※本コラムは2024年2月21日に実施したIRインタビューをもとにしております。
株式会社すららネットは、主に小学生・中学生・高校生を対象にICT教材「すらら」「すららドリル」等のサービス提供、顧客へのサービスを活用した教育カリキュラムの提案や、サポートコンサルティング支援を行っています。
代表取締役社長の湯野川孝彦氏に事業戦略の変遷や今後の成長方針を伺いました。
株式会社すららネットを一言で言うと
「最先端のEdTechで社会課題を解決する会社」です。
すららネットの沿革
創業経緯
当社の事業は、私の前職で飲食業のフランチャイズ経営を手掛けていたベンチャーリンク社で興しました。
当時、私は、牛角や銀のさらカーブスなどのFCチェーンの開発・運営などに携わっており、2004年からは個別指導の学習塾チェーンの教育事業の支援を始めました。
そして個別指導塾のチェーン支援を通じて、教育分野に初めて足を踏み入れ、多くの生徒が成績向上に苦戦している実態に直面しました。
特に、学力の低い生徒たちの成績が伸び悩むことに問題意識を持ち、eラーニングによる解決策を模索し、事業を開始しました。
カーブアウトと上場
ベンチャーリンク社は2012年に民事再生手続きに入ったのですが、それより前から兆候はあり、「すらら」の事業も徐々に存続が危うくなっていました。
そこで、2010年に、我々は自社で開発したeラーニング事業を買い取って独立し、カーブアウトしました。
しかし、独立時は大赤字で資金調達の課題に直面していたため、グロービスキャピタルパートナーズの支援を受けて資金調達を行い、その後黒字化、2017年12月には上場を果たしました。
現在は「すらら」を中心にEdTech企業として成長を続けています。
すららネットの事業の概要と特徴
概要
当社は、小学生から高校生までの子供たちを対象にした教科学習のサービスを提供するeラーニング事業を展開しています。
特に基礎学力の習得が必要とされる子供達を対象として最新のアダプティブ学習技術を用いて個別最適化された教育を実現しています。
主に、英語、国語、数学、理科、社会の5教科を網羅しており、学校、塾、そして個人向けにサービスを提供しています。
また、海外向けにも事業を展開しており主に途上国の子供たちの学力向上を目的として事業を展開しています。
事業における優位性
「すらら」の商品力
まず個別最適化学習システムという学力が様々な子どもたちが使用できるシステムを提供しています。
たとえば、高校生でも、過去に学んだ基礎部分につまずきがあった場合、自動的にAIが弱点を特定し、小学校で習った単元に戻るようにガイドするなど、適切な学習コンテンツを推薦します。
このAI技術は「つまずき分析」というすららネット独自の特許技術です。
また、通常の講義動画と異なり、インタラクティブなアニメーションを用いて学習者の関心を引きつけ、学習効果を高めます。
例えば予備校の有名講師ではなく、有名声優のアニメーションを用いるなど子供達の集中力を高めるための工夫を凝らしています。
課題解決のためのコンサルティング力
当社はただコンテンツを提供するだけでなく、その導入のためのコンサルティングや研修を通じて、教育現場での実用性を高めています。
また利用者からのデータを収集し、正答率や解答に要する時間を分析しています。
これにより、教材の改善を継続的に行い、より効果的な学習経験を提供するとともに教育現場のサポートも行っています。
さらに教師用の管理画面を通じて、教育現場のニーズに応える多様な利用方法が可能なため、学習者一人ひとりに最適化された教育ソリューションや教師の教育現場での課題解決を実現しています。
ターゲットを明確化した商品ラインナップ
当社は主要コンテンツのAI×アダプティブラーニングの「すらら」を筆頭に、公立小中学校向けの「すららドリル」、海外向けの「Surala Ninja!」、探究学習用の「Surala Satellyzer」、外国人向けの「すらら にほんご」等を提供しています。
このように、多種多様な商品ラインナップながらも明確なターゲット設定を行っているため効果的な商品アプローチを実現しています。
すららネットの中長期の成長イメージとそのための施策
市場環境と成長戦略
日本の市場は少子化の影響を受けていますが、2020年のコロナ禍以降、政府のGIGAスクール構想に沿ってデジタルデバイス(ラップトップやタブレット)を使用した学習が小中高生の間で一般化し、市場が拡大しています。
そして2026年にはデバイスの契約更新期が到来し、これが市場に大きな動きをもたらすと予測されています。
現在、当社の学校分野における市場シェアは約4%とまだ伸びしろがあると考えています。
今後は顧客の経験に基づく選別が厳しくなってきているため、コンサルティングやこれまでの実績を活かしてシェア拡大を目指します。
また長期的には少子化の進行による国内市場の縮小を見越し、海外展開に引き続き注力していきます。多くの途上国では若年層が多く、コロナ禍を経てオンライン教育への需要が高まっており、大きなチャンスです。
人的資本への取り組み
現在約100名の従業員を擁する当社は、依然としてベンチャー精神を大切にしています。
今後は新しい挑戦を促し、マルチタスクができる人材を育成することが目標です
また、女性従業員や役員の比率は高く、多様性のある職場環境を実現しています。
元々、ベンチャーリンクというコンサルティング会社に属していた人材もいるため、「人に何かを教える」「提案する」ということが得意な組織となっています。
当社では仕事の進め方・タスクの管理方法などの教育も従業員に対して行っており、人材育成に関しては今後も注力していきたい分野です。
目指す世界観と「すらら」がもたらすインパクト
教育格差は世界中に存在しています。
そこで我々は特に教育の機会に恵まれない層に焦点を当て、「すらら」を通じてこの格差を縮小していくことに大きな価値を見出しています。
また、学力の低い生徒や不登校の生徒にも教育の機会を提供し、学校へ行くことが人生の全てではないという、多様な学習パスの可能性も広げています。
これにより、国内外を問わず教育格差を減少させ、社会全体の底上げを図っていきます。
以前、カンボジアの教育大臣とお話しした際に「教育の底上げが国民の所得レベルを上げることに繋がる」と仰っていました。
このように教育を通じて国民の所得・生活レベルを向上させるということも、我々の活動が提供する価値だと考えています。
最終的には、どのような国でも教師のレベルの格差に左右されず、すべての子供たちが等しく学ぶことができる教育システムの実現を目指しています。
注目していただきたいポイント
我々は単に寄付をするのではなく、教育分野で事業を通じて社会全体をレベルアップさせる持続可能な方法を追求しています。
2011年の東日本大震災時には、被災地の子供たちにすぐに当社のコンテンツを提供し、仮設住宅での学びの場を支援しました。
その際、多くの支援がある中でも、質の低い教材が溢れている現実を目の当たりにし、当社の教材が、名門私立高校で使用されているのと同等の最先端の学びを提供できることが、子供たちの自尊心を支えることにもつながったと感じました。
さらにスリランカでは、マイクロファイナンス銀行や国際NGOと協力し、スラム地域で当社の教材を用いた塾を開設して、適切な月謝をいただくことですべての子供が誇りを持って学べる環境を作り出しています。
すべての子供が平等に質の高い教育を受ける機会を提供する当社の事業そのもので社会課題を解決し、社会的貢献につながっている点に注目していただきたいです。
投資家の皆様へメッセージ
現在、当社の株価は若干低迷していますが、これはコロナ以降の国からの年間の補助金額が毎年減少しているために売上が伸び悩んでいるように見えるためです。
しかしながら、学校数や生徒数といったKPIの目標は増加傾向で着実に成長はしております。
長期的な視野に立ち様々な施策を講じておりますので、当社の今後にぜひご期待いただきたいと思います。