一度を目途にリニューアルをしていこうと考えています。
一方、この減少分を補うのがECの売上です。
そのためには、いわゆる「パルス型消費」と呼ばれるような、SNSで直感的に購買欲が湧き急増する消費者の需要に応えていく必要があります。
将来的には売上の半分程度をEC領域で賄えるよう、生産体制を構築していきます。
また集合モールからではなく、いかに自社サイト経由で購入していただくかを焦点に、サイトの改善にも取り組んでいきます。
今後、ネットに強くない会社はリアルでも必要がないと言われてしまう可能性もあると考えています。
リアル店舗を守っていくためにも、インターネットを強化しつつECとリアル店舗が相互に成長していくことを目指していきます。
メンズ商品の売上拡大
近年、履き心地やデザインをご自身で見極めて靴下を買いたいと考える男性が増加傾向にあります。
現在の当社メンズ構成比は20.7%ですが、国内靴下市場メンズ構成比(34.7%)と比較すると、まだ伸びしろがあります。
そこで当社では、中期売上目標を50億円に掲げ、メンズをレディースと並ぶ新たな柱にしたいと考えています。
インバウンド市場への対応と海外事業の拡大
コロナ禍を経て、ブランドの認知度向上とともに当社に対するインバウンド需要は大きく変化しました。
すでに都心の一部の店舗ではインバウンド売上比率が10%超に及んでいます。
アジア圏の方には小さいサイズ、欧米の方であれば29㎝などの大きいサイズというように、それぞれのニーズにあった商品を展開し、インバウンド市場からの需要をより一層吸収できる体制にしていきます。
また、接客においても販売員にスマートフォンを貸与し、翻訳サイト・アプリなどを活用してお客様と円滑なコミュニケーションを取れるようにしています。
このように、海外のお客様にも変わらず誠実さを大切にしてまいります。
国内生産を重視してきた我々ですが、海外事業の拡大、特に巨大な中国市場を捉える上では、現地に生産拠点を確保することを検討しています。
もちろん当社のプロデュースで、一番質の高い工場を選んで生産してもらい、日本で確立したビジネスモデルを活用したいと考えています。
まずは足元でしっかりとリアル店舗の強化を行いつつ、現地のオーナーさんと話しながら長期的な視点で進めていきます。
注目していただきたいポイント
今後は開かれた会社として、靴下産業を未来永劫残していきたいと考えています。
靴下の専門店は、世界を見渡しても日本にしかありません。
日本に居ると靴下専門店があるのが当たり前だと思われがちですが、唯一無二の存在なのです。
近年では海外から様々なオファーを受ける機会も出てきました。まだまだ伸びしろのあるマーケットですので、「世界に無い」といった業界の特性にもぜひ注目していただきたいです。
投資家の皆様へメッセージ
変化の多い時代ですが、何とかこの波の先端に乗って、会長からの思いを未来永劫引き継ぎたいと考えています。
投資家の皆様にもぜひご支援いただけましたら嬉しく思います。
本社所在地:大阪府浪速区難波中2-10-70 なんばパークスタワー内パークスタワー16F
設立:1977年3月
資本金:414,789,000円(2023年11月アクセス時)
上場市場:東証スタンダード市場(2000年10月6日上場)
証券コード:2668